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今週の指標 No.1004 アメリカ:2010年とは異なる経済環境下における金融政策の動向

ポイント

2011年8月15日

  1. 8月9日に行われたFOMCの声明文において、FRBは「経済成長は、今年これまでのところ、委員会が予想していたよりも相当さらに緩慢」と景気判断を下方修正し、先行きについても「景気の下振れリスクが増えている」とした。実際、7月末に公表された4-6月期実質GDPは前期比年率1.3%、また合わせて公表された1-3月期実質GDPも前期比年率0.4%と大幅に下方改定されており、2011年に入ってからの経済成長率はアメリカの潜在成長率水準と言われている2%台半ばを大きく下回る結果となった(図1)。特に、2010年以降、景気回復のけん引役となっていた個人消費の伸びが今年に入ってから大幅に低下しており、足元のアメリカ経済は成長のけん引役を失っている。
  2. 連邦債務法定上限引き上げを巡る議論に進展が見られなかったことや、アメリカ経済の先行きに対して悲観的な見方が広がったこと、また同時期に欧州債務懸念が高まったこともあり、7月半ば以降、NYダウ平均株価は大きく下落した。8月11日時点で、NYダウ平均株価はFRBによるQE2が始まった2010年11月の水準まで下落し(図2)、投資家心理を示すとされるVIX指数も急上昇し、2010年5月のギリシャ・ショック時の水準を上回っている(図3)。
  3. 景気回復ペースの大幅な鈍化や市場心理の悪化を背景に、FRBは、8月9日のFOMCにおいて、FF金利の誘導目標を現行の0~0.25%で据え置き、異例に低水準のFF金利が妥当となる公算が大きい期間として、「今のところは、少なくとも2013年半ばまで(at least through mid-2013)」と「さらに長い期間(for an extended period)」から金融政策の立場を変更した。この声明文の発表を受けて、市場が織り込む時間軸が長期化している(図4)。FOMC開催前の8月8日の段階では、次回の利上げ時期(0.25%の利上げを想定)は2013年9月であったが、直近(8月10日時点)では2014年以降と考えられている。
  4. FRBは連邦準備法によって物価安定の維持および最大雇用の達成を金融政策の目的にしているが(デュアルマンデート)、現在のFRBはこの2つの目的の板挟みにあると考えられる。まず、後者の最大雇用の達成については、非農業部門雇用者数はこのところ増加のテンポが緩やかになっており、失業率は依然として高い水準が続いている(図5)。特に2011年4月以降の雇用者数の増加幅の月平均は+10.8万人と、2011年1-3月期の平均である+16.6万人から鈍化している。
  5. その一方で、物価については、デフレ懸念が一部で台頭していた2010年夏と比較すると、足元の状況は、デフレ懸念よりもインフレ懸念が台頭しやすい環境にある。PCEデフレータ(注1)およびCPIのコア指数を前年同月比で見ると、CPIのコア指数が2010年10月に底をうった後、PCEコアも2010年12月には底をうっており、価格転嫁が進んでいる様子が確認できる(図6)。また、FOMCに先立って7月27日に公表されたベージュブック(注2)においても、企業の価格転嫁能力について、「全般的にはまちまち」と表現されたものの、「若干のコスト上昇を転嫁できたと伝える企業もあった」と報告されている。PCEコアデフレータ自体の推移を見ても、2011年以降、前月比でプラスの伸びが続いており、例えば7月以降、前月比で+0.2%の伸びが続くと、10月にもPCEコアデフレータの前年同月比は+2.0%に達する。物価面での状況は、昨年とは全く異なっている。
  6. 物価状況の違いは、委員会メンバーの意見相違にもつながっている。今回のFOMCの決定において、反対票が3票も出たが、これは1992年11月以来のことである。先月公表された6月21-22日のFOMCの議事録においても、メンバーの物価に対する見方に大きな隔たりがあることが確認できる。一部の委員は、「労働の再分配および長期失業や高失業が一時的に潜在成長率を押し下げており、金融市場が織り込んでいるよりも早期の金融緩和の解除が必要になるかもしれない」と発言している。物価上昇という数値だけを懸念している訳ではなく、暗黙の了解とされている2%台半ばの潜在成長率が、より低くなっている可能性を指摘し、「需給ギャップが依然として開いているために物価上昇圧力は限定的」と見ている主流派の意見を否定している。
  7. 昨年以上に経済成長は弱い状況の中で、物価上昇率は高まっており、FRBは難しい金融政策のかじ取りを迫られている。8月26日のジャクソン・ホールでのバーナンキ議長による講演で今後の金融政策についてどういった言及がされるのか、また、8月30日に公表される8月9日分のFOMCの議事録において、FOMCメンバー間で「より強い景気回復を促進するために採り得る政策手段(8月9日のFOMC声明文に記載)」についてどういった議論がされていたのかが当面の注目である。

(注1)PCEデフレータは、商務省が発表しているGDP統計や個人消費・所得の一部として公表している。FRBは物価指標として、労働省が発表するCPIではなく、商務省が発表するPCEデフレータに着目している。

(注2)ベージュブックは、各地区連銀が銀行幹部の報告やエコノミスト、市場関係者のインタビューを通じて収集した定性的情報をとりまとめたものであり、年8回のFOMCの前に公表される。報告書の表紙がベージュ色のため、一般にベージュブックと呼ばれている。


図1 実質GDP成長率の推移 図2 NYダウの推移(2008年9月以降) 図3 VIX指数の推移(2008年9月以降) 図4 FF金利先物が示唆する今後の金融政策見通し 図5 非農業部門雇用者数の伸びと失業率の推移 図6 コア物価指数の推移(2008年以降、前年同月比)
問合せ先
担当:参事官(経済財政分析―海外担当)付
髙安 亮子 直通:03-3581-9536

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