今週の指標 No.976 目次   前へ   次へ 2010年12月6日

ポルトガル:構造改革の遅れが財政再建の足かせに

<ポイント>

  1. 現在、財政状況への懸念が高まっている国として、ポルトガルの動向が注目されている。10年10月以来、同国をはじめとする南欧諸国等の国債利回りやソブリンCDSが急激に上昇しており、過去最高値を更新した(図1)。

  2. イベリア半島西部に位置するポルトガルは、15世紀後半からの「大航海時代」には、アフリカ、南米大陸等にも領土を広げ、当時最も繁栄した国のひとつであり、また、「南蛮貿易」等を通じて、日本とのつながりも深い国であった。現在も、バローゾ元首相が現職の欧州委員会委員長を務める等、一定の存在感を残してはいるものの、人口は1,000万人程度であり、欧州諸国の中でも経済規模が比較的小さい国である(図2)。しかしながら、同様に経済規模の小さい国であるアイルランドやギリシャの財政懸念が金融市場の不安定化を引き起こしてきたように、ポルトガルの財政懸念は、国債を保有する金融機関への影響や、経済規模のより大きな国々の財政に対する市場の懸念へと伝染(コンデイション)する可能性がある。

  3. ポルトガルは、後述する構造問題により、2000年代を通じて経済の低成長、財政収支赤字、経常収支赤字傾向を続けてきた(図3)。そして09年以降、世界金融危機の影響を受けて、経済成長率はマイナスに落ち込み、失業率が10%を超える等、経済が厳しい状況にある中、財政収支は更に悪化している。政府は、このような状況下で、財政収支GDP比を13年までに▲3%以内にすることを目標に財政再建計画を進めているが、財政収支の改善はあまり進んでいない。

  4. ポルトガルの財政悪化の背景を見ると、他の南欧諸国等との違いもみられる。スペインやアイルランドのように住宅バブルの発生と崩壊が背景にあるわけではない。ポルトガルは、2000年以降、世界金融危機発生以前の欧州諸国が順調な経済成長を続けていた時期にも、EU平均を大きく下回る経済成長率にとどまっていた(図3)。そのため、同国経済においては、世界金融危機の影響よりもむしろ、長期の低成長の原因となった構造問題への注目が高まっている。低成長の背景には、産業の競争力が低下したことが挙げられる。他の欧州諸国と比較しても労働者の保護が手厚いとされ、賃金上昇を抑えることができず、労働コスト面での競争力が低下した(図4)。また、繊維等の伝統産業が新興国にシェアを奪われる中、教育制度改革や労働市場改革の遅れ等から、高付加価値産業への労働資源のシフトが進んでいない。こうした賃金の上昇傾向の継続と、国際競争力の低下から、2000年代、経常収支の悪化傾向と対外債務の拡大が続いた。

  5. 政府は、財政再建と共に構造改革も進めようとしているが、いずれも不十分であるとの声は大きい。実際に、2009年と比べ10年において財政収支の改善は見られない(図5)このような中、与党・社会党が議会の過半数を確保していない状況で、緊縮財政案に対しては、野党が難色を示していることに加え、他の欧州諸国と比較して少ないといわれるデモやストライキも発生しており、政府は追加の緊縮財政政策を打ち出しづらい状況にある。また、来年以降も多額の国債償還と借換えが控えている。今後も国債利回りの上昇・高止まりが続くと、今後の資金調達コストにも影響が出てくるため、状況はより厳しいものとなる。ポルトガルもアイルランドに続いて、ECBやIMF等への支援要請に踏み切る可能性があり、事態を注意深く見守っていく必要がある。

図1  南欧諸国等の国債、CDS市場の動向
図2  南欧諸国等の財政状況
図3  ポルトガルの経済と財政の状況
図4  ポルトガルの労働市場
図5  ポルトガル国債の償還予定の中央政府財政収支の推移

担当:参事官(海外担当)付  高橋  貴裕  直通:03-3581-9536

本レポートの内容や意見は執筆者個人のものであり、必ずしも内閣府の見解を示すものではない。

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