今週の指標 No.946 目次   前へ   次へ 2010年1月12日

インド:金融危機対応からの出口戦略に踏み出したインド

<ポイント>

  1. インドの09年7〜9月期の実質GDP成長率は、前年同期比7.9%と市場予測を上回るものとなった(図1)。インド経済は、08年9月の世界金融危機発生の影響を受けて減速したものの、09年に入ってから急速に持ち直しており、実質GDP成長率は中期的な成長トレンドの水準に近づきつつある。また、09年7〜9月期における実質GDP成長率とトレンドとのかい離幅について他のアジア主要国・地域と比較すると、インドは下へのかい離幅が最も小さく、アジア地域の中でいち早く景気回復に向かっていることがうかがえる(図2)。

  2. ただし、インドの実質GDP成長率(前年比)を需要項目別寄与度でみると、09年の成長パターンはこれまでと異なっており、景気回復の基盤には弱さもみられる(図3)。08年以前をみると、輸出が増加する一方で、内需が比較的好調に推移し、輸入の伸びが輸出の伸びを上回って、輸入超過が拡大していた。結果として、純輸出は成長率に対しておおむねマイナスに寄与していた(図4)。しかし、09年に入ると、輸出入ともに減少に転じた。成長率に対する純輸出の寄与は09年からプラスに転じ、成長率は見かけ上大きく上振れしているが、これは民間消費を始めとする内需の減速等により、輸入の減少幅が輸出の減少幅を上回って推移して、輸入超過が前年に比べて縮小したためである。

  3. 先行きについても、モンスーン期(注1)における深刻な雨不足からコメ等の農作物の不作が見込まれており、今後、農家の収入減により民間消費の伸びが抑えられるリスクがある。このように景気の本格回復にはまだ時間がかかるとみられるものの、08年秋以降の最悪期は脱してきており、今後の景気下振れ懸念は後退したとみられる。こうした中、インド準備銀行(中央銀行)は、金融危機対応からの出口戦略の第一歩を踏み出している。09年10月27日の政策決定会合で、インド準備銀行は貸出金利であるレポ金利等の据え置きを決定する一方、08年11月以降据え置かれていた法定流動性比率(SLR:Statutory Liquidity Ratio)(注2)を1%引き上げて25%とした。

  4. もっとも、各商業銀行は既にSLRの基準を満たしていることから、金融引締めの実効性は乏しいといわれている。SLRの引上げはむしろインフレ期待の抑制や金融緩和からの脱出をアピールする狙いがあったものと考えられる。直近インドではインフレに対する警戒感が強まっている。モンスーン期における深刻な雨不足からコメ等の農作物の不作が見込まれている(表5)ほか、インフレ期待の高まりも指摘され、政府・金融当局が重視する卸売物価は一次産品(特に食品)を中心に伸びが高まっている(図6)。また、景気回復に伴って、国内外の資金が株や不動産に流れ込んでおり、資産インフレに対する懸念が強まっている。

  5. このほか、財政面では、08年12月以降打ち出された景気刺激策等による財政支出の拡大や、税収の伸び率鈍化により、財政赤字拡大の問題が深刻化している。09年度(09年4月〜10年3月)については、中央政府の財政赤字が予算ベースで名目GDP比6.8%、地方政府を含めた一般政府レベルでは同10.1%と、ともに過去10年間で最大となることが見込まれている(注3)。また、景気回復の基盤も未だ強固ではなく、ムカジー財務相は景気刺激策に伴う財政支出の拡大が09年度内に巻き戻される可能性は低いと述べている(注4)。一方で、インド政府は、中央政府の財政赤字を10年度に同5.5%、11年度は同4.0%に抑制する中期財政目標を打ち出している(注5)。10年度(10年4月〜11年3月)になると、財政健全化に向けた動きが本格化して、財政支出拡大路線からの出口戦略に踏み出す可能性が出てくる。

  6. 今後、1月29日には金融政策決定会合が予定されているほか、2月末頃には10年度予算が発表される見通しであり、金融・財政政策の動向が注目される。

    (注1)毎年6〜9月期に到来する季節風で雨季をもたらす。
    (注2)国内商業銀行が保有しなければならない国債やその他政府指定債券の預金総額に対する比率。
    (注3)インド経済諮問委員会“Economic outlook for 2009/10”(09年10月)より。
    (注4)09年11月13日、ムカジー財務相発言。エコノミック・タイムズ(電子版、09年11月17日)より。
    (注5)インド財務省“Union Budget 2009-10”より。

図1:インドの実質GDP成長率 図2:5か年平均成長率と実質GDP成長率
    とのかい離幅(09年7〜9月期)
図3:実質GDP成長率(需要項目別寄与度) 図4:輸出入の推移(実質GDPベース)
表5:農産物生産動向(秋収穫作物) 図6:卸売物価上昇率(前年比)
(備考)
    インド中央統計局、財務省、農業省、インド準備銀行、その他各国・地域統計、CEICデータより作成。

担当:参事官(海外担当)付 中野 英太郎 直通:03-3581-9537

本レポートの内容や意見は執筆者個人のものであり、必ずしも内閣府の見解を示すものではない。

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