今週の指標 No.941 目次   前へ   次へ 2009年11月24日

EU:欧州における財政再建に向けた動き

<ポイント>

  1. 欧州では、景気後退による税収の減少や財政出動による歳出の拡大を背景に、財政状況が急速に悪化している。現在、景気刺激策の効果もあって景気は下げ止まっている中で、経済危機の克服を目指した財政拡大を巻き戻し、財政再建に向かういわゆる出口戦略が経済財政政策の焦点となっている。

  2. 11月11日、欧州委員会は、安定成長協定(注1)に基づき過去に過剰財政赤字是正勧告を行った5ヶ国に対する評価を実施するとともに、新たに9ヶ国に対して財政赤字の是正期限を含む勧告案を公表、財政再建の時期とペースの案を提示した(表1)。既に赤字是正勧告を受けていた英国(是正期限:2013→14年)、フランス(12→13年)、スペイン(12→13年)、アイルランド(13→14年)に対しては、是正期限を1年延期(ギリシャを除く(注2))するとともに、新たにドイツ、オーストリア、オランダ、チェコ、スロバキア、スロベニア、ポルトガル(以上是正期限2013年)、イタリア、ベルギー(同12年)の9ヶ国も赤字是正措置の対象とした。また、遅くとも2011年に、多くの国では2010年に財政再建を開始するとした。

  3. 欧州各国の財政状況の悪化により、各国の国債(10年物)利回りとベンチマークであり財政の悪化度合いが緩やかなドイツ国債利回りのスプレッドは、ピーク(09年2月)よりは低下したものの、依然としてリーマン・ブラザーズ破たん前と比べて高水準で推移している(図2)(注3)。長期金利の上昇は、民間投資をクラウディング・アウトし景気回復の足かせとなるだけでなく、利払い負担の増加を通じて財政の持続可能性を損なうおそれがある。実際に、欧州委員会の試算では、EU27ヶ国全体で、2007年-11年の政府債務残高の増加の4割程度を利払い負担が占める見込みである(図3)。

  4. 長期金利の上昇を抑制するためには、財政再建に向けた信頼のおける出口戦略(目標と時期)を示すとともに、目標達成に向けた政府の強いコミットメントを示すことで、国債に対する市場の信認を確保する必要がある。今般の勧告案はこの点において、財政再建に向けた目標と時期を明確にしており評価できる。

  5. 他方で、拙速な財政政策の転換が景気の腰折れを招くリスクに留意する必要がある。財政再建に舵を切るタイミングについては、現実の経済成長率と潜在成長率の比較(GDPギャップ)が一つの基準となる。通常は、経済成長率が加速し、潜在成長率を超える(GDPギャップが縮小する)局面で財政再建を開始するのが望ましいと考えられる。欧州主要国の状況を見ると、例えばドイツでは2010年にはGDPギャップは縮小に向かって行くのに対して、多くの国では2010年もGDPギャップは拡大する見通しであり、2011年に入っても一部の国ではほとんどGDPギャップが縮小しない見込みである(表1)(図4)。

  6. 欧州の景気は、自動車買換え支援策等の政策効果もあり下げ止まっているが、自律的な回復の芽は乏しく、先行きは自動車買換え支援策の縮小・終了に伴う反動や信用収縮、雇用の悪化等により、景気が低迷を続けるリスクがある。財政再建開始のタイミングについては、こうした先行きの下方リスクが大きいことから慎重に見極める必要がある。特に、2010年からの財政再建の開始は時期尚早である可能性があろう。



    (注1)EU加盟国は安定成長協定によって、一般政府財政赤字をGDP比3%、債務残高を同60%以内に抑制することが要請されている。これに違反する場合、違反国に対して赤字の是正期限等が示され、期限までに是正されない場合には、通貨ユーロを導入している国(現在16ヶ国)に対しては最大でGDP比0.5%の制裁金が課される。同協定の下では、現在は金融危機のため「例外的な状況(exceptional circumstance)」とされ、財政赤字GDP比3%の超過が事実上許容されている状況にある。しかしながら、財政赤字が著しい国や金融危機以前から財政状況が悪化していた国に対しては09年2月から是正勧告が発動されてきた。今回の勧告案は、金融危機に対応するための異例の財政政策からの出口戦略の一環として位置づけられており、12月以降のEU経済・財務相理事会(ECOFIN)での承認を経て正式に勧告が行われる見込みである。

    (注2)ギリシャについては、欧州委員会から赤字是正勧告を受けたにも関わらず、当局の取組が十分でないとし、他国のように財政赤字の是正期限や目標を示すには至っていない。

    (注3)財政赤字の拡大や政府債務の増大は、(1)国債の需給悪化と借り換えリスクの高まり、(2)リスクプレミアムの上昇、(3)インフレ期待の高まりといった経路から長期金利を上昇させると考えられる。


表1 欧州委員会による各国の過剰財政赤字是正計画(主要国のみ抜粋)
図2 各国の国債利回りとドイツ国債利回りとのスプレッド(10年物)
図3 一般政府債務残高(GDP比)の増加要因
図4 各国の潜在GDPと実際のGDP
備考

担当:参事官(海外担当)付 鈴木 一成 直通:03-3581-0056

本レポートの内容や意見は執筆者個人のものであり、必ずしも内閣府の見解を示すものではない。

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