今週の指標 No.913 目次   前へ   次へ 2009年2月9日

ドイツ:個人消費は景気回復の芽になるか

<ポイント>

  1. ドイツでは2002年以降消費の不振が続いている(図1)。この間、ドイツの家計貯蓄率は緩やかに上昇しており、米国や英国の家計貯蓄率低下とは対照的である(図2)。こうした点を背景に、米国、英国等では、金融危機による景気悪化の中で消費低迷が続く公算が大きい一方で、ドイツの消費拡大に期待する論調がある(*注1)。そこで、以下ではドイツ個人消費の拡大余力について考察してみたい。

  2. ドイツの個人消費に影響を与える要因をみると(図3)、2000年代前半における消費低迷の背景は、主に所得の伸び悩みによるものであり、これは新興国とのコスト競争圧力の高まりから賃金が抑制されていたことが影響しているとみられる。2000年代後半になると、景気回復もあって所得は伸び始めたものの、付加価値税率引上げや物価高により消費の不振が続いている。

  3. 2000年代後半からの所得の回復は景気後退となった現在も続いている。これは、所得環境が景気にやや遅れて変動するためと考えられ、今後はタイムラグを伴って所得環境も悪化し、消費が抑制される可能性がある。実際に、実質GDP成長率が前年比でマイナスとなった時点を起点として、実質GDP成長率と雇用者所得の時差相関係数をとると、過去2回の後退局面では、景気の悪化からおおむね4〜5四半期遅れて正の相関が高くなっている(雇用者所得も悪化)。(図4)(*注2)

  4. また、消費者のマインドをみると、07年夏の金融資本市場の混乱を契機に悪化傾向に転じていたが、金融危機後は特に冷え込みが著しく、先行きの経済情勢への不安感や、雇用の悪化懸念等から過去の長期的な平均的水準を大きく下回るレベルに落ち込んでいる(図5)。

  5. 他方、明るい材料としては、原油・商品価格の下落を受けて08年8月から消費者物価上昇率(前年比)が鈍化傾向にあることが挙げられる(図6)。足元で消費者物価上昇率は前年比0.8%にまで低下しており、今後もしばらく鈍化傾向が続くと考えられるため、消費者の実質購買力を下支えすると考えられる。

  6. 以上を勘案してドイツ個人消費の先行きを展望すると、今のところ比較的堅調な所得環境や消費者物価上昇率の鈍化がある程度の下支えになることが期待される。他方で、ラグを伴った雇用・所得環境の悪化、金融資産の目減り、マインドの低迷といった要因が消費の抑制圧力となる可能性が高いため、個人消費がかつてのようにEU域内の景気を牽引する程にまで盛り上がるとは考え難い(*注3)。

  7. こうした中、ドイツ政府は08年11月、09年1月と二度にわたり景気対策パッケージを発表した(表7)。これらの対策には、雇用・所得環境の改善策や、新車購入時の税負担免除、低公害車へ買い替え補助など、消費を促進するインセンティブも盛り込まれている。ドイツの財政状況は相対的に良好であり、財政出動の余力があるとみられる。また、住宅バブルがなかったこともあって、ドイツの家計債務残高(GDP比)は高くないため、理論的には、家計は可処分所得の増分を米英ほど貯蓄に回す必要はないと考えられる(図8)。未曾有の金融危機の中、消費にとって明るい材料は多くないが、こうした対策が一定の下支え効果をもたらすことが期待される。

    (*注1)Financial Times紙社説 「Get out and spend(08年11月21日)」、「German lessons(08年12月12日)」、Economist誌「Accelerating downhill- Why China and Germany need to do more to boost demand(09年1月15日)」など。
    (*注2)08年の賃金交渉において、金属産業労組(IGメタル)が経営側と主要地域で4.2%と近年では比較的高水準で合意したため、当面の所得環境の改善に寄与するとみられる。
    (*注3)なお、ドイツ政府(09年1月21日)、欧州委員会ともに、09年の個人消費の伸びを前年比0.8%と予測している。

図1:EUの実質GDP成長率と主要国の個人消費の寄与度
図2:ドイツと米英の家計貯蓄率
図3:ドイツ個人消費の変動要因
図4:実質GDP成長率と雇用者所得の時差相関係数
図5:消費者信頼感指数と各項目の寄与度
図6:消費者物価上昇率(HICP)と各項目の寄与度
表7:ドイツ景気対策の概要
図8:主要国の財政収支と家計債務残高
備考

担当:参事官(海外担当)付 鈴木 一成 直通:03-3581-0056

本レポートの内容や意見は執筆者個人のものであり、必ずしも内閣府の見解を示すものではない。

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