今週の指標 No.880 目次   前へ   次へ 2008年06月02日

カナダ:アメリカの金融資本市場や実体経済からの下方リスクには注視が必要

<ポイント>

  1. 資源国であるカナダは、原油や商品価格の高騰による交易条件の改善によりエネルギー産業を中心に企業収益が増加し、家計所得も全体としては増加したことなどから、国内需要主導の順調な成長を遂げ、2007年の実質GDP成長率は2.7%増となった(図1)。失業率は低水準にあり(08年4月:6.1%、図2)、良好な雇用・所得環境が続いていることから、個人消費(08年1-3月期:前期比年率3.2%増)がカナダの経済成長をけん引しているものの、アメリカ経済の減速を受けた外需のマイナス寄与により07年後半は減速傾向にあり、さらに08年1-3月期は、外需は増加したものの、自動車産業の在庫調整により、在庫投資が大幅なマイナスになったことなどから、08年1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率0.3%減とマイナス成長となった(前掲図1)。

  2. 経済の減速を受け、カナダ銀行は景気を下支えするために、07年12月以降、4月22日まで、政策金利であるオーバーナイト金利を4回、合計1.50%引き下げ、3.00%とした(図3)。カナダ銀行は、4月の政策決定後の声明文において、国内需要は堅調とする一方で、「アメリカ経済の減速は深刻化し、より長引くと見込んでいる。アメリカ経済の減速と輸出の減少による悪影響を受け、08年の経済成長は抑制されると考えられる。」と述べている。加えて、08年の成長率見通しを1.4%(08年1月時点:1.8%)、09年を2.4%(同:2.8%)とそれぞれ1月時点の見通しから下方修正しており、先行きについては、「追加的な金融緩和は、その時点での世界経済と国内需要の状況次第である」としている。ただし、先物金利の動きをみると、1-3月期の実質GDP成長率がマイナスとなったことを受け、現在のところ、年内に0.25%程度の追加利下げの実施を見込む向きもある(図4)。

  3. また、国際的な金融資本市場の混乱や、それに伴い国内の金融機関においてもサブプライム関連の損失計上がみられることなどから、サブプライム・ローン問題に起因する信用収縮懸念がカナダの金融市場にも広がっている。カナダ銀行が4月に公表した企業観測調査をみると、金融機関からの資金調達における信用状況は、07年第3四半期以降、厳格化しているとの回答が緩和しているとの回答を上回っている(図5)。07年8月には、非銀行系金融機関が運営する特別目的会社が発行した、短期債務であるABCP(資産担保コマーシャル・ペーパー)が満期後に借換えできなくなり、約330億カナダドルにのぼる非銀行系ABCPが償還凍結状態に陥った(図6、*1)。これは、サブプライム・ローンに投資していた海外のファンドの破綻(*2)などを契機に、情報開示が限定的であったカナダの非銀行系ABCPの裏付け資産に対して、サブプライム・ローン関連の証券が含まれているのではないかという懸念が高まったことによる。

  4. 一方、物価動向をみると、カナダ銀行がインフレターゲット政策における参照値としている消費者物価指数(CPI)総合の上昇率は、政策目標圏内(1.0〜3.0%)で推移しており、足元では目標数値(*3)の前年同月比2.0%を下回り、4月は同+1.7%となった(図7)。また、CPIコア(*4)も同+1.5%と低い伸びとなっている。しかしながら、原油価格や天然ガスなどのエネルギー価格の高騰は依然続いており(図8)、今後のインフレ動向には留意が必要である。カナダ銀行における08年のインフレ見通しは1月時点の見通しより上方修正されている(【08年4-6月期】1月時点:前年同月比+1.4%→4月時点:同+1.7%、【08年下半期】1月時点:同+1.5%→4月時点:同+1.9%)。

  5. カナダでは、最大の貿易相手国であるアメリカ経済の影響が大きいことから(07年対米輸出シェア:約75%、輸入シェア:約65%)、アメリカ経済の景気低迷に伴う影響や、国際的な金融資本市場の変動による景気の下振れリスクが今後も懸念される。したがって、インフレ圧力の高まりには注意する必要があるものの、現時点では、金融政策運営において、金融資本市場の動向や景気動向への配慮がより重視されるものと考えられる。


    (*1)その後、発行主体の債務不履行を回避するために、ABCPディーラーや主要金融機関を中心に「全カナダ投資委員会」が組織され、非銀行系ABCPを満期9年の長期変動利付債に転換することを目標とする再編計画を発表し(モントリオール協定)、4月25日にその計画が投資家による承認投票で承認された。これにより、対象となるABCPを発行した特別目的会社は、満期ごとの短期債務の借換えリスクから解放されるとともに、アメリカのサブプライム・ローン関連の証券がABCPの原資産に含まれている場合、その部分を分離して再編することとなっていることから、再編後の長期変動利付債についてより高い格付けが得やすくなるなど、資金調達コストが軽減されることとなり、今後のカナダの金融市場に対して好影響を及ぼすと考えられている。
    (*2)サブプライム・ローン問題によって、07年7月31日には、ベアー・スターンズ傘下のファンドが破綻、8月9日には、BNPパリバ傘下の3つのファンドが凍結された。
    (*3)カナダ銀行は、CPI総合の前年同期比の値を、政策目標圏(+1.0〜3.0%)の中央値の+2.0%に維持することを目標としている。
    (*4)CPIコア指数は、価格変動の大きい8種類の構成要素(果物、野菜、ガソリン、燃料油、天然ガス、住宅ローン金利、都市間輸送、タバコ製品)と間接税の影響を除いたもの。

図1 実質GDP成長率 図2 失業率の推移 図3 カナダ・アメリカの政策金利 図4 オーバーナイト金利先物が示唆する先行きのオーバーナイト・レート水準
図5 企業観測調査における信用状況 図6 ABCP残高の推移 図7 消費者物価指数(CPI)の推移 図8 原油価格及び天然ガス価格の推移
(備考)
カナダ統計局、カナダ銀行、FRB、ブルームバーグより作成。

担当:参事官(経済財政分析−海外担当)付 坂井 潤子 直通:03-3581-9536

本レポートの内容や意見は執筆者個人のものであり、必ずしも内閣府の見解を示すものではない。

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