今週の指標 No.873 目次   前へ   次へ 2008年4月21日

アメリカ:スタグフレーションの可能性は低いものの、景気・物価動向には今後も注視が必要

<ポイント>

  1. アメリカでは、景気は弱含んでいる。実質GDP成長率は、07年4〜6月期から2四半期連続で高い伸びとなったものの、10〜12月期には前期比年率0.6%と減速した。民間機関の平均的な予測によれば、08年前半はほぼゼロ成長になると見込まれている(図1)。また、雇用情勢については、4月4日にアメリカ労働省が発表した雇用統計によれば、3月の非農業雇用者数は前月差8.0万人減となり、1、2月についても下方修正され、それぞれ前月差7.6万人減となっている。失業率についても5.1%に上昇しており、これまで比較的良好な雇用環境が消費を下支えしてきたが、その悪化はアメリカの景気後退懸念を強める要因の一つとなっている(図2)。アメリカ経済について、バーナンキ連邦準備制度理事会(FRB)議長は、4月2日の議会証言で、「2008年前半は成長していたとしても大幅な伸びは見込めず、わずかにマイナスになる可能性さえある」と指摘し、証言後の質疑応答では「景気後退する可能性はある」と述べている。

  2. 一方、物価については、原油等の資源価格や食料品価格の高騰に伴い、足元で高水準で推移している(図3〜図5)。このため、仮に、アメリカ経済が景気後退局面に陥るとともに、物価上昇の高止まりも続くこととなれば、スタグネーション(景気の悪化・停滞)とインフレーション(物価水準上昇)とが同時に起こる、スタグフレーションになることも懸念される。スタグフレーションが起こりうるパターンは、大きく2通りあると言われている。一つ目は、原材料価格や賃金上昇等のコスト上昇に起因するコストプッシュ・インフレーションが生じた場合であり、二つ目は何らかの要因で人々の心にインフレ期待が植え付けられ、それが人々の経済活動に影響を与えることでインフレ率の上昇に結びつく場合である。

  3. まず、一つ目のパターンの可能性を検証してみると、資源供給面からの物価上昇圧力は非常に強くなっている。原油等の資源価格や食料品価格については、過去最高水準を更新するなど高い水準で推移している(図3〜5)。一方、雇用コスト面からの物価上昇圧力はやや緩和している。非農業部門の労働生産性は、07年第3四半期以降は、04年第2四半期以来の高い上昇率となっており、賃金上昇率は07年以降、雇用情勢の軟化に伴ってやや鈍化傾向にある(図6)。このように、コスト面からの物価上昇圧力はまちまちとなっている。次に、二つ目のインフレ期待面からみてみると、07年半ばから08年初めにかけて原油等の資源価格や食料品価格が高騰している状況下で、FRBの連邦公開市場委員会(FOMC)では、景気の減速に配慮して政策金利を大胆に引き下げる決定が続いたことから、期待インフレ率の上昇が懸念された。しかしながら、期待インフレ率の動きをみると、08年初めから3月初めにかけて上昇したものの、その後は低下しており、足元ではその上昇は限定的なものとなっている(図7)。

  4. したがって、アメリカ経済においては、現在のところスタグフレーションとなる兆候が必ずしも強くみられているわけではない。しかしながら、金融政策では、07年9月以来、景気の下振れリスクに対処した政策金利の引下げ局面が続いており、仮にスタグフレーションに陥った場合には、FRBが、最大限の雇用の確保と物価の安定という二つの目的をどのように達成するかという難しい判断を迫られる事態に直面することとなる(ただし、政策金利であるフェデラル・ファンド・レート(FFレート)の現在の目標水準は既に2.25%と、実質金利がゼロ近傍又はマイナスとなる水準に達しており、金融は既に相当緩和的な状況に達している)。バーナンキFRB議長は、上述の議会証言において、景気動向のみならず、インフレ動向も「今後数ヶ月は注意深く見守る必要がある」と述べており、景気及び物価動向については注視していく必要がある。

図1 GDPの実績と民間予測 図2 非農業雇用者数(前月差)と失業率 図3 商品価格と原油価格 図4 穀物価格 図5 物価動向 図6 非農業部門の労働生産性と賃金上昇率 図7 期待インフレ率とFFレート目標水準
(備考)
データは、ブルームバーグ、データストリームより取得。

担当:参事官(海外担当)付 丸山 一郎 直通:03-3581-9536

本レポートの内容や意見は執筆者個人のものであり、必ずしも内閣府の見解を示すものではない。

目次   前へ   次へ