今週の指標 No.870 目次   前へ   次へ 2008年3月31日

中国:全人代を開催−インフレ・経済過熱を抑制しつつ成長を持続させることが課題−

<ポイント>

  1. 中国では3月5日から18日にかけて全国人民代表大会(全人代)が開催された(※1)。温家宝首相による政府活動報告(施政方針演説に相当)では過去5年間の実績が総括され、08年の主要な経済目標及び予算案等が示された。08年は中国の経済成長率の目標値を昨年同様の8%前後、消費者物価上昇率を4.8%前後とした上で、慎重で健全な(prudent)財政政策、引き締め的な金融政策を行う等の政策方針が打ち出された(表1)。同報告及び予算案については、18日の全人代閉幕会議において承認されている。

  2. 08年の経済活動については、「経済の過熱や物価の構造的上昇のギャロッピングへの転化を防ぐこと」がマクロコントロール上第一の任務としている。経済成長率の目標は、実績として03年以来5年連続で10%台の高成長を続けていること(図2)と比較すると相当に低めの成長目標だが、これは経済の過熱を防ぐとともに、経済成長率のみを追及することを回避し、発展パターンの変換、改革の深化、社会建設の加速化を目指し、良質で急速な発展を達成するという政策姿勢を反映させたものと説明されている。言いかえれば、成長率のみならず、成長の質を重視する政策スタンスを示したものとみられる。また、消費者物価上昇率については、06年末より食品価格を中心に上昇が続き、08年2月には前年比8.7%増と加速している(図3)。この点を踏まえると、07年の実績値(4.8%)と同程度に抑制することは容易ではないとみられるが、08年に取り組むべき課題として、食糧や肉類を始めとする生活必需品等の生産強化を図るなど具体的な措置を掲げ、インフレ抑制に向けた取組み姿勢を強化させた。

  3. 金融政策については、08年は07年に転換した「引き締め」スタンスを継続していくこととしている(※2)。背景として、固定資産投資の過熱や過剰流動性(図4)、物価上昇の圧力が著しく高まっていることが指摘されている。実際に固定資産投資やM2の伸びをみると、高い伸びが続いている。今後引締め手段としては、07年同様各種の産業政策、行政指導等のほか預金準備率や金利引上げで対応を行っていくものと考えられる(図5)。また為替についても、人民元レートの形成メカニズムを完備させ、為替レートの弾力性を強めるとしており、緩やかな元高が容認されていくものと考えられる(※3)。

  4. エネルギー効率、環境保護という点では、GDP1単位当たりのエネルギー消費量(※4)や主要汚染物質の排出量について、08年は07年を上回る削減を行うとしている。これらの削減については、第11次5か年計画(2006-10年)において、2010年までに05年比でそれぞれ20%、10%削減することとされている。しかし、主要汚染物質の削減は進んでいるものの(※5)、GDP1単位当たりのエネルギー消費量については07年実績は前年比3.3%程度の削減にとどまったことを踏まえると、08年以降はより一層の取組みが求められる(図6)。

  5. そのほか、08年は(1)農業のインフラ整備を強化し、農業の発展と農民の増収を促進する、(2)内需拡大等により、経済構造調整を推進し、発展方式を転換する、(3)製品の品質安全に力を入れる、(4)経済体制改革を深化させ、対外開放のレベルを高める、(5)社会建設を一層重視し、民生の保障と改善に力を入れる、(6)文化体制改革を深化させ、文化の大発展・大繁栄を推進する、(7)社会主義民主法制建設を強化し、社会の公平正義を促進する、(8)行政管理体制改革を加速し、政府自身の建設を強化する、など各分野において発展と改革の方針が決定され、経済発展に加えて、民生の向上にも重点が置かれている。

  6. また、全人代閉幕後の記者会見において温首相は、米国サブプライム問題の影響や石油価格の上昇など世界経済の動向に懸念を示すとともに、08年は国内外に経済が不安定化するリスクが存在するとしており、「最も困難な1年になる」と述べた。さらに、インフレ抑制を08年の最重要任務と述べ、物価制御に強い決意を表明する一方、失業問題を解決するには経済の一定の発展速度を維持する必要があるとも述べている。このように、中国の経済政策運営では、インフレ・経済過熱を抑制しつつ、成長を持続させるという微妙なバランスが求められていくものと考えられる。

    (※1)全人代は年に1度開催され、憲法の改正、法律の制定やマクロ経済政策、財政予算を定める国家最高機   関であり、日本の国会に相当する。今回の全人代では、07年10月開催の共産党全国代表大会(5年に1    回)における党幹部人事や党規約の改正等の決定を受け、国家・政府部門の主要ポストの人事及び経済政   策・政治方針を決定している。胡錦濤主席、温家宝首相は再選され、両氏は二期目の政策運営を行うこと    となった。
    (※2)08年の経済政策の基本方針を決定する中央経済工作会議(07年12月3日開催)では、経済の過熱防止と   インフレ抑制がマクロコントロールの最優先課題に位置づけられ、金融政策については、従来の「穏健な金    融政策」から「引き締め的な金融政策」に政策スタンスが改められた。
    (※3)05年7月の管理変動相場制移行以来、対ドルで15%の元高となっている(08年3月25日時点)。
    (※4)GDP1万元(05年価格基準)を創出するのに必要なエネルギー消費量をいう。
    (※5)主要汚染物質とは二酸化硫黄と化学的酸素要求量(COD)をいう。07年の実績はそれぞれ前年比▲4.7    %、▲3.1%だった。

表1:2008年主要経済目標 図2:実質GDP成長率 図3:消費者物価上昇率と項目別寄与度 図4:M2、都市部固定資産投資の伸び 図5:金融機関貸出及び預金基準金利(1年物)、預金準備率 図6:GDP1単位当たりエネルギー消費量の推移
(備考)
   中国国家統計局、中国人民銀行、全人代資料等より作成。

担当:参事官(海外担当)付 中野 英太郎 直通:03-3581-9537

本レポートの内容や意見は執筆者個人のものであり、必ずしも内閣府の見解を示すものではない。

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