今週の指標 No.867 目次   前へ  次へ 2008年3月17日

アメリカ:厳しさが増す個人消費を取り巻く環境

<ポイント>

  1. アメリカでは個人消費の伸びが緩やかになっている。2006年後半以降、アメリカ経済は住宅建設の減少等により景気回復が緩やかなものとなったが、実質個人消費支出が前年同期比3%前後で推移するなど、個人消費はおおむね堅調な増加を続け、景気を下支えする役割を果たしてきた。しかしながら、07年末以降は、クリスマス商戦が低調であったことに加え、エネルギー価格や食料品価格の上昇の影響等もあって、実質個人消費支出の伸びは鈍化しており、08年1月は前年同期比1.8%となっている(図1)。

  2. これまで個人消費が堅調に増加してきた背景の一つには、所得・雇用環境が比較的堅調であったことが挙げられる。しかしながら、3月7日に発表された雇用統計によれば、08年2月の非農業雇用者数は前月差6.3万人の減少となり、約4年半ぶりの減少となった1月に続いて2か月連続のマイナスとなった。雇用統計における雇用者数は、確報値での改定幅が比較的大きな点に留意が必要であるが、06年半ば以降、製造業や建設業といった生産部門における減少をサービス部門の増加が補う形で全体で見れば増加してきたものの、足下では製造業や建設業の減少に加え、サブプライム住宅ローン問題の影響を受けている金融業等の一部サービス業でも雇用減少の動きが広がってきている(図2)。また、時間当たり賃金については前年同期比3.7%と比較的高い水準を維持しているものの、ピーク時からはやや伸びが低下しており、労働需給環境の悪化がさらに進んだ場合にはより上昇ペースが鈍化するおそれもある。加えて、エネルギー価格や食料品価格の上昇等により物価上昇率が07年11月以降4%前後の高い水準まで急激に上昇したため、賃金の伸びは実質的にゼロないしマイナスの状況にある(図3)。このように、所得・雇用環境は全般的に軟調な動きとなっており、個人消費へのマイナスの影響が表面化している。消費者マインドを表す消費者信頼感指数をみると、所得指数及び雇用指数(注1)ともに足下では大幅に低下しており、所得・雇用環境の軟化が消費者心理にマイナスの影響を与えている(図4)。

  3. また、これまで個人消費を支えてきた別の要因としては、家計における純資産額の増加も挙げられる。近年、住宅ローン債務を中心に家計の債務残高は比較的高い水準にあるが、バランスシートでみれば、純資産額(資産額−負債残高)自体はプラスに推移していたことが、家計の債務負担感を軽減させ、消費意欲を支えていたと考えられる。ただし、足下におけるバランスシートの状況をみると、純資産額の可処分所得比率は、02年以来上昇傾向が続いていたものの、07年後半以降は減少に転じている。そのうち純住宅資産額(住宅資産額−住宅ローン債務残高)の可処分所得比率については、住宅価格低下の影響などから既に06年以降低下しているが、住宅市場の調整が長期化・深刻化する中で、住宅価格の低下が今後も続くとみられ、純住宅資産額の低下から家計純資産のさらなる減少を招く可能性が強い(図5)。そうした場合、純資産額の増加によって消費意欲が支えられてきた効果が剥落することとなり、家計の元利返済負担及び金融負担(注2)の可処分所得比率が過去最高水準にある状況において、債務負担感の増加から消費がさらに抑制される可能性もある(図6)。

  4. 加えて、最近では、サブプライム住宅ローン問題に端を発した金融資本市場の変動に伴うクレジット・クランチ懸念から、消費者信用の利用可能性の低下も懸念されている。現在、サブプライム層を中心に住宅ローンに対する金融機関等の貸出基準の厳格化がみられる中で、消費者ローンについても、07年以降、貸出基準の厳格化が進んでいる。連邦準備制度理事会(FRB)が実施している銀行融資担当者調査(Senior Loan Officer Opinion Survey on Bank Lending Practices)(注3)によれば、直近の08年1月調査では厳格化したとする回答の割合から緩和したとする回答の割合を差し引いた値がクレジットカードローンで9.7%ポイント(前回調査 10月:3.2%ポイント)、その他消費者ローンでは32.1%ポイント(前回調査 10月:26.0%ポイント)といずれも厳格化の度合いが進んでいる(図7)。足下における消費者信用残高(前期差)の動きをみると、これまでのところ増加傾向が続いているものの、07年半ばの高い増加と比べると増加幅は縮小しており(図8)、今後、さらに金融機関における貸出基準の厳格化が進んだ場合には、消費者信用の面からも消費が抑制される可能性があると考えられる。

  5. 以上のように、個人消費をとりまく環境は一段と厳しいものが多くなっており、先行きについては、個人消費はさらに弱含む可能性も十分に考えられる。現在、アメリカ経済の回復が弱いものとなっている中で、GDP統計の最大の需要項目である個人消費が大きく減速すれば、実質GDP成長率がマイナスになり、景気後退局面に入るリスクもあると考えられる。こうした状況に鑑み、議会・政府は、景気後退リスクに対処するため、2月13日に1,680億ドル規模(17兆円程度)となる緊急経済対策法を成立させたところである。同法では、個人に対して所得税納税額の一部を還付する戻し減税措置が講じられており、こうした措置は早ければ5月初旬にも戻し減税となる小切手が消費者に郵送開始される予定(注4)となっている。こうした経済対策については個人消費の拡大に資することが期待されるが、一時的な措置であるため、個人消費が本格的に回復するためには、所得・雇用環境の改善といった個人消費を支える基本的な環境が改善されることが必要不可欠であると考えられる。

    (注1) 「消費者信頼感指数」における数値は、「良い」と回答した割合を「良い」と回答した割合と「悪い」と回答した割合を足したもので割った後、1985年を100として指数化したもの。「現状指数」は現在の情勢を、「将来指数」は6か月後の見通しに対する回答。「総合指数」は、景気現在指数、雇用現在指数、景気将来指数、雇用将来指数、所得将来指数の5項目を単純平均して求めている。
    (注2) 「金融負担」とは、元利返済負担(住宅ローン、自動車ローン等)に家賃、住宅保険、固定資産税等を加えたもの。
    (注3) 「銀行融資担当者調査」における数値は、過去3か月に貸出し基準を「引き締めた」と回答した銀行の割合から「緩和した」と 回答した銀行の割合を引いたもの。
    (注4)アメリカ財務省のポールソン長官は、2月7日の声明において、所得税申告シーズンと重なるが内国歳入庁(IRS)は5月初 旬に戻し減税にかかる小切手の送付を開始できるように準備すると述べている。

図1 実質個人消費、実質可処分所得、個人貯蓄率の推移
図2 非農業雇用者数の推移
図3 時間当たり賃金及び消費者物価指数(CPI)、個人消費支出(PCE)デフレータの推移 図4 消費者信頼感指数の推移
図5 家計純資産(可処分所得比)の推移 図6 家計の元利返済負担(可処分所得比)等の推移
図7 金融機関の貸出態度 図8 消費者信用残高の推移

(備考)
アメリカ商務省、アメリカ労働省、連邦準備制度理事会(FRB)、コンファレンス・ボードより作成。

担当:参事官(経済財政分析−海外担当)付 大塚 昌明 直通:03-3581-9536

本レポートの内容や意見は執筆者個人のものであり、必ずしも内閣府の見解を示すものではない。

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