今週の指標 No.863 目次   前へ   次へ 2008年3月3日

アメリカ:インフレ圧力の高まりから、FRBの金融政策には一層難しい舵取りが要求される

<ポイント>

  1. 1月29・30日に開催された連邦公開市場委員会(FOMC)では、22日の75bpの緊急利下げに続き、フェデラル・ファンド・レート(FF金利)誘導目標を50bp引き下げ、3.00%とすることが決定された(図1)。関連して、公定歩合も50bp引き下げ、3.50%とすることが承認された。利下げが開始された07年9月以降、4か月半で合計225bpの利下げが実施されているが、過去の利下げ局面である1990〜91年、01年の景気後退期(*1)と比べても今回の利下げのペースは速いことがわかる。実質政策金利(*2)も足元では0%台となり、過去の景気後退期と同程度の水準まで低下している。

  2. こうした利下げの背景としては、サブプライム住宅ローン関連の損失発生等による金融機関の信用収縮や労働市場の軟化(図2)等、一段の景気減速に対する懸念が高まっていることが挙げられる。利下げ開始以降のFOMC声明文の変遷をみても、当初は景気減速はあくまでも「可能性」であり、「物価安定と持続的な経済成長の促進」のために行動するとしていたが、最近では金融市場の悪化や信用状況の厳格化、住宅部門の落ち込みの深刻化、労働市場の軟化による景気減速を指摘した上で、依然として残る「成長に対する下振れリスク」に対処するために「必要に応じて時機を逃さず」行動する姿勢を明確に示している(表3)。また、ブルーチップ・インディケータ(2月10日号)による民間機関の予測では、「今後12か月以内にアメリカ経済が景気後退局面入りする確率はどの程度か?」という問いに対し、平均で48.8%という結果になっている。

  3. FOMCは2月20日、1月29・30日のFOMCの議事録と併せて、四半期に一度の経済見通し(*3)を公表した。実質GDP成長率は、08年は第4四半期の前年同期比1.3〜2.0%と07年11月に公表された前回見通し(1.8〜2.5%)から大幅に下方修正され、失業率については、08年の第4四半期の平均は5.2〜5.3%と前回見通し(4.8〜4.9%)から上方修正されている(図4)。ただし、09年以降は徐々に潜在成長率まで回復していくと見込んでおり、景気減速の長期化や景気後退は回避できるとの見通しとなっている。バーナンキ議長も「しばらく低成長が続いた後、金融政策や緊急経済対策(*4)の効果が表れ始める年後半からは、成長ペースが幾分強まる」という見方を示している。

  4. 一方、08年のインフレ見通しについては、原油価格高騰の影響により、総合・コアともに前回見通しより上方修正された。WTI原油先物価格の推移をみても、2月19日には終値ベースで初めて1バレルあたり100ドルを超えるなど(図5)、足元においてインフレ圧力は目に見えて高まっている。生産者物価指数(PPI)上昇率の推移をみても、特に川上部門の物価上昇が顕著であり(図6)、今後、川下部門への価格転嫁によって消費者物価指数(CPI)がさらに上昇し、家計の消費を抑制する可能性がある。また、08年1月時点の個人消費支出(PCE)コアデフレーター(*5)でも、既に前年同月比+2.2%とFRBが望ましいと考えている水準(前年同月比+1.0〜2.0%)を上回っている(図7)。

  5. こうした中、今後の政策金利については、FF金利先物の動きをみると、景気後退懸念の高まりから夏頃までに累計1%程度の追加利下げが実施されると見込まれている(図8)。FRBの金融政策においては、景気後退の阻止に向け、柔軟かつ大胆な利下げが実施されているが、今後の政策運営にあたっては、景気やインフレの進行次第で一層難しい舵取りが要求されるものと考えられる。

    (*1)景気循環に関する判定は、全米経済研究所(NBER)の景気日付委員会によって行われており、90年以降の景気後退期は、90年7月(山)−91年3月(谷)、01年3月(山)−01年11月(谷)とされている。
    (*2)実質政策金利はFF金利から参照物価の前年同月比を引いたもの。なお、参照物価は90年1月〜00年1月がCPI総合、00年2月〜04年6月がPCE総合、04年7月以降がPCEコアの値で、08年2月以降はPCEコアは前年同月比+2.2%と仮定している。
    (*3)従来は、2月・7月のFRB議長による定例の議会証言とともに公表されていた金融政策レポートの中で発表されていたが、07年10月に年4回の発表とすることが決定された。今回発表された経済見通しは、1月29・30日のFOMC開催時に会合の場において提示されたものであり、見通しは会合時点において利用可能であった指標データに基づいている。
    (*4)2月13日に、個人所得税を還付する戻し減税や企業の設備投資を促すための税制優遇措置等を柱とする総額1,680億ドル規模の緊急経済対策法(“the Economic Stimulus Act of 2008”)が成立した。ポールソン財務長官は、5月初旬までに戻し減税に係る小切手の送付を開始する、と述べている。
    (*5)コア個人消費支出(PCE)デフレーターは、価格変動が大きいエネルギーと食品を除いたもの。

図1 FF金利・実質政策金利の推移 図2 雇用者数・失業率の推移 表3 2007年年央以降のFOMC声明文の推移 図4−1 実質GDP成長率見通し 図4−2 失業率見通し 図4−3 コア物価上昇率見通し 図5 原油価格(WTI・先物)の推移 図6 PPI・CPIの推移 図7 PCEコアデフレータの推移 図8 FF金利先物が示唆する先行きのFFレート水準
(備考)
FRB、米国商務省、米国労働省、ブルームバーグより作成。

担当:参事官(経済財政分析-海外担当)付 坂井 潤子  直通:03-3581-9536

本レポートの内容や意見は執筆者個人のものであり、必ずしも内閣府の見解を示すものではない。

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