今週の指標 No.853 目次   前へ   次へ 2007年12月25日

ユーロ圏:物価上振れと景気下振れの中でのECB金融政策

<ポイント>

  1. ユーロ圏では、サブプライム住宅ローン問題に端を発する金融資本市場の変動を受け、景気の先行きに不透明感がみられる。欧州委員会の見通しでも、07年と08年の成長率は2.6%から2.2%、OECDの見通しは、同2.6%から1.9%と、08年には景気減速が見込まれている。

  2. 他方、物価には上昇圧力が高まっている。11月のユーロ圏HICP上昇率(前年同月比)は、3.1%と約6年半振りの高水準となった。物価上昇の背景には、(1)原油価格の上昇(前年の水準が相対的に低いことによるベース効果に加え、足元でも価格が高騰)や、(2)食料品価格の上昇が寄与している(図1)。原油価格の上昇については、新興国の需要増、余剰生産能力の低下などによる需給のひっ迫に加え、投機筋の動向も影響していると考えられる。特に07年夏以降はサブプライム住宅ローン問題の悪化を受けて、新たな投資先を求めて資金が流入しているとみられ、投機筋のネット買いポジションが増加すると価格が上昇する傾向がうかがえる(図2)。こうした状況は、原油だけでなく国際商品市場も同様である。例えば小麦についても、原油と同様に投機筋のポジションをみると、価格を押し上げている可能性がうかがえる。また、総合的な国際商品指数であるロイター・ジェフリーズCRB指数をみても商品価格が上昇基調にあることがわかる(図3)。

  3. このように、景気減速懸念がある一方で、物価上昇圧力は高まっている。ECB(欧州中央銀行)は12月の政策理事会で金融市場の不安定性の継続などから政策金利を据え置いたが、「物価上昇リスクを阻止する用意がある(counter upside risks)」、「非常に注意深く監視(monitor very closely)」との表現を用い、市場では利上げ継続に含みを持たせたと受け止められている(12月理事会では利上げを主張したメンバーも存在する)。

  4. しかしながら、景気の状況が芳しくない場合等には利下げの可能性も考えられる。過去の政策決定についてテイラールールによる推計を行うと、現状の金利水準はおおむねテイラールールが示す水準に一致している。先行きについて、ECBによる景気、物価見通しを参考に一定の前提を置いて仮定計算を行うと、前提条件によっては、政策金利水準は緩やかに引き下げられていく可能性もあることが示唆される(図4)。さらに、短期金融市場の動向について、Euribor3か月物の金利をみると、夏の金融資本市場の変動の後一時低下したが、ECBによる年末越え資金の大量供給にもかかわらず足元で高止まりが続いている(図5)。金融機関の貸出行動を実際に左右するのは金融機関の資金調達コストであるため、政策金利が据え置かれているにもかかわらず、こうした市場金利の上昇により実質的な金融引き締め効果が生じているとも考えられる。こうしたことも勘案すると、景気の下方リスクが現実のものとならないようにするため、今後利下げが行われる可能性もあることが示唆される。

  5. いずれにせよ、こうした考察の結果は今後の金融資本市場の状況や、景気、物価動向に大きく左右されるため、未だに動揺が続く市場の動向を引き続き注視していく必要がある。


図1 ユーロ圏消費者物価上昇率と原油価格の推移 
図2 原油価格と投機筋のポジション
図3 小麦価格と投機筋のポジション、商品価格指数 
図4 テイラー・ルールによる金利水準と実際のECB政策金利
図5 Euribor3か月物とECB政策金利
備考

担当:参事官(経済財政分析−海外担当)付 鈴木 一成 直通:03-3581-0056

本レポートの内容や意見は執筆者個人のものであり、必ずしも内閣府の見解を示すものではない。

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