今週の指標 No.835 目次   前へ  次へ 2007年10月1日

ユーロ圏:金融資本市場の動揺とユーロ圏経済への影響

<ポイント>

  1. ユーロ圏経済は足元で堅調に推移しているが、米国のサブプライム住宅ローン問題に端を発する金融資本市場の動揺により先行きには 不透明感が増している。サブプライム住宅ローン問題は本来的には米国の問題であるが、これが証券化されたMBS(Mortgage Backed Securities:住宅ローン担保証券)や再証券化された商品(*)には米国以外の海外投資家も積極的に投資している。例えば米国で組成された民間 MBSの海外保有残高をみると、海外保有分のうちの多くを欧州勢が占めている(図1)。実際にユーロ圏においても、ドイツ産業銀行(IKB)やザクセン州 立銀行(LB)のようにサブプライム住宅ローン問題による影響で経営悪化に繋がる事例も出てきている(**)。

  2. ユーロ圏の2007年第2四半期の実質GDP成長率は前期比年率1.4%(前期は同2.9%)と大きく鈍化したが、これは圏内最 大国であるドイツの建設投 資の落ち込み(同▲4.9%)の影響が大きく、景気の回復基調は続いているとみられる。なお、ドイツの建設投資が振るわなかったのは、(1)前期の高い伸 びからの反動、(2)歴史的な降雨量という天候要因が原因とも言われている。先行きについて、各機関の見通しでは概ね今期を上回る成長率が見込まれてお り、景況感(PMI指数)からも堅調な成長が続くことが示唆される(図2)。しかし、現在の金融資本市場の動揺を考慮すると、当面のユーロ圏経済の下振れ リスクとして、例えば以下のような点に留意する必要があると思われる。

  3. まず、金融資本市場の動揺が長引けば景気の先行きに懸念が生じ企業が投資を手控える可能性がある。例えば、設備投資を中心に圏内 の景気を牽引しているドイ ツの非金融セクターの資金調達状況をみると、ITバブル崩壊後は企業部門全体としては内部調達が主力となってきたが、景気回復もあって最近では直接・間接 金融による外部調達もやや増加に転じており(=内部調達比率の低下)、金融資本市場の動揺による調達コストの上昇によって今後こうした資金調達が困難にな れば、外部調達比率が相対的に高い企業等にとっては投資の抑制要因となる恐れがある(図3)。

  4. 次に、ユーロ圏の住宅市場の急速な調整が懸念される。アイルランド、スペイン等圏内のいくつかの国では、実質ベースでみて米国以 上に住宅価格が上昇してい たり、住宅価格/賃貸料比率(住宅価格が適正水準にあるかどうかを示すとされる)が過去の長期トレンドから大きく乖離している。仮にこうした国において金 融資本市場の動揺を受けて、金融機関の貸し出し態度がタイト化することなどにより、これが住宅市場の急速な調整に繋がるとすれば、消費を始めとした経済全 体への悪影響が懸念される(図4)。

  5. また、より直接的な影響として米国向け輸出の減少が挙げられる。既に年度初めから米国向け輸出寄与度はマイナスに転じているが、 サブプライム住宅ローン問 題の影響により米国経済が一層減速することになれば、米国向け輸出の一層の減少が懸念される。ただし、04年、07年のEU拡大もあってロシア・東欧等新 興国向けの輸出の伸びは著しく、これら諸国の旺盛な需要が米国の需要減をかなり相殺している面もあるとみられる。対ドルでユーロが最高値を更新するなど (1ユーロ≒1.42ドル、9月28日)ユーロ高が輸出に悪影響を及ぼすことも懸念されるが、貿易ウエイトが年々増加するこうした新興国通貨に対しては ユーロは寧ろ大幅に減価しているため、ECBの名目実効レート(EER12、99-01年の貿易ウエイトに基づく)を、直近の06年の貿易ウエイトを用い て計算すれば、名目実効レートでのユーロ高は若干緩和されることがわかる(図6)。輸出に占める米国のシェアは大きく(約14%、06年)看過はできない が、ロシア・東欧(***)等新興国の需要によりその影響は限定的に留まる可能性もある。

  6. 現在の金融資本市場の動揺が実体経済に与える影響はいまだ不透明であり、当面の景気には慎重な判断が求められる。ECBのトリ シェ総裁が「十分な透明性 (sufficient transparency)がないことにより投資家は疑心暗鬼に陥りコンフィデンスがなくなっている」と述べているように、サブプライム住宅ローン問題に 由来するリスクの程度と所在が不透明であることが問題を悪化させているとも言われる。いずれにしても、これまでのところユーロ圏の実体経済は堅調であり、 欧州委員会の見通しでも07年通年で2.5%の成長率を見込んでいるが、金融資本市場の動揺によって上述のようなリスクが現実のものとなる可能性もあり、 先行きが注視される。

    (*)複数のMBS等を束ね再証券化したものはCDO(Collateralized Debt Obligations:債務担保証券)と呼ばれる。
    (**)ドイツ中堅銀行のIKB産業銀行は、サブプライム住宅ローン問題に絡んだ投資による損失を受けて、政府系金融機関のドイツ復興金融公庫(KfW) から約80億ユーロ(約1兆3000億円)の資金支援を仰ぐこととなった。ザクセン州立銀行(LB)は他の独銀行団から約173億ユーロ(約2兆7000 億円)の資金支援を受けたが、なお危機から抜け出せず、州立銀行最大手バーデン・ヴュルテンべルク州立銀行(LBBW)により買収されることとなった。
    (***)例えば、ロシア・東欧(チェコ、ハンガリー、ポーランド)でみれば06年で米国とほぼ同じ輸出シェア。

図1:米国MBS(住宅ローン担保証券)の海外保有残高(2006年6月末) 図2:ユーロ圏の実質GDP成長率とPMI指数の推移
図3:ドイツ非金融部門の資金調達 図4:実質住宅価格と住宅価格/賃貸料比率の推移(2000-06年平均)
図5:域外輸出の伸びと貿易相手国の寄与度 図6:ユーロの名目実効レートと各通貨の動き

(備考)
  1. OECD、欧州委員会、欧州委員会統計局 (EUROSTAT)、米国財務省、欧州中央銀行(ECB)、ドイツ連邦銀行(ブンデ スバンク)、Bloomberg、Datastreamより作成。
  2. 図1は米国で発行された1年以上の長期企業ABS(long-term corporate asset-baced securities)のうち民間MBSに対する海外保有残高。
  3. 図2の合成PMIは製造業PMIとサービス業PMIを加重平均したもの(ウェイトは非公表)、50を超えると景気の拡大を示し、 GDPと相関が高いと言われている。見通しは×印が欧州委員会、●印がOECDの見通し。欧州委員会見通しは07年3Qが前期比0.6%(4月)から 0.5%(9月)へと、足元の金融資本市場の動揺を受けてやや下方修正された。OECDは同0.6%±0.3%(9月)としている。グラフ上ではこれらを 4乗して掲載。
  4. 図3の内部調達比率は投資全体(=固定投資及び金融投資)に対する内部調達の比率。
  5. 図4の住宅価格/賃貸料比率は、個人が住宅を取得する際のコストと、住宅を借りると仮定した場合に支払う家賃を比較して、住宅保 有にかかる機会費用を計算し、過去の長期的なトレンドと比較することで住宅価格が適正な水準にあるかどうかを判断するもの。
  6. 図6のECB発表のEER12(Effective Exchange Rate)は99-01年時点の貿易ウエイトに基づいて算出されている。構成国とウエイトは、米国(30.91%)、英国(21.48%)、日本 (14.52%)、スイス  (7.08%)、香港 (5.24%)、スウェーデン(5.07%)、韓国(4.84%)、シンガポール(3.45%)、デンマーク(2.72%)、カナダ(2.22%)、ノル ウェー(1.35%)、オーストラリア(1.13%)。足元(06年)で貿易ウエイトが大きくなっているとみられる中国、ロシア、ポーランド、チェコなど は含まれていない。

担当:参事官(経済財政分析-海外担当)室

   鈴木 一成  直通:03-3581-0056

本レポートの内容や意見は執筆者個人のものであり、必ずしも内閣府の見解を示すものではない。

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