今週の指標 No.792 目次   前へ  次へ 2007年3月5日

近年における企業統治の変化と賃金決定行動の関係

<ポイント>

  1.  終身雇用制、メインバンク制や株式持合い等に代表される日本企業の持つ特徴は「日本的経営」と呼ばれているが、近年、そうした「日本的経営」に変化が生じているとの見方がある。その一つとして、企業間や企業と銀行間でみられた安定的な株式持合いが減少していること、また株主が企業に与える影響が高いと思われる機関投資家等(主に外国人株主、年金信託、投資信託等)の株式所有が増加しているといった指摘が挙げられる(図1、2)。  そこで、こうした企業統治の環境変化が、個別企業の賃金決定行動にどのような変化を起こしたかについて検証する。
  2.   具体的には、日経NEEDSから取得できる東証一部上場企業の財務諸表から個別企業のパネルデータを用いて、賃金交渉モデルに基づき実証分析を行った(詳細は備考参照)。先行研究によると、企業の雇用調整速度は、赤字に陥るなど企業の存続が危ぶまれる状況で早くなること、また、内部者(従業員)の影響力が強いと調整速度が遅くなることが知られている。 そこで、検証仮説として、債務を抱えた企業ではその存続が危ぶまれることから賃金抑制度も強くなるのではないか、その際、内部者の影響力が強い企業では賃金抑制は弱く、株主など外部者の影響力が強い企業(機関投資家の持ち株比率が高い企業及び株式の安定保有比率が低い企業)は賃金抑制も強いのではないかと仮定した。
  3.  検証結果(図3)をみると、企業計でみて債務の存在は賃金に対して抑制的な効果を持つ。しかし、株主から影響を受けやすいと考えられる企業とそうでない企業に分けて分析すると、前者の場合のみが賃金に対して抑制的な効果を与えることが分かる。 この結果は、企業経営に対する株主の影響が相対的に強い企業では、債務の高まりが賃金を抑制する一方、株式持合い等によって株主の経営に対する影響が相対的に弱い企業では、従業員の利害が優先され、債務が高まったとしても、賃金がそれほど抑制されないことを示唆している。

図1と図2
図3
備考

担当:参事官(経済財政分析総括担当)付 井上 裕介 直通:03-3581-9516

本レポートの内容や意見は執筆者個人のものであり、内閣府の見解を示すものではない。

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