今週の指標 No.774 目次   前へ  次へ 2006年12月11日

英国:機動的な金融政策運営と今後の見通し

<ポイント>

  1. イングランド銀行(以下「BOE」という。)は、政策金利を2006年8月、11月と2度にわたって0.25%ずつ引き上げ12月は据え置いている(図1)。11月の利上げの背景として金融政策委員会(以下「MPC」という。)議事録では、通貨供給量の高い伸びを背景に、株価や住宅価格が上昇していることから金融政策が依然として緩和的である可能性があるとの認識を示している。マネーサプライの拡大で資産価格に一層の上昇リスクがあり、また、CPIがインフレ目標を上回り続ければ、インフレ期待に反映される恐れがある点も指摘している。
  2. 政策金利の変更については、国や地域毎の景気情勢の違いなどに影響されるとみられるものの、主要国の中で英国の政策金利は比較的早期に動く傾向がある。特に同じ欧州にありながら欧州中央銀行(ECB)との比較では、01年のITバブル崩壊後の利下げ局面や、03年後半からの利上げ局面などでその傾向が顕著になる(図2)。背景としては景気情勢の違いが大きいものの、加えて、(1)インフレーションターゲティングの下、将来のインフレ圧力に対して先行的に措置するなどフォワードルッキングであること(*注1)、(2)MPC(金融政策委員会)における意思決定が委員による単純多数決で行われること(*注2)、(3)議事録の公表やファンチャートなどによって意思決定の根拠と透明性が担保されていること等も影響している可能性があると考えられる。先々も見据えつつ経済情勢の変化に対して機動的に対応する形で金融政策を運営しているとみられる。
  3. BOEが11月に公表したインフレレポートで、原油価格の下落やポンドの増価などを受け、インフレ見通しが8月と比べて若干下方修正された(図1)結果、市場では追加利上げ観測は以前よりやや後退している。先々の金融政策を見る上で注目すべき点のひとつとして、雇用情勢(賃金)がある。短期的には07年初の賃金交渉において、現在高い伸びを示しているRPI(小売物価指数)を反映し、賃金面からのインフレ圧力の顕在化が考えられる(図3)。他方、11月のMPCで据置き票を投じた委員は、労働需給はひっ迫していないことから、今後の賃金上昇は抑制されるとしている。確かにこのところ失業率は上昇し、緩み(slack)がある ことを示しているが、これは移民の流入や高齢者・女性の労働力率の上昇といった供給側の強さによるもので、需要が弱くなっているわけではないことには注意が必要である。BOEのサーベイでは、経済全体の余剰生産能力(spare capacity)自体はこのところひっ迫感がみられる点が報告されている(図4)。
  4. 更なる利上げの可能性については今後発表される指標を吟味する必要があるが、指標以外で興味深い点として、ここ数年のBOEの政策金利の変更は,インフレレポートを公表するタイミング(2、5、8、11月)に併せて行われることが多いこと(表1)、また、英国の有力シンクタンクNIESR(National Institute of Economic and Social Research)の月次GDP報告のプレスリリースにおける政策金利変更の見方が示唆的情報を提供していることが挙げられる。NIESRは市場ではサプライズとなった06年8月の利上げの必要性も事前に指摘しており、11月の利上げの必要性についても指摘していた。先行きについては、「来年初の利上げの必要性は以前ほど強くない。」としている(表2)。

    (*注1)BOEはインフレレポートで先々の物価、成長率見通しをファンチャートによって公表している。例えば、05年8月のように仮に足元でCPIが上昇していても、先々のリスクを総合的に考慮し投票した結果、利下げを行うこともある(図1)。このように世界的な引き締め局面にあっても必要に応じて利下げを行う点も機動的と考えられる。
    (*注2)ECBも投票による多数決であるが、賛否の結果は公表されず、トリシェECB総裁は会合後の記者会見で「満場一致での決定」であると述べている。

図1:BOEによる英国の政策金利とCPI(実績・見通し)の推移 図2:主要国(地域)の政策金利の推移 図3:年初の賃金交渉の結果と前年末のRPI、CPIの推移 図4:失業率、労働力率、企業の稼動状況サーベイの推移 表1:政策金利の変更とインフレレポートの公表月 表2:NIESRの月次GDP報告プレスリリースと政策金利
(備考) イングランド銀行(BOE)、英国統計局、NIESRより作成

担当:参事官(経済財政分析-海外担当)室

   櫻又 正士  直通:03-3581-0056
   鈴木 一成  直通:03-3581-0056

本レポートの内容や意見は執筆者個人のものであり、必ずしも内閣府の見解を示すものではない。

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