今週の指標 No.636 目次   前へ 次へ 2005年6月27日


EU憲法:フランス、オランダ国民投票否決の背景とその影響


<ポイント>
  1. EUの組織や意志決定方式の効率化等を目指したEU憲法(注)批准の賛否を問う国民投票が、5月29日にフランスで、6月1日にオランダで実施され、共に反対多数の結果となった(フランス投票率69.37%、賛成45.33%、反対54.67%、オランダ投票率63.2%賛成38.5%、反対61.5%)。EUの前身である欧州共同体(EC、1967年発足)の発足当初からの加盟国であり、欧州統合のけん引役となっていた両国がEU憲法を当初の予想よりも大差で否決したことは、欧州統合の流れに衝撃を与えた。
  2. 欧州委員会がフランス、オランダに対して行ったアンケート調査(表1)の回答をみると、今回の両国の否決は、憲法の内容自体を吟味した上での拒否というより、むしろ、国内経済不振に対する政府への不満や、EU統合の推進から起こる不安が国民投票によって露呈されたと言える。フランスでは高失業率が続くなか、政府への不満が強まっており、オランダでも、2001年から景気低迷が続くなか失業率も急速に上昇している(図2)。また、リスボン戦略で掲げられた域内サービス市場統合や労働市場の自由化など、EUが進めてきた自由主義経済・競争の促進により、自国の政策の独自性が失われることへの不安が否決につながったと思われる。EU拡大により、労働コストがEU旧加盟国と新規加盟国の平均で約4倍の格差があるなかで(図3)、新規加盟国への生産拠点の移転による産業空洞化の懸念や、新規加盟国からの低賃金労働者流入増加の懸念に伴う雇用不安も否決の背景として考えられる。
  3. フランス、オランダの国民投票否決の結果を受け、6月6日には英国が批准手続きの凍結を発表した。加盟国の首脳が集まり6月16、17日に開かれた欧州理事会において、批准期限を当初の2006年10月末から延期し、2006年前半に批准手続きの再協議等を行うことが合意された。この批准期限延期の決定を受けて、国民投票を予定していた国の多くは延期を発表し、議会承認を予定していた国のなかでも批准手続きの延期等を発表する国が出てきた(表4)。一方で、2005年上半期のEU議長国であるルクセンブルグについては予定通り7月10日に国民投票を実施することが議会で決定され、投票結果が注目される。
  4. EU憲法の批准期限延期の決定をめぐる一連の出来事は、今後の欧州統合の流れにも影響を与えると考えられる。域内市場統合を推進する過程で、各国の調整が難航し統合が遅れる可能性がある。EU拡大については、候補国の加盟時期が遅れる可能性がある。さらに、統合の遅れが欧州経済全体の信頼感の悪化を通じて、ユーロに対する減価圧力や、中期的には海外からの対内直接投資の抑制要因として作用することも懸念される。

    (注)460条以上からなるEU憲法条約は、2004年10月に調印が行われ、 2006年11月1日の発効を予定していた。発効にはEU加盟25か国全ての批准が必要となっている。EU憲法の主な内容としては、(1)EUの対外的な 顔となる「EU大統領」「EU外務大臣」の創設、(2)閣僚理事会の議決方法に関して特定多数決分野の拡大など意思決定の効率化、(3)欧州議会の権利の 強化、などが挙げられる。



表1 フランス、オランダ国民投票:EU憲法批准に反対と答えた理由

図2 フランス、オランダのGDP成長率、失業率

図3 EU加盟国における時間当たり労働コスト(2002年)

図4 EU憲法条約批准手続きの進捗状況(6月23日現在)


担当:参事官(海外担当)付 金沢 早智子  直通03-3581-0056

* 本レポートの内容や意見は執筆者個人のものであり、内閣府の見解を示すものではない。


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