今週の指標 No.307 目次   前へ 次へ 2001年12月17日

企業決算に大きな影響を与えた退職給付会計


<ポイント>
  1. 企業は平成11年度決算から順次導入されている「連結会計」「時価会計」「退職給付会計(注1)」といった新会計基準への適用を迫られている。財務省「法人企業統計」によると、平成12年度の特別損失は、退職給付債務の処理費用や事業再編に要する費用等で、経常利益にほぼ匹敵する33.7兆円に達した。この特別損失を埋めるため、企業は含み益を持つ有価証券や固定資産、事業等を売却して18.5兆円の特別利益を計上し、処理を進めている(図1)。
  2. 特に退職給付会計が企業決算に与えた影響は大きく、退職給付会計の導入がないと仮定した場合、平成12年度8.4兆円であった当期利益は、16.0兆円であった計算となる(図2、注2)。その規模別内訳をみると、この会計は主に上場企業を対象としたものであることから、資本金10億円以上の大企業中心となっている(図3、注3)。
  3. 退職給付債務は最長15年間での分割計上が認められているが、財務内容への市場の評価もあり、企業は前倒しで処理を進めている。決算への影響は峠を越したと見られるが(注4)、保有株式の現物出資で処理をしている企業も多く、株式市場の低迷や年金資産運用環境の悪化が続けば、さらなる追加負担が必要となる可能性もある。

図1.多額の特別損失

図2.退職給付会計の影響図3.規模別退職給付費用

担当:参事官(景気判断・政策分析総括担当)付 光谷 健 直通 03-3581-0806


(注)

  1. 退職給付会計とは、退職給付に係る包括的な基準。これまでの企業会計では、将来支払う退職金や年金を正式な債務として認識していなかったが、平成12年度決算から従来の社内での引当と社外(外部)の積立を包括的に考え、退職給付に係る債務としての総額から、既に資金確保されている部分(社外積立の中の年金資産(時価ベース))を差し引いた額を負債として貸借対照表へ計上することとなった。債務の総額は、退職時に見込まれる退職給付見込額を、過去の市中金利等を勘案した一定の割引率で現在価値に割引計算して計上する。
  2. 財務省「会計基準等の変更に伴う法人企業統計記入内容変更状況調査」によると、平成11年度、12年度に退職給付会計を導入した企業は計52,593社。当期利益への影響としては、会計基準を変更時の差異分(導入年度の退職給付費用−前年度の退職給付費用)の金額が当期利益を押し下げたとして計算した。例えば、平成12年度に導入した企業の退職給付費用は、退職給付引当金増加額約6.8兆円+外部拠出金約5.8兆円の計約12.6兆円であり、前年度の退職給付費用約5.0兆円との差額約7.6兆円が税引前当期利益を押し下げる。ただし、退職給付債務の処理費用を計上する必要がなければ、そもそも資産売却等による特別利益を計上しなかった可能性もあり、この試算は影響の最大値を示している。
  3. 平成11年度、12年度分の退職給付費用のうち、資本金10億円以上の企業の割合は72%に達するが、これは資本金10億円以上の企業の売上高に占める割合(約37%)や当期利益に占める割合(約45%)と比較しても明らかに高い。
  4. 3月決算の企業の場合、12年9月までに保有有価証券を拠出して退職給付信託を設定すれば、その額だけ年金資産が増えることにより退職給付債務の損失を圧縮できることも、企業が債務処理を前倒しで進めたことに影響していると思われる。


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