平成9年

年次世界経済報告

金融制度改革が促進する世界経済の活性化

平成9年11月28日

経済企画庁


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第2章 金融制度の改革


第2章のポイント

【改革の要因と概要】

・世界的に,金融制度についての競争制限的な規制は緩和されているが,信用秩序維持のための規制は強化されている。

【業態間競争の激化 業務分野規制の撤廃】

・各国とも経営の健全性維持と利益相反問題発生防止のため,業務分野規制が課せられていたが,その効果には幾つかの疑問点が存在していた。

・国際競争激化と証券化進展の中で,アメリカでは,実質的に垣根が消失しつつあり,「範囲の経済」を重視して規制の見直しが進展中である。

・また,この規制がないドイツでも,ユニバーサルバンクによってもたらされる危険性は,特に確認できない。

【制度間競争によって進展する各国金融市場改革】

・世界の資本は効率性の高い市場を求めて自由に移動し始めている。金融市場間の競争によって,一国の金融制度改革は他国に波及している。

・イギリスでは他の欧州諸国に先駆け,86年にビッグ・バンを実施し,国内における金融産業の重要性が高まった。また,ドイツ,フランスなどの大陸欧州諸国もイギリスを追って金融市場改革を行っている。

・アジアでは,香港,シンガポールが国際金融市場として発展している。

【公的貯蓄制度の動向】

・金融制度改革の流れの中で,公的貯蓄制度も商品の多様化などサービスの拡充を図っている。なお,ドイツ,フランス,イタリアの郵便貯金は,公社化あるいは株式会社化されている。

【金融の自由化と金融政策】

・金融自由化が進む中,名目GDPとマネーサプライとの関係は国,時期により不安定化している。ドイツの中央銀行などでは,ルールによる金融政策が採用されており,インフレ率を低下させるために重要なのは,どのような金融政策を行ってきたかであると考えられる。


金融市場のグローバル化が進展している。為替取引の規制緩和が進んだ結果,資金は国境を越えて移動し,最も利便性の高い市場へ集中するようになっている。そのため欧米主要国などにおいては,利便性の高い金融市場への改革に向け,金融システムに対する規制緩和・自由化を進めている。

各国の金融システムは,その国の歴史や経済構造などの相違によりそれぞれ異なった特徴を有しており,多くの国において,①預金金利,②業務分野,③資本移動等についての規制が課せられてきた。しかし,各国とも経済・金融環境の変化に伴い,金融システムの規制緩和・自由化を進めている。特に,70年代から80年代にかけては,資本取引の国際化の進展,機関投資家の成長,通信・情報処理手段の発達に伴う金融技術革新などから,各国の金融システムの規制緩和・自由化が一段と進んだ。90年代に入ってからも,自由化の動きは加速している。

本章においては,第1節で,欧米主要国を中心とした各国の金融システムの改革について概観した後,金融システムと規制の関係について述べ,なぜ各国で金融システムの規制緩和・自由化が進展してきたのかについて考える。第2節では,銀行・証券の業務分野規制に注目し,制度上,銀行・証券を分離しているアメリカと,銀行が証券業を兼営できるユニバーサル・バンク制度をもつドイツを取り上げ,①アメリカにおける業務分野規制撤廃の動きと,②ドイツにおけるユニバーサル・バンク制度をめぐる利益相反問題や資本市場の発達との関係について整理する。第3節では,①イギリスのビッグ・バン,②ドイツ,フランス及び,③香港,シンガポールの金融システム改革の状況について考察し,金融市場がより国際化してきている中で,各国が自国の金融市場をより利便性の高いものにするために,どのような制度改革を行っているのかについてみる。第4節では,金融自由化の中で商品の多様化などサービスの拡充を図る主要国での公的貯蓄制度の動き郵便貯金制度の動向をみる。第5節では,金融自由化が進む中での金融政策のありかたについて考察するため,①マネーサプライと名目GDPの関係,②インフレ率を目標とした金融政策をめぐる論点,③金融政策と最適な中央銀行制度についてみる。


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