平成8年

年次世界経済報告

構造改革がもたらす活力ある経済

平成8年12月13日

経済企画庁


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第1章 世界経済の現況

第1節 拡大基調が続く世界経済

(96年には先進国,途上国とも拡大テンポは再び加速)

世界経済は,95年には先進国,途上国とも前年の拡大テンポからやや鈍化したが,96年に入り,先進国,途上国とも拡大テンポは再び加速するものとみられ,全体として拡大基調が続いている(第1-1-1表)。

世界全体の実質GDP成長率(IMF統計,以下同じ)は94年の3.7%から95年には3.5%へとやや鈍化した。95年の成長率が鈍化したのは,ロシア等市場経済移行国のマイナス成長幅が縮小したものの,アメリカを中心とした先進国,中南米を中心とした途上国がそれぞれ減速したためである。

96年の世界の実質GDP成長率は,アメリカや日本での成長率の高まりにより先進国で緩やかな拡大が続き,中南米の景気回復から途上国で加速し,市場経済移行国においても若干のプラス成長に転じる見込みであることから,3.8%と拡大テンポが加速する見込みとされている。

(先進国経済:96年も緩やかな拡大続く)

先進国の成長率は,95年2.1%のあと,アメリカや日本での成長率の高まりなどから96年には2.3%とやや加速する見込みとされている(第1-1-2図①)。

アメリカ経済は,95年初に急速に鈍化した後,年央に個人消費中心に回復に転じ,95年末から96年初めにかけて景気は,北東部の豪雪など一時的要因により再び減速した。その後,在庫調整の終了や個人消費の堅調な拡大によって,景気は拡大に転している。失業率は,堅調な雇用拡大を背景に,95年以降おおむね5%台半ばの低水準で推移しているが,物価は,おおむね安定している。

西ヨーロッパ経済は,95年に欧州通貨相場の大幅な変動による先行きの不透明さなどを背景として域内需要が鈍化したため,景気は年後半において大幅に滅速した。96年初は,ドイツ・フランスを中心に景気の足踏みが続き,春以降,ドイツなどでは景気は緩やかに改善したが,フランスの景気に改善の兆しがみられないことなどから,96年全体の成長率は低い水準にとどまる見込みである。失業率は,94年春をピークとして95年秋まで低下したが,その後景気の減速から再び上昇している(第1-1-2図③)。

その他先進国では,カナダ経済は95年年初から緩やかに回復している。オーストラリア経済は,96年に入り拡大テンポは鈍化している。日本は,95年に急激な円高や阪神・淡路大震災等の外的ショックが重なり景気回復に足踏みがみられたが,95年末以降景気に明るい動きがみられるようになり,このところ回復の動きが続いている。ただし,足元,そのテンポは緩やかである。

(途上国経済:96年に拡大テンポは加速)

途上国は,94年の6.6%の成長の後,95年はアジアでは中国を中心として,中南米ではメキシコを中心としてそれぞれ減速したため,全体で5.9%へと鈍化した(第1-1-3図①)が,96年はアジア等でやや減速するものの,中南米で回復するため6.3%と6%台の成長へ回復する見込みである。

アジアは,95年にアジアNIEs,東南アジアでやや成長率が高まったものの中国で減速したため全体で鈍化したが,96年には各地域とも輸出の伸びの鈍化が著しく,拡大テンポは鈍化する見込みである。中南米は,94年末に通貨危機のあったメキシコ及びこの影響を最も強く受けたアルゼンチンのマイナス成長により大幅に減速したが,96年には回復する見込みである。物価は,アジアで96年は上昇率が低下するとみられ比較的安定している。中南米では,おおむね低下傾向にあるもののその水準は高い(第1-1-3図②)。経常収支は各国ともおおむね大幅な赤字となっている。

(市場経済移行国経済:全体ではプラス成長へ)

市場経済移行国の経済は,95年には中・東ヨーロッパ諸国でそれまでのマイナス成長からプラス成長に転じたこと,ロシアにおいてもマイナス成長の幅が縮小したことなどから(前掲第1-1-3図①),全体としてマイナス幅が犬幅に縮小した。96年には中・東ヨーロッパ諸国などの成長率が加速する見込みであることから,全体として,わずかではあるがプラス成長に転じる見込みである。

ロシアでは,物価上昇率は,緊縮財政などにより,高水準ながらも低下してきている。中・東ヨーロッパでは,94年にプラスに転じたGDP成長率がさらに拡大し,生産も増加するなど景気は順調に拡大している。物価上昇率は依然高水準ながらおおむね低下してきている。貿易収支,経常収支の赤字幅は拡大している。

(鈍化するも高い伸びの世界貿易)

世界貿易量は,95年には先進国の輸出入が鈍化したものの,途上国の活発な動きから94年に引き続き8.9%増(実質,以下同じ)と,ここ数年来では極めて高い水準の伸びを維持した。特に途上国では輸出が94年の11.1%増から95年の11.5%増へと僅かの伸びであったが,輸入が8.1%増から11.6%増へと伸びを高めた。96年の世界貿易量は,途上国では緩やかな鈍化となるが,先進国ではかなり鈍化するとみられ,全体では6.7%増と95年に比べ鈍化する見込みである。

貿易財価格の動きをみると,91年以降低下が続いていた原油価格が95年には上昇に転じ8.0%の上昇となった。一方,94年に13.6%と大幅に上昇した非原油一次産品価格はやや鈍化し,95年8.2%の上昇となった(IMF見通しでは96年前年比0.7%増)。工業品価格(ドル建)は,94年の3.3%の小幅上昇の後,ペソ危機に起因するドル安から95年には11.2%の大幅上昇となった(IMF見通しでは96年前年比2.8%減)。

95年1月設立された世界貿易機関(WTO)では,地域協定等に関し総合的な検討が行われる旨,合意された。また,アジア太平洋経済協力(APEC)では,95年11月のAPEC大阪会議で「行動指針」が採択され,貿易の自由化・円滑化に向け,「ヴィジョン」から「行動」の段階へ移行することとなった。96年11月下旬には,APECフィリピン会合が開催され,APEC各メンバーより,貿易・投資の自由化,円滑化についての行動計画が提出された。


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