平成8年

年次世界経済報告

構造改革がもたらす活力ある経済

平成8年12月13日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

はじめに

世界経済は,95年には景気の拡大テンポはやや鈍化したものの,96年には,先進国でやや加速するとみられ,途上国でも全体として加速することから,世界全体として拡大基調は幾分強まるものとみられる。

アメリカ経済は,96年は景気拡大が6年目に入ったが,年後半も安定的に拡大している。また,西ヨーロッパ経済は96年後半,ドイツなど一部の国で緩やかに改善し,基調は明るくなるとみられる。また,数年来高成長の続いたアジア諸国では,東アジアで景気の減速がみられるが,総じて拡大している。低迷続くロシアではインフレの沈静化が進み,マクロ経済安定化の兆しがみられる。また,通貨危機から停滞していた中南米経済は96年に入り回復している。

本白書では,こうした状況の下で進められている大陸欧州などの公的部門の活動における効率化を求める動きと,アメリカの労働市場の特徴とに焦点を当てている。大陸欧州での社会保障制度の改革などの市場メカニズムの活用の動きは,通貨統合への条件整備にとどまらず,高齢化を視野に入れた財政バランスの回復への取組といえる。市場重視の社会保障制度などの改革は,労働市場に大きな影響を持つ。技術進歩などが急速に進展し労働需要が高技術者へとシフトする中,失業の回避には制度改革による伸縮的な労働市場の創出が不可欠である。伸縮的な労働市場により,アメリカ経済にみられるように,雇用の拡大がもたらされるが,同時に賃金格差の拡大が生じる可能性が高い。アメリカ労働市場を検討することは,欧州の改革の影響ばかりでなく,経済構造改革を進めていく日本経済の将来を考える上でも重要である。

このような観点から,第1章「世界経済の現況」では,アメリカ,ヨーロッパ,アジアなどの世界主要国の経済動向の特徴を明らかにする。第2章「公的部門の役割の見直し」では,ドイツなど大陸欧州諸国で取り組まれている財政赤字削減の動きを,市場メカニズムの活用,高齢化を睨んだ年金財政の見直しなどの観点から整理する。また,第3章「アメリカ労働市場のダイナミズム」では,アメリカでの賃金格差拡大を主として取り上げ,その要因を分析する。

また,失業保障制度など各国における法・制度の違いも検討する。


[目次] [年次リスト]