平成5年

年次世界経済報告

構造変革に挑戦する世界経済

平成5年12月10日

経済企画庁


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―本  文―

はじめに

世界経済は,92年になってやや上向いたものの,力強い成長の兆しはまだみられない。しかし地域別には明暗分かれる展開となっている。東アジア等発展途上国経済が総じて堅調なのに対し,先進国経済の動きは弱い。

先進国経済は以下のような調整過程に直面している。

①まず,80年代央以降の好景気のあとを受けた景気調整が長引いている。金融環境の変化等を背景としたバブル,EC市場統合牛ドイツ統一に伴うブームの後遺症は大きかった。アメリカ経済の拡大テンポが過去と比べ遅い一方,西欧経済の低迷が顕著であり,日本の景気回復も足踏み状態にある。各国は総じて財政赤字が大きく,裁量的な刺激策を採る余地は小さい。

②次に,冷戦終結は,いずれは「平和の配当」をもたらすにしても,当面世界経済にデフレ的に作用している。ロシア,東欧等旧共産圏諸国の市場経済への移行は予想以上に困難なものとなっており,先進国の支援が引き続き必要である。一方,国防支出の削滅がアメリカ経済の成長を当面抑えている。前述したドイツ統一に伴うブームの反動は冷戦終結の影響の一つといえよう。

③また,先進国は大幅な財政赤字,高失業,生産性の伸び悩み,拡大する所得格差等の構造問題を過去から引きずっている。これらの構造問題が景気回復への足かせともならている。このため構造問題の解決に向けて,各国政府は,財政赤字の削減,雇用政策,社会保障制度の見直しや各種規制の撤廃,教育・訓練の重視等,経済の「変革」に取り組み,企業はリストラクチャリングを実施している。これらの構造調整は,当面経済にデフレ的に働くが,中長期的に持続可能な成長を確保するためにも不可欠な対応である。例えば,財政赤字の削減は金利低下をもたらし,世界経済の成長に資するであろう。

目を世界経済全体の趨勢に転じると,GATT,IMF体制の下で経済活動のグローバル化が急速に進み,①企業の世界展開,②先端技術産業の貿易の拡大,③アメリカ,EC,アジアという3極へのグループ化という構造変化がダイナミックに起こっている。東アジアはこの潮流にうまく乗って,今や成長センターとして脚光を浴びている。東アジアの台頭は,日本の先進国化に続く,自由無差別で多角的な貿易体制が生んだ成功物語であり,他の発展途上国や市場経済移行国に希望を抱かせる変化である。中南米経済も経済改革により90年代に入り好転しており,一部の市場経済移行国の中にも最近明るい動きがみられ始めている。他方,グローバル化,後発国からの追い上げというダイナミックな変化と挑戦に直面し,先進国経済は新たな構造調整を迫られている。こうした中,貿易は共存共栄の営みであり,経済の効率化,成長に資するものであるのに,高失業を背景として,保護貿易主義,特に先端技術産業をめぐる保護貿易主義の動きが活発化し,自由で多角的な貿易体制が脅されている。

本年度世界経済白書では,このような構造変化や調整に直面している世界経済を分析し,その安定と成長のために必要な課題を探ることとする。以上のような問題意識から,第1章では,明暗分かれる世界の景気の現状について,欧米,東アジアを中心にその要因,特徴を明らかにする。第2章では,欧米諸国の経済活性化策,市場経済移行国,中南米諸国の政策努力等につき点検し,特に構造面の課題を分析する。第3章では,世界経済の構造変化をもたらしたグローバルな経済活動の展開と東アジアの経済発展をみたあと,戦略的貿易政策の背景を探りつつその限界や危険性を指摘し,最後にGATTの新たな課題を示唆する。


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