平成3年

年次世界経済報告 資料編

経済企画庁


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II 1990~91年の主要国の政策動向

第11章 中  国

1. 財政政策

中国では財政赤字の拡大が問題となっている。91年も大水害の影響から援助金の増加,企業税収の鈍化等が見込まれ,赤字悪化が進むとみられている。このため,政府は国債の増発を実施する一方,赤字拡大の構造的な原因の一つとなっている国営企業の改革にも積極的に取り組む姿勢をみせている。

(1)財政状況

90年は,歳入が生産・消費の回復から予算を超過達成したものの,歳出が,補助金増,国債償還の急増等から歳入の伸びを上回り,赤字は139億元へと拡大した。中国の財政統計では,国内外の債務収入が歳入に含まれているため,これらを除いた実質的な赤字は更に大きく,5151億元(約108億ドル)に達する。

中国の財政収支

91年の予算では,歳入は国営企業からの政府上納金等が伸び悩むとの見方から,前年比3.8%増の3,438億元とし,一方歳出を価格調整による価格差補助金の減少,行政機関の管理費圧縮,国営企業への赤字補填金の縮小等により,前年比3.4%増の3,571億元にとどめ,赤字幅を前年比6億減の134億元にすると見込んでいる。

しかし,91年4月初,国務院は当初決定した91年の予算の赤字額を修正し,歳入を5億元増額,歳出を5億元抑制することで10億元削減し,123億元とすることを決定した。

4月の全人代での「91年度予算の報告」の中では,91年予算の増収,支出抑制のための措置として, 以下の項目を挙げている。

91年上半期の財政状況は,歳入が1,317億元,歳出が1,287億元で,30億元の黒字収支となり,前年同期より良好な数字となった。しかし,政府は以下の幾つかの問題点から,下半期においても,引き続き財政緊縮を続ける必要があるとの見方を示した。

(2)複式予算制度の導入

中国では,「国家予算管理条例」(92年1月実施)に基づき,92年がら予算を複式制へ移行することとなった。新制度下では,歳入・歳出がその性格により「経常的予算」,「建設的予算」とに分けられる。予算編成の際は「経常的予算」が優先され,まず「経常的予算」を組んだ後で,その剰余分が「建設的予算」に回される。「建設的予算」の枠内で不足が生じた場合には,一定額の債券発行,借入により補填することができる。

(3)国債の増発と証券市場の整備

① 国債の増発

91年4月,全国国債工作会議で,91年は国債100億元,特別国債120億元を発行するとの表明が出された。

8月,人民建設銀行,工商銀行がら100億元の国債が追加的に共同発行された。100億元の内,80億元は基本建設投資へ,20億元は技術改造資金に充てられる。これらの資金は,ア.操業したが工事代金を滞納している事業(経済効率が良く,返済能力が高いことが前提),イ.年内,または1,2年内に操業開始する事業,ウ.緊急に必要な商品の継続建設,融資のための事業等に優先的に投入されることとなっている。

② 証券市場の整備

今後の資金調達策として債券市場の整備が進められている。債券の発行形式も従来の半強制的な引受から,市場での売買による引受への移行を目指し,今年は実験的に市場での引受を行うと同時に都市における国債流通市場の開設を進めている。

4月20日には,国内の58金融機関が「91年国債募集引受団」を結成し,国債のうち25億元を引き受けることを正式に契約した。また,5月下旬からは,深セン市で国債発行が全面的に市場化されている。これにより,深セン市の財政局および,中国銀行,工商銀行,農業銀行,交通銀行の各深セン支店等が国債を引受け,市民に対して販売が開始されることとなった。


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