平成3年

年次世界経済報告 資料編

経済企画庁


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II 1990~91年の主要国の政策動向

第9章 韓  国

2. 金融政策

韓国では,80年代に入って,輸出主導の工業化の成功により経済が急速に発展し,先進国段階に接近するようになった。このため,経済の自由化・国際化が強く求められるようになった。とりわけ,金融の自由化・国際化は,貿易摩擦の緩和や経済構造調整促進の見地から焦眉の問題となっている。

また,マクロ金融政策面では,80年代初まで激しいインフレにみまわれ,困難な経済運営を強いられた苦い経験から,インフレを悪化させないような慎重な政策スタンスが採られている。通貨供給管理においては,総通貨(M2)供給量の伸びを,91年には前年水準に比べ17~19%程度と名目GNP成長率を大きく超えない範囲に抑制する方向で管理しでいる。

(1)80年代以降の金融自由化・国際化の進展

① 金融市場自由化のアプローチ

韓国政府は,金融市場の自由化に向けて,80年代に入ると大雑把にいって3段階のアプローチをとってきた。第1は,都市銀行の民営化と並んで,市場参入規制を漸次撤廃することで,金融市場に競争的な要素の導入を図ってきたことである。第2は,銀行の内部経営に対する政府介入の相当部分を撤廃するとともに,商業銀行の業務領域を拡大して,金融の自主性を高め,経営効率を高める余地を広げてきたことである。第3は,金利が市場の需給関係で決定できるようにすることで,金融市場を市場の影響下に置くことに努力したことである。

② 参入規制の緩和

80年代前半に,国営都市銀行の民営化と並んで新規の都市銀行の設立を認可した。また,政府は,多くの非銀行金融機関の設立の障害になる諸規定・通牒を廃止した。こうした動きの目指すところは,種々の金融機関相互の競争促進と多様化著しい国民大衆の資金ニーズを充足させることにあった。80年代後半にも新規の都市銀行,地方銀行の設立が認可された。

③ 銀行活動の規制緩和

商業銀行の内部経営事項や営業活動に対する自立性を与えるため,1982年末に「銀行法」が改正された。1985年以降,政府の銀行監督の重点は,銀行機関の経営の自立性強化,銀行活動の健全性の向上に置かれるようになった。一層の自立的経営を培うため,銀行監督院は商業銀行に対して過去に出された自立を阻害するような通牒の相当部分を見直したり,廃止した。これに伴い,銀行の業容拡大も目立つようになり,銀行は子会社形式で非銀行金融機関や証券会社を保有するようになった。更に,商業銀行の配当設定の自由度も高められ,支店開設規制もかなり緩和されるようになっている。

④ 金利規制の緩和

1986年は経常収支が黒字に転化したことが,金融自由化,国際化を追求していく上で大きな転換点になったとも言える。1988年12月には,「金利自由化および通貨信用政策運営方式改変計画」が発表され,金融の効率化促進,金融業の発展と国際化のための基盤拡大を目指して,銀行や非銀行金融機関の金利規制の緩和が実施された。これにより,ほとんど全ての貸出金利と2年以上の長期預金金利の自由化が一旦,実施に移された。しかし,この措置により金利が急速に上昇し,金融コストの拡大等,種々の副作用が発生するに及んで,金融当局が金利引き下げの方向で窓口指導に乗り出すことによって,この自由化措置は89年央頃には事実上撤回されることとなった。

⑤ 為替管理の自由化

韓国政府は,70年代以降,経済発展の成熟度合いをみながら,外国為替管理を段階的に緩めてきた。今日,貿易取引や貿易外取引に絡む外貨取引はほとんど自由化されている。海外旅行支払い等を含む貿易外取引の自由化についても,最近の経常収支の悪化を受けて為替管理規則をより厳格に運用することで多少の後退はみられるものの,基本的には自由化に近づきつつある。外国為替の集中管理制度も自由化の方向で改められつつある。こうした動きが目立つようになったのは,経常収支が恒常的な赤字を脱して,黒字に転化した86年以降のことである。特に,1988年11月,韓国がIMF8条国に移行したことは象徴的な出来事であった(i)外国為替取引において経常支払いに対する資金移動制限を撤廃する(8条2項),ii)差別的通貨協定への加入禁止(2項),iii)外国が保有する自国通貨に兌換性を付与する(4項)等の義務を遵守することを受け入れた〕。

⑥ フロート制への段階的移行

為替レート制度に関しては,80年2月より10年間実施されてきた複数通貨バスケット制を廃止して,90年3月から市場の意向をより多く取り入れられるようにした「市場平均為替レート制」を採用している。これは,対韓貿易赤字に悩むアメリカの「韓国は不透明な為替レート制度に基づき自国通貨を恣意的に切り下げて輸出の拡大に努めている」との非難を受けて,貿易摩擦が激化することを避ける目的も一面ではあったとみられる。しかし,基本的には,為替制度をフロート制に近づけることで韓国経済と世界経済との連携関係を強め,経済構造調整の推進や競争力強化に資するとの積極的な判断が働いているものと考えられる。

市場平均為替レート制では,ウォンの対ドル・レートについては,前日の銀行間取引レートの加重平均値を当日の基準値として韓国銀行が公示し,この基準値に対して上下0.4%の範囲内で各銀行は自由に対顧客電信売買レートを設定できるようにしている。ただし,マルクや円等に対するレートは,ウォンの対ドル市場平均レートを基準に,国際通貨市場で形成されたドルとそれぞれの通貨とのレートを勘案して自動的に決定される。この市場平均為替レート制はフロート制へ移行する中間段階として設けられた制度と受けとめられており,国際金融市場や外国為替市場での諸条件が整うとみられる1992年以降は,完全フロート制へ移行する計画といわれる。

⑦ 資本市場の自由化・国際化

韓国では1981年に「資本自由化推進計画」が公表され,資本市場の国際化の青写真が初めて明らかにされた(第6表)。これにより,第1段階として,幾つかの国際投資信託ファンド(コリア・ファンド,コリア・ユーロ・ファンド等)が設定され,また,82年から外国証券会社の事務所設立が認められた。85年からは,払い込み資本金総額の10%以内であれば韓国への証券会社への資本参加が認められた(89年には,この比率は40%まで高められている)。更に,第2段階として,85年11月には,国内企業の資金調達と関連して,韓国企業が外国人投資家向けにエクイティ関連証券を発行することが認められている。

1988年12月には,81年の「自由化計画」に沿う形で,政府は「資本市場国際化の段階的拡大推進計画」を発表した(第7表)。同計画によれば,90年には新規ファンドの設定により外国人の間接的な投資粋を広げる。91年からは外国証券会社の支店や合弁証券会社の設立を相互主義に基づき許可し,外国人投資家に対しては国際投資会社ファンドへのアクセスを一層拡大する。更に,92年以降は,外国人に対し,国内証券への直接投資を認める内容となっている。

こうした計画と並んで,90年7月,政府は外国人の直接投資を大幅に自由化する方針を打ち出した。これに基づき,90年末には外資導入法が改正され,91年に入って段階的に外国人直接投資を許可制から申告制に切り換えるなど,市場開放措置が進んでいる。

(2)91年以降の金融自由化・国際化

① 金融市場開放措置の発表

政府は91年5月24日,金融市場の大幅開放措置を発表した。これによると,6月1日から外国銀行も国内銀行と同様の基準と手続きにより,複数の支店を,設置できるようにする他,同措置には多岐にわたる内容が盛り込まれている。

主なものは,

等となっている。

② 金利自由化長期計画

(ア)自由化計画公表

韓国政府は,91年8月23日の金融産業発展審議会に金利自由化を段階的に行う「金利自由化長期計画」を提出した(第8表)。これによると,91年下半期から7~8年間の長期間にわたり,4段階に分けて,金利自由化を実施する。

この計画は,自由化の段階別,対象別に多少差はあるものの,基本的には3つの方向に要約できる。まず,第1は,受信金利(金融機関からみて)よりは与信金利(同)を優先的に自由化する。第2は,長期・高額から短期・小額へと自由化を推進する。第3に,譲渡性預金証書・債券のように流通市場商品を優先的に自由化し,発行市場と流通市場の収益率の格差を縮小することを目指している。

(イ)金利自由化第1段階の実施

上記「自由化計画」に基づき,91年11月21日,金利自由化計画の第1段階が実施に移された。その詳細は,第9表の通り。

③ 為替管理制度の改善措置

政府は,91年8月31日,対外取引円滑化のための外国為替管理制度改善措置を決定し,翌9月1日より実施した。この措置の主なものは,

    a)90年3月より実施の「市場平均為替レート制」の中で,ウォンの対ドル・レートに関し,各銀行の対顧客レートは前日の銀行間取引レートの加重平均値を当日の基準値として韓国銀行が公示し,この基準値に対して上下0.4%の範囲内で自由に設定できるとしていたのを,上下0.6%まで変動幅を拡大する,

    b)経常的な取引に係る為替規制の一層の緩和及びウォン貨による表示の全面的な許容,

    c)中小企業の小額輸出取引への貸出限度規制を緩和する,

    d)海外で使用するクレジット・カードに対する貸出限度の事後管理を強化する(豪華・奢侈性の海外旅行の風潮蔓延により,旅行収支が悪化していると言われ,これに対応したもの),

などがある。

④ 資本市場自由化措置

(ア)外国人に対する韓国株式市場の部分開放措置

政府は,91年9月3日,「株式市場開放推進方案」を決定し,92年初より国内株式市場を外国人に開放すると発表した。この開放措置は,88年末に発表された「資本市場国際化の段階的拡大推進計画」に沿うものである。ただし,一定の制限が設けられている。これは,現在の金利,国際収支,物価等,韓国経済が置かれている諸条件が全面的な株式開放を行うには不充分であるとの認識が働いたものとみられる。

92年1月3日から実施する株式市場開放措置では,

    a)銘柄別に外国人全体の株式取得限度を発行済み株式総数の10%とする,

    b)銘柄別に外国人1人当たりの取得限度を3%とする,

    c)公共企業(運輸,鉱業,ガス,通信,金融業等)に関しては,外国人全体

の株式取得限度は8%に制限される,となっている。

(但し,91年12月の韓国証券管理委員会の発表によれば,海外で外国人投資家向けにエクイティ関連証券を発行している企業,もしくは外国との合弁企業の大半は既に10%の制限枠を超えているため,株式保有枠を10%から25%に拡大するとしている)

(イ)海外発行証券からの転換株式売却代金の国内証券再投資許容

また,91年9月10日こは,韓国企業が海外で発行したエクイティ関連証券を株式に転換して保有する外国人と海外永住同胞が,これを韓国内で販売して得た資金で全ての韓国内の上場株式(個別法令で投資制限を行う場合は除外)に再投資できるという内容の「転換株式代金の再投資許容方案」を決定し,10月1日から実施した。これは,前述の株式市場開放措置に対する予備的措置とも言える。但し,この措置では外国人全体の株式保有は上場企業の発行済株式総数の5%以内,外国人1人当たりの投資限度は2%以内に制限されるとともに,再投資財源は売却により取得したウォン資金に限定されている。


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