平成3年

年次世界経済報告 資料編

経済企画庁


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II 1990~91年の主要国の政策動向

第8章 東  欧

4. ブルガリア

(1)財政政策

91年度予算は,2月に議会を通過した。歳入は629.7億レバ,歳入は704.8億レバとなっており,財政赤字は85億レバ以内に抑えることが義務づけられており,従来のような外債による補填ではなく,国債が使われることとなっている。歳入の内訳をみると,税収が62.1%(390.9億レバ)となっている他は,社会福祉からの収入が20,7%(130.4億レバ)と目立っている。歳出では,社会福祉への支出が全体の26.7%(188.2億レバ),国営企業への賃金が8.7%(61.1億レバ),補助金が5.8%(40.7億レバ)となっている他,対外債務支払い費用が12.7%(89.2億レバ)と大きなシェアを占めている。最終的には,財政赤字の規模は,当初見込み(対GDP比3.5%)の範囲内に収まるものとみられている。

税制面では,91年より取引税が改正され,電気,固形燃料,市内交通は無税,花,肉,牛乳,魚,卵,衣料,靴,家賃,輸送等は10%,その他の品目は一律60%となる等,全体として大幅な増税となっている。これは,年初がらの価格自由化によるインフレ加速を抑制するため,通貨量の吸収と消費意欲の抑制を企図している。また10月には,徴税業務の簡略化のため,税務署の設置が決定された。

財政赤字の中央銀行貸出による補填を削減するため,90年12月には初めて91日物の短期国債(TB)が発行され,91年1月には2回目の起債が行われた。

また,中期国債についても発行の検討が始められている。

(2)金融政策

① 金融引締め

91年に入り,価格自由化に伴うインフレの抑制を図るため,2月,基準金利は15%から45%へと引上げられた。また貯蓄の増強によって過剰流動性の吸収を図るため,1カ月物は月利4.5%,3カ月物は10.5%,1年物は40%と預金金利も大きく引き上げられた。一方,貸出金利も年利47%へと引き上げられた。基準金利はその後さらに52%へと引き上げられた。

インフレの鎮静化に伴い,7月には基準金利は一旦45%へと引き下げられたが,IMF等から引き下げは時期尚早とする勧告を受けたため,再度59%へと引き上げられた。

② 中央銀行法の制定

EC諸国同様の中央銀行制度の導入を定めた中央銀行法が6月に制定され,中央銀行と政府の資産が明確に区分され,財政赤字への補填についても,歳入予定額の5%以内と限定された上,国会の承認を必要とする厳格な規定が設けられた。

③ 通貨政策

通貨面では,91年初に90%の切り下げが行われ,レートはインターバンク市場によって毎日決定されるレート(フロート制)へと一本化された。同時に,一般企業,市民に対して,銀行を通じた通貨の随時交換が認められており,国内交換性がほぼ完全に回復されている。

(3)その他

91年2月,農業集団化によって土地への権利を失った旧所有者への農地の返還を行う「農地所有・利用法」が制定された。返還は,旧所有者またはその相続人に対して47年当時と同面積の土地を返還する形で行われる。農地の返還に続いて都市部で接収された不動産の返却も行われる。また,同法によって国家,地方自治体,個人,法人は土地所有が可能となったが,政党,外国人・外国企業,合弁企業には土地所有は認められていない。返還を受けた旧所有者は,土地の権利書を入手すれば賃貸を行うことも可能となる。また一家族の所有面積は30へクタールまでと制限されている。所有権の回復は,同法の発効後1年以内に行われる。

91年3月には,これまで国有資産の売却を禁止していた政令56号が改正され,小規模企業の競売による民営化が開始された。また,11月には民営化法案が議会に提出された。同法案は,他の東欧諸国の民営化手法を参考にして作成されており,市場主導で民営化を進めることを主眼としている。国有企業は株式会社化された後,その株式売却によって民営化される。売却の際には,企業の分割や清算も認められている。また従業員は自社の株式を優先的に購入する権利をもつが,その対象となるのは,全株式の50%までと制限されている。また民営化の主管省庁として民営化庁が設置され,民営化庁を監督する特別委員会が複数の議員によって国会内に設けられる。

価格自由化は,91年2月にまず例外を除く殆どの品目について,続く6月には例外とされたエネルギー等について行われ,ほぼ完全な自由化が実施された。

賃金上昇抑制のため,賃金の物価インデクセーション率が引き下げられ,国営企業の賃金総額に対しても上限が設定された。

8月には,コメコン市込の崩壊によって急減した輸出の回復を目指す「輸出促進計画」が策定された。同計画は,貿易金融,輸出保険,政府の信用供与,税制上の優遇措置等からなっており,特に輸出業者への融資制度,貿易保険・保証制度に重点が置かれている。また東欧諸国向け輸出の促進については,92年1月には対外経済関係省が対外貿易政策基金を,国立銀行が製品輸出奨励基金をそれぞれ設立することとなっている。


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