平成3年

年次世界経済報告 資料編

経済企画庁


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II 1990~91年の主要国の政策動向

第8章 東  欧

3. チェコ・スロバキア

(1)財政政策

90年12月に連邦議会によって承認された91年度予算は,5~7%の失業と30%程度のインフレを見込んでおり,国民所得に占める国家予算の割合を90年度の70%から35~40%に引き下げる,緊縮型となっている。また,連邦と共和国との権限分担に伴い,連邦,両共和国についてそれぞれ別の予算が策定されたことも,大きな変更点である。このため,これまで連邦税となっていた取引高税,利益税の税収も,これら3つの予算に分配されている。

3予算合計の歳入額は,前年比6.7%増の4,720億コルナとなった。企業税収が利益税率の引き下げによって減少が見込まれているのに対し,取引高税税収の増大が見込まれた結果である。このうち,連邦予算の歳入は,1,085億コルナとされているが,連邦政府の構造政策支出と予備費は69億コルナとなっているため,裁量的政策の余地はかなり制約されている。

歳出は,全体で前年比6.2%増の4,640Q億コルナとなっており,全体としては80億コルナの黒字が見込まれている。工業部門への補助金は廃止され,家賃補助を除く非投資補助金と鉱業・交通機関向け補助金は大きく削減され,住宅建設向け補助金も,90年度から130億コルナ削滅され140億コルナとなった。軍事支出は前年比5%減となり,治安関係や政府機関の予算も同2.5%減となっている。一方,歳入の11.3%に当たる540億コルナが社会保障費に充当されている。

93年からの新税制改正案によると,財・サービスに対しては,付加価値税,ガソリン等燃料,アルコール類,タバコに対する消費税が賦課され,収入に対しては,個人所得税と法人税,-また不動産に対しては,道路税,不動産譲渡税,環境保護税等が賦課される計画となっている。

(2)金融政策

価格自由化とコルナの切り下げに伴うインフレ圧力の抑制が,91年の金融政策の最優先課題であることから,国立銀行は当初かなり緊縮的なスタンスを取っていたが,物価上昇の鎮静化とともに夏からは徐々に金利を引き下げてきている。基準金利(割引率)は,年初の10%から9.5%へと僅かな引き下げに止まっているが,商業銀行の貸出金利については,当初24%であった上限を段階的に17%まで引き下げ,商業銀行の利鞘を縮小させることで,金融緩和を行っている。しかしインフレ率との関係でみると,上半期は実質金利がマイナスであったのに対し,下半期は貯蓄振興という狙いから,プラスとなっている。また金融改革が導入されて日が浅いことから,金利はなお十分に有効な金融調節手段となっていないため,商業銀行のクレジットのリファイナンスへの量的制限や銀行部門の貸出総量への制限といった直接的な手法も使われた。

(3)通貨政策

通貨政策では,91年1月には大幅な切下げ及び商業レートと新旅行者レートの一本化が行なわれた。これと同時に,輸出によって得た外貨は全て商業銀行を通じて国立銀行に売却する制度が導入され,適格とされた企業に対しては,輸入決済に際して随時商業銀行でのコルナと外貨の交換が認められる一方,一般市民に対しては,年間5,000コルナの範囲内での交換のみが認められ,国内交換性が部分的に回復されることとなった。またこうした交換性を維持するため,①各商業銀行は短期外貨資産を同負債の1.05倍から0.85倍の間に抑える,②非居住者から1,500万ドル以上の期間1年以上の預金やクレジットを受け取る場合や1,500万ドル以上の貸出等を行う場合には,商業銀行は中央銀行の許可を受ける必要がある,③企業が300万コルナ以上の非投資財輸入を行う場合には,3カ月,同額以上の投資財輸入を行う場合には額に応じて1~4年間,その支払いが繰り延べられる。④消費財に対しては20%の輸入課徴金をがける,等の手法によって,国内の外貨需要が抑制されている。また,為替レートについては,主要通貨バスケットに対するクローリング・ペッグ方式を調整手法として採用した。レートは,毎日開かれる国立銀行と16の商業銀行が参加するインターバンク外為市場において決定される。

(4)その他

91年に入り,「小民営化法」「大民営化法」が発効し,前者に基づいた競売は1月26日からプラハで開始された。また,大民営化で使用される「民営化クーポン」の配布が10月から始められた。18歳以上の国民は,1,000コルナでクーポンを購入することが出来,クーポンのもつ1,000ポイントのポイント数によって企業入札に参加することになる。11月には続いて,クーポン購入者のうち,企業株式購入希望者の登記が始められている。企業株式との交換は92年1月に開始される予定となっている。

91年5月には,共産化によって接収された土地を旧所有者に返還する「土地返還法」が制定された。同法は,48年2月25日から90年1月1日までに接収された土地を対象としており,返還対象となる面積として,耕作地は150へクタール,森林は250ヘクタールを上限としている。


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