平成3年 年次世界経済報告 資料編 I 世界経済白書本編(要旨)

平成3年

年次世界経済報告 資料編

経済企画庁


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]

I 世界経済白書本編(要旨)

第4章 市場経済の拡大と再編

第2節 中国の経済発展戦略

(改革の概要と問題点)

中国では78年以降,内外両面の経済改革を進め,高い成長と貿易拡大を実現した。国内面では79年に農村改革に着手し,農業生産の拡大と郷鎮企業発展の基礎を築いた。金融制度については,70年代末から専門銀行を設置し,人民銀行は中央銀行業務に特化するようになった。財政制度の面でも地方政府への分権化が進められ,80年に地方政府の資金管理の権限が強化された。84年には企業の自主的な経営を促す企業改革に本格的に取り組み始めた。また,価格の自由化も進められたが,重要品目には公定価格が残された。対外面では,78年以降開放政策に転じ,経済特区の設置等により貿易の拡大と外資の導入を積極的に進めた。

しかし,市場原理の導入が部分的なものであるため,国内の改革政策の下で次のような問題が生じた。すなわち,①国営企業の経営責任が不明確なため,経営が悪化している。象徴的な例として,売れ残り在庫と企業間信用(いわゆる三角債)の膨張をあげることができる。②価格体系に大きな歪みがあるために,特に生産財生産企業の経営が悪化している。このうち,国営企業の赤字補填は財政の負担増大につながっている。③地方政府の権限強化に伴って,他の省や市からの商品に対して市場を閉ざす傾向が現れてきている。④分権化が進んだものの,市場の資金総量をコントロールする金融制度が未発達なために,マクロの金融政策による総需要管理がうまく機能しない,等の問題が生じている。

中国の成長と貿易拡大は,沿海地域の発展によるところが大きい。沿海地域の経済特区等に対しては,貿易拡大,外資入のため様々な優遇措置がとられた。沿海地域での対外開放政策は一応の成功を遂げたが,その結果,内陸部との経済格差が著しく拡大した(沿海12省,直轄市が中国全体に占める割合は,面積13%,GNP5割,輸出7割)。今後,中国が工業国をめざして経済発展を進めていく際の課題としては,①所有権の問題を含めて国営大企業のあり方について見直すこと,②価格の一層の自由化,③中央と地方における政策の調整と明確化,④対外開放政策を内陸部にも広げること,⑤香港,台湾などの華僑資本だけでなく,他の先進国との資本関係を発展させること,などが指摘される。

第4-2-5図 中国の直接投資受入れ額の推移

第4-2-7図 中国の省別の一人当たりGNPと輸出総額

(中国とソ連の改革手法の比較)

市場経済化を目指した中国の改革をソ連と比較した場合の顕著な違いを指摘すると,第一に,ソ連は政治休制の改革を先行させたが,中国は経済改革がら着手したこと,第二に,中国は改革当初に,自営農を育成するなど農村改革に成功したこと,第三に,中国はコメコンという閉ざされた国家間貿易システムに参加することなく,西側諸国との間で貿易を拡大したこと,第四に,中国は「経済特区」等を設けて香港等の華僑や西側諸国から直接投資を積極的に受け入れていることがあげられる。

この結果,中国は,食糧生産が増加し,生産性も高まった。また,農村の余剰労働力を吸収して,郷鎮企業が急速に発展した。ソ連では,自留地農業の生産性は高いが,総じて穀物生産は停滞した。また,ソ連では小規模の協同組合企業,(コーペラチフ)が88年以降台頭しているが,その活動環境が未整備であるたあ,中国の郷鎮企業のような発展はみられない。貿易面では,中国は西側との取引を拡大しつつ貿易を大幅に増大させるとともに,市場経済の刺激を受け入れたが,ソ連はコメコン貿易を主体としていたので,海外との競争を国内経済の効率化に結びつけることはできなかった。両国の経済・政治構造には大きな違いがあるが,今後,ソ連が市場経済化をめざした改革を本格化させ,経済発展を実現するためには,中国の成功例に習って農業部門の改革や対外開放政策を進めることは不可欠であると考えられる。


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]