平成3年

年次世界経済報告 資料編

経済企画庁


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I 世界経済白書本編(要旨)

第1章 世界経済の現局面とその特徴

第2節 アメリカの景気後退とその特徴

(景気後退の特徴)

90年夏からのアメリカの景気後退は戦後の平均に比べ,比較的短期間で浅いものとなった。これは,①景気後退に入る以前がら金融緩和を進めるなど早めの政策対応を採ったこと,②経済のサービス化の進展,在庫管理技術の進歩により過大な在庫の積み上りが生じなかったこと,③輸出がドル安と労働コストの相対的な優位性の下に好調を維持したこと,④五大湖周辺地域では拡大が続くなど成長を維持する地域があったことによる。

(景気の回復力)

しかしながら,91年春以降の景気回復は緩やかで力強さに欠けている。これは,80年代における無理な景気拡大のツケが回ってきていることによると考えられる。すなわち,①家計部門で所得が伸び悩み,債務の重荷もあって消費に勢いがないこと,②商業用不動産等の空室率が高水準であり,需要回復が建設増に直結しないこと,③連邦政府の財政赤字の継続に加え,州・地方政府の財政赤字が景気拡大の重荷となっていること,④金融機関の貸し渋りや長期金利の高どまりなどにより金融緩和の効果が減殺されていること等をあげることができる。

第1-2-1表 アメリカにおける景気後退の長さと深さ

第1-2-8図 アメリカの非金融法人部門の総債務残高と銀行借入れ残高の伸び率

(80年代の景気拡大の負の遺産)

82年11月から90年7月までの92カ月にわたる景気拡大は,平和時としては戦後最長の拡大であったが,その過程でいくつかの大きな問題点を後に残した。そのような問題点として,大幅な経常収支の赤字継続に伴う対外債務の累増も重要であるが,ここでは景気への影響という観点から整理する。第一は,家計の行き過ぎた消費により貯蓄率が低水準となり債務残高が高水準となったことである。第二は,企業買収ブームの。中で,企業の債務比率が増大しとことである。第三は,不動産部門(特にオフィス・ビル,ショピング・センター,集合住宅など)への過剰投資が行われ,その結果,空室率や空家率が著しく高くなったことである。第四は,財政赤字が巨額になったことである(連邦政府の赤字は91年度実績2,687億ドル,92年度見通し約3,500億ドル,州・地方政府の財政も80年代後半から悪化)。第五は,金融機関の経営状況が著しく悪化したことである。これらは80年代の景気拡大の負の遺産として,90年代に引き継がれ成長の足かせとなっている。

第1-2-13図 アメリカのオフィス建設支出及び空室率の推移

(金融面の脆弱性と制度改革)

アメリカの金融制度の骨格(預金保険制度,銀行・証券分離等)は,1930年代に形成された。しかし,80年代に入り銀行は厳しい競争にさらされることとなった。すなわち,金利の自由化により銀行の資金調達コストが上昇する一方で,大企業がCP(コマーシャル・ペーパー)を発行する等直接金融ヘシフトしたこと,さらに,規制め緩いノン・バンクが貸出市場に参入したこと等により銀行の収益は大きく圧迫されることとなった。このため,銀行は収益の見込める新規分野(こ競って参入した。特に,ハイ・リスクであってもハイ・リターンの期待できる途上国向け貸付,企業買収関連融資,不動産関連融資(いわゆる3つのL融資)を伸ばしたが,これらはいずれも数年後には不良債権となり銀行の収益を圧迫した。このため,経営状況の悪化や倒産に追い込まれる銀行が続出した。この結果,預金保険基金からの払い出しが増加し,嶽行の総資産に対する比率が急速に低下するなど,金融システムの脆弱性が増した。この他,BIS(国際決済銀行)による自己資本比率規制も加わって銀行が新規貸付に慎重になり,いわゆる貸し渋り現象が生まれた。なお,3つのL融資が伸びた共通の要因として,融資リスクに対する認識が甘かったこと,リスクの過少評価をもたらすような金融面の技術革新が行われたこと(変動利子によるユーロ・シンジケート・ローン,買収先の資産を担保とした貸付,モーゲージ・ローンの証券化等)をあげることができる。また,3つのL融資問題については,日本の金融機関や企業が遅れて参加してブームを長びかせたことが指摘できる。

こうした背景の下,金融制度を根本的に見直す必要性が高まらた。このため91年春に米政府は,預金保険制度の付保の限定,州際業務規制の撤廃,銀行・証券分離の見直し等により,アメリカの金融機関の競争力の向上を図る金融制度改革法案番議会に提出した。

第1-2-21図 米銀の倒産件数及び総資産に対する預金保険基金の比率

(北東部経済と五大湖周辺地域経済)

アメリカ北東部(ニュー・イングランド)は,今回の景気後退局面で最も大きな打撃を受けた。これは,北東部の経済が金融業,国防産業,コンピューター産業に大きく依存し,これらの産業の不況の影響を強く受けたこと,不動産ブームの後遺症が大きかったことによる。他方,前回の後退期(81年7月~82年11月)に大きな打撃を受けた五大湖周辺地域は,国防,金融産業への依存度が低いことに加え,製造業が輸出競争力を回復しており,国内需要が不振を続ける中で生産を伸ばすことができた。


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