平成3年

年次世界経済白書 本編

再編進む世界経済,高まる資金需要

経済企画庁


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平成3年度年次世界経済報告(世界経済白書)の公表に当たって

1991年末の時点で世界経済を概観しますと,アメリカでは,91年中頃に景気は後退局面から脱していますが,家計や政府の過大な債務や銀行部門の脆弱性等80年代の景気拡大の後遺症のため回復力は弱いものとなっています。ヨーロッパでは,ドイツは統一後の過熱気昧の景気拡大を経て本年春以降減速しつつあり,EC経済の成長は総じて緩やかなものとなっています。ソ連・東欧では,市場経済への移行に向けた改革の渦中にあり,生産の減少,物価の上昇が続いています。他方,発展途上国では,アジアが直接投資と貿易の拡大を軸に高い成長を続けています。

このような各国の経済状況の背景には,世界的な政治・経済体制の再編の動きがあります。欧州では,89年秋の東欧諸国の民主化以降,ECを中心にEFTA,東欧との経済的結びつきが強まってきています。ソ連では,旧来の連邦体制が崩れ共和国間の新たな関係が模索されています。北米では,米墨加自由貿易協定の締結交渉が進められています。アジアでも,国境を越えて隣接した地域が貿易・投資関係を強化する動きがみられるようになっています。

今後の世界経済を展望しますと,世界経済の再編が進む一方で,世界経済の成長が高まり,資金需要が一層増大するものと考えられます。金利の高まりが世界経済に及ぼす悪影響を回避する上で,先進国,途上国双方において民間貯蓄,公的貯蓄の増強が求められますが,なかでもアメリカをはじめ大きな財政赤字を抱える先進国の役割には重いものがあります。

こうした中で,我が国としても内外の諸情勢を注視しつつ,適切なマクロ経済政策及び構造政策の運営に努める必要があります。また,対外的には世界とともに生きる日本という視点をもって,ウルグアイ・ラウンド交渉,ソ連・東欧の市場経済への移行等の世界的課題に対処していくことが重要であります。

このような認識の下,第29回目の世界経済報告は,世界経済の大きな流れ,注目すべき事象と今後の問題点について記述しております。世界経済の激動期に本報告力日本の経済の今後の進路を考えていく上で,参考となることができれば幸いです。

平成3年12月3日

野田 毅

経済企画庁長官


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