平成2年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

I 1989~90年の主要国経済

第13章 世界貿易

世界貿易(金額ベース)は89年は前年比8.5%増とやや伸びは低下したが,堅調に推移した。90年に入っても増加が続いているが,世界的な成長減速の影響から,貿易の伸びは鈍化しつつある(第13-1図)。GATTによると,90年の貿易(数量ベース)は中東湾岸危機の影響が懸念されたが,6~7%台の伸びを確保する見込みである(GATT International Trade1989-1990”)。

第13-2図 主要国,地域の世界輸出に占める割合

1.地域別輸出動向

(90年の日本の輸出頭打ち)

89年の先進国(OECO加盟国)の輸出(金額ベース)は,伸びは鈍化しつつあるものの,前年比7.1%増と依然高い伸びを維持している。地域別にみると(第13-1表),ECが前年比6.6%増であり,前年比増加寄与度(以下,寄与度という)は2.7%と最も大きい。しかし,これはEC域内の輸出(輸入)が前年比7.6%増と比較的高い伸びとなったことによるものであり,EC域外への輸出はアメリカ等域外諸国の経済の減速を反映して同4.8%増と大幅に鈍化している。ECの輸出が急拡大した86年は,EC域外への輸出が同9.1%増とEC域内の伸び(同5.5%)を上回っており,そのためEC域外の寄与度も3.6%と大きかったことと比較すると,89年の域外輸出の伸びの鈍化が一層目立ってくる。

次に,89年の主要国の動向をみると,全般的に輸出の伸びが低下する中で,アメリカは前年比13.7%増(寄与度は1.6%)と大幅に増加した。この結果,86年以降世界輸出一位の座を占めていた西ドイツに代わリアメリカが世界輸出に占めるシェア(12.5%)で,西ドイツ(11.7%)を追い抜いた(第13-2図)。

90年は世界的な経済成長の減速を反映して伸びがやや低下している。主要国の輸出動向をみると,アメリカは1~3月期前年同期比9.8%増,4~6月期同6.7%増と増加し,西ドイツも1~3月期同18.2%増,4~6月期同10.9%増と増勢を維持しているが,日本は1~3月期同2.7%減,4~6月期同0.7%増と輸出の増加は頭打ちとなっている(第13-3図)。

(輸出の増勢鈍化したアジア)

途上国の輸出(金額ベース)をみると,アジアが途上国全体の輸出増加の中心的役割を果たしており,特に,世界貿易の伸びが高まった86年以降その傾向が顕著になっている。アジアの世界輸出に占めるシェアは86年では11.5%であったが,89年には13.9%に高まっている(第13-2図)。しかじ,最近では,他の地域に比べ相対的に高い輸出の伸びは続いているものの,先進国向けの伸びが鈍化している。特に,アジアNIEsでは,89年まで前年比二桁増を続けていたが,世界的な経済成長の減速に加え,高いインフレ率や為替レートの上昇から輸出競争力が低下しているため,90年に入り,輸出の増勢鈍化が目立っている。90年1~3月期前年同期比5.5%増,4~6月期同4.7%増と伸びが低下しており,アメリカ向けは4~6月期同1.6%減と減少に転し,日本向けは1~3月期同3.9%減に続き,4~6月期同11.8%減と減少している(第13-2表)。アセアン各国も増勢は大きく鈍化しており,89年前年比17.9%増,90年1~3月期前年同期比14.1%増の後,4~6月期は同3.7%増にとどまった。

第13-2表 アジアNIEs,アセアンの地域別貿易

第13-3表 世界輸入の動向

内訳をみると,EC向けは依然高い伸びとなっているが,アメリカ向けは4~6月期同0.7%増にとどまり,日本向けは4~6月期同0.1%減となっている(第13-2表)。

2.地域別輸入動向

(ドイツの大幅輸入増,アメリカの輸入増勢鈍化)

89年の先進国(OECO加盟国)の輸入(金額ベース)は前年比8.2%増と全般的に高い伸びであった。地域別にみると(第13-3表),EC(除く,域内)が前年比8.3%増,寄与度1.3%と最も高い。ECの増加は輸出と同様に86年から顕著である。89年は86~88年に比べると,増勢は大きく鈍化したが,依然として世界輸入の増加に大きく寄与している。

次に,89年の主要国の動向をみると,前年に比べ伸びはやや低下したものの,日本が前年比11.8%増(寄与度は0.8%)と高い増加を示し,アメリカも同7.1%増(寄与度は1.2%),西ドイツ同7.6%増(寄与度は0.7%)と各国とも堅調な内需の動きを反映して輸入は引き続き増加していた。90年では,西ドイツが1~3月期同20.1%増,4~6月期同15.2%増と東西両ドイツの統合により,旧東ドイツの需要急増に対応して大幅な輸入増が続いている。また,日本も1~3月期同5.8%増,4~6月期同6.6%増と堅調である。一方,アメリカは経済成長の減速を反映して伸びが大きく低下しており,1~3月期前年同期比6.3%増であったが,4~6月期同0.2%減となった(第13-4図)。

(輸入でもやや増勢鈍化がみられるアジアNIEs,好調持続するアセアン)

途上国の輸入(金額ベース)をみると,輸出と同様にアジアが高い経済成長を反映して,途上国全体の輸入増加の中心的役割を果たしている。アジアの世界輸入に占めるシェアは86年では11.1%であったが,89年には13.8%に高まっている(第13-5図)。90年に入り,アジアNIEsでは,輸入にやや増勢鈍化がみられ,1~3月期前年同期比11.3%増の後,4~6月期は同7.6%増と一桁台の伸びとなった。一方,アセアン各国は高い伸びが続いている。89年の前年比28.4%増に続き,90年1~3月期前年同期比26.1%増,4~6月期同16.2%増となった。なお,アジアNIEs,アセアンとも輸入は輸出を上回る高い伸びとなっており,貿易収支は黒字の縮小ないし赤字化している(第13-2表)。

3.財別貿易動向

財別貿易動向をみると,89年は工業製品が前年比8%増(数量ベース,GATTInternational Trade1989-1990”)と近年の貿易拡大の主力となっている,(第13-6図)。これは,工業製品の水平分業の進展や消費者の嗜好の多様化を反映して,先進国間で貿易が拡大していることのほか,多国籍企業の活動や直接投資を通じて途上国から先進国への工業製品輸出も拡大していることも要因である。また,高い経済成長が続くアジアを中心に先進国から途上国への輸出も拡大している(付表9)。こうした貿易の拡大は,先進国間では乗用車のような耐久消費財が代表的であり,途上国から先進国への輸出としては,繊維のような労働集約型の軽工業品の他,近年IC,電気機械・同部品のような資本集約型工業品の輸出も拡大している。先進国から途上国への輸出は直接投資の拡大に伴う機械類に代表される資本財が中心である。また,GATTによると,サービス貿易は着実に増加しており,89年は前年比8.8%増の6,800億ドルで財貿易の約2割の規模に達した。なかでも日本は,旅行,その他(手数料支払等)を中心に輸入の伸びが高く,89年は805億ドルでアメリカ(780億ドル)を抜き,世界一のサービス輸入国となった。

(先進国で輸出の牽引力となっている工業製品)

こうした工業製品の貿易拡大を,主要先進国の財別貿易輸出動向(金額ベース)でみると(付表12),アメリカでは89年の輸出全体の伸びが前年比13.5%増と極めて高い伸びであったが,工業製品(除く,機械・輸送機器)輸出は同19.0%増とさらにそれを上回る伸びであった。日本は89年の輸出全体の伸びが前年比3.9%増に止まったが,これは最もウエイトの高い機械・輸送機器が同4.5%増と伸びが鈍化したうえに工業製品(除く,機械・輸送機器)が同2.0%増と低い伸びにとどまったためである。しかし逆に,88年までの輸出の拡大は自動車,電気製品等の機械・輸送機器が中心であり,貿易の中で機械・輸送機器が占めるウエイトは89年で69.8%に達している。西ドイツは89年の輸出全体の伸びが前年比5.4%増であり,最もウエイトの高い機械・輸送機器が同7.2%増と牽引力となっている。このように,アメリカ,日本,西ドイツともに工業製品が輸出に占めるシェアは高まっており,アメリカでは工業製品(除く,機械・輸送機器),日本,西ドイツは機械・輸送機器が中心となっていたことがわかる(第13-7図)。

第13-8図 主要国の財別輸入構成

(先進国輸入の中でウエイト高まる工業製品)

次に,工業製品の貿易拡大を,主要先進国の輸入(金額ベース)からみると (付表12),アメリカでは89年の輸入全体の伸びが前年比7.2%増であったが,工業製品(除く,機械・輸送機器)は同5.3%増,機械・輸送機器が同4.4%増と輸入全体の伸びを下回った。しかし,輸入に占める工業製品のシェアを85年と比べると,85年の75%近くから,89年には80%を超えるまでに高まっている(第13-8図)。日本は89年の輸入全体の伸びが前年比12.4%増と極めて高い伸びであった。工業製品(除く,機械・輸送機器)で前年比13.6%増,機械・輸送機器が同20.9%増と極めて高い伸びを示し,製品輸入の拡大が顕著である。西ドイツは89年の輸入全体の伸びが前年比7.6%増であり,そのうち,輸出の主力でもある機械・輸送機器が同12.6%増と最大の寄与をしている。そうした工業製品の輸入拡大は西ドイツでも工業製品の輸入に占めるシェアを大きく高めており,85年に61.8%であった工業製品のシェアは89年で75.9%に達している。他方,鉱物性燃料(原油等)は,各国ともそのシェアが低下している(第13-8図)。