平成2年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


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I 1989~90年の主要国経済

第5章 フランス:増勢やや鈍化ながら景気は堅調

6. 経済政策

(1)財政政策

90年9月,政府は91年度(暦年)財政法案を閣議決定した。その内容をみると91年も引き続き,緊縮方針が貫がれ,財政赤字(総合収支尻)は802億フランと90年度当初予算(902億フラン)に比べ,100億フラン縮減し,対GDP比も1.17%と更に引き下げられている(第5-6表)。政府は,「努力と公正」を重視し,この枠内で,支出優先項目を設けるとともに,引き続き減税を実施するとしている。

歳出面では,全体の伸びを前年度当初予算比4.8%(一般予算(注)の歳出の伸び率は同3.9%)と91年度の名目GDP伸び率見通し(5.4%)以下に抑制する中で,優先項目として,①教育(前年当初予算比9.0%増)②研究開発(同7.3%増)③環境(同43.5%増)④社会的公正(同12.4%増)がとりあげられている。

歳入面ではネットで85億フランの減税を盛り込みながらも,他方,経済成長の維持による歳入増を見込んでいる。主な減税措置は,①付加価値税率(割増税率)の引き下げ(現行25%を3ポイント引き下げ22%とする。)で66憶フランの減税,②留保利益に対する法人税率の引き下げ(現行37%を3ポイント引き下げ34%とする)で54億フランの減税等である。他方増税措置としては,①財産に関する連帯税(富裕税)の改正により72億フランの増税,②地方税の課税標準の変更により7億フランの増税等をあげている(付注5-1)。

なお,11月には,パリ等主要都市で教育環境の改善を要求して高校生のデモが発生,激化したことから,政府は緊急予算として,91年度教育予算を5億フラン増額することを決定した。この結果,91年度財政赤字見込みは,806億フランとなるとしている。

(注)フランスにおいては,予算はその対象となる財政の性格から,確定収支(租税収入や経常支出のように毎年確定的に行われる歳入,歳出の収支)と暫定収支(国庫特別勘定として,償還を前提とした社会経済発展基金などからの各種貸付を計上した特別勘定の収支)とに区分される。そのうち確定収支は,一般予算(わが国の一般会計に相当),付属予算(印刷,造幣,郵便,電信,電話等に関するもの)に区分される。

(2)金融政策

金利は89年1月に為替市場でのフラン軟化によるEMS内の緊張等から0.5%引き上げられた。その後原油価格の高騰を主因とするインフレ圧力の高まりに対処すべく,6月には0.5%,10月にはEMS加盟国中央銀行との協調を目的として0.75%,12月には,為替の安定とインフレ抑制を目的として0.5%それぞれ引き上げられ,日々の短期金利変動の下限とされる市場介入金利は10.0%,その上限とされる5~10日物現先オペレート金利は10.75%となった。しかし,90年に入って,金融引締めによる景気への影響を考慮し,4月初,88年7月以来約2年振りに0.25%引き下げられ,4月下旬には再び0.25%引き下げられた。さらに11月上旬には0.25%引き下げられ,この結果,市場介入金利は9.25%,5~10日物現先オペレート金利は10.0%となった。

コールレート(翌日物)は年初高まりをみせた後低下し,7月に一時高まったが,その後若干低下,横ばいとなっている。また長期金利は1~7月まではおおむね横ばいであったが,8月以降は中東情勢の緊迫化から高まりをみせた後,頭打ちとなっている。(第5-7図)。

90年のマネーサプライの管理はM2については目標圏3.5~5.5%(第4四半期の前年同期比)とし,M3については,昨年同様目標圏は定めないとしていた。しかし,M2の推移をみると,①90年1月から為替管理が全廃されたが,フランスの商業銀行が預金を規制の緩いルクセンブルク,イギリス等へ移し,その結果金利の高止まりから借入れ需要が減退したこと,②90年初からフランスでは預金増強運動が行われているが,M2で力バーされない,SICAV等金銭信託商品に資金が流れたこと等から,4~6月期前年同期比1.5%増,7~9月期同0.5%増,10月前年同月比0.3%減,11月同1.1%減と低水準で推移している。

これに対して,フランス銀行は10月,預金準備制度及びマネーサプライの改訂を以下の通り決定し91年から実施することとした。

①M3対象預金(CD,定期預金,金融債等)の預金準備率を現行3.0%から0.5%へ引き下げ。M2対象預金(通帳預金)については,預金準備率を現行3.0%から2.0%へ引き下げ。Ml対象預金は現行(5.5%)通りだが,金融機関の手持ち保有現金の75%を準備として新たにカウントすること。

②M3に非金融機関居住者保有の短期のOPCAV(合同運用金銭信託)に組み込まれたCP,TBを新たに加える。マネーサプライ目標値設定を従来のM2からM3に変更。新しいマネーサプライ関連指標としてM4(M3+TB+CP)を導入。

これに基づき,政府は12月下旬,91年目標圏(新M3)を5~7%とすることを発表した。これは従来よりのインフレ抑制,フラン安定を目指した厳しめの金融スタンスの維続を意味している。

(3)湾岸危機への政策対応

政府は,中東情勢の緊迫化により石油価格の高騰が予想される中,8月初石油製品の便乗値上げの防止を狙いとして,石油製品の価格統制の実施を決定,9月15日まで一時的な措置として実施した。それによれば,石油製品の国内価格の値上げは国際市況の上昇分の上乗せだけに限定する形で上限価格を決定する。市販価格は,基準価格が毎日変動するため,市販価格の上限も毎日変動することになった。

また,石油価格上昇による景気,物価への影響を緩和するため,9月に歳出の伸び率の抑制スタンスを強め,財政赤字の削減を継続する一方で,法人税及び付加価値税(割増税率)の減税を行うことを決めている。(付加価値税の引き下げについては,9月中に実施された。)


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