平成2年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


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I 1989~90年の主要国経済

第2章 カナダ:マイナス成長,2四半期続く

2. 需要動向

(1)個人消費

89年の実質個人消費は耐久財,非耐久財の伸びが鈍化しそれぞれ前年比2.5%増,2.8%増となった一方,サービスは堅調に推移し同5.1%増と前年に比べ伸びを高め全体としては緩やかな鈍化となった(前年比3.8%増)。耐久財の伸びの鈍化の要因としては,86年以降減少が続いている乗用車販売が政府の強い引き締め政策の結果,89年にはさらに大きく減少したこと(前年比6.4%減),住宅着工が低迷していることから家具等の住宅関連財が伸び悩んだこと等が考えられる。小売売上高も89年半ば以降不振が続いており,89年末のクリスマスセールも金利高から不調に終わった。90年入り後は引き続き耐久財消費が低迷し,小売売上高も低迷基調が継続しているもののサービス消費は緩やがな増加を続けている。90年末には,クリスマスセール及び91年1月より消費税(一律7%)が実施されることから駆け込みの消費が期待されている。また個人貯蓄率は89年10.8%と前年より上昇した後,90年1~3月期10.8%,4~6月期9.6%と可処分所得の伸び悩みから低下していたが,7~9月期には景気に対する消費者の信頼感も低いことから11.5%と高まっている。

(2)実質民間住宅投資

85年以降急増を続けていた実質民間住宅投資は,88,89年と落ち着いた伸びとなった(それぞれ前年比3.8%増,同2.4%増,第2-1図)。しかし87年以降モーゲージ金利が高水準で推移し,90年に入りさらに高まったことや,景気の影響を強く受ける集合住宅の空家率が88年以降急激に高まった後,高水準を維持していること等から住宅投資は90年に入ってから1~3月期前期比0.2%減,4~6月期同4.0%減,7~9月期同7.8%減と大きく低下している。

住宅着工件数をみると,85年より3年間20%台の前年比増が続いた後,89年前年比3.2%減と減少に転じ,90年1~11月は集合住宅を中心に前年同期比20.1%減となり回復の兆しが見えない。着工件数を地域別にみると,大西洋に面したカナダ東部及び,カナダ中心部で減少しているが,カナダ東部はもともと産業基盤も弱く人口も少ないことから今後大幅な回復は期待できず,またカナダの中心州(ケベック,オンタリオ,マニトバ)での減少はこれらの州経済の悪化にも起因している。一方西部(ブリティッシュコロンビア,アルバータ)では移民の増加(香港等)や州経済が比較的好調なことから,住宅着工も堅調に推移した(特にアルバータ州では89,90年1~9月期とも前年(同期)比2けた増)。さらに90年8月のイラク問題によるエネルギー価格の上昇が石油産出地域であるこれら西部地域に好影響を与えると思われ,先行きプラス要因となっている。

(3)実質民間設備投資

実質民間設備投資をみると87年初の構築物への投資の回復をきっかけに,87,88年と高金利にもかかわらず積極的な設備投資が行われ,景気の拡大要因となるとともに景気過熱を引き起こした(第2-2図)。しかし企業収益に88年初以降減少傾向が見られ(企業収益:89年前年比4.9%減,90年1~6月期前期比11.8%減),今後の景気動向に対し不安が広がるなか,設備投資は89年以降機械設備を中心に伸びが大幅に鈍化している。89年の設備投資は前年比5%増と前年に比べ(88年前年比15%増)かなり鈍化した後,90年入り後もカナダ国内の景況感が依然として悪いことや,金利が依然高水準であること,アメリカの景気が減速していることから機械設備を中心に不振となっており,1~3月期前期比横ばいの後,4~6月期同1.8%減,7~9月期同3.2%減と減少が続いている。

(4)政府支出,在庫投資

政府支出は財政赤字削減のおりから伸びを低く抑えられており89年前年比2.6%増,90年1~3月期前期比0.9%増,4~6月期同0.3%増となっていたが,7~9月期は景気のテコ入れの意味もあり同1.5%増とやや伸びを高めている。このため財政赤字拡大の新たな火種の1つとなっている。在庫投資は88年には実質GDPに対しマイナス0.3%の寄与度となったが,89年にはプラス0.4%と積み増しとなった。89年末以降90年にかけて再び在庫調整が行われマイナスの寄与となっている。


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