平成元年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


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I 1988~89年の主要国経済

第3章 イギリス:景気拡大の減速

6. 経済政策

(1) 金融政策――金利は15%へ

経済政策は,財政面,金融面とも引き続きインフレ抑制を最優先としている。金融面では,88年央以降,景気の過熱傾向,物価上昇率の高まり,ポンドの対マルク相場の低下に対し,金利を相ついで引き上げた。イングランド銀行は,88年6月初から11月末までの間に政策金利(介入金利ないし,貸付金利)を累計9回,合計5.5%引き上げて,市中金利の引き上げを誘導した。このため市中銀行の貸出し基準金利(ベース・レート)も,88年5月の7.5%から同11月末には13.0%へ上昇した(第3-5図)。

89年に入ってからも,政策金利は5月および10月に2度引き上げられたが,これらは国内的な要請というよりは,ドル高抑制に対する国際的協調の一環という色彩が強かった。この結果,市中銀行貸出し基準金利は15.0%となり,81年12月以来の高水準となっている。この中で,ローソン蔵相とサッチャー首相(及びイングランド銀行)との意見の対立がみられ,こうしたこともあって10月26日,蔵相は辞任した。

マネーサプライの伸び率規制も続けられているが,87年度以降はMO(流通現金プラス市中銀行のイングランド銀行預け金)のみを指標としている。MOの伸びは,87年度には6.4%増と目標(2~6%)の上限にほぼ沿っていたが,88年度は6.2%増と目標(1~5%)を上回り,89年度に入ってからも目標(1~5%)を上回る伸びを続けている(11月の前年同月比5.6%増)(第3-5図)。なお,M3については,大手の住宅金融組合が銀行に改組したことから,技術的な継続性が失われたため,89年7月以降発表が停止された。これに代わるM4についても89年11月現在,前年同月比17.5%増とより大幅な伸びとなっている。

(2) 財政政策――支出計画の手直し

財政面でも,中期財政金融戦略を基本として,政府支出のGDPに占める割合の引き下げ,財政の均衡化が目標とされているが,90年度には追加的支出増が行われ,政府支出のGDP比が89年度を若干上回るなど,やや引締め緩和の方向で運用されている(第3-9表)。

89年度予算案(89年3月14日発表)は,インフレ抑制を引き続き基本としており,金利をインフレ抑制に必要な限り高水準に維持する一方で,減税は個人所得税基礎控除の引き上げ(インフレ調整)等にとどめ,財政黒字額を140億ポンド(前年度実績見込みと同額)とするなど慎重なものとなった。

主な税制措置としては,①個人所得税の基本税率適用所得上限をインデクセーション条項により,88年末の消費者物価上昇率(6.8%)分を引き上げる(所得税率は25%,40%に据え置き),②各種人的控除を同じく6.8%引き上げる,③老年者(割増)控除適用年齢の引き下げ(現行80歳→75歳以上),④個人株式保有計画(PersonaI Equity Plans)の年間投資限度額引き上げ(現行3,000ポンド→4,800ポンド),⑤法人税の25%軽減税率適用の小規模法人の範囲を拡大(年間利潤額10万ポンド→15万ポンド),⑥相続税課税最低限の引き上げ(課税財産11万ポンド→11.8万ポンド,税判0%は据え置き),⑦付加価値税の課税売上高(免税点)の引き上げ,⑧個別消費税,無鉛ガソリンにががる炭化水素油税の税率引き下げ等,総額21.5億ポンド(物価調整分を除く純額では18.8億ポンド)の減税となっている。

さらに,89年11月15日発表のオータム・ステートメントでは,90年度政府支出のGDPに占める割合を前年度よりも引き上げる(89年度38V4%→90年度39%)とともに,90年度歳出規模を1,790億ポンド(前年度比10.7%増。90年度より新概念)に拡大した。また,国民健康保険,道路,住宅,教育関連等の社会的に必要度の高い項目について重点的に追加支出するとしている。


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