平成元年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]

I 1988~89年の主要国経済

第3章 イギリス:景気拡大の減速

2. 需要動向

実質GDPは82年以降上昇を続けているが,89年に入って拡大テンポは急速に鈍化しており,オータム・スアートメントで政府は89年の成長率見通しを2%に下方改訂した(前3月見通しは212%)。

実質GDP(生産ベース)は,88年4.6%増の後,89年には1~3月期前年同期比2.9%増,4~6月期同2.2%増,7~9月期(速報値)同1.9%増と減速している。前年に過熱傾向を示した内需が,設備投資は依然堅調を続けているものの,個人消費の鎮静化,住宅投資の低迷,在庫調整などから急速に伸びが鈍化していることによる(第3-1表)。一方,外需は輸入の高水準から成長に対するマイナスの寄与が続いていたが,石油輸出の回復などもあって4~6月期の前期比寄与度はプラスとなった(第3-1図)。

(1) 個人消費の鎮静化

実質個人消費(GDPベース)は,86年,87年に5%台の伸びを続けた後,88年には更に加速して6.9%増となった。しかし,89年入り後は,昨夏以降の相つぐ金利引き上げの影響がみられるようになり,1~9月の前年同期比は4.4%増と伸び率が鈍化し,昨年とは様変りとなっている(第3-2表)。

89年には,前年中,各期212%ずつ急増した住宅関連の耐久財(家具,敷物など)の不振が特に目立っている。一方,乗用車は上期には好調が続いたが,下期に入って頭打ちとなり,1~9月の新車登録台数は前年同期比4.7%増に鈍化した(前年同期は同10.5%増)。

小売売上数量(乗用車を含まない。個人消費のシェア約45%)でみると,89年上期前期比1.1%増の後,7~9月期前期比0.6%減,10月前月比0.4%減,11月同0.4%減(前年同月比0.5%増)とこのところ低下している。

こうした個人消費の鎮静化は,第1に,高水準の賃上げが続いているにもかかわらず,物価上昇率の高まりや,89年度所得税減税がインフレ調整程度にとどめられたことなどから,実質可処分所得が89年上期には前年同期比4.5%増(88年は4.9%増)とやや伸びが鈍化したこと,第2に,インフレ率の高まりによる消費者信頼度の低下や金融資産の目減り,第3に,住宅費高騰の一巡など個人金融資産価値の高まりが頭打ちとなったこと,第4に,88年央以降の消費者ローン金利の上昇により,利子所得が増加する一方で,家計の利払い費が急増したこと(可処分所得の13%,OECD,EDRC推計)などから,消費者信用残高が88年8月をピークに前月比増加額を縮小していることなどによるとみられる。この間,個人貯蓄率は,87年の6.2%から88年には4.4%へ低下した後,89年に入って,1~9月平均4.9%とやや上昇している。

(2) 設備投資は依然堅調

総固定資本形成は,87年実質8.8%増,88年13.1%増と急増の後,89年上期には前期比2.5%増と伸びが鈍化した。これは,設備投資は堅調を維持しているものの,住宅投資が88年央以降低下し,低迷していることによる(第3-1図)。

実質民間非住宅投資(総固定資本形成の70.1%,1988年)は,87年14.7%増,88年19.3%増の後,89年に入ってからも高水準を維持している(1~6月の前年同期比10.6%増)。うち製造業投資(リースを含む)は,88年に実質10.8%増,89年1~6月の前年同期比3.7%増となっている。貿易産業省の企業設備投資予測調査(89年6月発表)は,89年実質12.6%増(製造業14.3%増)としている。

企業固定投資の引き続く堅調の要因としては,①企業利潤の着実な増加(87年17.2%増,88年13.6%,89年上期前年同期比15.4%増),②稼働率の高水準(89年7月,90.4%),③1992年EC統合に対処した生産基盤の整備,などがあげられている(第3-2図)。

(3) 住宅投資は低迷

市中金利上昇にともなう住宅ローン金利の大幅上昇による住宅需要減,売れ残り増などから,住宅投資は88年後半以降低下を続け,低迷している(第3-1図)。

実質住宅投資は,88年下期前期比4.1%減(88年は7.l%増)の後,89年上期にも同1.8%減(前年同期比5.9%減)となっている。主として民間住宅が住宅ローン金利の大幅な上昇(88年7月9.76%→11月12.75%→89年9月13.51%)から,これまでの急増が一転して減少し,88年下期前期比2.4%減(88年10.3%増),89年上期同5.1%減(前年同期比7.3%減)となったことによる。公共住宅については,政府の持ち家促進制度(Right to Buy Scheme,RTB)により,公営住宅を入居者に割引き価格で払い下げていることもあって,89年上期前年同期比0.6%増にとどまっている。住宅着工件数は89年1~8月の前年同期比17.1%減(民間部門同18.7%減)と低迷している。このため,住宅価格の急騰もかげを潜め,地域間の上昇率の格差も縮小しており,所得に対する住宅価格の比率も89年に入って低下している(イングランド銀行)。また,住宅抵当金利が88年夏以降上昇に転じたため,住宅抵当貸付額は88年夏以降減少傾向を示している。

(4) 在庫調整続く

在庫投資は88年下期以降は増加に転じ,実質在庫投資の実質GDP寄与度(前期比)は,88年0.7%,89年1~3月期同0.3%となった。しかし,4~6月期には大幅に減少して同マイナス1.2%となっている(第3-1図)。

この中で,小売・卸売の流通部門では89年初に在庫減がみられたが,製造業では前年を上回る増加が続いている(89年1~9月計5.4億ポンド。前年は同3.3億ポンド)。これには予想を上回る需要の低下による予期せざる在庫増が含まれているとみられ,この在庫の規模に応じて,今後の生産と景気に影響をもつことになろう。製造業在庫率(在庫水準/生産,1984年10~12月期=100)は,84年以降低下傾向にあったが,88年央に低下は底入れして,その後は横ばいとなっている(88年7~9月期から89年4~6月期まで83)。


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]