平成元年

年次世界経済報告 本編

自由な経済・貿易が開く長期拡大の道

経済企画庁


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本  文

はじめに

世界経済は83年以降7年目の拡大を続けている。しかも88年は84年に次ぐ第2のスパートを示し,世界貿易の伸びは84年を上回る程であった。本報告ではこのような世界経済の好パフォーマンス及びこれを支える要因について,次に述べる3つの局面から取り上げてみたい。

第1にマクロ経済の局面については,成長の持続,物価上昇の抑制,経常収支不均衡の縮小という本来相互に緊張関係にある3目的が,適切な政策の実行と設備投資ブームというような民間部門の自律的行動とに支えられて,多くの問題をはらみながらも達成されていることである。

第2に,ミクロ経済的・構造的な局面については,世界経済のマクロのパフォーマンスが良好であったことの要因として,家計や企業の貯蓄や投資に関する行動変化があったこと,労働市場,財・サービス市場及び金融市場がより自由に機能するようになったこと,公的部門の介入の縮小により市場機能の活用が図られる分野が拡がったこと等があげられる。例えば労働市場の構造変化は,アメリカ等において従来完全雇用と考えられていた水準に近いところまで雇用が増えても,賃金上昇がかつてに比ベモデレートなものにとどまっている要因となっている。しかし同時に,長期拡大を妨げる要因としてもミクロの構造的要因があげられている。すなわち,世界経済の長期拡大を支える要因として,アメリカ,イギリス等における消費の伸びがあるが,これは一方で低水準の貯蓄率をもたらし,物価上昇の抑制,経常収支赤字の縮小に対するマイナス要因となっている。

第3に,世界貿易の拡大と保護主義のリスクの高まりである。世界貿易は1国の需要拡大を他の国々に伝播するチャネルとして,世界の実質成長を上回る伸びを続けている。アジア・太平洋では日本の成長がNIEs,中国,アセアン等の連鎖的成長に貢献している。ヨーロッパでは市場統合の目標のもとに様変わりの活況を呈している。しかしながら,世界貿易において,一方的制裁措置の発動を前提として相手国に自国品の購入を迫るというアメリカの保護主義が日本を主たる対象として高まっている。このような動きは今回の長期拡大を妨げる大きなリスク要因となってきている。

以下,第1章では88-89年のマクロ経済の動きを,景気拡大テンポの高まりとその後の減速,欧米等の物価上昇の加速とその抑制過程,経常収支不均衡の縮小過程と国際資金フローの拡大の状況,および財政金融政策を中心に振り返り,世界経済が物価上昇を抑えつつ,急激な経済変動なく潜在成長率近辺の成長軌道に乗るとの,いわゆる軟着陸が可能かどうかの判断の材料としたい。第2章では,家計の消費・貯蓄行動,企業の投資行動,労働市場の構造変化,公的規制の緩和,金融資本市場自由化等のミクロ的・構造的要因が長期景気拡大を支える要因となっている状況を明らかにするとともに,貯蓄率低下やM&A等に行き過ぎがある場合の問題点,労働市場の柔軟性や公的規制緩和が不足している場合の問題点を指摘する。また構造改革が社会主義諸国に及んでいる状況をみる。第3章では,世界貿易の現状を,アメリカの行動,日本の立場も含めて理解を深めるため,世界貿易を150年を超える歴史的視点と,80年代の構造変化の視点から眺め,過去においても現在においても企業行動が国際競争力の強化・弱化の大きな要因であることを示す。さらに世界貿易拡大の核となってきたアジア・太平洋貿易,拡大テンポを高めるEC,EFTA等のヨーロッパ貿易の現状をみる。


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