昭和63年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


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I 1987~88年の主要国経済

第3章 イギリス:内需中心にブーム化

6. 経済政策

(1)金融政策‐‐88年央以来,金利引き上げ

金融政策は,引き続き中期財政金融戦略(MTFS)の枠組みの中で,物価の安定を達成することを最終目的としており,このところの景気の過熱傾向を背景に,88年6月初来,金利が大幅に引き上げられるなど,引締め色を鮮明にしている。

中心的な政策手段は,85年秋以来,短期金利とされており,イングランド銀行の市場介入金利ないし市場貸出し,金利にほぼ追随して,市中銀行貸出し基準金利(ベース・レート)もこのところ頻繁に変更されている。87年夏以来の基準金利の動きをみると,87年8月初旬に,景気の過熱傾向や将来のインフレ懸念などから引き上げられたが,10月中旬の株価大幅低下以降は景気面へのマイナスの影響などを緩和するため,年末まで連続三回引き下げられた。88年に入ってからも,年初にポンドが弱くなった時期に一度引き上げられたのを除いて,ポンドの対マルク・レートが強くなったのを背景に,5月まで金利は相ついで引き下げられた。この過程で,為替レートの安定を重視する蔵相と,インフレ懸念を重視するサッチャー首相(及びイングランド銀行)との見方の対立もみられた。しかし,6月初以降は,ポンドの対マルク・レートが低下し,景気の過熱傾向が強まる中で,インフレ重視が確認され,8月下旬までに連続8回,累計4.5%引き上げられて12.0%となった。その後,11月下旬,貿易収支赤字幅の急拡大を背景に更に1%引き上げられて13.0%と85年春の水準まで高まった(11月25日実施)(第3-6図)。

マネーサプライの伸び率規制も続けられているが,87年度以降はM0(流通現金プラス市中銀行のイングランド銀行預け金)のみを指標としている。M0の伸びは,87年度には6.4%増と目標(2~6%)の上限にほぼ則していたが,88年度に入って4~9月の3月対比は年率12.4%増と目標(1~5%)を大幅に上回っている(第3-6図)。また,M3,M4についてもそれぞれ同25.2%増,20.6%増とより大幅な伸びとなっている。

(2)財政政策‐‐支出計画の手直し

財政面でも,中期財政金融戦略を基本として,政府支出のGDPに占める割合の引き下げ,均衡財政の維持が図られているが,前2年度についで,88年度にも支出計画が上方改訂されるなど,やや引締め緩和の方向で運用されている(第3-8表)。

88年度予算案(88年3月15日発表)は,インフレを克服し,持続的成長をもたらす強力な民間主導経済の確立を引き続き主目標として,①中期財政金融戦略にしたがって,GDPに占める租税及び政府支出の比率を引き下げて,中期的に均衡財政を維持し,マネーサプライの伸び率を抑制する,②同時に,サプライ・サイドの改善のため,企業力の強化,経済の効率及び弾力性の向上を目指す新しい措置をとる,③中央政府歳出規模は,87年11月のオータム・ステイトメント(財政支出計画概要)による上方修正を含め1,585億ポンド,前年度当初予算比5.5%増と物価上昇の見通し(4%)を上回る,④石油関連収入は30億ポンドに小幅化するが,景気拡大の持続による自然増収,民営化の収益(50億ポンド)等により,財政収支は30億ポンドの黒字となる見通し,⑤所得税基本税率の引き下げ(27%→25%),高率税率の一本化,所得税基礎控除等の引き上げ(人的控除)を中心とする総額4,275億ポンドの減税(物価調整分を除くと3,985億ポンド),などの内容となっている(付注参照)。

さらに,88年11月1日発表のオータム・ステイトメントでは,政府支出のGDPに占める割合の引き下げ(87年度411/4%→89年度391/4%)を継続しつつ,89年度歳出規模を当初計画の1,671億ポンド゛(88年度当初予算比6.5%増)とするなどの予算編成方針を明らかにした。こうした手直しは,経済成長の持続により歳入が予想を上回って伸びる一方で,失業給付,利払いの減少などにより歳出が抑制され,前年度に続いて,財政黒字(Pub1ic Sector Debt Repayment,PSDR)が,88年度には98億ポンドと当初見通しの32億ポンドを大幅に上回る見通しとなったことを背景としている。


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