昭和63年

世界経済白書 本編

変わる資金循環と進む構造調整

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

第2章 変貌する世界の資金循環

83年以降,①世界経済の拡大,②経常収支不均衡の拡大,③国際的な金融・資本移動の活発化の3つの現象は相互に増幅し合いながら継続してきた。すなわち,不均衡は国際金融・資本取引の十分な厚みなしには吸収され得なかったであろうし,また不均衡自体はより一層の国際資本取引への需要を生み出した。

一方,不均衡がスムーズにファイナンスされなければ,世界経済の拡大自体止まらざるを得なかったであろう反面,ファイナンスが可能であったことによって一層の不均衡継続が許容されたともいえる。

こうした不均衡累積の金融面での第1の帰結は,世界の資金循環の変化である。従来の債権国アメリカは世界最大の債務国かつ資金需要国へと転じ,西ドイツ,日本が債権国かつ資本供給国としての地位を高めたほか,ストックベースではなお債務国にあるアジアNIEsもフローでは資本供給国に転じたのである。この資金循環の変化の中で,資本供給国と基軸通貨国が一致していないことや,世界の資金がアメリカに集中する一方,累積債務国等の通常の民間市場での資金調達はますます難しくなるなど,新たな問題が生じている。

一方,不均衡累積の第2の帰結(よ,不均衡の調節ないし,不均衡のしわよせが国際金融・資本市場にかかってきたことである。この結果,為替レート,金利,株式価格等の変動が大きくなり,かつ,その変動のスピード,程度においてやや行き過ぎがみられた形跡があり,実体経済にも少なからず影響を与えるようになったといわざるを得ない。また,こうした資産価格の変動がリスク回避のための金融イノベーションを促すことになり,国際金融の効率化という点では成果があったものの,一方で国際金融システムの安定性を損なう可能性があるとの見方がないわけではない。こうした中で,経常収支不均衡を縮小し,国際金融システムの健全性を維持するための主要国の国際政策協調を継続・強化する必要がますます高まっており,世界最大の債権国である日本は積極的にイニシアチブをとることが求められている。以下,第1節で現時点の国際金融・資本市場及び資金循環構造のアウトラインをみた後,第2節,第3節では,アメリカから西ドイツ,日本への資本供給国の変遷とその構造面の特質,問題点等について分析する。第4節では,累積債務問題の新たな展開に焦点をあて,第5節で現代の国際金融・資本市場の発展の内容を踏まえながら,その問題点及び対応等を考える。


[目次] [年次リスト]