昭和62年

年次世界経済白書

政策協調と活力ある国際分業を目指して

経済企画庁


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第1章 世界経済拡大の持続

第6節 改革への動きをみせる共産圏経済

1. ソ連・東欧,経済改革への動き

(1) 経済の現況

ソ連・東欧経済は,70年代後半から成長率が鈍化傾向を示し,その後80年代に入っても総じて不調な推移をたどってきたが,85年,86年とやや回復の傾向もみられる。しかし,ソ連では,87年に入り,寒波の影響等もあって,1~9月期ではやや停滞した。

(ソ  連)

86年のソ連経済は,改善傾向を示した85年に続き,総じて堅調であった。工業総生産は労働生産性の上昇に支えられて前年比4.9%増(計画値は同4.3%増),農業総生産も穀物生産が78年来の2億トン台を回復した結果5.1%増(当初計画値は同4.4%増)となった(第1-6-1表)。一方,貿易は輸出が前年比5.9%減,輸入が同9.9%減と不振であった。これは,主に西側先進国に対する輸出が,その6割以上を占める石油・石油製品の国際価格低落により激減し(前年比29.3%減)これとともに輸入も大幅な抑制策がとられたためである。対西側先進国の貿易収支は27.2億ルーブル(約38憶ドル)の赤字となった。

87年に入っては,年初の寒波の影響で生産活動が停滞し,工業,農業とも1~9月期の計画は未達成となった。貿易は1~6月期の輸出入額とも前年同期を下回ったが,輸入抑制策が強化された結果,対西側貿易収支赤字は9.4億ルーブルまで縮小した。

(東  欧)

東欧諸国は,80年代に入って累積債務問題(例えば,ポーランドでは86年末の対西側債務残高335億ドル等)に苦慮しており,外貨不足から輸入制限を行ってきた。しかし,これにより西側からの資本財輸入が減少した結果,西側との技術格差が拡大し,輸入工業品の国際競争力が低下するなど問題も生じてきた。

84年頃には東欧各国の経済状況も上向き,また一部を除き累積債務問題もやや改善されてきたことから,その後機械・設備等の資本財輸入を増やしたり,また西側との合弁企業を認めるなど,積極的な西側技術導入による国際競争力強化,輸出振興等に努めようとする動きがみられる。他方,石油価格の下落,ドル安等の下に対西側先進国との交易条件が悪化する中で,85年以降累積債務が再び急増している。

86年の東欧諸国をみると(第1-6-2表),ポーランド,ブルガリアの成長率は計画を達成し,東ドイツ,チェコスロバキアもほぼ計画を達成したが,ハンガリー,ルーマニアは計画未達成となった。ハンガリーは,85年,86年と干ばつの影響から農業生産が不振であり,また東欧一の産油国であるルーマニアは,石油の国際価格低落の影響で石油輸出額の落ち込みが激しく,成長の足を引っ張っている。

(2) ソ連・東欧の経済改革

ソ連では,ゴルバチョフ政権による「ペレストロイカ」(改革)が進行中であるが,87年に入って更に活発化し,①貿易の自由化促進により輸出振興を図る新貿易制度,②西側との合弁企業の設立を認める合弁企業法,③自己資金調達制と完全独立採算制を中心とした国家企業法など新たな改革が推進されている。

①の新貿易制度は,従来外国貿易省に集中していた貿易権限を,一定の範囲内で他の省庁・企業にも認め,貿易取引の活性化と輸出促進を図るものである。

②の合弁企業法は,西側の技術や効率的な経営方法を吸収することを目的に,ソ連国内における西側との合弁企業の設立を認めるものである。③の国家企業法は,従来政府財政に頼っていた資金調達を企業自らの収益と銀行借入れによりまかなうという自己資金調達制をとることにより,企業が財政的に完全な独立採算制となることを目標とするものであり,また,経営面においても,企業に製品の生産量,労働者の賃金,材料・資材の調達等の決定権限が与えられる。

このように,国家企業法は企業の自主権を拡大するとともに,経営の責任を企業に課すことで効率化を進め,併せて品質向上を図るものである。

東欧諸国においても,計画経済により生じる歪みや非効率を市場経済・競争原理の活用によって補うとの観点から,貿易自由化,西側との合弁企業設立,企業の自主権拡大等が推進されている。ポーランド,ハンガリーでは,資金調達多様化,民間資金活用,従業員持株制度による労働意欲向上等をめざして,企業が独自の判断で株式発行を行うことが予定されているが,特にハンガリーでは,既に債券市場が機能しており,商業銀行も活発に活動しているなど,企業の株式発行の素地ができている。ポーランドではこの他に,巨額の累積債務の株式化を通じてポーランドでの西側企業の合弁会社の設立を促進することなどに取り組んでいる。チェコでは,為替制度,企業の自主的資金調達,労働者の経営参加等についての改革が推進され,また,ソ連,ブルガリア等に続いて一部での個人営業が認められるなど,経済の自由化・活性化へむけての動きがみられる。

社会主義経済体制のソ連・東欧諸国において,市場経済・競争原理の活用による改革が,中・長期的にいかなる成果をもたらすか,今後とも注目される。

2. 改革の動き続く中国経済

(86年の経済引締めの成否)

86年から開始された第7次5か年計画では,84年後半から85年にかけて生じた経済過熱を鎮静化し,経済成長のスピードを正常に戻すことを,86,87年の目標としていた。このため,86年と87年の2年間は,投資の伸びをゼロに抑えるとともに,賃金や消費の面でも低めの計画が設定されていた。しかし,86年の実績をみると,85年の伸びよりは低下したものの,計画値を大幅に上回る指標が多く,当初の政府の意図は十分に達せられなかったといえよう (第1-6-3表)。

まず投資部門をみると,国営企業の固定資産投資は前年比6.5%減と計画されていたが,実際には12.2%増となった。投資資金の内訳をみると,国家予算からの投資はかなり抑制されたものの,自己資金や銀行からの借り入れによる投資の伸びが大きくなっており,これらに対する抑制が不十分であった。

また消費も拡大し,商品小売総額は前年比15.0%増となった。この背景としては,全国の職員・労働者の賃金総額が,前年比10.1%増にとどめるという計画に対して,実績では同20.O%増と急増したことがあげられる。なお,一人当たりの実質賃金の伸びは,前年比9.O%増となっており,労働生産性の伸びの同4.0%増を大きく上回った。

一方,生産をみると,鉱工業総生産額の伸びは前年比11.4%増(計画8.8%増),農業総生産額は同3.5%増(計画3%増)となり,計画をやや上回って達成したものの,その伸びは投資・消費等需要の伸びと比べて低く,この結果需給の逼迫,物価の上昇(前年比6%上昇)等の問題が残った。

また,企業の流動資金の引締めなどの影響から,85年末に鉱工業生産の伸び率が急激に鈍化し(第1-6-1図),赤字化する企業が増えた。このため,86年の国営工業企業が国家に上納した利潤と税金の合計額は前年比0.2%減となり,国家財政収入の減少につながった他,赤字企業に対する補填等財政支出の増加などもあって,財政収支は大幅な赤字に転じた。

貿易についてみると(通関・元建て,第1-6-2図),輸出は,原油価格の下落が減少要因となったが,86年7月の為替の切り下げ(対ドル約16%)以来,繊維・衣類の輸出が好調となったことから,輸出全体としては高い伸びを維持した。一方輸入は,85年に急拡大した自動車等耐久消費財の輸入は抑制されたものの,第7次5か年計画に基づく資本財輸入が若干増えた。この結果,貿易収支赤字は85年の149億ドルから縮小したが,依然120億ドルと大きく,外貨準備高も更に縮小して105億ドルとなった。

このように,当局の当初の引締め意図からすれば,86年の実績は不十分なものであった。この要因としては,第7次5か年計画の初年に当たり,新計画に基づく投資が多かったこと等が考えられるが,経済開放・経済改革の動きの活発化も背景にあったといえよう。この動きは主に,経済に対する政治の介入を切り離し,経済の活性化を図ろうとするもので,社会主義経済の中に市場メカニズムを更に大幅に持ち込もうとする動きであった。しかし,一連の改革のテンポの速さに対しては,指導部の一部の反発も一時あったとの見方もある。

(87年は抑制策を続行)

87年3月から開催された第6期全国人民代表大会第5回会議において,87年の政府の活動方針が示された。それによれば,①87年も引続き投資・消費・賃金の面で抑制を行うこと,②大・中型企業の活性化及び経済効率の上昇,③農業の増産等が重点としてあげられている。

これに基づき,87年計画の目標では投資の伸び率をゼロとし,消費・賃金の伸びを低めに設定するとともに,87年春からは,基本建設投資項目(新規設備投資に公共投資を加えたもの)の審査に基づく中止・延期を行っている。また経営請負責任制(様々な形態があるが,代表的なものでは,税と利潤の上納に責任を負い,残った利潤は自ら投資・分配し,赤字は自ら補填する)と工場長責任制(企業の経営方針に対する党の影響力をなくす)を87年から本格的に推進しており,従来の経済体制改革の基本路線は継続されているとみることができる。また,農業については,食糧生産4億トンの確保を目指し,年初から重点的に肥料や農業機械の投入が行われた。

(87年経済の動向)

以上の方針の下,中国経済はいくつかの面で改善の兆しをみせている。まず,鉱工業総生産は目標の7%増を上回る前年同期比15%増程度の高い伸びを続けているが,これは,鉱工業総生産額を季節調整したものでみると(第1-6-1図),81年からの長期トレンドにあったものであるといえる。また,企業が国家に上納した利潤と税金の合計額の前年同期比も,87年5月以降,それまでの減少基調から上昇へ向かっている。貿易動向をみても(第1-6-2図),輸出は,86年7月の為替の切り下げ(対ドル約16%)が行われて以来,繊維・衣類を中心に引続き好調に伸びている一方,輸入は,輸入制限品目の拡大や輸入補助金の撤廃等の輸入抑制策によって,低い伸びに止まっている。この結果,87年1~9月の貿易収支赤字は約27億ドルと,前年同期の3分の1以下に縮小し,このため外貨準備高も9月末には140億ドルと大きく改善した。しかし,87年上半期の投資・消費をみると,依然として計画を上回る伸びとなっており,このため,需要の伸びに供給が追いつかず,物価が引続き高い上昇を続けている(87年計画の6%以下に対し,6月前年同月比7.8%上昇)。