昭和57年

年次世界経済報告

回復への道を求める世界経済 

昭和57年12月24日

経済企画庁


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第3章 深刻化する欧米の失業問題

第3節 需要要因及び構造・制度的要因の影響

1. 総需要不足の拡大

1973年の第1次石油危機によるエネルギー価格の急騰は,石油輸入国から産油国へ大量の所得移転を引き起こし,その多くが石油輸入消費国である先進諸国の経済は,国内需要の大幅な落ち込みから,従来の景気後退時に比べ急速かつ大幅な不況に見舞われた。こうしたデフレ効果に加え危機直前に多くの国で景気が過熱気味で,在庫水準が高かったこともあり,需給ギャップ調整のための減産,雇用調整は大幅なものとなった。その後,76~79年の景気回復期に雇用情勢もある程度回復をみせるが,79年初に第2次石油危機が発生し,再び大幅なデフレ効果を受け,その後景気停滞が長びく中で,雇用調整が一段と進行している。

こうした2度にわたる石油危機の第1次的な衝撃ともいうべきデフレ効果の影響の特徴は,従来の景気後退期に比べ経済全般の需給ギャップが急激に拡大した点である。それだけに労働力需要の減少も急激かつ大幅であったといえよう。 第3-3-1図 は60年代から80年にかけての主要国のGNPギャップ(試算による能力GNPと実績GNPの差を前者で除したもの)と,失業者数,失業率の推移をみたものである。各国とも第1次石油危機後,特に75年においてGNPギャップは急拡大し,失業者は急増した。第2次石油危機後においても,国により景気後退の時期やテンポに差があるものの,ほとんどの国で80年または81年にはマイナス成長となり,その後全般的に景気停滞が続く中でGNPギャップは高水準で推移し,これに対応して雇用指数はほぼ一貫して悪化を続けている。

また第2次石油危機後の景気後退の長期化の背景として特徴的なことは,多くの国で財政・金融両面にわたる引締政策が続けられた点である。第2章に述べられたように,多くの国の政策が金融引締め,財政支出抑制に向けられる中で,特にアリメカを中心に長期に及ぶ高金利が現出し,これが総需要回復を遅らせ景気停滞を長引かせることを通じて,雇用情勢悪化を助長したものとみられる。

2. 拡大・加速化する雇用調整

(減量経営の進行)

前述のように2度の石油危機後の総需要減少に伴う産出量の落ち込みの規模自体が従来に比べて大きかっただけでなく,①産出量の減少に対する雇用削減の程度が従来に比べて拡大したこと,即ち雇用の生産弾性値が上昇したこと,②雇用削減の調整速度が速まったことが,こうした景気後退下の失業増大を助長したといえる。第3-3-2図は各国の過去3回の景気後退期における製造業の雇用者数の生産弾性値(生産量の変化に対する雇用者数の変化の度合)及び雇用調整速度( 付注3-1 参照)を示したものである。アメリカ・カナダでは,レイオフ制の普及により,従来から雇用の生産弾性値,雇用調整速度とも大きかったが,これが,さらに高まる傾向をみせている。また,従来比較的緩かであったイギリスでも今回の後退期においては前回に比べ,雇用の生産弾性値,調整速度が上昇しているほか,西ドイツでも調整速度が上昇している。

これに加えて重要な点は,第1次石油危機後,76年から79年にかけての景気回復局面において多くの国で,産出量が回復・拡大したにもかかわらず,雇用は十分な回復をみせなかったことである。このためこの間の失業率が従来の好況期に比べ高水準にとどまる一要因となった。76年から79年にかけて各国製造業の生産は回復・拡大をみせたが,製造業の雇用者数はアメリカ・カナダでは一応の回復を示したものの,西ドイツではほとんど回復しなかったほか,イギリス・フランスでは減少を続けた。

こうした現象は,製造業を中心とした第2次産業分野で顕著であり,企業のいわゆる減量経営の進行を端的に示すものである。

(雇用調整拡大の背景)

こうした企業の雇用減量の背景には,基本的には,石油危機等を契機とした経済成長力鈍化,既存の産業構造の適応能力の低下,財の需給・価格等に関する不確実性の増大などによる企業経営環境の悪化あるいは不安定化があった。

石油危機によるエネルギー価格の急騰は,主な生産要素である労働と資本のそれぞれの報酬である実質賃金率・実質利潤率の双方を引下げると同時に,全体の生産性の伸びを抑制する影響をもつとみられる。こうした供給面のショックが発生した後は,まず利潤率が低下し,雇用・投資の削減・抑制が行なわれ,しかるのち賃金上昇率の低下・利潤率の回復をへて,雇用・役資の回復と利潤の拡大に至るという調整過程が考えられよう。第3-3-3図において第1次石油危機後の経過をみると,国により差はあるが概ねこうしたプロセスから,76~78年にかけて利潤率は一応の回復をみせている。しかし,その水準は多くの国で,第1次石油危機前を下回り,その回復水準がより低かった西ドイツ,イギリスの製造業では,前述したように,雇用回復に至らなかった。さらに,その後再び石油危機の衝撃を受けたことに加え,80~82年にかけてのアリメカを中心とした高金利の現出による直接的な金利負担の増大等から,欧米企業の業績・財務内容は急速に悪化している。

このような企業の利潤動向の中で,労使間の賃金・雇用決定に関する慣行・制度は雇用調整にどう影響しただろうか。

(賃金及び労働コストの問題)

資本の収益力が弱まる一方で,所得の労働分配率は,特にヨーロッパを中心に近年上昇傾向をみせている(第2-4-1図)。また,実質賃金水準もデフレ局面の一時期を除き多くの国で上昇した時期が多い(第3-3-3図)。こうした実質賃金上昇が労働生産性の上昇によりエネルギー価格上昇等による交易条件の変化の影響を吸収した上でのものであれば,利潤率に対しては中立的と考えられる。しかし,こうした一定の労働分配率下で労働生産性や交易条件の変化を考慮した「中立的実質賃金上昇率」に対し,実績上の実質賃金上昇率は,西ヨーロッパ各国で第1次石油危機後2年以上上回り続けたほか,第2次石油危機後の80年以降再び超過ギャップを生じている(第2-4-1図)。このように賃金面の調整にはかなりの遅れを生じており,76~79年の景気回復局面での企業の雇用抑制の一因をなしたとみられる。

こうした賃金や労働コストの上昇傾向あるいは非弾力化の背景には,①インフレ高進下の労使間賃金交渉の過程で,多くの国で実質賃金確保の動きが強く,また,一部の国にみられる賃金の物価スライド制がこれを支えたこと,②労働費用中の賃金外労働コストが,付加給付を中心として相対的に高まり,労働費用の固定化をもたらしてきていること,などが考えられる。

第3-3-1表は,賃金の物価スライド制の普及しているアリメカ,フランス,イタリアにおけるその概要である。これらの物価スライド制は,インフレ懸念が強い中で実質賃金の目減りを遅滞なく補填するという基本的ねらいをもち,無秩序な賃金交渉による賃金・物価上昇のスパイラルを回避しうるという利点を有する一方,①石油危機のような外的衝撃によって物価上昇が引き起こされた場合に,これがそのまま国内波及し易いこと,②生産性の伸びを上回る賃上げをもたらし易く,販売価格転嫁が可能な場合にはインフレを助長すること,③一部産業では,国際競争力の低下を加速し,構造調整が速やかに進まない状況下で構造不況化する可能性があることなど,賃金の非弾力化の欠点を持っている。各国の賃金上昇に対する労働需給,物価上昇,過去の賃金上昇の影響をみると( 付注3-2 参照),物価スライド制の普及しているフランス,イタリアでは,賃金上昇に関し,労働力需給の影響はあまりみられず,物価上昇率の影響が大きい。なお,アメリカでは労働協約期間が通常3年と長いことから,以前に締結された引上げ分の影響が大きく,この点から,賃金は労働力需給に対して非弾力的になっているといえよう。また,イギリスでは現在,制度的な賃金の物価スライド制は採られていないものの,賃金交渉にはインフレ高進の中で,実質賃金確保に対する労働組合側の強い姿勢が反映している。

次に,第3-3-4図にみるように労働費用全体に占める賃金外労働コストの割合は,ほとんどの国で,不就業日手当や社会保障費用等を中心に60年代以降増加傾向を続けている。また,大陸ヨーロッパ諸国において,決定社会保障費の割合が大きいことから,賃金外労働コストの割合が大きい点が特徴である。これら付加給付は,本来,景気変動による雇用者の所得不安定性を緩和させる側面をもっており,必ずしも全体的に労働コストの水準を引上けたとはいえない。また,企業の社会保障負担の程度についても,社会保障支出の制度的枠組や財源形態に依存しており,これら直接的な拠出金負担だげでなく,法人税の水準等,総合的にみる必要がある。とはいえ,使用者側にとって,こうした明示的な付加給付の相対的増加が,雇用に対する負担感を助長した可能性もある。

(雇用慣行・制度上の問題)

アメリカやカナダでは,雇用調整は一般にレイオフ(一時解雇)により実施される。この一時解雇期間は,短期とは限らず,長期に及ぶ場合や,結果的に雇用関係の終了となる場合もある。賃金面における労働組合側の強い姿勢とは裏腹に,雇用調整決定が使用者側にとって比較的容易である点が特徴的で,不況期の失業急増の一因となっている。また,多くの労働協約において先任権原則が採られており,雇用調整の過程で,勤続期間の長い中高年齢層が優遇されている一方,若年層は失業状態が長期化しがちであるという問題もある。

他方,西ヨーロッパ諸国では,雇用調整は次のような特徴をもっている。

①主に当該労働者の労働契約の解除(解雇,勧奨退職)または協議によって実施される傾向がある。②極く短期間の操業停止を必要とするような状況下では,時限的なレイオフが行なわれるが,この場合,通常,賃金や雇用関係給付は存続し,労使間の雇用関係は維持されている。③剰員解雇に際し,監督行政機関や労働者代表への事前通告義務や労使間の事前協議など抑制措置が多い。④ワーク・シェアリング等による雇用削減回避策も図られるなど,アメリカ等に比べ雇用確保への志向は強いといえよう。

しかし,日本のように終身雇用制が普及し雇用調整の場合にも企業内配置転換や関連企業出向,賃金の一部を支給する期限付きレイオフ等により常用者解雇が極力回避される傾向のある国に比べると,アメリカはもとより,ヨーロッパ各国においても,雇用削減は進みやすい土壌にあったといえよう。

そのほか,70年代においては,西ヨーロッパを中心に,解雇規制の強化が進行したが,これらの措置は,解雇コストを上昇させることにより雇用維持に寄与したとみられる一方,使用者側が新規雇用の選択に際し,より慎重化する一因となったとみられる。

3. 設備投資の伸びの鈍化の影響

(増能力投資の停滞)

これまでみてきたような第1次石油危機後における経済全般の需給ギャップの拡大,企業収益力の弱まり,経済資源に関する不確実性の増大等を背景に,多くの国で73~79年にかけての実質設備投資の伸びは,従前に比べ鈍化した(第3-3-2表)。特に,西ドイツ,イギリスで鈍化が著しかった。これに伴い粗資本ストックの伸びも鈍化しており,中でもこの間労働力人口の高い伸びをみせたアメリカ,カナダ,イギリスでは,労働力人口ベースの資本・労働比率の伸びは,低水準となった。

また,こうした粗資本ストックの伸びの鈍化自体に加え,エネルギー価格の急騰は,既存資本設備の一部を不採算化・陳腐化させ,同時に省エネ投資等要素代替投資の比重を増加させたことから,生産設備能力の伸びは,一層鈍化したものとみられる。第3-3-2表で多くの国において純資本ストックの伸びが粗資本ストックの伸びを下回る傾向をみせているのは,通常大幅な能力増加を伴う新設プラント等の長期耐用資産投資が相対的に減少し,比較的耐用期間の短かい投資の比重が増加していることを示唆している。また製造業の生産能力の伸びは,明らかに鈍化している。

こうした増能力投資の停滞,生産設備能力の伸びの鈍化が,雇用吸収力の弱まりとなって,失業増加の一原因を構成しているとみられる。第1次石油危機以降,製造業の雇用者の伸びが一貫して停滞・減少をみせている西ドイツ,イギリス,フランスにおいて,設備投資の伸びの落ち込みが大きく,生産能力の伸びが年率1%台の低水準となっているのはこうした関係を物語るものであろう。

(技術革新による省力化投資の問題)

前述した要素代替投資の一環として技術革新による省力化投資の問題がある。とりわけ近年急速な進歩と産業への普及をとげつつあるマイクロエレクトロニクス(以下MEと略す)については,その技術進歩が急速なことから市場構造,生産構造を急激に変化させ,その結果,労働,雇用にこれまでにない大きな影響を与えるという問題認識が強くなっている。すなわちMEの開発・普及は生産性の向上・新規雇用の創出をもたらす一方で,導入に際し多くの場合合理化を伴うことから,既存の労働者の職場を奪い失業増加を生むとの懸念が,特にヨーロッパ諸国を中心に高まっている。こうした関心の高まりから,MEの経済・雇用に及ぼす影響に関する調査が近年,OECD,EC委員会,ILO等の各機関から発表されている(付注3-3参照)。ME化がこれまで失業増加を招く要因となっているかという点はもとより,今後失業増加を生むかどうかについても,現段階では必ずしも明確ではない。しかし,これらの調査報告に総じて指摘されているように,今後の問題として,これら新技術に関連した産業や技術・研究開発部門等での新規雇用機会が増加する一方,製造・加工工程の省力化,事務・管理技術の自動化等により,製造・事務部門,あるいは非熟練の労働者の雇用機会は減少する可能性がある。こうした産業間,職種間,職能水準間の雇用状況の跛行性が強まる場合,後述するような政策的対応を含め,その調整が必要となろう。

4. 摩擦的失業と自発的失業

これまでみてきたような労働力供給過剰や需要不足に基づく失業の問題のほかに,未充足の求人と未充足の求職(失業)が併存し,両者が結びつかないことによる失業の問題がある。これらは大きくは,①供給労働力の流動性の弱さや両者の斡旋機能の不十分さ等に由来するいわゆる摩擦的失業と②適職探し等に由来するいわば自発的失業とに区分できよう。

(摩擦的失業の増加)

労働市場という人的市場は財貨市場に比べ,一般的に供給面における弾力性に乏しい。すなわち,必要とされる労働力が,生産されるべき財の需要・生産の規模や構造の変化に応じて,質量ともにかなりの変化をみせるのに対し,供給される労働力は量的にも質的にも急速には変化しにくいという特徴がある。そこでこの調整には時間を要するほか,調整しきれない部分も発生しうる。これが一方で未充足の労働需要が存在しつつも,これに供給側の労働力が結びつかない需給ミスマッチの摩擦的失業が存在する理由である。労働需要の質量にわたる変化が加速する状況においてはこうした摩擦的失業が増加して,全体の失業水準を押し上げることになるといえよう。

70年代において,2度にわたる石油危機や技術革新あるいは生活行動形態の変化等は,財・サービスの需要構造の変化をもたらし既存の産業構造に大きな影響を与え,産業別の成長・停滞の跛行性を生んでいる。また,これが地域的な成長・停滞の跛行性に結びついている。したがって第1節において就業構造の変化としてみたように労働力需要の産業別・職種別・地域別格差は,近年拡大しているとみられる。一方,供給側の労働力の地域間流動性及び職種間流動性は依然十分とはいえない。前者の背景としては,持家が増加している一方で住宅市場の機能が十分でないことや地方政府の住民定着化政策などが考えられる。後者の要因としてはME等の技術革新を背景とした知識集約的労働化傾向の加速により,転職が容易でなくなりつつあることや未熟練の若年労働力・女性労働力の増加などが考えられる。

また,このような摩擦的失業の背景には,求人,求職の情報体制や斡旋機能が,範囲の面や調整力の面で必ずしも十分でないことも指摘できよう。 第3-3-5図 は,60年代以降の各国の失業と未充足求人の相関を示したものである。基本的には,景気変動の中で両者は逆相関の動きを示しているが,この間,アメリカ,イギリスでは,トレード・オフ曲線が右上方に移行しており,需給ミスマッチの程度が高まり,摩擦的失業が増加傾向をみせたことを示唆している。

(自発的失業の動向)

一方,労働供給側の意図に基づくいわゆる自発的失業の動向はどうであろうか。

自発的失業は通常,より適した職,条件の良い職を求めるジョブ・サーチが主体とみられる。その動機は多岐にわたり,また景気動向等にも影響されるとみられ,これを厳密にとらえた資料は乏しい。各国の事由別失業者の区分をみると,厳密な意味での自発的失業を区分したものではないが,アメリカの区分では離職者(jobleavers)が,ECの区分では辞職(resignation)及び自発的待機(voluntaryspe11)が自己都合による転職の過渡的状況や自発的な失業状況を一部表わしている(第3-3-6図)。これによると,特に最近の景気停滞の長期化を背景にこれら失業者の全体に占めるシェアは低下をみせているが,中長期的にみるとアメリカでは離職失業者の全体の労働力人口に対する比率は70年から73年にかけて0.3%ポイント上昇して0.8~0.9%程度となり,その後比較的安定的に推移している。また,西ヨーロッパでは全体の失業者数が増加する中で,辞職・自発的待機の失業者も増加をみせている。これらの対労働力人口比率はEC全体では73年から75年にかけて約0.5%ポイント上昇して1.0%程度となり,その後ほぼこの水準で推移している。これは70年代の一時期において,先進国における自発的失業の水準が高まり,全体の失業率をわずかながら押し上げたことを示している。

このように自発的失業水準を高めた要因として,次のことが指摘できよう。

まず,①若年及び女性労働力の増加の影響が考えられる。すなわちこれらの労働力の一部は,親あるいは夫など他に家計を支える家族を有していることから,転職や職探しの長期化が比較的容易であったとみられる。また,サービス産業等を中心とした職種の多様化が,こうした若年層の転職や女性の労働参加を促したことも影響したといえる。②高学歴化を背景に,仕事内容への期待が高まり,現実の労働需要内容との不一致が一部拡大したとみられる。このほか,③失業給付などの社会保障制度の拡充が,求職活動の長期化を促し,自発的失業増加の原因となったとの見方がある。この問題について次にみてみよう。

(失業給付制度と失業増加の問題)

失業保険や失業扶助手当等の失業給付は,雇用保障制度のひとつとして雇用者の生活安定を目的としたものであると同時に通常,好況期に積立てられ不況期に給付されることから,景気変動に対し自動安定化装置としての機能を持っている。こうした観点から第1次石油危機後の不況に際し多くの国で,給付資格制限の緩和,給付水準の引き上げ,給付期間の延長等,失業給付の拡充が行なわれた(第3-3-3表)。

こうした失業給付の拡充は,前述のとおり次の2つのタイプの失業増加を助長することが指摘されている。第1は,失業者により良い求職活動を行なわせ,または給付期間終了まで就職しないことを助長することである。第2は,本来就職意欲のない者まで失業化させ,あるいは労働インセンティブ自体をも失わせることであり,特に,アメリカにおいて雇用調整の際,労働組合や労働者が,時間短縮よりも一時解雇を選択する傾向にあるのも,この影響とみる見方がある。しかし,両者の区分は困難であり,また失業給付の拡充がその前後の失業率にどの程度影響を与えたかについても,見方が分かれている。(注)

最近のOECDの委託研究報告ではこの問題に関して次の点が指摘されている。即ち,①失業給付の普及率の増加と給付水準の上昇は,従来ならば労働力から離脱したとみられる人を給付期間一杯求職登録状態にとどめ,また特に若年・既婚女性に対し給付資格取得促進の効果を及ぼすことを通じて,全体の労働力率の上昇に影響を与えた可能性があること,②アメリカ,イギリスの失業者の個別行動調査によると,失業給付の増額・期間延長に対応して,失業期間が長くなった傾向が多少見られること,③しかし,失業給付の拡充が失業上昇の主因の1つとはいえず,しかも,近年各国政府は失業給付制度について抜け穴や過度な部分の是正措置を講じてきており,79年以降の先進国の記録的な失業増加は,失業給付制度によってもたらされたものではないこと,などが指摘されている。

5. 諸要因の重なった今回の失業急増

以上,近年の先進諸国における失業増加の原因について,労働力供給面,労働力需要面,労働市場の構造・制度面などから考察してきた。これらの諸要因は,相互に影響しあっており,その個々の影響を数量的に把握することは困難であろう。

しかし,以上みてきたように,70年代において多くの国で労働力供給の伸長や減量化経営の進行,摩擦的失業の増加等を背景に長期的に失業率が高まっていたことに加え,今回の景気停滞が予想以上に長期化し,かっ全面的な拡がりをみせていることによる労働力需要の極度な減退が相乗的に大きく作用し,今回の失業の急激な増加を招いたものとみられる。