昭和56年

年次世界経済報告

世界経済の再活性化と拡大均衡を求めて

昭和56年12月15日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

I 1980~81年の主要国経済

第1章 アメリカ:短かった景気回復

1. 概  観

75年から79年にかけて比較的順調な拡大を続けてきたアメリカ経済は,80年以降,周期の短い景気変動を示している。

80年4~6月期に,実質可処分所得の減少や金利の上昇,更には消費者信用に対する規制措置等を原因として,主として消費を中心に,実質GNPで前期比年率9.9%減という大幅な低下を示したアメリカの景気は,同年7~9月期には早くも回復に転じ,81年1~3月期に至るまで急速に回復した。

アメリカの景気が極めて早期に回復に転じた背景には,80年4~6月期を境に物価上昇率が低下したこと及び,3月に導入された信用規制が7月に撤廃されたことなどの要因がある。

その後,80年秋には景気の予想外の回復に金融政策の引締めスタンスの継続が重なり,更に,インフレ期待も根強く残ったことから再び金利は高騰した。81年に入り,この高金利の長期化が明確になるにつれて,回復を主導してきた個人消費(特に耐久財)が停滞し,住宅投資が大きく減少した他,純輸出も成長にマイナスに寄与するようになり,このため81年4~6月期には実質GNPは前期比年率1.6%減となった。また,7~9月期は同1.4%増(確報)となったがその中心は意図せざる在庫の増加であった。アメリカの景気は回復1年にして再び下降へと向ったのである(第1-1表)。

第1-1表 アメリカの実質GNP動向

雇用情勢をみると,就業者数(非軍人)は80年中に50万人減少した後,80年12月から81年5月の間には195万人の著増をみたが,景気が後退に向うにつれ減少に転じ,11月までに121万人減少した。このため失業率も11月には8.4%と第1次石油危機以来の高水準となった。

物価はしだいに安定へと向っており,前年同期比上昇率で,消費者物価は80年の13.5%から81年7~9月期には10.9%へ,完成財卸売物価では80年の13.4%から81年7~9月期に8.2%へと低下した。

貿易収支の赤字は,石油輸入量の減少にもかかわらずなお大幅であり,81年1~9月で287億ドルと(前年同期は293億ドル)となった。

このように,アメリカの景気は再び後退しており,81年10月から本格的に始動したレーガン政権の経済政策が,この景気後退にどう対処し,長期的な政策効果を引き出していくかが注目される。

2. 需要動向

(1) 個人消費

実質個人消費は金利の低下や信用規制の撤廃とともに回復に転じ,実質可処分所得の伸びに貯蓄率の低下が加わって景気回復に寄与した(80年4~6月期~81年1~3月期,実質GNPは年率4.9%増,実質個人消費は同6.0%増)。なかでも,耐久財の消費は,80年4~6月期から81年1~3月期の間に年率で22.3%の増加を示した(第1-1図)。これには,81年暮から81年3月にかけて米国自動車メーカーが,リベートによって販売を伸したことも大きく寄与した。

第1-1図 実質個人消費の動向

しかし,81年に入って再び台頭した高金利が,長期化の様相を示してきたことに加え,自動車のリベート販売が終了したこともあって,個人消費は停滞へと向った。特に自動車販売は高金利の影響を強く受け極めて低い水準で推移した(第1-2図)。また同時に,その影響はガソリン価格上昇の影響を大きく上回るものであった。

第1-2図 アメリカの国産車販売台数の推計

この間,貯蓄率は低水準(4.6~5.4%)で推移しており,81年秋からの景気の悪化もあって,当面,個人消費の大幅な増加は期待しにくい状態にある。

(2) 低水準ながら比較的堅調な設備投資

設備投資は,80年の不況の際の落ち込みも比較的軽微にとどまり,景気の急回復を反映して80年10~12月期には早くも増加に転じた。81年1~3月期には,暖冬による建設活動の進捗やリベート販売による自動車購入の増加等もあって設備投資(実質)は前期比年率13.4%の回復となった。

その後,実質長期金利の上昇や景気の先行き不透明感から設備投資は停滞へと転じているが,なお構築物を中心に比較的底堅い動きとなっている(第1-2表)。

第1-2表 民間設備投資の動向

この背景には,軍事拡張による軍需産業の好調やエレクトロニクス等の先端産業及び,国産原油価格統制を撤廃されたエネルギー産業の好調があるものとみられる。

(3) 高金利に抑圧された住宅投資

実質住宅投資は80年4~6月期に前期比年率60.0%減となったが,金利の低下と政府の住宅振興策から急回復を示し,80年10~12月期には同64.2%の著増を示した。しかし81年に入ると住宅投資は再び減少に転じ,4~6月期(前期比年率22.8%減),7~9月期(同36.3%減)と大幅に減少し,10月には住宅着工件数は年率86.4万戸と66年10月以来の低水準となった。この間,もし実質金利が80年10~12月期の水準のままであれば,通常の景気回復期と同様の大幅な回復を示したとみられる(第1-3図)。このことから,住宅投資の不振の主因は,住宅抵当金利の高騰であるといえよう。

第1-3図 住宅投資関数の推計

(4) 慎重な在庫投資

在庫投資は金利の上昇や景気後退予想のため79年7~9月期から減少に転じ,在庫率は景気後退期としては比較的安定した動きとなった。また景気回復局面にあっても,金利が高水準にあったことから,企業は在庫積み増しに慎重で,在庫は,実質ベース(72年価格)で80年7~9月期50億ドル,10~12月期72億ドル,81年1~3月期14億ドル各々減少した。しかしその後,景気の後退に伴い,意図せざる在庫が生じ,81年4~6月期は108億ドル,7~9月期は149億ドルの実質在庫増とな,た。

こうしたことから,最終需要は前期比年率伸び率でみて,4~6月期4.7%減,7~9月期0.3%増と各々,実質GNPの1.6%減,1.4%増を下回っており,需要の不振を示している。

3. 生産・雇用

(1) 停滞から減少へと向った生産

80年の不況の後,80年7月から81年1月の間に年率で16.4%増と急回復を示した鉱工業生産は,81年1月から7月の間には年率3.3%の伸びにとどまり停滞の様相を示した。その後生産は7月をピークに減少に転じ81年11月までに4.8%(年率13.7%)減少した(第1-4図)。

第1-4図 鉱工業生産の内訳

これを産業別にみると,最近の軍備拡張等から,防衛・宇宙機器部門は一貫した増加を示している。また,国産原油価格統制の撤廃からエネルギー産業も好調となっており,石油・ガス生産部門でも生産は強い増加傾向となり,特に80年11月から81年6月の間には年率15.7%もの増加となった。

一方,金利の影響を受けやすい建設資材や自動車等の部門では,80年央の低下も著しく,また81年央には再度減少に転じている。建設資材部門では,80年7月から81年3月の間に20.6ポイント上昇したが,その後11月までの下落は17.5ポイントに達しており,ほぼ上昇分を相殺している。また,他の住宅関連部門も81年に入ってかなり減少している。さらに81年秋には非耐久財も減少に転じ,生産は一部部門を除き減少している。また,耐久財の新規受注も81年夏以降連続して減少しており,生産の早期回復は難しい状況にある。

(2) 改善のないまま再び悪化した雇用情勢

79年に5.8%であった失業率は,80年春に大幅に悪化し80年5月には7.6%に達した。その後,景気は回復へと向いそれにつれ就業者数(非軍人)は増加し80年6月の9,678万人から81年5月には9,924万人にまで増加したが,労働力人口も同期間に10,459万人から10,741万人に増加するなど労働供給の増加も著しく失業率は殆ど改善せず横ばい状態となっていた(第1-5図)。このような中で,81年夏以降,景気が後退に向い就業者数が減少するに伴い失業率は再び上昇し81年11月には8.4%と75年10月(8.4%)以来の高い水準となっている。

第1-5図 雇用情勢

また,この81年後半の失業率を労働者の特性別にみると,ティーンエイジャーや非白人の失業率が高く特にティーンエイジャーの失業率は81年11月には21.8%に達している(第1-3表)。また,10,11月には失業率の高進は成人男子にまで及んでおり,社会的問題の発生が懸念されている。

第1-3表 労働者の特性別失業率の推移

4. 賃金・物価

(1) しだいに安定へと向った物価

80年に完成財卸売物価13.4%,消費者物価13.6%の急騰をみた物価情勢は,81年に入ってエネルギー,食料価格等の安定に加え,金融政策の引締め基調が維持されたこともあって比較的順調に推移し,上昇率は低下してきている。

完成財卸売物価は,80年1~3月期に前期比3.9%の上昇となった後,同年10~12月期には2.1%の上昇にまで鈍化した。しかし,81年1~3月期には食料価格は安定していたものの,国産原油価格統制の解除(1月)に伴うエネルギー価格の急騰(前期比9.5%高)等により再び前期比2.6%高と騰勢を強めた。4~6月期には食料価格の安定の継続に加えエネルギー価格上昇率もやや鈍化(前期比6.7%高)したことから同2.3%高にとどまった。7~9月期には景気が後退に向ったことから全般に物価上昇率は低下し,食料・エネルギーを除くと前期比1.3%高にとどまり,さらにエネルギー価格が同1.8%下落したことから全体では同1.0%の低い上昇となった。11月には前年同月比上昇率は7.1%にまで低下してきており,完成財卸売物価はほぼ落ち着いてきたとみられる(第1-4表)。

表1-4表 アメリカの完成財卸売物価

消費者物価上昇率は,80年1~3月期に前期比3.9%高となった後,一時低下したが,同年10~12月期には食料価格の上昇等から再び同3.1%高へと高まった。81年に入り1~3月期にはエネルギー価格の大幅上昇の一方で食料価格の安定や住宅購入価格の下落があり,全体としては前期比2.6%高にとどまった。4~6月期には,さらにエネルギー価格上昇率の鈍化もあって同1.8%高にまで低下した。しかし,81年7~9月期には住宅購入価格(前月比3.6%高)や住宅ローン金利等(同7.1%高)の上昇等から再び同2.9%高と上昇率を高め前年同月比上昇率でも6月の9.6%高から9月には11.0%高となった(第1-5表)。今後については81年秋に市中金利が低下したことから,住宅ローン金利等が低下するとみられる。このため消費者物価全体としても上昇率が若干低下するとみられるが,なおインフレ心理は根強く,卸売物価ともども楽観はできない。

第1-5表 アメリカの消費者物価上昇率

(2) 実質賃金の減少続く

時間当り賃金(非農業民間部門,以下同じ)は,80年に名目で9.0%上昇したが,実質では79年(3.1%減)に続いて4.0%の減少となった。月次の動きでみると,80年後半には名目の前年同月比上昇率は高水準にあったが,81年に入ってやや低下し81年10月には8.1%となった。しかし,この間を通じて物価上昇率には及んでおらず,実質では減少が続いている。週平均賃金は,80年に名目6.9%増(実質5.8%減)となった。その後,前年同月比上昇率(名目)は81年央に至るまで上昇を続けた。しかし81年後半に至り,景気の後退等から週平均労働時間(非農業民間)が7月の35.3時間から10月には34.9時間と減少したこともあって,若干落ち着き10月には7.2%となった。この傾向は対3ヵ月前比年率上昇率でみると,一層顕著であり80年10月に13.1%あった同上昇率は81年10月には2.0%に低下した(第1-6表)。

第1-6表 非農業民間部門の賃金上昇率

労働生産性は,78年から80年の間3年連続して低下し,アメリカでの生産性の伸び悩み傾向を裏付けている。

80年4~6月期に不況で生産が低下したこと等から大きく悪化した労働生産性は,その後,回復に向い前年同期比伸び率でみると81年7~9月期に至るまでプラスで推移した。このため単位労働コスト(前年同期比)も80年4~6月期の11.0%をピークに低下傾向を見せている。もっとも,前期比年率伸び率では,景気が再び後退してきたことから81年7~9期の労働生産性は1.6%の低下となった。このため単位労働コストも11.1%と再び比較的高い上昇率を示しておりその影響が懸念される(第1-7表)。

表1-7表 非農業民間部門の労働生産性等の推移

5. 貿易・国際収支

(1) 貿易収支

貿易収支の赤字幅は,78年の423.6億ドルを境に緩やかに改善に向い80年には363.6億ドルにまで改善したが,81年に入ってその改善傾向は止まり,80年後半(年率251.5億ドル)からみるとやや悪化してきている(第1-8表)。

表1-8表 アメリカの貿易収支,経常収支

内訳をみると,国際石油の市場での石油価格の軟化に加え石油消費節約の進展や国内生産の増大により石油輸入量が減少したことから,石油収支の赤字は81年1~3月の205.4億ドルをピークに減少に転じ,同年7~9月期には181.4億ドルとなった。一方,工業品収支はドル高による輸出の伸び悩み,輸入の増加等からその黒字幅がしだいに縮少してきており,特に,81年7~9月期には5.5億ドルと4~6月期の31.4億ドルから急減した。この工業品収支の悪化は,貿易収支全体の赤字幅の拡大傾向の基調をなしており,8月に下落に転じたドル相場の影響が出てくるまで,しばらくこの傾向は続くとみられる。

(2) 経常収支

79年に黒字(14.1億ドル)に転じた経常収支は,80年には,年後半の貿易収支赤字の縮少をうけて更に改善し,37.2億ドルの黒字となった。81年1~9月期には,この改善傾向が受け継がれ75.1億ドルの黒字となった。OECDでは,これまで経常収支の改善をもたらしてきた貿易収支が,81年に入って徐々に悪化してきているにもかかわらず,経常収支の黒字傾向は82年上半期まで続くとみており,81年は875億ドル程の黒字となるとみている。

6. 経済政策

(1) 概  観

81年1月20日に発足したレーガン政権は,アメリカ経済の不振の原因をインフレーションの高進と生産性の伸び悩みに求め,発足後間もない2月18日に,経済政策の基本方針の転換をはかるものとして「経済再生計画」を発表した。それは①歳出の伸びの大幅抑制,②多年度にわたる大規模減税(個人,企業),③政府規制の緩和,④安定的な金融政策の4点をその主要項目としている。財政面については,議会で若干の修正が加えられたが,政府提案の考え方の大筋は「1981年経済再生租税法」及び「1981年一括調整法」として成立している。

これらの政策は,減税及び歳出抑制から成る財政政策と政府規制緩和によって,労働意欲,貯蓄・投資を刺激し,生産性向上を促して実質供給の増加を図る一方,インフレーションに対しては通貨供給量管理重視の金融政策により名目需要の伸びを抑えてその鎮静化を図り,スタグフレーションの解消をねらうもので,経済の供給面や貨幣面を重視した政策パッケージとなっているところにその特徴がある(レーガン政策の考え方やその評価等については総論第3章第3節を参照)。

(2) 財政・金融政策

(連邦財政)

レーガン政権の1982年度及びそれ以降の予算見通しをみると歳出面では,財政赤字縮少等の観点から国防と真に必要な社会保障を除き,その他の連邦政府の施策の全てを対象とし大幅な歳出削減がはかられており,82年度の歳出は7,048億ドル(会期央見通し)と81年度の6.6%増にとどめられている。中期的にも歳出の伸びをこれまでの平均16%(79~81年度)の半分以下に抑え歳出のGNPに占める比率も81年度の23.0%から,84年度には19.0%に引き下げることとしている(総論第3-3-1,2表参照)。歳入面では,労働意欲,貯蓄・投資の促進のために,個人・企業を通ずる減税策がとられており,会期央見通し(81年7月)では,82年度の歳入は6,624億ドル(前年度比9.4%増)で財政赤字は425億ドルであった。

個人減税の中心は限界税率の一律引き下げであり,81年10月に5%引き下げられた後,82年7月及び83年7月にもさらに10%ずつ引き下げられることになっている。この他,投資所得や長期キャピタルゲイン等に対する最高税率等も引き下げられることとなり,82年度の個人減税額は,会期央見通しでは283億ドルとなっている。

一方,企業減税は減価償却の加速化,簡素化,及び投資税額控除の適用の拡大(各々,81年1月に遡及して適用)等を中心としており82年度の減税幅は97億ドルとなっている。

その後,高金利の継続や景気後退等から財政赤字の拡大が予測されるようになり,9月には財政赤字削減案が発表され議会の審議に入っている。また,当初84年度までとされていた財政の均衡は,その達成が難しくなったことが公式に明らかにされている。

(金融政策)

アメリカの金融政策は81年に入って若干の手直しがあったものの,総じて引き締めスタンスの下に運営された。一方,金融市場では,インフレ心理が根強かったため,秋に景気後退が明確となってくるまで金利は異常な高水準を続けた(アメリカの高金利の原因については総論第2章第2節を参照)。

市中短期金利は80年央に,予想外に早くかつ強い景気回復と根強いインフレ心理に金融政策の引き締めスタンスがあいまって上昇し,プライム・レートは,8月頃の11.0%から年末には,21.5%に達した。一方,公定歩合は,この市中金利の上昇に歩調をあわせ3回にわたり10%から13%へと引き上げられた。また,5月に廃止されていた高率適用金利(大銀行が連邦準備制度から頻繁に借り入れた場合に適用される付加金利)も11月には復活(2%)し,12月にはその幅も3%に引き上げられた。

81年に入っても,上述の基本的要因要は継続した。更に,80年12月31日に全国的に譲渡可能支払指図書(NOW)勘定(要求払預金と同等の機能をもつ付利金融資産)が認められたことから,M1-Aが減少,M1-Bが増加しまた季節調整が困難となるなど通貨供給量の統計に混乱が生じた。このため,通貨供給量の適切な把握,管理が困難となり,金利は週毎の通貨供給量統計の発表に神経質に反応するなかで高水準にとどまり続けた。こうした背景の下に,公定歩合も5月5日に14%に引き上げられ同時に高率適用金利も4%とされ金融引き締めが強化された。その後,景気は停滞へと向ったが,今後の財政収支に対する不安等から,インフレ心理が継続し,市中金利は9月に至るまで極めて高水準で推移した(第1-6図)。一方,通貨供給量をみるとM1-Bは6月以降,連邦準備制度理事会が定めた目標圏の下限を下回って推移しているもののM2は目標圏の上限付近で推移している。これは,新型金融商品の開発・導入(金融イノベーション)により,金融資産間の資金配分が変化したことにその原因がある。また一方,この金融イノベーションは経済政策の目標である物価上昇率,成長率といった指標と個別の通貨供給量指標との関係を変化させており,通貨供給量管理の対象として,どの指標を用いるべきかという問題を再提起している(第1-7図)。

第1-6図 アメリカの金利動向

第1-7図 通貨供給量の推移

秋に入り景気が停滞から後退へと向うにつれて金利は低下に転じプライム・レートは8月末の20.0~20.5%から11月末には,15.50~16.00%まで低下した。

この市中金利低下に伴い,連邦準備制度理事会は9月以降,5回にわたり公定歩合,高率適用金利を引き下げ,9月21日に14%であった公定歩合(高率適用金利4%)は12月4日には12%(高率適用金利は廃止)となった(第1-9表)。

第1-9表 81年における連邦準備制度による金利変更

(3) エネルギー政策

レーガン政権のエネルギー政策の中心は,他の政策分野と同様に市場原理重視にある。まず,政権発足直後の81年1月28日に,それまで81年10月末までに段階的に廃止されることになっていた国産原油価格統制を即時全面撤廃し市場原理に基づく生産促進の方針を明確にした。

つづいて,81年7月にはエネルギー省機構法に基づく第3次国家エネルギー政策計画(NEPP,National Energy Policy Plan)が発表された。この計画において重点は,生産やエネルギーの安全保障,政府規制緩和にあり,需要削減は価格規制解除による価格面の動機にもとづく節約に専ら求められており,「1981年経済再生租税法」による設備投資促進によって経済の省エネルギー化が進むことに期待がかけられている。

同計画の主要点を要約すると以下の様になる(第1-10表)。①現在,エネルギー消費の40%を占めている石油の比率を1990年に約31%に低下させる(80年31.2quads()から90年26~29quadsへ)。②90年までにエネルギー消費効率を向上させて,弾性値を1.0として見通した量よりも16%の消費減とする。住居用では18%,工業用では19%の消費減を見込んでいる。また,現在1ガロン当り平均17マイルの自動車燃費を30マイルに向上する。③1979年に日量800万バーレル,80年同630万バーレルであった輸入石油量を85年には同600~700万バーレル,90年には同400~500万バーレルに押える。④天然ガスの消費は80年の19.7quadsから90年でほぼ横ばいの17.5~18.5quadsとする。⑤石炭の開発・利用は,投資減税や環境保護法等の改訂を進め促進し,その消費は80年の3.5quadsから90年には5.0~6.4quadsとする。⑥原子力は規制緩和と高速増殖炉の開発促進の下に利用を進め80年の2.7quadsから90年には6.7~8.7quadsとする。⑦石油の戦略備蓄は政府の責任の下に進める,その目標は89年に7.5億バーレルである。

第1-10表 NEPPの概要

(注)

7. 経済見通し

81年秋からの景気後退は,レーガン政権2年目の82年のアメリカの景気に負担をかけており,同年の上半期は停滞,とりわけ1~3月期はマイナスの成長率となり,下半期になって回復に転じるとみられている。

82年上半期には,高金利を契機とする81年央からの耐久財消費や住宅投資の不振の影響が素材産業に拡がるとともに,81年央から積み上がった在庫の調整のために生産は減少するとみられる。また,失業率も高まり,景気の不透明感から設備投資もやや後退するとみられる。

しかし,82年7月には,個人所得税率の一律10%引き下げや社会保障の物価調整引き上げが予定されていることから個人消費を中心に景気は回復に転じるとみられる。この時点で金利が再騰していなければ,同時に住宅投資の大幅回復も期待される。一方,物価は8%内外にまで低下するもののその低下ペースは鈍化するとみられている。

82年のアメリカの景気を判断する上での問題点はその金融政策の動向にある。連邦準備制度理事会は,81年7月に81年第4四半期から82年第4四期の通貨供給量の伸びの暫定目標をMl-Bについては80~81年より0.5%引き下げて2.5~5.5%とし,M2は80~81年同じ6~9%とした。81年11月のM1-B(NOW勘定調整済み)の前年同月比伸び率は1.4%であり,82年は81年より金融を緩和することが可能であるようにみえる。しかしM2の81年11月の前年同月比上昇率は9.3%と上限を越る値となっており,82年に金融を緩和するとM2は目標の上限を大きく越える可能性もある。この点については金融イノベーションがM1-BとM2の関係に及ぼす影響等不確定要因もあり評価が難しくなっている。金融政策の強い引締めスタンスが続いた場合には,財政赤字の縮少が難しいとみられることともあいまって景気回復とともに金利が再騰し,景気回復の力を削ぐことも考えられよう。最後にOECD等の82年のアメリカ経済見通し等を掲げておく(第1-11表)。

第1-11表 82年アメリカ経済の主要見通し

第2章 カナダ:年中をピークに後退へ

1. 概  観

1980年央から回復を始めたカナダ経済は,81年上半期も投資を中心とする国内需要が堅調に推移し,生産・雇用も拡大を続けるなど,景気は強含みに推移した。しかし,記録的高水準への金利の急上昇を背景として,消費・投資需要とも急速に弱まり,景気は年央をピークに後退をみせている。

81年に入り実質GNPは,住宅投資・設備投資等を中心に1~3月期前期比0.9%増,4~6月期同1.4%増と4四半期連続して伸びをみせたが,7~9月期は,住宅投資が大幅に落ち込んだほか,設備投資・個人消費も減少に転じ,前期比1.0%の減少となった。年初来増加を続けた鉱工業生産も,在庫急増を背景に7月に大幅な減少をみせた後,弱含みに推移している。また,7月には7.0%まで改善した失業率も9月以降はと急速に悪化し,8%台で推移している。

一方,消費者物価は,エネルギー価格や賃金上昇等を背景に依然騰勢を続けている。80年後半に対米輸出の伸長から著増した貿易収支黒字は,81年に入り内需の伸びを背景とした輸入増加により縮小し,また経常収支赤字は80年の19.0億加ドルから81年1~9月累計で既に47.8億加ドル(季調値)と著しく拡大している。

こうした中で,政府は81年11月に82年度予算案を発表し,インフレ抑制・財政赤字縮小を基本とするこれまでの政策スタンスの維持を明らかにする一方,今後の中期的な経済・産業政策の指針となる「80年代経済開発大綱」を発表した。

第2-1表 実質GNEの推移

2. 需要動向

(1) 個人消費

80年の実質個人消費の伸びは1.0%増にとどまり,60年代の年平均伸び率4.6%,70年代の同4.9%を大きく下回った。生活必需品やサービスに対する支出は,年間を通じて増加したが,自動車・家財等の耐久・半耐久消費財消費は,実質個人可処分所得の伸び率鈍化や金利上昇を背景として,4~6月期に大幅な減少をみせた。その後,実質個人可処分所得の回復や金利の相対的低下から,同年7~9月期より,これらの耐久財を中心に回復に転じた後,81年に入っても,政策刺激(オンタリオ州での一時的売上税免除)や雇用増加,住宅ブームに関連した家財購入増加等から堅調に推移し,同年前半の景気上昇を下支えた。しかし,根強い物価騰勢の中で4~6月期の実質可処分所得は前期比減少し,市中金利も5月から8月初にかけて騰勢を続けたことから,自動車等の耐久財需要は急速に減少をみせ,7~9月期の実質個人消費は前期比0.9%減と,74年10~12月期以来の大幅な落ち込みとなった。金利は9月以降低下をみせているが,根強い物価騰勢や雇用情勢悪化の中で消費の基調は弱含みに推移している。

(2) 年前半の景気を主導した民間住宅投資

民間住宅投資は,連邦・州政府による各種の促進優遇策等から76年に急増した後,世帯形成数の減少や住宅価格・抵当金利の上昇等による需要低迷から減少を続け,80年も前年比10.6%減と落ち込みをみせた。この中で,79年まで集合住宅を中心に高水準を続けた空屋率は,80年に入り顕著な低下を示し,売れ残り住宅の水準もタイト化したことから,民間住宅投資は80年7~9月期に回復に転じた後81年4~6月期まで,その間の高金利水準にもかかわらず増加を続けた。しかし,3月以降再び騰勢を強めた抵当金利が8月には21%を上回る高水準に達する中で,7~9月期には前期比13.5%の大幅減となった。住宅着工件数(年率)でみると,80年の15.9万戸から81年4~6月期には22.4万戸まで回復した後,7~9月期18.1万戸,10,11月平均10.5万戸と急速に減少している。

こうした最近の金利の高水準や乱高下は:建設業者・購入者双方にとって,住宅投資の直接的なコスト上昇圧力となるとともに,投資・購入タイミングの適否の不確実性を高め,新規の投資需要を大きく制約しているほか,既住宅保有者の住宅ローン借り替えを困難にするという問題を生んでいる。

第2-1図 住宅投資関連指標

(3) 民間設備投資

実質民間投資は,78,79年に大幅な増加をみせた後,80年も石油等エネルギー関連部門を中心に引き続き伸びを示した(前年比8.6%増)。こうした最近の設備投資の堅調さは,企業収益増加や稼動率上昇等の景気循環要因のほかに,底流として次のような構造的要因に起因しているとみられる。即ち,①国内外の新規市場開拓のための競争力改善,②生産性低下の是正,③世代変化や国内人口移動,相対価格変化等に伴う消費者需要構造の変化に対する調整,④石油・天然ガス・鉱物等国内の豊富な資源の開発,などを目的としていることである。

81年に入っても,これらの資源開発投資を中心に,実質民間設備投資は堅調な伸びをみせ,同年上半期の景気上昇を主導した。しかし,7~9月期には,金利の急騰と先行きの需要見通し悪化を反映して,前期比5.9%減と5四半期ぶりの減少を示した。

カナダ産業審議会による12月発表の四半期企業調査報告によると,当面の投資環境は悪いとの見方が多く,中期的には資源関連投資計画等から増勢が予想されるものの,ここしばらくは景気の先行きに悲観的な見方が増える中で,設備投資もやや弱含みに推移するものとみられる。

第2-2図 設備投資関連指標

3. 生産・雇用

(1) 鉱工業生産:年央をピークに減産へ

75年を底に増加を続けてきた鉱工業生産は,80午には最終需要の減退,在庫水準金利の上昇等による同年上半期の急減が影響し前年比2.0%の減少となった。在庫調整の進展を背景として同年7月を底に回復に転じた後は,アメリカ向けを中心とする輸出の伸長や国内最終需要の回復等から,鉄鋼・自動車・電気機器を主体に増加を続け,81年4~6月期には前回ピークの79年7~9月期水準を上回った。しかし,在庫率の上昇や金利の急騰,景気の先行き懸念等から,7月に減少に転じた後,減少を続けている。

第2-3図 鉱工業生産・在庫の推移

(2) 雇用:改善の後悪化へ80年の失業率は,年央にやや高まったものの夏以降の生産回復から改善を示し,年平均7.5%と前年並の水準にとどまった。81年に入っても,生産拡大を背景に1~3月期7.3%,4~6月期7.1%と漸次改善をみせた。81年上半期の6か月間に,労働力人口が23.1万人(2.0%)増加した中で就業者数も22.1万人(2.0%)増加し,特に商業:サービス業を中心に成人女性の就業が拡大した。

しかし,7月以降の生産急減を反映して,雇用情勢も9月以降若年層を中心として急速に悪化をみせており,失業率は8月7.0%の後,9月8.2%,10月8.3%,11月8.2%と3年ぶりの高水準に達している。

4. 賃金・物価

(根強いインフレ体質)

消費者物価上昇率は,79年9.1%から80年には10.1%と加速をみせた。81年も1~10月の前年同期比で12.5%と引き続き騰勢をみせている。

カナダの物価上昇の背景にある構造的な特徴として,①食料・鉱物資源等国際商品市況の影響を受けやすく,予測や制御が困難であること,②消費財をはじめ輸入依存度が高いため輸入価格の影響が大きく,貿易相手国のインフレ及び為替レートの動向等が主要な決定要因となること,③エネルギー価格は,第1次石油危機に際して,その影響緩和のために国産原油・輸入原油ともに統一価格が設定され,その後漸次小幅ながら引き上げられているが,国際価格よりもかなり低い水準にあり,今後も国家エネルギー計画に沿ってその段階的引き上げが予定されていること,④近年の労働力率の高まりの中で労働生産性の伸びが鈍化しており,インフレ下での賃金上昇圧力もあって,単位労働コストが上昇していること,などが挙げられる。

80年夏以降,食料・エネルギー価格の上昇が消費者物価全体を1~2%押し上げている。また,80年に高い上昇率を示した輸入物価や工業品販売価格は,タイム・ラグを経て81年の消費者物価上昇に影響を及ぼしているとみられる。

食料・エネルギー価格を除いた基調的な消費者物価も,名目賃金の上昇を背景として騰勢を続けている。もっとも,81年に入り,生産増加を反映して,労働生産性は改善をみせ,単位労働コストの上昇も鈍化した。また,賃金妥結率は依然高い水準にあるが,平均賃金の伸びは女性就業者の増加もあってやや鈍化し消費者物価上昇を下回る結果となっている。しかし,今後ともエネルギー価格の引き上げ,基本的に根強いインフレ期待,実質所得の漸減に基づく賃上げ要求等から,当面景気後退が進むとみられる中でも物価上昇の鎮静化は難しい状況にある。

第2-4図 賃金・物価動向

5. 貿易・国際収支

(収支は悪化)

80年の貿易動向をみると,輸出(通関ベース)は夏以降アメリカの景気回復に伴って同国向け輸出が自動車・建材等を中心に大幅に伸長したことから前年比15.9%増加した一方,輸入(通関ベース)は同年上半期の景気後退を反映して同10.2%の増加にとどまり,貿易収支黒字(BPベース)は前年比36.6億加ドル増加の78.1億加ドルと著しい増加を示した。しかし,81年に入り生産・消費の堅調な伸びを反映して輸入が一次金属・自動車等を中心に増加を続けたのに対し,輸出はEC向けの停滞等から伸びが鈍化し,貿易収支黒字幅は急速に縮小している。80年には19.0億がドルに改善した形状収支赤字は,81年1~9月累計で47.8億加ドル(季調値)にのぼっている。

資本収支をみると,80年の「国家エネルギー計画」で一部具体化された「産業のカナダ化」推進をめざす現政権の外資対策方針を背景として,時に81年上半期にエネルギー産業・不動産業を中心にカナダ企業のアメリカ系企業株式取得が急増し,長期資本収支は大幅な出超となった。一方,これらの資金手当のためにカナダの特許銀行が外資資金を調達したことから,短期資本収支は大幅な入超となった。こうした動きは7~9月期には沈静化しているが,外貨準備高は80年12月末の40.3億米ドルから81年10月末28.1億米ドルへと大幅に減少した。

第2-5図 貿易動向

第2-2表 国際収支の推移

6. 経済政策

(1) 緊縮を続ける財政方針

80年3月に発足したドルドー現政権は,80年10月に,中期的に財政赤字の縮小を図る緊縮的財政方針と,国内エネルギー産業基盤強化を目的とした「国家エネルギー計画」を打ち出した。

81年11月に発表された82年度予算案(82年4月~83年3月)においても,インフレ抑制を基本とした財政赤字縮小の方針が踏襲されている。また本予算提案に伴い,国家経済再生を課題として今後数年間の経済・産業政策の指針とする「80年代経済開発大綱」が発表された。

本予算の基本的考え方は,①官民における自制,特に政府部門における財政赤字の縮小を図る,②公平と公正,特に,税制上の優遇措置の圧縮,所得税率の引下げ,高金利救済措置を図る,③産業発展,資源開発,輸送力強化対策,輸出促進及び人的資源開発を5つの優先課題とする,というものである。

第2-3表 82年度予算案・財政方針の概要

しかし,経済情勢が悪化をみせる中で,本予算案における緊縮財政,企業増税を含む税制改正等が景気後退を助長するとの批判が,議会・産業界に強まり,政府は,税制改正の一部修正・適用時期の遅延の意向を表明した。

「80年代経済開発大綱」の骨子は,①政府は民間部門の効率的機能を重視した上で,経済拡大につながる開発や構造調整を支援することと,連邦・州政府間の協力により地域開発を推進することを政策の基本とし,②86年までに約600億加ドルを投入して,天然資源開発,大規模プロジェクトをテコとした産業開発,西部地域を中心とした輸送能力強化,人的資源開発等を推進する,③外資系企業が国内の産業構造の強化・発展に寄与するよう外資審査庁の機能強化を図るが,外資審査法の強化を目的とした改正は当分の間行わない,というものである。

「国家エネルギー計画」に係る国産原油価格引上げやエネルギー関連増税・分配をめぐる連邦・産油各州政府間の交渉は,難航の末ようやく9~10月にかけて各州ともほぼ同一内容にて連邦政府との協定締結に至った。

(金利は急騰)

中央銀行であるカナダ銀行は,物価抑制を目的として通貨供給量重視の金融引締策を導入した75年以降,雇用・生産への影響を考慮して漸進的にその目標圏を引下げてきたが(81年はMlで4~8%),前述した諸要因のほか,金融引締政策自体の漸進性も影響して,現在のところインフレ抑制には成功していない。

また,恒常的な経常収支赤字の補填をアメリカからの資本流入に依存していることからカナダの金利はアメリカの金利を上回って追随せざるを得ないという事情を背景として,弾力性付与のため公定歩合は80年3月以降,市中金利との連動制が実施されている。81年春以降再騰したアメリカの金利の影響を受けて,カナダの金利も急上昇し,8月初に公定歩合は過去最高の21.24%となった。その後金利は低下をみせたが,景気後退が顕在化する中で,金融緩和を求める主張も台頭している。しかし,こうした中で12月初,カナダ銀行はインフレ抑制を基本とするこれまでの引締政策の堅持を改めて強調した。

第2-6図 主な金融指標の推移

7. 経済見通し

1982年のカナダ経済は,年前半において景気は回復に転ずるとみられるもののインフレ基調の継続,高い金利水準,そして緊縮的な財政・金融政策の影響等から内需の基調が弱く,前年比では成長率の鈍化が予想される。

個人消費は,インフレ持続から実質所得の大きな改善は期待できず,また,金利も比較的高い水準にとどまるとみられることから特に年前半においては自動車・住宅の購入は進まないとの見方が強い。設備投資は,「国家エネルギー計画」に関する連邦・州政府間の合意から,エネルギー分野での投資プロジェクトの進展が期待されるが,当面,消費停滞もあって全体の基調はやや弱いとみられる。生産は,81年10~12月期の在庫調整の進展如何では,82年の比較的早い時期に立ち直ることが期待される。また,輸入の減少から貿易収支も改善が予想される。他方,物価については,エネルギー価格・食料価格・平均賃金の上昇を主因に騰勢が続くとの見方が強い。

政府,OECD,及びカナダ産業審議会による経済見通しは第2-4表の通りであるが,いずれも,82年の実質成長率は前半の停滞から,前年比低下し,失業率も上昇するとみているほか,物価上昇率についても,依然2桁の騰勢が続くと予測している。

第2-4表 経済見通し

第3章 イギリス:最悪期からの脱却

1. 概  観

1981年のイギリス経済は,過去2年近くにわたって続いた景気下降が年央までにほぼ下げ止まって,回復の兆しがようやくみえはじめており,最悪期を脱しつつある。

実質GDPは,79年下期から減少を続けていたが,81年7~9月期には7四半期ぶりに小幅ながら増加した。内需の基調はまだ弱いものの,急減を続けていた在庫投資の減少が小幅化したことによる。

今回の不況の規模は,第一次石油危機後の前回不況を上回ったのに加えて,雇用の大幅減少,失業者の強い増勢が続いたために,その影響はより深刻となっている。失業者総数が300万人台に迫っているばかりでなく,とくに若年層,有色人種に失業が集中していることもあって,81年夏には都市暴動が頻発するなど社会不安も発生した。

この中で,物価は80年夏から,賃金はやや遅れて同年秋以降,上昇率の鈍化傾向を示すようになった。しかし,物価の騰勢鈍化は81年秋以後11%台で足踏みをみせており,予算案発表時の政府見通し(81年10~12月期の前年同期比上昇率10%)の達成はむずかしくなっている。

貿易収支は80年夏以降,石油収支の黒字化もあって,黒字基調を続けており,とくに80年秋から81年初にかけては,不況による輸入の減少から記録的黒字となった。経常収支も一足早く,80年春頃から黒字化しており,80年の32億ポンドの黒字についで81年にも当初政府見通しを倍加する約60億ポンドの大幅黒字が見込まれている。

ドル高と世界的高金利の中で,ポンド相場が年初来急落を続けた後,10月央からは一転して急上昇するという激しいうごきを示したことも81年の大きな特徴であった。

この間,経済政策はインフレ抑制を引続き最憂先として引締め基調が維持された。しかし,公務員ストによる徴税の滞りもあって,財政の大幅赤字が続き,金融面でも,高金利にもかかわらず,通貨供給量は政府目標を上回る急増を続けた。

政府は,景気は81年央までに最悪期を脱して緩やかな回復に向っており,物価の騰勢鈍化も続くとみており,82年度について政府支出増(約5億ポンド),社会保障負担率引上げなどを含む経済パッケージを発表した(81年12月3日)。これらの措置もあって,82年には成長率は2年ぶりにプラス(1~1.5%)に転ずると政府は予測している。

第3-1図 最悪期を脱しつつあるイギリス経済

2. 需要動向

実質GDP(生産ベース)は79年4~6月期をピークに下降に転じ,80年中に約5.3%減少した後,81年上期にも前期比年率2.8%減少したが,7~9月期には同1.2%増と小幅ながら増加し,約2年にわたって続いた不況もほぼ底入れしたとみられる。

第二次石油危機を契機とした今回の不況期には,実質GDPは約7%低下したが,これは戦後最大といわれた74,75年の記録(ピークの73年1~3月期から底の75年7~9月期間に4.6%低下)をかなり上回っている。第二次石油危機のデフレ効果は,80年夏以降,石油純輸出国に転じたイギリスにとっては,前回よりはるかに小さかったはずである(北海石油生産の対GDP比は80年3%,寄与率0.1%)。それにもかかわらず,今回の不況が前回を凌いだのは,①原油価格引上げと金利の相対的高水準によるポンド相場の上昇,賃金コストの上昇が国際競争力を低下させたこと,②景気循環の自律的下降局面にあったことに加えて,③インフレ抑制を最優先として現政権が一貫して引締め基調の政策運営をとったこと,などを主として反映したものとみられる。

このため,内需の減少,在庫調整が長びくなかで,輸入比率は高まった。

しかし,81年央までに,在庫削減の幅も次第に小幅化し,景気はほぼ下げ止まったとみられる。

(1) 基調弱まる個人消費

実質個人消費は,80年上期の大幅増減の後,緩やかに増加していたが,81年春以降再び低下傾向に転じた。ならしてみると,80年は0.7%増,81年1~9月は前年同期比0.2%増となり,前回不況期の74年2.2%減,75年0.2%減のような続落は示していない。

今回の不況期には,失業の急増が続いたにもかかわらず,ポンド相場上昇による交易条件の改善もあって実質可処分所得への影響は前回よりも緩やかであり,80年下期には小幅ながら増加して,年平均も0.1%増となっている。もっとも81年に入ると,実質可処分所得の低下傾向が顕著となり(上期の年率6.0%減),個人消費の基調も弱まった。

消費の減少がこれまでのところ比較的小幅にとどまっているのは,80年中15~16%の高水準を示していた貯蓄率が,81年4~6月期には12%台に低下したことも一因とみられる。

乗用車購入については,80年中20.7%も急減したが,81年に入って上期年率3.8%増とやや持ち直した。もっとも上期の前年同期比は7.7%減と水準は低い。その他耐久財消費も,81年上期は前期比3.3%増となったものの,ピーク時の79年上期の水準にはまだもどっていない。

実質政府支出は,80年には不況の深化による必要経費増から前年比2.3%増と政府の意図に反して増加を続けた。しかし,81年に入ってからは抑制効果がみられ,上期の前期比は年率0.8%減となった。

第3-1表 部門別にみた不況の影響度

第3-2図 基調弱まる個人消費

(2) 減少つづく設備投資

実質総固定投資は,79年中は回復を続けたが(前年比0.3%増),80年に入って再び低下傾向を示し,とくに下期から81年初にかけて急落した(80年上期3.6%減,下期6.8%減,81年上期9.0%減,前期比年率)。これは78年初来減少を続けている住宅投資が不振の度を加え,非住宅投資も80春以降,減少傾向に転じたことによる(80年下期2.4%減,81年上期5.8%減)。

非住宅投資が減少傾向に転じたのは,政府部門投資の引続く減少に加えて,民間部門でも製造業設備投資の急落を中心に,80年春以降停滞を示していることによる。

製造業設備投資は80年初来減少を続けており,80年9.9%減の後,81年1~9月期の前年同期比18.1%減と一段と落込んだ。これは5月末発表の産業省投資予測調査(81年実質15~18%減)にほぼ見合っているが,水準は63年当時と同様の低水準となっている。もっとも,近年は税制上の理由もあって,企業が設備,機械をリースする場合がふえており(80年産業設備投資の約14%),これを考慮すると,80年6.4%減,81年11~14%減(見通し)と推計されている。

81年における製造業設備投資の急減は,主として建造物の減少(4~9月間の減少約18%)によるものであり,工場・機械は小幅減(同5%),車輛は若干増加(同4%)している。これは,①国際競争力の低下,内需停滞による企業利潤の減少(非石油企業は過去30年来の低水準を記録),②稼働率の低下(81年上期83%,正常以下で操業している企業の比率),③高金利(81年のプライム・レートは13~17%)など投資環境が引続き悪く,とくに拡張投資が打撃を受けていることを背景としている。この中で,労働集約的な商業・サービス部門においては,賃金コストの急増もあって資本装備率が高まる傾向がみられ,この部門の総設備投資(リース分を含む)は,79年17%増,80年9.8%増,81年1~9月期の前年同期比4.5%増となっている。

第3-3図 固定投資の減少傾向つづく

(3) 回復に転じた民間住宅投資

住宅投資は79年12.6%減,80年12%減に続いて,81年上期にも前期比年率29%減と急落した。これは主として,公共住宅建設(80年のシェア45.3%)が歳出抑制政策から引続き大幅に減少(81年上期同50%減)したことによるものである。これに対して,民間住宅建築は81年初来回復傾向にある(81年4~6月期の80年10~12月期比4.5%増)。

住宅着工件数でみると,民間住宅は80年下期の年率8.5万戸を底に回復に転じ,81年7~9月期には年率12万戸台,前年同期比43.4%増となった。公共住宅も81年央頃までにほぼ下げ止まったとみられる(7~9月期の前期比9.6%増,前年同期比31.1%減)。

民間住宅投資の回復は,①住宅ローン金利の低下(80年12月に15→14%,81年4月に13%へ),②住宅需要見通しの改善(新世帯形成増,雇用減の小幅化や住宅ローン支払比率の低下など所得面での改善,公共住宅の減少),③住宅価格が個人所得に対して相対的に低下していること,などによるものであり,この回復傾向は82年にも持続するとみられている。

(4) 小幅化した在庫調整

在庫投資は80年1~3月期よりマイナスに転じ,期を追っで大幅化し,年間では19.8億ポンドとGDPの減少幅(16億ポンド),を上回や大幅減となった。81年に入って削減幅は若干縮小したものの,上期は年率33.4億ポンドに達している。

この急激な在庫削減は,高インフレ下における企業利潤の減少,手元流動性の逼迫などから,製造業を中心に在庫水準の引下げを迫られたことによるものである。在庫率(在庫水準/生産)も低下を続けているが,過去の実績からみるとまだかなり高く,74年10~12月期を基準とする製造業在庫率指数謙,80年10~12月期114.5,81年7~9月期106.1となっている。

第3-4図 峠をこした在庫調整

3. 生産・雇用

(1) 生産は年央に下げ止まりへ

鉱工業生産は79年5月をピークに下降に転じ,年末までに2.6%減,80年末までさらに約11%低下した。81年に入ると,低下テンポは1~3月期前期比1.1%減,4~6月期0.9%減としだいに緩やかとなった。その後は,一進一退ながらほぼ下げ止まり,7~9月期同0.7%増の後,10月は前月比1.7%増(前年同月比0.8%増)となった。

今回の不況期には,製造業の生産低下がとくに著しく,ピーク時の79年6月から81年5月までの低下は19.1%(全産業では同15.3%減)に達している。

81年央以降の生産の立直りは,在庫調整の進展にほぼ呼応しており,これまで大幅な落込みを示していた化学,機械などを中心とする製造業の増加によるものである。しかし,その水準はまだきわめて低く,81年10月の前年同月比は0.5%増(全産業は同0.8%増)となっている。

第3-5図 イギリスの2つの不況期における生産と雇用

(2) 悪化つづく雇用情勢

79年秋以降減少に転じた雇用者数は,80年末までに約113万人減,81年央までにさらに59万人減少した。とくに,80年後半から81年初にかけては月平均10~13万人の大幅減となったが,その後はしだいに減少テンポを緩めている。

このような大幅な雇用の減少は,過剰人員がかなりの規模に達していたこと,景気後退が長びき回復のめどがつけ難かったこと,賃金の急騰,企業利潤の縮小,などを背景としたものであり,戦後のどの後退期よりも顕著であった(74,75年における雇用減は約20万人)。製造業雇用の減少傾向が続いているのに加えて,商業・サービス部門,公共部門でも雇用の大幅減がみられる。

失業者数(新規学卒を除く)も79年8月の126万人を底に増加に転じ,とくに,80年後半から81年初にかけては月平均10万人強の急増を示した。その後は増勢は弱まったものの依然増加を続けており,81年11月現在約280万人(失業率11.7%)となっている。新規学卒を含む総数(原数値)では81年9月の299.8万人をピークに若干減少しているが,これには若年者を中心とする雇用促進措置の強化(81年7月末発表)が影響しているとみられる。

81年末までには,ストライキ件数も激減し,一時解雇者数の減少,未充足求人数や週当り労働時間の増加など,雇用情勢にも改善のきざしがあらわれはじめている。

第3-2表 大幅に悪化した雇用情勢

4. 賃金・物価

(1) 賃金上昇率の鈍化

雇用情勢が急激に悪化したにもかかわらず,賃金率(週当り)は80年秋までむしろ上昇テンポを速め,80年4~9月には前年同期比19%強となった。しかし,その後は民間部門から急速に上昇率を鈍化させ,31年央以降は1桁となっている(81年10月8.8%増)。

平均賃金収入でみても,80年9井のピーク時には前年同月比26%増となったが,その後は上昇率は鈍化傾向を続けており,81年7~9月期には11.4%増となっている。民間部門の伸びが不況の深化を反映して80年秋以降急速に鈍化に向ったばかりでなく,政府部門でも,81年に入ってからも賃上げをめぐるストが相ついだものの,夏までに平均7.5%で妥結するなど大幅な鈍化がみられたことによる(79年秋から80年夏の前賃金ラウンドでは14~28%の賃上げ)。

81年秋以降の現行賃金ラウンドでも,国有産業のブリテッシュ・レイランド(BL)で11月初3.8%で妥結するなど賃上げ圧力は概して穏やかであるが,地方公務員,炭鉱労組など一部労組は政府のキャッシュ・リミット(82年度4%)に強く抵抗しており,先行きは必ずしも楽観できない。

第3-3表 賃金・物価上昇率の鈍化

(2) 物価上昇率の鈍化に足ぶみ

消費者物価の騰勢は,80年5月の前年同月比21.9%高をピークに急速に弱まり,年末には同15.1%高,さらに81年7月には同10.9%高まで鈍化した。

しかし,その後は若干騰勢を強め,81年10月現在同11.7%高となっている。

81年夏までの騰勢鈍化は,主として,①金融引締め下でポンド相場が上昇し(80年の対ドル相場9.7%高),輸入価格,原燃料卸売物価が急騰から鈍化に転じたこと,②生産性低下の下げ止まり,賃上げの小幅化による賃金コスト上昇率の鈍化,③販売促進のための値引き,利幅縮小,などによるものである。

しかし,81年に入るとポンド相場は再び低下し(81年初から10月までの対ドル相場21.5%低下),石油,政策関連価格(酒・たばこ,ガス・電気,運賃,郵便・電話,公共家賃など)の引続く大幅上昇もあって,81年秋から年末にかけて物価は上げ足をやや速めている。

工業品卸売物価もほぼ同様のうごきを示しており,80年上期の18.5%高から81年上期には10%台に鈍化し,夏には一時1桁にもなったが,その後は騰勢を若干強めている(81年11月現在11.1%高)。

第3-4表 消費者物価の費目別上昇率

5. 貿易・国際収支

貿易収支は80年下期以降黒字基調をつづけており,とくに,81年2月までの半年間の黒字幅は26.7億ポンドに達した。ポンド高による非石油交易条件の改善,石油収支の黒字化に加えて,この間,輸入が不況,在庫削減によって異常な低水準に低下したことによる。81年春から夏にかけて断続的に続いた公務員ストのため,この間の貿易統計は未発表だが,81年9,10月には1.3億ポンドの黒字となっており,下期に入って黒字幅はかなり縮小したとみられる。

貿易外収支の黒字幅も80年下期から81年上期にかけて大幅化したため,経常収支黒字幅は80年下期36億ポンド,81年1~3月期30億ポンドの巨額に達した。

一方,資本等収支は,79年末の為替管理全廃もあって長期資本の純流出が続いており,短期資本も81年に入ってドル高や金利差の縮小などから純流出に転じたことから,80年下期の赤字16億ポンドにつしで,81年上期には53億ポンドの大幅赤字となった。このため,総合収支も80年の黒字から81年上期には小幅赤字となっている。

第3-5表 黒字基調の国際収支

6. 経済政策

経済政策については,81年にもインフレ抑制を最優先とする引締めスタンスが維持された。しかし,物価上昇率の鈍化,失業者数の記録的高水準などを考慮して,より現実的な運営が行われており,81年12月,82年度財政支出の実質約4%増を含む一連の経済パッケージが発表された。

81年3月発表の81年度予算案は,歳入面では,①個人所得税基礎控除などに対する物価調整の停止,②酒・たばこ,ガソリン,乗用車登録税の税率引上げ,③北海石油臨時課徴金,臨時銀行利得税の導入などにより総額約36億ポンドの増収をはかる一方で,歳出面では,支出項目全般にわたる見直しにより実質ほぼ横ばいに抑制するというきびしい措置がとられた。

第3-6表 イギリスの財政収支

これにより公共部門借入れ所要額(PSBR)は約106億ポンドとなると予測され,80年度実績見通し約135億ポンドを下回るとされた(80年度の当初予算では85億ポンド)。

81年度4~9月期のPSBRの実績は約95億ポンドとなっているが,この半分は公務員ストによる徴税の遅れによるものであり,これを調整すると前年同期を優に下回っているとされる。

失業の急増に対処するため,81年7月末,追加的な雇用対策(81~82年度について総額8.5億ポンド,対象約50万人)を導入したほか,12月初には,82年度についての政策パッケージの概要を発表した。

その主内容は,①82年度の公共支出を3月発表の公共支出計画1,100億ポンドから1,150億ポンドに増加,②中央政府の行政費の伸びの抑制,③社会保険等の負担率の引上げなどである。これによるPSBRの変更は未確定だが,当初計画の対GDP比21/4%は大きくは修正されないもようである。

金融面でも,最低貸出し金利(公定歩合に相当)を予算案発表と同時にさらに2%引下げて12%とした。また,8月20日以降は,通貨供給量の調節をより効果的にするために,従来の準備資産比率による規制から公開市場操作に重点をおく新方式に移行しており,これに伴って最低貸出し金利の公表は停止された。

通貨供給量M3(ポンド建て)の伸びは,政府部門赤字,民間資金需要がいぜん大幅だったことから,81年2~10月にも年率約19%と政府目標(年率6~10%増)を大幅に上回っている。

第3-6図 大幅な伸びを続ける通貨供給量

7. 経済見通し

戦後最大の生産低下を記録した今回の不況も,81年央までにほぼ底入れし,緩やかながら回復に向いつつあるとみられる。

政府も81年12月初発表の経済見通しで,景気は81年夏に回復の兆しをみせ,82年にも回復が続き,実質GDPは81年下期から82年下期にかけて1~1.5%増加すると予測している(82年平均1.0%増)。

この政府見通しは,同日発表された82年度の政策パッケージおよび所得税基礎控除などの物価調整(約12%)の実施を考慮し,さらに①通貨供給量M3の伸びは「中期財政金融戦略」できめられた5~9%の上限に近い,②ポンド相場は81年11月の実効レートにとどまる,③主要先進国は平均実質1.5~2%の成長を続け,世界貿易も拡大し,イギリスの貿易構造でウエイトをつけた工業品貿易の伸びは実質4~5%となる,などを前提としたものである。

需要回復要因としては,①在庫調整がかなり進捗し,82年には,企業利潤,需要見通しの改善により手元資金の逼迫が緩和するとみられることから,在庫投資は小幅ながら増加する(対GDP比0.3%),②産業設備投資の緩やかな回復,民間住宅の増加による民間固定投資の増加(2.5%)などがあげられている。

個人消費については,実質可処分所得の低下傾向がなお続くものの,インフレ率の鈍化もあって貯蓄率がさらに低下するため,ほぼ横ばいとなるとみる。海外経常余剰は,輸出が増加(2.5%)するものの,輸入が在庫積増しもあって急増(8.5%)するため,マイナスの寄与となっている。ただし,名目表示の経常収支は大幅な黒字(約30直ポンド)を予想している。

インフレ率は,ポンド相場低落の影響が一巡し,また単位当りコストの上昇テンポ鈍化が続くため,82年も鈍化傾向にあるが,そのテンポはきわめて緩やかとみている(82年10~12月期の前年同期比10%高)。

失業者数については水準は明示されていないが,景気回復のなかで増勢は弱まるとしている。

こうした政府の見通しは,OECDや民間機関のものより,内需の回復について若干楽観的であり,とくに民間固定投資の立ち直りを高目にみているのが特徴である。全英経済社会研究所(NIESR)の11月末発表の見通しでは,政策変更がなければ,今後5年にわたって景気停滞が続き,年平均1.25%程度の成長しか期待できず,失業者数は82年に300万人台にのせ,86年末には340万人に達するとしている。

第3-7表 イギリスの経済見通し

第4章 西ドイツ:長びく景気停滞

1. 概  観

西ドイツでは,第2次石油危機の影響から80年春以降景気が下降し始め,80年の実質GNP成長率は79年の4.4%を大きく下回る1.8%となった。81年1~3月期には好調な外需に支えられて,実質GNP,鉱工業生産ともほぼ1年ぶりは増加を示すなど,景気は最悪期は脱したとみられる。しかし,その後の足どりは極めて鈍く,4~6月期,7~9月期とも労働日数を調整した実質GNPは前期比横ばいとなった。これは,個人消費や設備投資などの内需が低迷しているためであり,外需はマルク相場下落による価格競争力回復により堅調で景気の落込みを下支えした。

81年の実質GNP成長率はマイナス0.3%(速報値)と,75年以来のマイナス成長となった。

このような景気動向と労働力人口の増加を反映して雇用情勢は80年央以降悪化の一途をたどっており,81年の失業者数は年平均125万人にものぼるとされている。

81年度の賃上げは前年を下回る5%程度で妥結したところが多かったため,賃金上昇率は鈍化傾向をみせ,年央以降実質賃金は横ばいからマイナスとなった。

物価は,マルク安による輸入インフレの影響から81年には再び騰勢を強め,消費者物価上昇率は10月には前年同月比6.7%高まで高まった。

経常収支は80年に約300億マルクの大幅赤字を記録したあと,81年春以降貿易黒字の拡大に伴って赤字幅が小幅化し,81年計では約250億マルクの赤字へと赤字幅縮小が見込まれている。

財政面では,景気停滞や高金利を背景に,81年度の政府部門の赤字が80年度を上回る既往最最高になると見込まれており,82年度については超緊縮型の予算案が策定されるなど財政再建が図られている。

金融政策は,マルク相場の安定によるインフレ抑制,経常収支赤字ファイナンスのための資本流入促進の観点から景気情勢の悪化にもかかわらず引締め政策がとられ,81年2月に導入された特別ロンバート貸付の金利が高水準で続けられている。

82年には景気も回復に向うと予想されるものの回復力は弱く,失業者は81年をさらに上回ることが見込まれるため,雇用問題が最重要課題となっている。

第4-1表 実質GNP(1970年価格)と主要需要項目の動き

2. 需要動向

(1) 不振を続ける個人消費

前回の不況期には景気下支え要因となっていた個人消費は79,80年と実質GNPの伸びを下回る低い伸びにとどまり,81年1~9月期には前年同期比1.1%減と落込んだ。

個人消費不振の原因としては,次のようなことが挙げられる。

第4-1図 個人消費関連指標の動き

(2) 滅少へ向う機械設備投資

80年の機械設備投資は企業による省エネルギー,代替エネルギー開発,国際競争力強化のための合理化投資などに支えられて根強い伸びを示したが,81年に入ってからは減少傾向を示している。機械設備投資の先行指標となる資本財国内向け新規受注数量も80年1~3月期をピークに低下傾向を示し,81年7~9月期には80年1~3月期から13%もの減少となった。

機械設備投資不振の原因としては,企業収益の鈍化,稼働率の低下(第4-4図),高金利を背景とした金融資産への投資増などが挙げられる。粗企業・財産所得の動きをみると,80年4~6月期以降減少しており,特に80年10~12月期から81年4~6月期まで低水準で推移している。これに伴い国民所得に占める粗企業・財産所得の割合も81年4~6月期には26.1%と,これまでの最低だった74年10~12月期の27.1%をさらに下回る水準に落込んだ。

第4-2図 機械設備投資関連指標の動き

第4-3図 建設投資関連指標の動き

(3) 建設投資も減少へ

建設投資は前年から持越した高い受注残や産業用建設需要の増加から80年平均では前年比4.4%増と堅調な伸びをみせた。しかし,81年1~9月期には前年同期比3.3%減となった。

建設投資の先行指標となる建設業新規受注数量をみると,住宅建築はすでに80年上期に急減し,81年に入ってからも高金利を背景に減少傾向にある。

また財政緊縮による公共建設の減少から土木工事の受注数量も80年央以降急減しており.81年7~9月期の水準は80年1~3月期に比べ42%も下回っている。80年末まで堅調を保った非住宅建設新規受注数量も企業の拡張投資意欲の低下から81年1~9月期には減少した。

IFO経済研究所の投資予測調査の結果をみても,81年春の調査では,81年の投資の主目的を設備拡張におくと答えた企業の割合は前年より減少し,代って合理化,更新投資を主目的とする企業の割合が前年より増加している。また82年についても,81年秋の調査では半分以上の企業が合理化を主目的とすると答え,設備拡張を主目的とする企業の割合は著しく減少している。

(4) 大幅な在庫調整

79年から80年初にかけては原材料の値上りを見越しての備蓄やアフガニスタン危機を背景に,大幅な在庫積増しが行なわれたが,その後は在庫調整が続いている。特に81年上期は高金利の影響もあって在庫投資が著しく小幅化し,7~9月期には減少に転じた。実質GNPに対する実質在庫投資の比率をみると,79年の2.0%,80年の1.3%から81年1~3月期は0.7%,4~6月期は0.05%,7~9月期にはマイナス0.6%へ低下した。企業の完成品在庫に対する判断も(第4-4図)多すぎると答えた企業の割合が80年春以降急増し,81年に入ってからも高水準を続けている。

第4-4図 生産関連指標の動き(季節調整値)

3. 生産・雇用

(1) 生産は横ばい

鉱工業生産は80年初をピークに80年末まで低下し,80年平均では前年比0.4%減と75年以来5年ぶりに前年の水準を下回った。81年春には一時持直したものの,その後再び低下したあと,横ばい状態を続けている。81年平均では80年に続き前年の水準を下回ると予想される。内訳をみると,建設業の生産が80年1~3月期のピークから81年7~9月期までに14%低下したほか,製造業の中では基礎財が同9.5%減,消費財が同9%減とそれぞれ大幅減少となった。他方,資本財は同2%減と落込み方は小さかった。

製造業稼働率(IFO経済研究所調査)も81年9月には78.3%まで低下し,1971~80年の平均(82.5%)を大きく下回る低水準となった(前回のボトムは75年央の75.2%)。

鉱工業生産の先行指標となる製造業新規受注数量も80年初をピークに80年末まで減少したが,81年には持直した。これは輸出向け受注数量が81年に入って急増しているためであり,国内向け受注数量は80年夏以降緩かな減少傾向にある。

(2) 悪化する雇用情勢

雇用情勢は景気の低迷及び労働力人口の増加から悪化の一途をたどり,失業問題は現在の最重要課題となっている。

雇用者数(季節調整値)は80年7~9月期に減少に転じ,81年4~6月,7~9月期とも各々前期比7万人の大幅減少となった。失業者数(同)も80年央以降急増し,80年末からは百万人台が続いている。11月の失業者数は152万人,失業率(同)は6.5%へ高まっており,81年平均の失業者数は125万人(80年平均は89万人)にものぼると予想されている。これは1954年の122万人以来の高水準である。また,82年には景気が回復しても失業者は増加を続け,160~165万人に達するとされている。これはベビーブーム期の世代の市場参入継続が一因となっており,81年秋時点で20才未満の失業者は全失業者の約10%を占めている。また外国人の割合が同14%にのぼっているが,これは80年に難民として多くの外国人が流入したことが影響しているとみられる。

操短手当受給者数も80年秋以降急増し,高水準を続けている。特に増加しているのは繊維,被服などの業種である。

未充足求人数も80年初から急減を続け,81年11月で15万人と75年末のボトム(22万人)を下回る低水準に落込んでいる。

第4-5図 雇用関連指標の動き

4. 賃金・物価

(1) 実質賃金上昇率マイナスヘ

80年の平均賃上げ率(基本給のみ)は6.7%と,前年の4.5%を大きく上回り,80年の経済情勢からみて高すぎるものとなった。このため企業収益を圧迫する要因になったとみられる。

81年度の賃上げ交渉においては,組合側は実質所得の確保を主張したのに対し,使用者側は生産性上昇の範囲内での賃上げを主張して対立し,賃金交渉が長びいた。最終的には金属労組がノルトヴュルテムベルク/ノルトバーデン地区で4.9%の基本給引上げと一時金で妥結したほか,公務・運輸・交通労組が4.3%の基本給引上げと一時金で妥結するなど前年を下回る水準に収まった。平均では5%程度の賃上げになったとみられる。

このため全産業時間当り賃金率も80年平均の前年比6.7%から81年1~3月期の6.6%(前年同期比),4~6月期の5.5%,7~9月期の5.1%へと上昇率が鈍化し,実質賃金では4~6月期以降横ばいからマイナスとなっている。

第4-2表 実質賃金上昇率の動き

(2) マルク安から物価再騰

物価は第2次石油危機の影響から80年春まで騰勢を続けたあと,上昇率鈍化傾向にあったが,秋以降マルク相場が急落したのに伴って再び騰勢を強め,81年は80年を上回る上昇を示した(第4-6図)。

第4-6図 西ドイツの物価動向

消費者物価上昇率をみると,80年5,6月に6.0%(前年同月比)に達したあと,10月には5.1%まで低下した(80年平均は前年比5.5%高)が,その後マルクの対米ドル相場の低下からエネルギー関係を中心に再び上昇率を高め,81年10月には前年同月比上昇率が6.7%と前年のピークを上回った。液体燃料(自動車用燃料は除く)の前年同月比上昇率は80年9月のマイナス5.8%から80年9月には41.0%へ高まり,自動車用燃料についても80年10月の12.5%から81年9月には27.3%へ高まった。その他の品目は概ね低い上昇にとどまったため,消費者物価総合から石油製品を除いた物価上昇率をみると,80年9月から81年9月までほぼ5~5.2%の上昇であった。

工業品生産者価格の前年同月比上昇率も80年4月8.4%をピークに低下傾向をみせていたが,輸入物価上昇率の下げ止りから反騰という動向に敏感に反応し,81年9月には8.9%まで再上昇した。

他方,住宅建築価格はブームの衰えとともに騰勢が鈍化し,80年5月の11.7%(前年同月比上昇率)から81年8月には5.2%となった。

5. 貿易・国際収支

(1) マルク安から輸出が急増

80年春から秋まで低下傾向をたどった輸出は,80年末以降再び増加し始め,81年に入って急増を続けた。これは,マルク相場の低下と,外国に比べた西ドイツの物価安定から西ドイツ製品の価格競争力が回復したことが主因となっている。特にマルクの対米ドル相場が急落したことから,米ドルによる決済が主であるOPEC諸国や非産油途上国向けの輸出が大幅に増加した。81年1~10月期の輸出金額は前年同比期11.6%増であったが,うちOP EC諸国向けが50.6%増,非産油途上国向けが22.4%増であった。他方,西ドイツの輸出の半分を占めるEC諸国向けは,81年1月からECに加盟したギリシア向けが好調だった他は低調で,全体では同6.4%増の低い伸びにとどまった。

輸入は,マルク安に伴う石油及び石油製品を中心とした輸入金額の膨張から81年1~3月期まで輸出の伸びを上回って増加した。このため貿易収支黒字は縮小し,3月には赤字に陥った。しかし,その後は内需不振や西ドイツ製品の国内市場における価格競争力回復から輸入は輸出の伸びを下回り(1~10月期の輸入金額は前年同期比7.9%増),これに伴って貿易収支の黒字幅は拡大した。

第4-7図 輸出入金額と貿易収支動向

(2) 大幅経常赤字継続

経常収支は,79年5月以降赤字に転じ,79年全体では65年以来14年振りの赤字(96億マルクの赤字)を計上し,さらに80年には298億マルクの赤字と赤字幅が3倍化した。

81年1~3月期まで経常収支赤字は拡大を続けたが,4~6月期以降貿易黒字の拡大とともに赤字幅が縮小し,10月には2年半ぶりに黒字へ転換した。しかし81年全体では前年をやや下回る250億マルク程度の赤字が見込まれている。

こうした巨額の経常収支赤字を相殺するためにも,連銀は国内金利を高めに保つ一方,外資流入規制の緩和を通じて資本流入の促進を図ったが,海外における金利高などから民間部門の長期資本収支は赤字となった。このため,政府は積極的な対外借入れを行った。大蔵省の発表によると,81年10月末現在の政府対外借入れは254億マルク(80年は206億マルク)にのぼり,うちO PEC諸国から133億マルク,アメリカから44億マルクを借入れているとしている。

第4-3表 国際収支の動き

6. 経済政策

(1) 81年度の財政赤字は既往最高

1981年度(1~12月)の連邦政府予算案は80年12月に閣議決定された段階では,歳出規模2,246億マルク(前年度実績比4.1%増),純借入れ額274億マルクの緊縮型のものであった。しかし,その後失業手当支給の増加,高金利を背景とした国債利払増などから歳出が膨らみ,景気低迷から税収が減少したため,予算成立段階では,歳出額が2,312億マルク(前年度実績比7.2%増),純借入れ額は338億マルクヘ拡大した。地方政府も含めた政府部門全体の純借入れ額は81年には680億マルク以上になる見込みであり,75年の536億マルク,80年の538億マルクを上回る既往最高である。このような政府による大量の資金調達が民間の資金需要を圧迫し,また高金利の原因となっているとの指摘がなされた。

この点を考慮して82年度連邦政府予算案(81年9月閣議決定)は財政再建を優先させた超緊縮型となった。 第4-4表。に掲げたように,歳出面において約129億マルクの節減,歳入面ではネットで約31億マルクの歳入増を計画している。この結果,歳出額は2,408億マルク(前年度予算比4.2%増),純借入れ額は265億マルクヘ縮小する見込みである。

第4-4表 西ドイツ連邦政府の1982年度予算案と1983~85年度中期財政計画

(2) 高金利の継続

80年にはインフレやマルク相場の下落,資本流出に対処するため金利の引上げが相次ぎ,80年5月には公定歩合が7.5%,ロンバート・レート(債券担保貸付金利)が9.5%へとそれぞれ戦後最高水準へ引上げられた。

その後マルク相場の持直しと景気下降を背景に秋にはロンバート・レートが0.5%引下げられ,慎重ながら緩和への移行もみられた。しかし,80年末から81年初にかけてマルク相場が急落したため連銀は再び引締めを強化し,81年2月央にはロンバート貸付を停止して,連銀の自由裁量で金利と貸付の実施,停止を決定できる特別ロンバート貸付を導入した。この措置は緊急避難的なものであったが,その後もマルクの対米ドル相場は下落し続けたため,景気停滞と各界からの引下げ要求にもかかわらず12%という高金利水準が10月初まで維持された。

4~6月期以降経常収支赤字が縮小に向い,マルクの対米ドル相場も8月半ばから持直し,10月初にはEMS内でマルクが切上げられたことを背景に10月9日には特別ロンバート・レートも11%へ,また12月4日には10.5%へと徐々に引下げられたが,なお高水準となっている。

中央銀行通貨量は81年の目標増加率(10~12月期の前年同期比)が4~7%と前年の5~8%よりさらに抑制的なものに決められていたが,連銀は年央の見直しに当って,インフレの加速に鑑み,年後半は目標圏の下半分に伸びを保つようにすることを決定した。また82年の目標増加率については12月初に81年同様4~7%(10~12月期の前年同期比)と決定された。目標圏内のどこに照準を合せるかは,経済動向の推移をみて決めることとされている。

第4-8図 中央銀,行通貨量の伸びと金利動向

7. 経済見通し

(五大研究所見通しの多数意見)

マルク相場の上昇が継続し,財政健全化方針が維持され,賃上げが81年より低いものとなることなどを前提とすれば,景気は82年上期中に上昇を始める。これは建設投資が公共関連を中心に落込むものの,輸出が引続き増加して景気回復を推進し,在庫投資も上向きに転じ,また個人消費も年後半にかけて徐々に持直すことによるものである。経常収支はほぼ均衡に向い,消費者物価上昇率も鈍化するが,失業者は労働力人口の増加もあり,年平均160万人以上に増加する。

(キール研究所による少数意見)

海外需要からの刺激はそれ程強くなく,また引締め的な財政・金融政策により,国内需要も一段と低調な動きを示す。このため,81年末から82年初にかけて生産はさらに低下することが見込まれるため,景気は82年中には回復すると予想されるものの,年平均の実質GNPは前年比1%減となる。失業者も年平均175万人に達する。

(経済専門家委員会による見通し)

景気停滞は82年にまでズレ込み,回復は下期に始まる。輸出増加が景気回復に寄与するものの,個人消費は経常赤字補填のための外国への所得移転などから82年も前年水準を下回るほか,投資も企業の投資意欲の低下から落込むためである。経常収支は100億マルクの赤字へとやや縮小し,消費者物価も鈍化するが,失業者数は年平均165万人へ急増する。

このように,五大研究所と経済専門家委員会の経済見通しにはかなりの相違がある。また政策提言においても,意見の違いがみられる。金融政策については潜在成長率に見合った通貨を供給すべきであり,中央銀行通貨量の目標増加率を五大研が5.5~6%,委員会が5.5%が妥当であるとしている点で一致している。しかし,財政政策については,五大研が,肥大化した社会保障支出の削減により財政再建を進めるべきであり,短期的な景気刺激策はとるべきでない(ドイツ経済研究所は少数意見として景気刺激策の必要性を主張)としている。これに対し,委員会は,歳出削減を中心とした構造的赤字中期的な解消に努めることが肝要であるとしながらも,82年については雇用対策重視の観点から公共投資の確保,民間投資の促進などによる70億マルク程度の景気対策を提言している。なおこれが行われれば,実質GNP成長率は1%強になるとしている。

第4-5表 1982年の経済見通し

第5章 フランス:景気は緩やかながらも回復へ

1. 概  観

80年4~6月期以降調整局面に入ったフランス経済は81年1~3月期まで停滞したものの,社会党政権の積極的景気対策により年央以降緩やかながらも回復に向かっている(第5-1表)。このため81年の実質経済成長率は0.5%程度のプラスになったとみられる。しかし,景気回復の柱となったのは,個人消費と輸出であり,設備投資は年初来不振が続いている。

雇用情勢,物価情勢は81年に入ってさらに悪化し,また高水準の貿易収支赤字が続くなど経済のパフォーマンスは依然改善をみせていない。失業者数は81年10日には初めて200万人の大台を突破し,消費者物価上昇率も同月には75年1月゛以来最高の14.1%を記録した。また社会党政権誕生を契機にフランは売圧力にさらされ,政府はフラン防衛のため数回にわたって為替管理の強化や金利引上げ等を余儀なくされた。しかし,10月4日にEMS調整が行われ,フランは3%切り下げられた。

ミッテラン政権にとって発足後2年目の82年も多難であると予想される。

景気は緩やかながらも回復が続くとみられるが,経済のファンダメンタルズの改善は期待できず,むしろ悪化する可能性すらあるとみる向きも多い。特に雇用創出策等に伴う財政赤字の拡大,金融の緩和は,インフレ悪化とフラン安という悪循環を助長する恐れがあり,今後ミッテラン政権がこれにどう対処して行くかが注目される。

第5-1表 実質GDPと需要項目の動向

2. 需要動向

(1) 個人消費は回復へ

81年初めには低迷していた個人消費は,4~6月期は前期比1.3%増,7~9月期は同1.1%増と回復に転じ景気回復の柱となっている。こうした個人消費の回復は,ミッテラン社会党政権の実施した消費需要喚起策が効を奏し,実質可処分所得が増加したことによるところが大きい。新政権は6月3日,①最低賃金(SMIC)の10%引上げ,②家族手当,住宅手当の25%引上げ(住宅手当はさらに12月に25%引上げ)及び老齢年金,身障者年金の20%引上げを決定し,低所得者層を中心に購買力引上げを狙った。このため実質可処分所得は,4~6月期には前年同期比3.4%の伸びとなった(80年10~12月期前年同期比0.0%増,81年1~3月期は同2.3%増,第5-1図)。

第5-1図 個人消費関連指標の推移

個人消費の動向を小売り売上数量(中央銀行調査)でみると,自動車,テレビ,ラジオ等の耐久消費財の伸びが目立ってきている。乗用車登録台数は1~3月期は前年同期比11.3%減であったが,8月以降はほぼ前年並水準に戻り,11月には同9.3%増と回復を示している。

このように消費は上向いてきたが,今後も一本調子で回復するかどうかには懐疑的見方も少なくない。政府は82年の実質個人消費の伸びを2.5%増と見込み,引続き景気回復の柱となることを期待している。しかし物価上昇による実質所得の伸び悩みや失業者の増大などから消費が伸び悩む可能性があるとの指摘もされている(フランス銀行)。

(2) 滅少続く企業設備投資

80年には前年比2.6%増と堅調を保った粗固定資本形成は81年に入って不振が続いている。

企業設備投資は81年1~3月期に,実質で前期比1.7%減の後もさらに減少を続けている(4~6月期前期比0.3%減,7~9月期同0.5%減)。国立統計経済研究所(INSEE)の製造業投資予測調査(12月)でも81年の企業設備投資は実質で12%減少すると見込まれている。こうした企業設備投資の不振は,最終需要の伸びが弱いことや,主要企業国有化等を中心とする新政権の政策スタンスに対する先行き不透明感が強まっているためである。またフラン防衛のために金利が大幅に引上げられたことも影響しているとみられる。

新政権は6月17日,設備投資を促進するため,①優遇金利での長期融資枠の拡大(前政権の予定枠130億フランから170億フランヘ)。融資を受ける企業のうち,輸出,エネルギー等の優先目標関連投資にかかわるものは12.75%の金利が,その他については14.75%の金利を適用。②景気調整基金を発動し,産業投資促進のための資金として50億フランの枠を用意する。等の措置を決定した。しかし,その後もビジネス・サーベイ等にみられるように,企業家は依然慎重な態度をとり続けている。INSEEの資本財受注の調査(「増加した」とみる企業の割合ー「減少した」とみる企業の割合)によると,81年1月-12,4月-18,7月-25,11月-24と改善はみられない。82年についても企業設備投資は政府が期待する程は伸びないとの見方が多く,消費とともにミッテラン政権の景気浮揚策の柱となることが期待されている設備投資の前途は暗い。

一方民間住宅投資も,金利の高騰やインフレの激化等により住宅建設コストが上昇したこともあって低水準で推移している。しかし,82年の見通しについては金利動向等にもよるが,OECDでは年後半には上向くと予想している。

(3) かなり進んだ在庫調整

80年中堅調な個人消費などを背景に増加を続けた在庫投資は81年に入り,消費の伸び悩みや設備投資の不振により在庫過剰感が高まり調整を余儀なくされた。特に資本財の在庫調整は長びいている。しかしながら年央以降,消費の回復に伴なって消費財部門の在庫調整は急ピッチで進展し,11月頃にはほぼ正常な水準になったとみられる。82年にかけては需要の回復を背景に在庫は積み増しが行われ景気にはプラスに働くとみられる。

3. 生産・雇用

(1) 回復に向かう鉱工業生産

80年以降低下し始めた鉱工業生産(土木・建設)は,81年に入っても内外需の低迷を反映して下降を続けた。しかし,年央にはようやく下げ止まり,緩やかながらも増加に転じつつあるとみられる(第5-2図)。

第5-2図 生産及び在庫,受注の動向

部門別にみるとエネルギー部門は世界的な石油需給の緩和もあって年初来低迷を続けた。また中間財部門も非鉄金属,ゴム,化学製品等を中心に低迷を続けたが,夏場以降は持ち直す業種も出ている。一方消費財部門は年央以降の内需回復を反映して自動車,家電等を中心に増加に転じつつあるとみられる。資本財部門では設備投資の不振にもかかわらず底固く推移した。

INSEE景況調査により,企業家の在庫・受注判断の動向をみると,年央頃から両指標とも改善傾向にある(第5-2図)。11月の調査では在庫水準は正常な水準近くまで減少しており,受注も大幅に改善してきている。このため,今後しばらくは消費財部門を中心に生産は増加を続けるとみられる。しかし資本財部門については設備投資の不振により先行きの生産見通しは暗い。

(2) さらに悪化した雇用情勢

5月の大統領選挙で最大の争点となった失業問題は,ミッテラン政権誕生後もますます深刻さを増している。失業者数(季調値)は80年末の151万人からほぼ一貫して増え続け11月には185万人となった(第5-3図)。また原数値では200万人の大台を突破した。25才以下の失業者数は全体の約47%(81年10月)にも達し,若年労働者の失業がきわめて深刻なことを物語っている。また80年後半以降,熟練労働者の失業増加が顕著になっている(第5-4図)。9月現在でみると熟練労働者の失業者数の前年同月比増加率は43.2%(12万人増)となっており,単純労働者(+31.5%,4万人増),半熟練労働者(+22.4%,6万人増)の増加率を大きく上回っている。これは,熟練労働者が重要な位置を占める繊維,皮製品,鉄鋼等の製造業が内外需不振によって,雇用を減らしているためとみられる。また未充足求人数も減少を続け11月には前年を22%も下まわる低水準なった。

第5-3図 雇用情勢の推移

第5-4図 各層別失業者数

こうした雇用情勢の悪化に対して,政府は6月に公共部門での雇用創設(81年中に約5.4万人の雇用創設)を中心とする雇用対策を発表した。また政府は,労働時間の短縮(85年までに法定週労働時間を40時間から35時間へ),退職年齢の引き下げ(65才→60才),年次有給休暇の拡大(4→5週間)等のワーク・シェアリング(労働の分かち合い)を導入することにより失業問題を解決しようとしている。しかし,こうしたワーク・シェアリング論に対し,フランス経団連(CNPF)を中心とする経営者側は,労働コストの上昇がインフレの高進,国際競争力の低下をもたらし,結局これがさらに失業問題を悪化させると反発している。フランスの雇用問題の解決が困難となっている大きな理由としては,労働力人口の増加により供給圧力が根強い反面,雇用者数は製造業を中心に減少しているという構造的要因が指摘される。このためミッテラン政権は雇用対策を積極的に進めているものの,景気の回復が緩やかなこともあって即効性はないとみられている。INSEEの見通し(12月)でも,増加テンポは幾らか鈍化するものの,失業者数は少なくとも82年前半までは増え続けると予想している。

4. 賃金・物価

(1) 賃金上昇率は再び15%台へ

時間当り賃金上昇率(生産労働者)は80年第2四半期の15.9%をピークに,その後徐々に鈍化し,81年初めには14%台へ低下した。しかしその後,消費者物価の騰勢の強まり等を背景に再び15%台へ上昇している(第5-5図)。一方消費者物価上昇率も年央以降騰勢が強まっているため実質賃金上昇率は第3四半期には1.4%へ鈍化している(86年第4四半期は1.6%の伸び)。

最低賃金(SMIC)は低所得者層保護の観点から年4回の引き上げが実施され,上昇率も18.1%と80年の15.6%を大きく上回った。4回の引き上げのうち6月のそれはミッテラン政権による政策的引き上げ分が多かった。すなわち,10%の引き上げのうち,3.3%は物価スライド分(3月~5月)であり,80年の経済成長率が1.3%であることを考えると,政策的引き上げは約5%強とみられる(SMICは物価上昇が2%を越えるごとに物価にスライドして引き上げられるが,それに加えて毎年7月には,経済成長率や賃金率の上昇率を考慮して購買力引き上げが行われる)。SMICの引き上げプログラムについては,各労働組合もさまざまを提案がなされている。政府も賃金と物価の悪循環を断ち切るためにSMICの改定を検討している。

第5-5図 賃金・物価動向

(2) 騰勢強まる消費者物価

消費者物価上昇率は80年4月の13.9%高をピークに高水準ながらも次第に低下し,81年3月には12.5%となった。しかしその後,フラン相場の急落による輸入インフレの高まり,新政権の需要喚起策によるインフレ期待の高まりなどから,消費者物価は騰勢を強めている。特に6月以降は前月比1%以上の大幅な上昇が続き,10月には前年同月比上昇率が14.1%と75年1月(14.5%)以来の高水準となった(第5-2表)。

第5-2表 消費者物価の動向

ミッテラン政権の経済政策は景気・雇用に偏重し,インフレへの配慮が少ないとの懸念が政権成立以来フランス内外で強く,フランへの売り圧力が強かった。このため10月4日にはEMS調整が行われフランは3%切り下げられた。政府はフラン切下げを実効あるものとするために,10月78,①物価抑制(サービス料金の6か月凍結,輸入業者のマージン凍結,工業製品価格の値上げ抑制〈年間8%以下〉等),②賃金引き上げの抑制(公共部門に一種の賃金ガイドライン導入等),③財政支出の一部繰延べ等のインフレ抑制対策を決定した。このように政府はインフレ抑制を失業とともに最優先課題として取り扱うことを表明しているが,大幅な財政赤字,緩和気味の金融,政策運営等を背景にどれだけの効果を上げられるか疑問視する見方も多い。

5. 貿易・国際収支

(1) 輪入を上回る輪出の伸び

80年の輸出は年初来西欧の景気後退等により徐々に伸び率が鈍化し,結局14.6%(数量ベースでは2.3%減)の増加にとどまった。一方輸入は内需が比較的堅調であったことや石油価格の上昇を映じて,25.8%増加(数量ベースでは6.3%増)し,輸出の伸びを上まわった。

輸出は81年に入ると,1~3月期は低い伸び(前年同期比11.3%増)にとどまったものの,フラン安の影響等もあって,4~6月期18.1%増,7~9月期23,6%増と好調に推移し,景気回復の大きな要因のひとつとなった。商品別にみると,食料,農産物輸出が好調なほか,工業製品輸出も夏場ごろから着実に増加している。

一方輸入の動きをみると,年初は景気低迷により伸び悩んだが(9.3%増),新政権による積極的景気刺激策がとられたこともあって4~6月期以降次第に伸び率を高めている(4~6月期13.7%増,7~9月期18.8%増)。

商品別にみると,エネルギーがフラン急落を映じて夏場急増した。また個人消費の回復から消費財輸入も夏場以降高水準となっている。

(2) 高水準続く経常収支赤字

80年に大幅に拡大した貿易収支赤字(79年101億フラン,89年604億フラン)は,81年に入り,いくらか縮小しているものの依然高水準で推移している(第5-6図)。81年1~11月累計の赤字額は515億フランと前年同期の559億フランより小幅化している。しかし,赤字幅は4~6月期月平均38億フラン,7~9月期同46億フラン,10~11月65億フランと漸次拡大傾向にある。なお貿易省では81年の赤字見通しを580億フラン程度とみている。

第5-6図 貿易動向

経常収支の動きをみると依然大幅な赤字となっている(第5-3表)。4~6月期に一時的に小幅黒字を記録したものの,7~9月期以降は再び大幅赤字が見込まれている。貿易収支赤字の拡大傾向を考慮すると年間では前年と同程度の300億フラン前後になるとみられる。

資本収支は,1~3月期は黒字基調を維持したが,社会党政権誕生による不安等から4~6月期は一転大幅赤字を記録した。

第5-3表 国際収支動向

6. 経済政策

81年のフランスの経済政策は,ミッテラン政権の誕生により大きく転換した。ジスカール政権は,バール・プランに基づきインフレ抑制を最重点とした慎重な経済政策運営を行ったのに対し,ミッテラン政権は景気・雇用面を重視した積極的政策を展開している。

(1) 金融は緩和へ

金融政策は従来インフレ抑制の観点から通貨供給量の増加率抑制に重点が置かれていた。新政権になってもこうした基本的な点については変更がないが,一連の景気刺激策に応じ金融の量的緩和が行われている。6月には,市中金融機関に対する直接貸出規制枠の拡大(7月,9月にも発表),預金準備率及び貸出準備率の引下げが発表された。また9月には,貸出金利の低下促進をねらいとした預金金利規制の対象範囲拡大措置がとられた。こうした結果,通貨供給量(M2)の伸び率は政府の81年目標値10%(81年12月末残高の前年比伸び率)を大きく上回まっている(81年9月末現在13.3%)。

82年については,政府は通貨供給量の伸びの目標値を12.5~13.5%と発表した。

金利動向をみると,市中金利は5月以降急騰し,その後幾らか軟化したものの,依然高水準で推移している(第5-7図)。5月以降金利が急騰した原因は,大統領選挙での保革逆転を契機にフラン相場が急落し,中央銀行(フランス銀行)がフラン防衛策のひとっとして高金利政策を余儀なくされたことに他ならない。5月中,市場介入金利(TB7日物の売戻し条件付買オペ金利)は4度にわたり引上げられ,ピーク時(5月25日より7月3日まで)には22%の異例の高水準となった。またコール・レート(翌日物)は4月末の12.25%から5月末には20%へ急騰し,市中金融機関の貸出基準レート(プライム・レートに相当)もピーク時は17%へ引上げられた(4月末は12.75%)。こうした異常な高金利は,7月以降,フランの対マルク相場の落ち着き等もあっていくらか下降したもののコール・レートは15%以上で推移するなど依然高水準となっている。高金利は企業家の設備投資意欲を減退させており,政府は金利引き下げを積極的に誘導しようとしているが,アメリカの高金利の継続等もあって期待された程実現していない。

為替政策面では,5月に非居住者預金の準備率撤廃,輸入先物カバー期間の短縮などの為替管理強化措置が実施されたほか,9月には輸入先物予約の一時全面禁止(11月11日に一部緩和)等の措置がとられた。

第5-7図 金利動向

(2) 積極的な財政政策

前政権による81年度予算案は財政の健全化を指向し当初予算ベースでは294億フランの赤字を見込んでいた。しかし新政権は発足以来積極的な景気・雇用対策を実施したため,決算ベースの財政赤字幅は750億フラン程度に達したとみられる。こうした新政権の方針は82年度予算案にも引き継がれた(第5-4表)。内容をみると,歳出面では,公務員増員を中心とした雇用拡大や企業援助・公共投資等への重点的支出増による景気支持を狙っている。他方歳入面では,富裕税の新設,高額所得者・銀行・石油会社への特別税の課税など主として富裕層や好収益企業の負担増による増収を図っている。しかし歳出の伸びは歳入の伸びを大きく上回っているため財政赤字は954億フラン(GDP比2.6%)に拡大している。政府は本予算案の赤字規模は主要先進国比なお相対的に小さく,かつ景気拡大に不可欠であるとともに,インフレ抑制,国際収支の均衡回復にも両立しうるものであると説明している。

第5-4表 1982年度予算案概要

7. 経済見通し

82年のフランス経済は81年央から始まった景気回復が緩やかながらも続くとみられる。しかし政府見通し(第5-5表)の実質GDP成長率3.3%は楽観的過ぎるとの見方が多く,大方は2.0~2.5%程度の成長を予想している(OECD12月見通し2.5%,仏教団連10月見通し2~2.5%,パリバ銀行見9月通し2.5%)。

第5-5表 政府経済見通し

INSEEの短期経済見通し(12月発表)によれば,急速な景気回復は82年前半までは続くとみている。しかし,投資の不振や,インフレの騰勢持続による個人消費の伸び悩みから景気回復が脅かされる可能性があると慎重な見方をしている。

物価面では政府は年平均で12.9%程度を見込んでいるが,騰勢持続を予想する見方が一般的である(パリバ銀行15.5%など)。

貿易収支面でも大幅な改善は困難とみられる。内需が拡大するにもかかわらず,企業設備投資が停滞すれば輸入が急増し,貿易赤字が拡大する懸念すらある。

このように82年のフランス経済は,緩やかながらも景気回復は続く可能性が強いが,経済のファンダメンタルズの顕著な改善は予想されず,その前途はなお多難とみられる。大規模な国有化や地方分権化などの新しい政策でフランス経済再建をめざすミッテラン政権は2年目の82年は正念場を向かえるとみられ,今後の同政権の動向が注目される。

第6章 イタリア:景気停滞続く

1. 概  観

1981年のイタリア経済は,80年春より下降に転じた景気がひきつづき停滞しており,秋にいたるも下げ止まりの気配がみられない。景気は80年春以来下降していたにもかかわらず,需要は個人消費,固定投資が堅調で,実質G DPは79年同様大幅な成長を続けたが,81年に入ってからは,個人消費の低迷等から成長率は極めて鈍化している。

需要の停滞とともに,生産の低下と雇用情勢の一層の悪化がめだっている。生産は月ごとに増減をくりかえしながらも,81年に入ってからは前年同月比でおおむね減少しており,いぜん80年春の水準にまでは回復していない。また失業率,失業者数とも若年層や女子を中心に大幅に増加しており,ここ数年では最も高い水準となっている。物価は石油価格の高騰に加えて為替相場の下落からひきつづき上昇している。対外面では,石油収支を中心に貿易収支は大幅な悪化がつづいているが,資本収支の改善等から総合収支は81年央には黒字に転じた。

こうしたなかで80年秋に発足したフォルラーニ内閣は,80年末にはエネルギー対策等を柱とした新しい経済3か年計画を策定し,長期的な経済運営の方針を明らかにするとともに,当面はインフレ抑制とリラ防衛を最優先課題として,金融引締措置を実施していた。しかし81年に入ってからは国際収支の一層の悪化から通貨危機が再燃し,3月にはリラ切下げ,公定歩合引上げ等の一連の金融,為替対策を余儀なくされた。5月には秘密結社事件により,フォルラーニ内閣は総辞職し,6月に入って戦後初めての共和党内閣であるスパドリニ内閣が発足した。同内閣は,インフレ対策を最優先とずる前内閣の基本政策を引きつぐとともに,公共財政赤字縮小をめざした82年予算案を9月末に決定している。

2. 需要動向

79年に実質GDPで前年比4.9%増と他の西欧諸国と比べかなり高い伸びを示したイタリア経済は,80年春以降後退に転じたものの,同年中はなお4.0%増と高い成長となっている。しかし81年に入ってからは,内外需双方にわたる不振から,成長率は前年比横這い程度に見込まれている。

80~81年の需要動向を国民経済計算ベースでみると,実質GDP成長率は80年下期に前期比4.3%減のあと,81年上期は2.4%増と増加している。81年上期に増加に転じたのは,個人消費が停滞しているものの,輸出の大幅増加と輸入の減少により海外経済余剰が大幅な増加となったうえに,機械設備を中心に固定投資が増加に転じたためである。

しかしながら81年下期には,引続く個人消費の停滞,固定投資の大幅減少,輸出の伸びの鈍化等により実質GDPは再び減少すると見込まれている(第6-1表)。

第6-1表 GDPと需要項目の推移

需要動向の推移を国立景気研究所(ISCO)のビジネス・サーベイによる企業経営者の受注,在庫判断でみよう(第6-1図)。これによると受注は,81年1~3月期を境に景気の急激な冷込みによる需要減を反映して,急速に落込んできている。これに伴い在庫は急速な増加に転じ,81年4~6月期まで増加を続けた。しかしながら国内受注は,81年7-9月期現在国内需要の不振からいぜんゆるやかな減少を続けているものの,海外受注は,為替相場下落による価格競争力の強まり等から,80年10~12月期を底に上昇に転じたため,総合受注では80年10~12月期以降横這いとなっている。このため高水準を続けた在庫も,81年4~6月期には頭を打ち,7~9月期には減少に転じている。

第6-1図 受注・在庫判断の動き

個人消費の動向をみると,79年中は好況と実質賃金の増加に支えられて高い伸びが続いたものの,80年後半には実質賃金がマイナスになったこと等から冷えこんでいる。これを小売売上げについてみると,79年以降除々に増加率の低下してきた小売売上高(実質)は,80年10~12月期に前年同期比減少となったあと,81年に入ってからも低水準で推移している。一方乗用車新規登録台数は,79年中は前年同期比で10~20%増の高い伸びで推移したが,80年央には5%増以下の水準となった。しかし81年に入ってからは,,前年の伸びが低水準であったことと,引き続く物価高騰による消費者の買い急ぎ等から再び高い伸びとなっている。しかし個人消費需要は,景気回復の遅れ等から,81年中は総じて低水準て推移するものとみられる(第6-2図)。

第6-2図 小売売上数量,新車登録台数,実質賃金の動き

同定投資をみると,80年上期には機械設備を中心に回復したものの,下期には建設投資がマイナスになるなど低下している。81年上期には,機械設備の増加からややもちなおしたものの,下期には受注が下げ止ってきてはいるがいぜん低水準であること,稼働率もいぜん低水準であること等から,機械設備を中心に大幅な減少となるとみられている。

3. 生産・雇用

鉱工業生産は,80年1~3月期にピークとなったあと,7~9月期には急速に低下した。その後ややもちなおしたものの,81年4~6月期以降再び下降しており,水準は低い。

80年7~9月期には,輸出の伸び悩みや個人消費の弱まりから前期比7.3%減となったあと,投資がややもちなおしたこともあって,80年10~12月期4.8%増,81年1~3月期1.3%増とそれぞれ増加した。しかし81年4~6月期には,2.6%と減少に転じ,その後も需要の停滞と投資の減少等から7~9月期には,4.4%減とさらに水準は下っている。

生産の内訳を1~10月期の前年同期比でみると,資本財および耐久財は5.2%増となったものの,中間財は4.9%減,消費財5.4%減などとなっている。これを業種別にみると,製靴(12.4%減),衣料(9.5%),木材(8.9%減),家具(7.4%減),ゴム(6.5%減)等大半の業種で減少している。

このような生産活動の全般的な停滞により80年7~9月期に急速に低下した製造業稼働率は,10~12月期にいくぶんもち直したものの現在もなお低水準(81年7~9月期72.7%)で推移している。特に80年7~9月期に前期の77.2%から66.6%にまで低下した消費財部門では,その後上昇してきてはいるものの,投資財などとくらべより低水準となっている(第6-3図)。

第6-3図 生産・雇用・失業動向

雇用情勢は,80年中はおおむね就業者数が労働力人口の伸びに見合って増加していたため,失業率は高めではあったものの,大幅な悪化はさけられていたが,81年に入ってからは景気後退の影響から就業者数の伸びが大幅に鈍化(81年4月は前年同月と比べ10.4万人増,7月は10.9万人減,この間の労働市場への参入はそれぞれ37.6万人増,9.2万人増)したため,失業率は急速に上昇してきている。81年4月の失業率は8.1%と79年7月(8.3%)以来の高い水準となったが,7月には8.8%とさらに高くなっている。また失業者数も,80年平均で170万人であったが,81年4月には183万人と増加し,7月には201万人と200万人を超えている。一80年秋からめだって増加している解雇やレイオフの動きも,81年に入ってもなお続いている。輸出等の不振から自動車産業でレイオフ(フィアット社で10月に7万人)が行われたのに続き,今後繊維や家電メーカーなどにも解雇の動きがあり,今後さらに雇用情勢は悪化するものとみられている(O ECDの見通しによると,82年の失業率は9%(81年は8.25%))。

第6-2表 雇用・労働情勢

4. 賃金・物価

第2次石油危機による石油価格の上昇等から79年後半に急上昇した物価は,80年中も高水準の上昇を続け,81年に入ってからは為替相場下落による輸入物価の上昇も加わって,いぜん高騰している(第6-4図)。

第6-4図 物価の推移

物価の推移を四半期別にみると,卸売物価は80年1~3月期は前期比6.6%高となったあと,上昇率は次第に鈍化し,7~9月期には2.3%高となった。しかし81年に入ってからは再び上昇率が高まり,4~6月期にはエネルギー価格等の値上がりから5.1%高と,80年1~3月期以来の高い上昇率となった。しかしながら7~9月期には農産物価格の落ち着き等から3.6%高と上昇率は低下している。

一方消費者物価(勤労者世帯)上昇率は,79年末から80年初めにかけて高騰(80年1~3月期6.4%高)したのちやや鈍化したものの,80年末から81年初めにかけて再度高騰(81年1~3月期5.4%高)しており,その後は4~6月期4.3%高,7~9月期2.9%高と騰勢は鈍化してきている。これは81年3月に実施した公定歩合引上げ等の引締措置が徐々に効果をあらわしてきているためと,春から夏にかけて食料,衣料品の価格が落ちつきつつあるためとみられる。また81年9月以降は主要な食料品の価格凍結措置も実施されている。

今後の物価動向については,為替相場の下落,財政赤字の継続等から,いぜん物価上昇圧力は続いており,先行きが懸念されている。

80年に入って次第に鈍化していた賃金上昇率は,7~9月期および10~12月期には実實賃金でマイナスとなった。しかし81年に入ってからは,実質賃金は再び大幅なプラスとなっている。

最低協約賃金(鉱工業)の動きをみると,80年4~6月期には前年同期比で23.3%高と,78年以降最高の伸びとなったあと,7~9月期には21.1%高,10~12月期には20.8%と鈍化し同期の消費物価上昇率(それぞれ21.5%高,21.0%高)を下回っている。81年に入ってからは再び上昇率は高まり,4~6月期には24.6%高と同期の物価上昇率20.5%高を大幅に上回る伸びとなった。特に5月の物価手当改定の際には,物価スライド指数で14ポイントと,80年の平均9.3ポイントを大幅に上回っている(第6-5図)。

第6-5図 賃金と物価上昇率の推移

こうした賃金の上昇は,物価上昇率にスライドして手当を支給するという賃金の物価スライド制(スカラ・モービレ)にもとずくもので,これが再び物価の上昇に影響を与えているという指摘が従来よりなされている。こうした見地から政府はたびたび労組に対しこの制度の見直しを求めていたところであるが,最大の労働団体であるイタリア総同盟は,81年11月の年次大会で,政府の物価抑制目標(82年は16%以下)への協カをおりこんだ税制改正案を提案しており,従来絶対反対であった労組側の同制度に対する態度軟化として注目されている。

5. 貿易・国際収支

79年後半より徐々に悪化しつつあった国際収支は,80年に入って急速に悪化したが,81年に入ってからは資本収支の改善から総合収支では黒字化してきている。

貿易収支(通関ベース,経済企画庁による季節調整値)の動きをみると,80年中に大幅に拡大した貿易赤字は,81年に入ってからはやや縮小しつつあるものの,いぜん赤字が続いている。80年の輸出は,国内インフレの加速による価格競争力の低下や欧米の景気後退による海外需要の減少等から伸び悩みをみせ,四半期毎にはほぼ横這いで推移している。これに対し,81年に入ってからは為替相場の大幅下落による価格競争力の強まり等から,1~3月期は4.5%の伸びにとどまったものの,4~6月期には前期比20.8%増,7~9月期も15.8%増と高い伸びを示している。一方輸入は,80年には石油価格の高騰から大幅に増加していたが(1~3月期前期比17.4%増,7~9月期15.5%増),10~12月期に至って前期比減少となっている(6.4%減)。81年に入ってからも内需の全般的な停滞から輸入の伸びは鈍く,1-3月期2.0%減に次いで4-6月期は25.0%増となったものの,7~9月は7.3%増の増加にとどまっている。これらの動きを反映して,80年7~9月期には6兆6千億リラにまで拡大した貿易赤字は,81年7~9月期には,4兆5千億リラに縮小している。これは5月末に発効した対外支払預託金制度等による国際収支改善策も効果をあらわしてきているものとみられる。貿易収支(原数値)を石油収支と非石油収支に分けてみると,80年に17.6兆リラ(前年比77.9%増)の大幅赤字となった石油収支は,81年に入ってからもいぜん大幅な赤字が続いている(1~6月期の前年同期比58.7%増)。もっとも,80年に1.1兆リラの赤字に転じた非石油収支は,81年に入ってからは輸入抑制措置等の効果もあって,再び黒字となっている(第6-6図)。

第6-6図 貿易収支の推移

経常収支は,貿易収支の大幅赤字と観光収入の伸び悩み等から,80年には10兆リラの大幅赤字となったが,81年に入ってからもこの傾向はつづいており,1~6月期だけですでに7兆リラの赤字となっている。

総合収支は,経常収支赤字のほか,資本流入の弱まりもあって,80年中は大幅な赤字が続いていたが,81年4~6月期には資本流入の急増から黒字に転じ,7~9月期には黒字幅は拡大している(4.2兆リラ)(第6-3表)。

こうした対外面での悪化と国内の景気後退に加え世界的高金利の影響等から,軟化傾向にあったリラ相場は,81年に入ってさらに軟化し,EMS内での売り圧力が強まったこと等から3月には,政府はEMS内での中心レート6%切下げ,公定歩合2.5%引上げ(19%),支払準備率の4.25%引上げ(20%)を実施した。さらに5月に実施した対外支払抑制措置にもかかわらず,夏以降再びEMS内での軟化が強まったため,10月には仏フランとともにリラの3%切下げを余儀なくされた。

第6-3表 国際収支動向(外為ベース)

6. 経済政策

80年中は公定歩合の引上げや為替管理強化を通じて引締め政策が堅持されていた。

81年に入ってもいぜん根強い物価の高騰,国際収支の悪化および国内景気の後退等による失業の増大等から引き続き慎重な経済政策の運営を余儀なくされている。

政府は80年末には,79年以来たな上げの状態にあった経済3か年計画(1979~81年間)を改定するとともに,別の施策をも盛りこんだ新しい経済3か年計画(1981~83年間)の原案を策定している。これによると,今後の経済政策の基本的な方向をエネルギーの海外依存度の低下,基幹産業部門の構造改善,技術革新と生産性の向上等としている。

81年に入ってからは,国際収支の悪化と為替相場の下落が続くなかで,中央銀行の市中金融機関に対する貸出規制の強化等の引締措置を実施していたが,3月にはリラの切下げ,公定歩合の引上げ等を余儀なくされている。

4月には3月の引締措置に続いて,インフレ抑制のための公共支出大幅削減案と輸出促進のための新施策に関する法案を閣議了承した。しかし5月に入りフォルラーニ内閣の閣僚等が関係した秘密結社事件が発覚し,これを原因として同内閣は総辞職したため,これらの法案は国会の議決をえるにいたっていない。

フォルラーニ内閣総辞職のあとは,6月に共和党のスパドリニ書記長を首班とする内閣が成立し,戦後一貫して首班を維持してきたキリスト教民主党以外の政党から初の首相が選出された。もっとも共和党は,国会での得票率が3%の小政党で,また閣僚の大半はキ民党(首相以外の共和党の閣僚は一人だけ)であるなど,内閣の運営に不安定な面が残っている。

スパドリニ内閣の経済政策は,閣僚の主要ポスト(国庫,予算経済,外相等)が留任であったこともあって,前内閣の基本政策を引き継ぐこととしており,7月には前内閣の懸案であった財政赤字削減策について,その範囲を拡大した財政支出繰延べ措置等を決定した。

82年予算案は,9月25日閣議決定され,30日議会に提出されたが,広義の公共部門の赤字幅を当初見積りの約60兆リラから50兆リラ程度に圧縮した緊縮型となっている。

7. 経済見通し

82年の経済見通しについて,政府は実質GDP成長率を1.0%増と81年の0%よりやや上向くとみている。また12月発表のOECD見通しによると,82年は1%増とみている。これは経常海外余剰が81年ほど寄与しないものの,国内需要が年央以降増加するものとみこまれるためである。すなわち個人消費は,インフレの改善等による可処分所得の増加等により,81年の前年比0.25%増から82年は1.25%増へと上昇するものとみられる。また在庫投資も81年中の在庫の大幅減少による在庫調整の進展から,そのマイナス幅はかなりの縮小が見込まれる(3%減→0%)。一方投資は高金利等の影響から,企業の設備投資を中心に大幅な減少が予想されている(0.25%減-3.5%減)。

82年の輸出は世界景気の回復から増加が見込まれているものの,81年大幅な減少となった輸入は82年には国内需要の回復等から増加に転じるとみられる。この結果海外経常余剰のGDP成長率に対する寄与度は前年より減少が予想されている(2.5%増→0.5%増)。

政府の見通しによると,82年の消費者物価上昇率は,エネルギー価格等の安定もあって前年比17.0%高と,81年の見込み値(20.2%高)より落ちつくものとみられている(見通しは81年9月のもので,これより後政府は81年の物価上昇率目標を16%以下としている)。対外面も輸出の増加等が期待されるところから,経常収支赤字は81年の11兆リラから,82年は9兆リラへと2兆リラ程度の縮小が見込まれている。

第6-4表 イタリア経済の見通し

第7章 オセアニア

1. オーストラリア:内需主導の景気回復

概  観

オーストラリアの1980/81年度(7~6月)の実質GDPは個人消費の好調,民間設備投資の活発化を主因に前年度比3.1%増と好調な伸びを示した。しかし,前年度の成長(1.9%増)を主導した輸出は大幅に鈍化し,一方輸入は内需の好調から増加している。生産も資源関連を中心に高水準で推移し,失業率も大幅に改善した。また,賃金上昇率は81年7~9月期にやや伸びが鈍化したものの,依然高水準で,今後インデクセーション廃止後の動向が懸念される。このため,同国の最重要課題であるインフレ抑制のための財政・金融の引締めはさらに強化されている。

需要動向

(1) 好調な個人消費

民間最終消費支出(実質)は80/81年度前年度比3.1%増(前年度2.4%増)と好調であった。これは,雇用や実質可処分所得の増加によるものであった。年度後半には高金利の影響などからやや鈍化したが,7~9月期には前期比1.3%増(4~6月期同0.6%増)と盛り返している。

小売売上高(名目,乗用車を除く,季調済)をみると,耐久財への需要増を主因に80年10~12月期前期比2.5%増,81年1~3月期同3.1%増,4~6月期同1.5%増後,7~9月期同5.4%増,10,11月計前2ヶ月比1.2%増と好調である。不振を続けてきた乗用車(新車)登録台数(原数値)は80年7~9月期輸入車を中心に前期比7.8%増と増加した後,業界の販売促進努力などから10~12月期同2.3%増,81年1~3月期同2.6%増,4~6月期同1.8%増と好調であったが,7~9月期には同0.8%減,10,11月には前2か月比2.5%減となった。

第7-1図 個人消費の動向

(2) 民間住宅投資は下火へ,民間設備投資は好調

民間住宅建築許可件数(季調済)は建築資材価格上昇,金融引締めにも拘らず,金利先高感もあって81年1~3月期まで好調であったが,4~6月期は前期比1.6%減,7~9月期同1.3%減と減少した。これは資金需給のひっ迫化,金利上昇によるもので,82年3月には建築資材への販売税賦課も予定されており,今後も低迷するとみられている。

民間設備投資(実質)は79/80年度の前年度比5.1%減後,80/81年度は資源関連部門を中心に21.2%増となった。うち非住宅建築投資(全体の1/4を占める)は29.9%増,プラント設備(同3/4)は18.3%増といずれも資源関連部門を中心として大幅増となった。民間設備投資は81年7~9月期も前年同期比20.4%増(4~6月期同20.8%増)と増大した。民間企業の新規設備投資支出額は80/81年度の127億豪ドル(前年度比35.6%増)から81/82年度は161億豪ドル(同32%増)と引き続き大幅に増大すると見込まれている。

第7-1表 主要経済指標の見通し

(3) 在庫投資

80/81年度の在庫投資は,農業部門が干ばつによる生産減から前年度に続き減少し,実質GDP増加寄与度は0.1%ポイント増にとどまった。非農業部門は需要増による在庫の取り崩しから0.3%ポイント減となったが,81年4~6月期からは輸入増もあり,国内産品の在庫は個人消費支出増を見込んで積み増されている。

生産・雇用

(1) 高水準後減少してきた生産

工業生産の対前年度増加率は,80/81年度に前年度の6.1%増から2.9%増へと伸びが鈍化した。内訳をみると,燃料・動力は6.2%増から9.0%増へと増加したが,耐久財(同5.2%→0.7%),非耐久財(同7.4%→3.7%)は共に伸びが鈍化した。7~9月期は港湾,石油精製,公共部門など広範囲に渡るストライキやコスト増,受注減などから製造業を中心に前期比2.7%減と近年にない大幅減(建築資材の大幅減,製鋼,繊維の減少など)となった。

その後も製造業は受注の大幅減からさらに減少したと伝えられる。これに加え,近年恒例となっているクリスマスシーズンのストライキが今年は労働時間短縮や賃金インデクセーション廃止に伴う賃上げ要求の高まりなどから,例年度以上の激化が予想されるなど,10~12月期の生産の一層の落ち込みが予想される。

第7-2図 工業生産の動き

第7-3図 労働市場の動向

(2) 失業率は改善

79年初から回復してきた雇用者数は79/80年度に前年度比2.4%増後,80/81年度は2.7%増と伸び率を高めた。うち女性(同5.3%増→2.4%増),若年層(同5.6%増→2.9%増)が伸び悩んだが,成人男性は1.6%増から2.3%増へと増加した。これにより失業率も79/80年度末(6月)の6.1%から80/81年度末同5.2%へと大幅に低下した。若年層についてみると,労働市場参入率の減少及び若年層の人口減から,その失業率は同16.5%から13.0%へと減少している。その後雇用者数の増勢は7~11月間に前年同期比1.8%増と増勢を弱めている。

物価・賃金

(1) 物価の騰勢やや沈静化

消費者物価の前年度比上昇率は79/80年度平均10.2%高から80/81年度9.4%高とやや沈静化した。この騰勢鈍化要因は,①80年7~12月間の石油価格割引,②食料価格の下落,③輸入物価上昇率の大幅鈍化(豪ドル高から同17.5%高→8.9%高)及び輸出物価上昇率の鈍化(同14.3%高→11.7%高)などであった。食料価格の下落は干ばつにより果物,野菜価格が上昇したにも拘らず,肉類価格下落(屠殺増)の影響がより大きかったためである。その他の品目の上昇要因についてみると,①建築資材価格の上昇,②引き続く賃上げ,③需要増などであった。しかし,81年4~6月期に前年同期比8.8%高にまで鈍化した物価上昇率は,7~9月期に食料価格やタバコ・酒類の大幅上昇から9.1%高へと再騰した。今後についても,賃金の大幅上昇が懸念される他,民間資本の大幅流入による通貨供給量の増加,および9月1日からの医療費の個人負担増,販売税引上げ(8月)に加え,9月より豪ドル安に転じたため,輸入物価が騰勢を強めるなど,今後も悪化が懸念されている。

第7-4図 消費者物価と賃金の上昇率推移

(2) 賃金急騰

賃金(男子週給)の伸び(前年同期比)は80年1~3月期まで消費者物価の伸びを下回っていたが,その後騰勢を強めて物価の上昇率を大幅に上回っている。賃上げの動きをみると,81年1月9日,労働調停仲裁委員会は1~6月分の賃上げを80年4~9月の物価上昇率4.7%から石油課徴金引上げ分1%を差し引いた3.7%と決定後,インデクセーション方式による賃上げ勧告への労使双方の不満の高まりからこれを廃止した。その後4月7日新方式を発表し,これに基づいて5月7日,全国賃金の一律3.6%引上げ(80年10月~81年3月の物価上昇率4.5%の80%)を決定,7~9月期の消費者物価発表後,物価,生産性,割引かれた20%分などを考慮して二度目の調整を行なう予定であった。しかし,賃上げや労働時間短縮要求などのストがその後も多発したため,同委員会は7月31日,インデクセーション方式を政・労・使三者の支持を失なったと判断して廃止し,82年2月まで賃上げ裁定は行なわないと言明した。このため,賃上げは従来の団体交渉に戻った。

この結果,4~6月期の賃金は急騰した。これは,インデクセーションによる賃上げの他,職務内容見直しによる賃上げやブルーカラー労働者賃金上昇などによる。上昇率は81年4~6月期に前年同期比14.1%増となった後,7~9月期は同11.4%増にとどまったが,その後,賃金調停仲裁委員会は12月18日,金属産業労使間の週約25豪ドルの賃上げ合意を承認し,これに準じて23日,石油,運輸,自動車業界の週20~29豪ドルの賃上げ承認,公共部門の9.6~13.25%の賃上げ決定を行なった。

貿易・国際収支

(1) 貿易収支は赤字,民間資本が大幅流入

80/81年度の輸出の前年度比増加率は前年度の32.0%増から1.7%増へと大幅に鈍化した。主因は干ばつによる小麦など農産物の減少,輸出先の不景気,国内のストによる出荷減(小麦,石炭),輸出価格軟化などのためである。7~10月間(季調済)も同様の要因から前年同期比0.2%増と不振である。一方,輸入は石油価格上昇,資源関連のプラントなどの輸入増,個人消費の好調などから80/81年度の21.0%増(前年度17.3%増),7~10月同13.3%増と急増している。このため,経常収支の赤字も80/81年度の54億2千万豪ドルから7~11月累計34億2千万豪ドルへと増大している。一方,民間資本は資源開発関連資金の流入を主因に,80/81年度67億2千万豪ドルの大幅流入を記録したが,7~10月間には18億8千万豪ドルへと前年同期の20億5千万豪ドルから縮小し,このため外貨準備も減少した。

第7-2表 国際収支

財政・金融

(1) 金融引締め続く

物価の上昇などに対処して金融は引締められている。80年12月末の預金金利規制撤廃,各種金利引上げ,81年1月6日からの法定準備率引上げ(6→7%)に続き,連邦国債利子率の引上げ(1月の12.3%から11月までに6回,14.5%へ),貯蓄国債金利引上げ(3月,11.50→12.25%)などの引締め策が実施された。一方,7月20日から企業及び個人の対外投資規制緩和策が実施された。こうした中で通貨供給量(M3)の伸びは80年12月の前年同月比13.0%増から81年11月には同10.8%増と低下し政策目標の10~11%の中に収まった。

79年1月金融制度の改正を目的として政府により設置された金融制度調査委員会(キャンベル委員会)は,81年11月17日,その最終レポート(勧告案)を提出した。内容は①外国銀行の営業許可,②外国為替相場の管理方式の取り止め,③銀行の金利規制の全廃などである。

(2) 財政赤字幅さらに縮小

80/81年度の財政収支赤字額は当初予測を4億3,800万豪ドル下回る11億2,800万豪ドルとなり,対GDP比は前年度の1.8%からさらに縮小して0.9%となった。民間部門からの借入れも77/78年度のピーク6.0%(対GDP比)から3.2%へと減少した。8月188,議会に提出された81/82年度予算案も引続きインフレ抑制最優先の緊縮型で,歳出は国防,社会保障,対外援助を中心に12.6%増と増加率を抑える一方,歳入では販売税(38.6%増),個人所得税(18.9%増)などの税収増により15.8%増となり,その赤字幅はさらに縮小して1億46百万豪ドルと見込んでいる。予算発表に先立つ4月30日,政府はインフレ抑制,税負担軽減などを目指した約350項目に渡る行政機能見直し措置(政府機関縮小又は廃止,連邦機能の一部の州や民間への移管,職員減など),新規投資控除率引下げ(20→18%)の当日契約分からの実施などを発表,さらに5月4日の州首相会議で81/82年度各州への交付金配分率の実質引下げも決定した。

第7-3表 81/82年度予算案

経済見通し

このように,オーストラリア経済は民間設備投資,個人消費などの成長を主因に拡大してきた。81/82年度予算案発表に際して出された政府の経済見通しは,①実質GDP成長率は80/81年度を上回る3.5%増(非農業部門は80/81年度に急増した民間設備投資の反動を主因に3~3.5%増にとどまり,農業部門は天候良好で生産回復),②輸出は幾分回復,輸入は引続き急増,③雇用の伸びは弱まり,④平均週賃金の伸び13.5%増,⑤消費者物価上昇率10.75%,⑥M3の目標伸び率10~11%などであった。他方,12月のOECD見通しによると,固定投資,個人消費の伸びをより低くみており,この結果,実質GDP成長率を81年の5.75%から82年は3.25%に低下するとみているなど,82年経済の成長は依然好調ながらもやや鈍化すると見込んでいる。

2. ニュージーランド:予算は景気浮揚をめざす

ニュージーランドでは実質GDPが79/80年度(4~3月)0.6%の微増後,80/81年度は純輸出は増加したものの内需の不振から0.8%減と軽い景気後退となった。81/82年度に入って個人消費,民間固定資本投資の好転から景気は活況を呈してきた。7月に発表された81/82年度予算案は景気浮揚をねらった大型赤字予算となっている。しかし総選挙後の82/83年度には財政・金融とも引締めに転じると予想され,持続的成長につながるかどうかが懸念される。一方80年初より鈍化してきた消費者物価上昇率は81年7~9月期には増勢を強めた。また失業者数は引続き増加傾向にある。

第7-4表 主要経済指標の動向

(1) 内需は個人消費の増大により回復

実質小売売上高総額は80年に0.5%増にとどまった後,81年にはいって2月の所得税減税,6月の賃上げなどによる実質個人可処分所得増から1~3月期前期比1.5%増,4~6月期同1.2%増と好調を記録した。また乗用車(新車)登録台数(原数値)は80年の前年比10.6%増(うち小型車の割合90.4%),81年1~8月間の前年同期比11.0%増と好調である。

第7-5図 個人消費の動向

新築住宅建築許可件数(原数値)は74年の年率4万戸のピークから81年2月までの1年間の同1.44万戸へと50年代初以来の最低となったが,その後金融緩和や海外への移民減などから8月まで同1.55万戸へとやや回復している。

民間固定資本投資を対GDP比でみると74/75年度をピークに80/81年度まで減少してきた(17.1%→11.9%)が,その後プラント,機械など主要開発プロジェクト関連投資が増加している。

(2) 生産活動も活発化

こうした内需の増加を反映して79年以降不振であった製造業その他の生産も81年4~6月期には増加した。製造業の出荷額をみると,同期に79年来初めての実質増となった(4.8%増)。特に金属加工,繊維,衣類などの伸びが大きい。生産指数は前4四半期の減少後同期に年率4.7%増となり,販売に対する収益も79年来初めて同4.9%増と大きく改善した。

労働市場をみると,80年中内需の不振から悪化した製造業雇用者数は80年2月から81年2月までに3.3%減となった。失業者数は80年第2四半期から急増し,81年に入って企業は79年に積み増しされた在庫の取り崩しと,操業時間の延長で対応しているため,景気の活発化にも拘らず高水準にある。登録失業者の失業率は80年2月には2.2%から81年2月には3.7%へと増加し,失業対策事業従事者を加えると,同5.0%から5.3%へと増加している。

(3) 物価上昇率を大幅に上回った賃金の伸び

消費者物価は石油価格の上昇などから79年来上昇率を高めてきたが,金融引締めや内需の不振などを反映して80年1~3月期の前年同期比18.4%高をピークに鈍化に向い,81年4~6月期には依然高水準ではあるが,15.0%高となった。しかし,7~9月期には通貨供給量の再増加,景気活発化によるコスト増および住宅価格上昇などの押し上げから15.4%高と再び騰勢を強めており,今後の動向が懸念される。

賃金(週給)指数の伸びは80年上半期に物価上昇率を下回ったものの,その後8月の賃上げ(4%),80/81年度賃金交渉ラウンドによる平均14%の引上げ(81/82年度同19.4%),81年6月の賃上げ(5%)などにより物価の伸びを再び大幅に上回っている。

第7-6図 雇用情勢

(4) 輪出に鈍化傾向

80年に輸出額は輸出振興諸策,79年6月のニュージーランド・ドル(以下NZドルとする)切下げ,主要な輸出先であるオーストラリアの好景気などから金額(前年比28%増),数量とも大幅に増加し,特に粉乳(同79%増),バター(同62%増),林産物(同51%増),肉類,羊毛(各40%増)など農産物が好調であった。輸入は民間設備投資の落ち込みなど国内需要の不振により過去2,3年来と同様数量の増加はみられなかったものの,石油輸入価格の上昇(80年下期より安定化),NZドル安などにより,前年比29%増となった。81年にはいって輸出(金額)は前年同様に(特に肉類)好調に推移し,1~9月累計は前年同期比25.0%増となったが,8,9月は農産物輸出の急減から減少している。輸入は1~3月期までの減少(前記理由による)から,4~9月にはエネルギー・プロジェクト用資本設備の急増により同25.7%増の大幅増となった。

政府は輸出鈍化に対応して,①バターの国際価格軟化阻止のため米国からの余剰バターの買い取り(1億5,600万米ドル),②エネルギー及び鉱業開発,輸出多角化を推進すべく10億米ドルの合成燃料プロジェクトへの資金供与を決定した。交易条件は80年に前年比11%低下したが,80年7~9月期を底に2四半期改善した。貿易収支は80年3億300万NZドル,81年1~9月累計5億1,800万NZドルと黒字幅を拡大しているが,経常収支赤字幅は貿易外収支が公的債務増大による利払い増,運賃・旅行収交悪化から恒常的に赤字幅を拡大しており,80年の9億3,500万NZドルから81年1~9月には累計5億5,400万NZドルと拡大した。

民間資本の流入は80年央以来国内金利が下落したうえに,81年に入ってからの資金供給が,特定金融機関の政府,民間などへの貸出しの急増,政府部門による海外からの借入れの急増で民間資本の純流入は79/80貿易年度(7~8月)の1億3,540万NZドルから80/81貿易年度は6,350万NZドルヘ縮小したが,反対に政府の借入れは同5億5,700万NZドルから10億8,400万N Zドルへと増加した。

第7-7図 消費者物価と賃金の推移

第7-8図 国際収支の推移

(5) 低金利政策により通貨供給量増加

ニュージーランドの通貨供給量は,①財政赤字ファイナンス(M3 からとM3以外の民間部門からの借入れの割合)の変化が大きいこと,②連邦準備銀行の市場への貸出し,及び③経常収支赤字の増減幅が大きいことから伸びの変動が大きい。

通貨供給量(M3)の伸びは79年3月末の前年同期比23%増から,その後の金融引締め,79/80年度の超緊縮型予算,80/81年度財政赤字ファイナンス用のM3からの借入れ額の減少から鈍化に転じ,80年末には12.5%増となった。このような流動性のタイト化に対し,81年4月より低金利政策が取られ,金融は緩和に向かった。この結果,M3は増勢を強め,住宅,耐久財への個人向け貸し出しの急増を主因に8月末には17.6%増に達した。民間貸出の伸びは79年9月末のピーク25.7%増から80年9月末のボトム16.7%増まで伸びが鈍化した後,81年7月26%にまで増加している。一方預金額は伸び悩み(81年7月17.3%増),預金獲得競争が激化して預金金利が3~5月間に上昇(商業銀行3ケ月もの預金金利,2月13.5%→5月14.6%)したことから,金融当局は6,7月に金利上昇圧力を緩和すべく連銀貸出金利の引下げや公開市場操作を行なった。しかし資金需要増からその効果も一時のものに終わっている(同6月14.35%→8月15.0%)。

10月30日,政府は通貨供給量,民間資金需要の拡大に対処すべく,①表面利率12%の最優良債券の新規発行,②インフレ調整貯蓄債券の購入枠拡大その他を発表し,インフレの沈静を図っている。

(6) 景気刺激型大型赤字予算

ニュージーランドの財政規模は3年毎の総選挙のサイクルに大きく影響される傾向を持っており(第7-4表),78/79年度の予算に続き81/82年度の予算案(7月9日発表)は既応最高の赤字幅(20億9,000万NZドル)となった。歳入は酒,たばこ等の販売税や不動産譲渡税の増収等から前年度比16.0%増,歳出は産業開発費(農業,エネルギー開発促進等が中心),運輸・通信施設費の大幅増から同19.5%増となっている。政府は経済成長を阻害している三大要因である,①経常収支赤字,②低生産性,③インフレの排除と,輸出奨励,失業解消へ引続いて努力することを強調している。なお11月に行なわれた総選挙では国民党が辛勝して引続き政権を担うことになった。

このように,ニュージーランド経済は81/82年度にはいって景気回復の兆しがみえてきたが,①現在の拡張的財政・金融政策が経常収支赤字幅の拡大,物価再騰懸念などより引締めに転じると予想されること,②現在の実質可処分所得の伸びが税制上の理由から年度後半抑制されること,③好調だった農産物輸出も海外の不景気などにより伸び悩み,交易条件もさしたる改善をみず,経常収支赤字幅はさらに拡大するとみられることなどが懸念されている。景気浮揚の最大の担い手と嘱される各種主要開発プロジェクトも,資材,電力料金の値上りなどによる困難も生じており,しばらくは低成長が続くと予想されている。

第8章 北東アジア・中東諸国

1. 韓  国

(1) 概  観

韓国経済は80年に実質GNP成長率がマイナス5.7%と大幅に落込んだ。

これは農業が冷夏等で大凶作となったのが影響しているが,鉱工業生産も内需の不振や外需の伸び悩みで前年を下回った。このため,政府の経済政策は上期の厳しい引締め基調から,下期は緩和基調に転じ,年央以降3次にわたって金融緩和,公共投資の拡大,輸出拡大策等景気浮揚策を実施した。しかし,四半期別にみても80年はマイナス成長で終始した。

81年の経済は1~3月期の実質GNP成長率が前年同期比1.2%増とプラスに転じたあと,4~6月期同4.0%増,7~9月期同6.2%増と緩やかながらも着実な回復をみせている。これは,輸出の好調に主導されたものであるが,内需も前年の3次にわたる景気浮揚策の効果や81年予算の早期執行等から消費活動を中心に回復をみせている。ただ,建設活動は依然低迷しており,物価も前年より鈍化したものの,なお高水準で推移している。10~12月期の成長率は,同期のGNPの約1/3を占める農業が前年の凶作(前年同期比29.2%減)から一転して平年作を上回る豊作と見込まれていることから,大幅な成長が予測されている。このため,81年の成長率は当初見通しの5~6%を上回るとみられている。

なお,政府は81年8月に,82年から始まる第5次経済社会発展5か年計画(年平均実質成長率7.6%等を目指す)を発表した。

(2) 生産・需要動向

80年の生産が1953年にGNP統計を公表するようになって以降最大の落込みをみせたのは,GNPの約2割を占めていた農業が前年比22.0%減と凶作に見舞われたのが大きく影響している。しかし,鉱工業生産も前年比1.2%減と低迷した。これは相次ぐ原油価格の引上げや年初の通貨切下げ(ウオンの対ドル・レート19.8%切下げ,欧州方式による)などで物価上昇が加速し,年初から年央にかけ金融・財政が厳しく引締められ,そのため内需が冷え込んだこと,加えて,光州事件の発生等政治・社会不安の高まりで消費・投資意欲を一層弱めたことによる。また,輸出が低い伸びにとどまったのも影響している。このため,80年の失業率は5.2%と前年の3.8%から大幅に悪化した。

81年に入ってからは,まず,前年凶作であった農業は,主穀である米が5~6月に干ばつに見舞われる等被害を受けたものの,その後の天候の回復などで持直し,平年作を上回るなど,総じて順調に推移している。

鉱工業生産はGNPベースでみると,80年10~12月期に回復に転じた後,81年1~3月期に前年同期比2.8%増,4~6月期同7.4%増,7~9月期同10.4%増と増勢を強めている。これは好調な輸出に主導されたものであるが,国内需要も消費活動が緩慢ながら徐々に回復している。業種別にみると,衣料品,電気機器,輸送機器,鉄鋼製品等が順調に増加しているが,石油精製品やゴム製品等は輸出減や内需不振のために低迷している。

そのほか,サービス業や運輸・通信業等も徐々に回復しているが,建設業は依然低迷している。

需要面をみると,消費活動は上期の前年同期比2.7%増から,7~9月期は5.0%増と回復をみせている。これは民間消費が物価の騰勢鈍化や雇用の増大(9月には前年同月に比べ39万人増加)等を反映して回復してきたことによる。ただ,投資活動は民間設備投資や住宅投資の不振を反映して低迷を続けている。もっとも,民間設備投資は年央頃から投資意欲に回復の兆しがみられ,今後の増加が期待されている。

なお,こうした景況を反映して1~9月間の失業率は4.5%と前年同期の4.9%から0.4ポイント回復している。

(3) 貿易及ひ国際収支動向

80年の輸出は前年比16.3%増の175.1億ドルと目標の170億ドルを上回った。これは年初のウオンの対ドル・レート切り下げや輸出振興策(輸出支援金融の拡充と金利の低利据置き)等によるものであるが,増加率は過去20年間の中では75年に次いで低い伸びであった。

81年の輸出目標は前年比17.1%増の205億ドルと設定されているが,1~10月期に前年同期比25.2%増の177.8億ドルと好調に推移している。これはウオン・レートの下落や賃金上昇率の鈍化等による輸出競争力の回復や積極的な新市場開拓努力などによるものである。国別にみると,EC向けが不振であるものの,80年に前年比9.4%減と不振であった日本向けが,81年1~9月間に前年同期比8.5%増と低い伸びながらも増加に転じたほか,アメリカ向けは同22.1%増(80年は5.3%増)と増勢を取り戻している。また,新市場である中南米向けは前年同期比8割強増,アフリカ向けは同4割増といずれも著増している。品目別では船舶,電気製品,繊維製品等の輸出が好調である。ただ,年央以降,輸出信用状受取り額の増勢が大幅に鈍化しており,先進諸国の景気も引続き低迷していることから,輸出の先行きについては懸念されている。

一方,輸入は80年に前年比9.6%増にとどまったあと,81年1~10月期も前年同期比14.6%増と輸出の増勢を大幅に下回った。これは国内景気動向を反映したものであるが,国際商品市況の軟化傾向などから81年に入って輸入価格が安定(1~10月間に前年同期比7.4%高)していることにもよる。

この結果,貿易収支は81年1~9月期に25.0億ドルの赤字と,依然巨額ながらも前年同期の40.1億ドルの赤字から一段と改善をみせた。一方,貿易外収支は対外債務残高の増加(81年9月末現在303億ドル)や国際的高金利(同国の債務の約6割が変動金利制)で元利支払い負担が高まったことなどから1~9月間に14.4億ドルの赤字と前年同期の赤字8.8億ドルに比べ大きく悪化した。ただ,年央以降国際的に金利が徐々に下がっていること,海外建設工事受注が好調であること,旅行収支も順調に推移していること等を反映して貿易外収支はやや改善してきている。こうした動きから1~9月期の経常収支赤字は35.8億ドルと前年同期の赤字40.1億ドルから改善している。

この間,資本流入は韓国の対外信用度の回復により順調に推移し,借入れ条件も前年に比べ改善している。このため,借入れ条件のより悪い短期借款の償還も進み,こうした結果,11月末の外貨準備高は63.5億ドルと前年末に比べやや減少している。

なお,政府は7月1日からゴルフ用具,白黒テレビ,衣料品等396品目の輸入自由化を実施した。これば国内産業の競争力強化や物価対策を目的にしたもので,輸入自由化率はこれまでの68.6%から74.7%へ引上がった。

(4) 物価動向

80年の物価は卸売物価が前年比38.9%高,消費者物価が同28.7%高と高騰した。これはウオン切り下げやOPECの石油価格引上げによる輸入価格の上昇(前年比27.6%高)や農業の凶作,公共料金の相次ぐ値上げによる。

81年に入ってからは1~10月間に卸売物価が前年同期比24.5%高,消費者物価が同25.3%高と前年に比べやや鈍化しているが,引続き高水準に推移している。これは前年下期に金融緩和等景気刺激策がとられたこと,81年に入ってからも4月に石油製品価格を13.9%,石炭価格を20%,電力料金を10%,それぞれ引上げた後,6月には鉄道(旅客運賃で13.5%),郵便(最低料金で33%),電話(25%)等各種料金が引上げられたことによる(なお,11月末には再び石油及び電力料金を平均6%引上げている)。このため,中央銀行は市中の過剰流動性を吸収するために,5月に500億ウオン,8月には1,000億ウオン相当の通貨安定証券を発行した。また,不況の中で賃金の上昇率が鈍化したこと,農業生産が回復したこと,輸入価格が落着きをみせたことなどから年末にきて物価の上昇率は鈍化傾向をみせている。

(5) 経済政策の動向

80年の経済政策は前半が物価対策と輸出拡大に,後半は景気回復に重点をおいて運営された。このため,財政・金融は上期が厳しい引締め,下期が緩和基調で推移した。

81年に入ってからは,景気の回復力が弱いことから政府は,予算の早期執行(政府工事の6割を3月までに着工する等)を図ったほか,4月には低迷を続ける民間設備投資を刺激するために「産業合理化および投資奨励策」を発表した。これは,①設備資金に充当されている短期貸出金を長期貸出金に転換し,設備資金の長期安定化を図る,②輸出産業及び中小企業の設備更新等に要する資金を低利で融資する,③中小企業を対象とする投資税額控除を大企業にも適用する,等長期低利の設備資金供給と投資減税を主内容としている。次いで,中央銀行は7月から預金金利の引上げ(貯蓄性預金金利を年利12.3%から14.4%へ等),支払い準備率の引下げを行った。これも銀行を通じた産業資金供給強化をねらった措置である。さらに,11月には企業活動の活性化を主目的に預貸金金利を1%引下げた(プライム・レートは19.5%から18.5%に,一般企業向け貸出しは20.0%から19.0%へ,一年物定期預金金利は19.5%から18.6%へ等)。また,81年末まで実施することになっていた輸出金融の金利は82年6月まで継続することとした(当初は82年初から15%に引上げる予定であった)。こうした,財政・金融両面からの景気刺激策のほか,政府は投資拡大や国内産業の競争力強化を目的に7月28日から外国人に対する投資規制措置を緩和した(国内全産業855業種のうちこれまで外国人投資が禁止されていた卸・小売業を含む427業種について投資を許可)。

また,8月から韓国の対外投資規制を大幅に緩和し,事実上全業種あらゆる国への投資を許可した。

その他,独寡占の形成や競争制限行為を規制することにより,企業の自由な競争を促進し,国内物価の安定や国際競争力の向上に資することを目的に新たに「独占禁止および公正取引に関する法律」を制定し,4月から施行した。

なお,82年度(1~12月)予算は前年度比22.0%増の総額9兆5,781億ウオン(約140億ドル)と物価の安定等を配慮した緊縮型予算(81年度予算は前年度比35.3%増)となっている。本予算は,国家の安全保障の強化,教育環境の整備と社会開発の拡大,健全財政と浪費要因の除去,持続的な成長基盤構築に重点をおいて編成されている。歳入面では,教育税が新設されたことから租税収入は前年度比28%増を見込んでいる。一方,歳出面では教育費や社会開発費が前年度比約30%増と伸びが目立つ一方,国防費も同22%増で総予算の34%を占めている(GNPの6%と設定)。

(6) 経済計画及び見通し

第4次5か年計画(77~81年)は年平均成長率9.2%等を目標に掲げて出発した。しかし,77,78年と二桁成長を達成した韓国経済も,その後は80年がマイナス成長となるなど経済の拡大テンポは大きく鈍化し,計画における成長目標を達成することは不可能となった。こうした中で政府は81年8月に次年から始まる第5次経済社会発展5か年計画(82年~86年)を発表した。

本計画の基本目標は安定,能率,均衡におかれており,経済安定基盤の定着(国民生活安定,競争力強化,国際収支改善),持続的成長基盤の確立(雇用機会の拡大と所得増大),所得階層間・地域間・部門間の均衡発展(国民福祉の増大)を図ることとしている。同計画では韓国経済の置かれている立場を厳しく認識している。対外面をみると,不確実性の増大と競争の加熱化が予想され,また,国内面をみても慢性的インフレ構造が成長潜在力を弱化させ,政府主導による事業推進と輸入抑制,独寡占の深化が経済体質を弱化させていると考えている。このため,5か年の年平均実質GNP成長率は7.6%と従来の計画に比べ低く目に設定されている。その他,主要経済指標としては86年の輸出が530億ドル(名目,年平均20.3%増),輸入が594億ドル(同17%増),失業率は80年の5.3%から86年には4.0%へ,卸売物価上昇率は86年には9%(年平均10.1%)へ,等の達成を目標としている。

なお,政府は12月に第5次5か年計画の初年度にあたる82年の経済運用計画を確定した。これによると82年の成長率目標は7%と5か年計画の年平均成長率より低目に設定してある。これは物価を安定させ,経済体質を強化することを目標としているためである。その他,主要経済目標は,1人当りG NPl,867ドル,物価上昇率10~14%,輸出247億ドル,輸入279億ドル,経常収支赤字44億ドル,失業率4.4%等となっている。そして,このような目標を達成するため,経済運用の基本方向を安定基調の定着と市場経済活性化におき,国際収支の改善,企業体質の強化,産業合理化のための制度改善などを進めていくとしている。

第8-1表 韓国の主要経済指標

2. 台湾:景気の低迷続く

(1) 概  観

台湾では79年以来,景気鈍化が続いているが,輸出の増勢鈍化や金融引き締めによる内需の伸び悩みにより,81年上期の実質GNPは前年同期比5.3%増となった。下期に景気刺激策がとられたものの,81年全体でも前年比5.5%増と,80年実績(6.7%)及び81年目標(7.5%)を下回ると政府はみている。

貿易面をみると,輸出が増勢鈍化している一方で,景気の低迷を反映した輸入の不振が著しい。貿易収支は1~11月で11.1億ドルの黒字となったものの,貿易総額は目標の485億ドルを下回るとみられている。また,工業生産は,1~11月に前年同期比4.2%増(80年7.7%)という低い水準にとどまっている。一方,物価は金融引き締めのため,年央以降騰勢鈍化が著しく,卸売物価は1~11月で同8.1%高と3年ぶりに一桁の上昇となった。

こうした中で,8月には輸出振興策として台湾元が切り下げられ,10月には低迷する景気に対するテコ入れ策が発表された。まず公定歩合が引き下げられ,マネーサプライ(M1)増加率の引き上げが決定されるなど金融が緩和されると共に,①中小・輸出企業への融資増加と融資条件の緩和,②石油化学工業の輸出競争力強化のため国際価格での原料供与,③建築企業向け融資の増加,④81年から発効している「投資奨励条例」の範囲を拡大適用し,機械・電子など主要輸出・技術集約型の17業種に対する投資減税(10~15%)の施行などが決定された。

なお,一部経済閣僚の更迭が決定され,12月に財政部長に徐立徳財政庁長,経済部長に趙耀東中国鉄鋼総経理が就任した。

(2) 対外貿易

台湾の輸出は,主要貿易相手国の需要減退と,実質的にはドルにリンクしている台湾元が年初来のドル高で価格競争力を失ったこと等もあって伸び悩んでいる。このため,輸出は80年の前年比23%増から,81年上期に前年同期比15.5%増へと鈍化した。8月央には,輸出振興のため台湾元を切り下げ(1ドル=36元→38元)たが,輸出は8月に急増したもののその後再び低迷し,1~11月で前年同期比15.4%増にとどまっている。アメリカ,日本向けは1~9月にそれぞれ前年同期比19.5%増,14.9%増と増大しているが,ヨーロッパ向け輸出は同期に5.8%減となった。品目別にみると,セメント,鉄鋼,輸送工具,機械類などは好調であるが,罐詰類,非鉄金属等が減少しているほか,合板,履物なども低い伸びにとどまっている。一方,79年以来,石油価格高騰のため急増していた輸入は,80年の前年比33.6%増から,機械設備輸入関税減税措置撤廃(3月末)前の駆け込み需要もあって,81年1~3月期に前年同期比20,5%増となったあと,国内景気の低迷による需要減や石油価格の落ちつきなどから,めだって増勢鈍化し始め,上期の前年同期比17.8%増から1~11月では同8.4%増となっている。品目別にみると,木材,原綿,鉄鋼,非鉄金属などが減少しているほか,石油の伸びも8.1%増にとどまる(80年88.7%増)など素材部門の伸びの鈍化が著しく,加工貿易が主の台湾の将来の輸出に与える影響も懸念されている。輸出の増勢鈍化を上回る輸入の不振により1~11月の貿易収支は11.1億ドルの黒字(80年1~11月1.2億ドルの赤字)となっている。また外貨準備高も10月末で前年同月比2.9倍の約61億ドルとなっている。しかし,81年の貿易総額は目標の485億ドルを下回り,440億ドル程度にとどまるとみられている。

第8-2表 台湾の主要経済指標

(3) 生産動向

輸出の増勢鈍化や,金融引き締めなどにより,81年の実質固定資本形成が前年比2.8%増(80年同15.5%増)にとどまるなど内需も伸び悩んでいる。

こうした中で,鉱工業生産は80年の前年比7.7%増から81年上期に前年同期比4.4%増,1~11月には本年度目標(8.1%)を大きく下回り,同4.2%増と鈍化している。1~11月の内訳をみると,鉱業が17.2%増(80年4.6%)と好調に推移しているものの,製造業が4.5%(同6.8%),電気・ガス・水道業が0.9%減(同7.6%増),住宅建設業が2.1%増(同20.9%増)といずれも低水準で推移している。

一方農業をみると,台風被害等天候不順により,81年上期に前年同期比比5.4%減となった農業生産は,81年全体でも80年(1.0%減)に引き続き2.5%程度減少するとみられている。

(4) 物価動向

79年来の物価高騰に対処すべく81年には,物価抑制が政策の前面に押し出され,金融引き締めが強化された。公定歩合は1月に1%,6月に1.25%引き上げられ,13.25%の高水準となった。またマネーサプライ(M1)の伸びは下期に入って鈍化の一途をたどり,8月には8.3%まで鈍化した。

こうした中で,年央以降物価は騰勢鈍化している。卸売物価は1~11月で前年同期比8.1%高と,年間目標(9.5%)を下回り,3年ぶりに一桁の上昇率におさまった(80年21.6%高)。また,農業の不振による食料品価格の値上がりにもかかわらず,消費者物価も,1~11月に同17.0%高と騰勢鈍化している(80年19%高)。

このため,公定歩合は10月に1%,12月に0.5%引き下げられ11.75%となった。またマネーサプライ増加率も13~15%の水準にまで引き上げられることが決定されるなど,景気テコ入れのため金融緩和策がとられている。

(5) 見通し

81年は6か年計画(76~81年)の最終年にあたり,82年からは「経済建設4か年計画(82~85年)」が実施される予定である。その内容は,82~85年平均の①実質成長率を81年見込み(5.5%)より高めの8%(82年7.5%)とする。②卸売物価上昇率は7.5%(82年5.5%)。③鉱工業生産を8.5%(同7.9%),農業生産を2.4%(2.9%),サービス業を8.3%(7.8%)増加させる。

④輸出・入実質増加率をそれぞれ10.9%,11.2%(10,5%,10.9%)とする,(81年実績9.0%,3.1%)。⑤失業率1.3%(1.4%)⑥人口増加率1.8%などである。

そして,79年から開始された12大建設を引き続き推進しつつ,科学技術発展と人材養成,資源の効率的利用などを進め,公共投資の比率を若干低下させ,民間投資の比率を拡大するとしている。

82年度には個人消費を前年比13.4%増,固定投資を同14.0%増と見込んでいるが,このうち民間投資は同15.8%増となっている。また,輸出は279億ドル(前年比13.4%増)輸入は275億ドル(同14.1%増)と見込んでいる。

3. サウジアラビア:順調に進む開発計画

(1) 概  観

サウジアラビアでは,第2次開発計画(1975~1980)実施中にインフレーションの高進から引締め基調の経済政策がとられた。政府は,この原因が①急激な財政支出の拡大,②港湾混雑等の供給のボトルネック発生,③輸入物価の高騰にあるとして,経済開発の中心をインフラストラクチャーの整備へ転換させ,物価上昇沈静化のために補助金を支給した。この結果,78年から物価上昇は収まり,これに石油収入の増大などが加わったところから80年から開始された第3次経済開発5か年計画は順調に実行されている。しかしながら,外国人労働者が全労働人口の40%を超える現状にあって,国内における外人労働者との摩擦を回避するために「開発のサウジ化」が優先するとされ,開発のテンポはスローダウンするとみられる。

(2) 79/80年度までの経済動向

79/80会計年度(79.5.27~80.5.14)の実質GDPが前年度比で9.6%と前年度の9.0%を上回わるなどサウジアラビアの経済は順調な成長を遂げた。

この主な理由としては,国内経済の石油モノカルチャー構造からの脱却を急ぐ政府の積極的な開発計画に基づき政府消費の拡大があり,それによって非石油民間消費が基調的に増加したのに加え,原油価格の上昇と増産とによって輸出が急増したこと等があげられる。

名目GDPは総額で3,865億リヤル(約1,162億ドル,1ドル=3.3267リヤル)に達し,前年度比54.9%増となった。これを需要項目別にみると(第8-3-1表),まず政府消費は77,78年度の10%台の伸びから79年度52.9%,80年度22.7%の増加を示す一方,個人消費はそれまでの40~50%台の伸びから79年度では10%強へと低下していたが,80年度では15.4%増となり,再び増加テンポを強めつつある。次に固定資本形成は前年度比23.9%増となった。その中で政府部門は開発計画の進展から65%と圧倒的なシェアを占め,またそのため型態別でみても,道路・空港・港湾などの交通施設や住宅及びその関連施設などインフラストラクチャー整備を中心とする建設が全体の80%を超えている。一方,機械設備投資は,固定資本形成に占める割合が10%強と小さいものの,工業化の努力が進められているため前年度比80.3%の伸びとなった。

生産額ベースで石油生産の拡大をみると,世界の石油需要の減少から78年度にマイナス成長となった後,79年度には前年度比4.9%増となった。さらに80年度の生産は,イラン・イラク紛争によるOPEC石油供給の減少をカバーするため増産されたこと等から前年度比8.2%増となり,GDP中のシェアも3年振りに60%超となった。

第8-3-1表 名目国内総生産の需要項目別内訳

(3) 原油生産

(生産政策と生産量)

テウジアラビア政府は同国の原油生産量について一定の条件のもとでは日量850万バーレル程度(以下原油生産数量は全て日量)を上限としてきた。

しかしながら豊富な埋蔵量と国家財政上の余裕を活用し,OPEC中のスウィング・プロデュニサーとしての役割をも果たしてきた。すなわち,イラン革命に端を発した第2次石油危機の79年では,サウジアラビアの原油生産は前年の830万バーレルから950万バーレルへと上昇した。イラン・イラク紛争が本格化した80年10月以降,両国の生産減少を補うべく他の一部OPEC諸国とともに,サウジアラビアは増産し,1,030万バーレルの生産を実施したので,80年平均の原油生産は990万バーレルとなった。また,この増産水準は先進国の石油需要が一層減少し,一部の産油国が高水準の価格を設定したこともあって減産を余儀なくされる中で,81年8月まで維持された。

スウィング・プロデューサーとしての立場の現れは,OPEC中の同国の原油生産シェアでみるとより明確となっている(第8-3-2表)。すなわち,第1次石油危機後の77,78年にはOPEC原油価格維持の目的等から減産を実施し,逆に80年以降は,OPEC中のタカ派に対抗するため増産を実施した。

(石油輪出と石油収入)

80年における石油輸出は,970万バーレルで前年比4.3%増加した。このうち95%が原油であり,残りが石油製品となっている。また,原油価格は,80年中に3回にわたる値上げが実施され,前年比33%高となり,この結果,石油収入も845億ドルと前年比約75%増加した。

(4) 物価動向

財政支出の膨張もあって78年まで前年比で20%を超える物価上昇に見舞われたサウジアラビアでは,80年半ばに終った第2次5か年計画の後半には開発の進捗によって供給のボトルネックが解消され,また財政引締めが実施され,さらには,各種の消費財に対して補助金を支給してその価格を低位に保ったこと等から物価は安定した。

生計費指数は79年で前年比1.8%の上昇となった後,80年も同3.1%と僅かな上昇に止まっている。個別にみると食料品(6.1%),衣料(6.0%)が上昇するなかで,住居費は1.8%高,その他は0.7%高にすぎず,後の二項目は総合指数の安定化に大きく寄与している(第8-3-3表)。

しかしながら,GDPデフレーターをみると,非石油部門のデフレーターは79年7.2%高,80年9.6%高と生計費の上昇率とは乖離をみせている。これは補助金等によって消費者価格の上昇が抑制されていること等によるもので,75,76年の物価高騰に比べると低水準ながらも,未だ物価上昇圧力は続いているといえよう。

第8-3-2表 サウジアラビアの原油生産シェアと公式価格

第8-3-3表 サウジアラビアの生計費指数

(5) 貿  易

輸入は78/79年度に前年度比16,2%減と落込んだ後,79/80年度では1,004億リヤル(約302億ドル)と同27.7%増となった。このうち,工業国18か国からの輸入は231億ドルと輸入全体の75%を超え,なかでもアメリカ(58億ドル)と日本(49億ドル)の2か国が全体の35%と大きな割合を占めている。

石油部門の輸入は前年度にガス回収設備建設プロジェクトの第1段階終了に伴い,前年度比で35%の減少となっていたが,80年には原油・NGLパイプライン敷設工事もあって同26.3%増となった。また,民間部門の輸入は,食料品・セメント等の建設資材を中心に同28.1%増となった。

一方,石油がほぼ90%を占める輸出は,すでにみたように原油生産増と価格上昇とによって,3,629億ドル(約1,091億ドル)で同70.2%増となった。

第8-3-4表 サウジアラビアの通貨供給

(6) 金  融

政府のインフレ抑制スタンスを反映して低下を続けた通貨供給量の伸びは,80/81年度になると第3次5か年計画に基づく財政支出の拡大から,再び増加基調に転じた。

M1は要求払預金の増加から前年度比13.9%の伸びとなり,M2も定期・貯蓄性預金の増加によって同17.4%と高水準で増加し,またM3は前年度の伸びを上回り同20.4%増となった(第8-3-4表)。

民間銀行では上でみたような預金が増加する一方,民間部門の輸入及び商業取引の増大などから対民間信用貸出しが前年度比38%増大し,流動性が悪化することになった。サウジアラビア通貨庁は80年2月預金準備率を要求払預金について,12%から7%へと引下げ(定期性預金は2%のまま据置き)たが,80/81年度の民間銀行の預貸率は,前年の61.6%から65.6%へと増加した。

第8-3-5表 サウジアラビアの予算

(7) 財  政

79/80年度の当初予算は)歳入1,397億リヤル,歳出1,600億リヤルとされたが,その後石油収入の急増から歳入不足感がなくなったこともあって両者とも2,160億リヤルへと増額修正された。しかし決算ベースでの歳出は1,880億リヤルに止まった。この中で注目されるのは,物価上昇を抑制するため補助金が拡大し,支出総額の38%,710億リヤルとなったことである。

このため経常支出が1,050億リヤル(当初540億リヤル)へと増大し,一方,開発支出は830億リヤル(当初1,060億リヤル)でほぼ前年度並みとなった。

81/82年度予算は(第8-3-5表),開発関連支出が全体の70%と第3次開発計画を反映したものとなっている。支出項目別にみると,国防費が最大の支出であることはここ数年変化がないものの,地域開発やサウジアラビア人労働者の充実化をはかるための人的資源開発計画等を中心に支出の拡大がみられる。

(8) 経済開発

80年5月に発表された第3次開発計画(1980~1985)は,総額7,827億リヤル(第2次は4,980億リヤル)の政府支出によって非石油部門の実質GDP成長率6.2%,雇用1.2%増等を達成しようとしている。また本計画では,過去2回の5か年計画実施中にみられた問題点の克服,すなわち,インフレーションの沈静化,サウジアラビア人労働力供給の増加と外人労働力の増加規制などを行ないながら上記の目標を達成しようとするものである。このため投資配分の重点は,まず第1にインフラ整備と並行して生産設備を重視,第2に労働力拡充のため教育訓練を継続,第3に社会福祉増大のため地方及び都市開発を優先するなどの3項目となっている。ちなみに政府支出の配分比率は,第8-3-6表のとおり,経済資源開発33.4%(第2次21.9)インフラ整備31.8%(同26.9%)などとなっている。

第8-3-6表 サウジアラビアの開発計画

開発分野毎に特徴をみると,まず経済資源開発では,①部品や原材料輸入は免税,②無利子長期ローン供与,③政府調達時の優遇,④保護関税又は割当制の一部導入などの助成措置がとられ,ヤンブー・ジュベイル両工業地区を中心にして7石油化学工場,5石油精製工場,1鉄鋼コンビナートの建設が計画されている。また83年には石化原料確保のために,天然ガス回収システムが完成する予定である。

次にサウジアラビア人の熟練労働力化については,人口の伸びが年率1.2%増と想定される中で,サウジアラビア人労働力供給増を14.6万人(年率1.9%増)とすることなどを目標としている。

最後に,地域及び都市開発については,水源の確保及び住宅建設などが進められることになっている。

第9章 中南米

1. ブラジル:景気は急速に冷え込み

(1) 概  観

80年末からの経済調整政策が進展し,81年のブラジルの景気は急速に冷え込んでいる。

政府は80年には,高成長を維持しながら同時にインフレ抑制と国際収支改善を目ざす政策をとった。この結果,80年は農業生産の好調もあって大方の予想を上回る8.0%の高成長となった。しかし,インフレ率は年間で110%に達し,貿易収支と経常収支の赤字幅は各々28億ドル,129億ドルに,対外債務残高も80年末には538億ドルに膨らみ,経済のファンダメンタルズは更に悪化した。

この為,政府は81年初から安定成長政策に方向転換し,財政・金融両面から引締め策を強化,輸入規制措置を強め,インフレ抑制と貿易収支改善を最優先課題とした。折しも,世界経済は第2次石油危機のデフレ効果の浸透と主要先進国の高金利政策で景気は低迷していた。こうした内外環境の下で,ブラジル経済は急速に冷え込み,工業生産は前年比マイナスに落ち込んでいる。一方,こうした国内景気不振を反映して3月をピークにインフレ加速は峠を越しつつあるとみられ,国際石油価格の軟化とブラジルのエネルギー政策の進展(消費節約,代替エネルギー開発や国内石油開発の促進等)から輸入の伸びは抑えられ貿易収支は大幅に改善している。

(2) 生産動向

1980年の実質GDP成長率は8.0%と,77~79年の年平均成長率5.7%を大きく上回った。部門別にも第9-1表のとおり一様に好調であった。特に農牧業部門の伸びは,6.8%と平年に比べ高水準となった(77~79年の年平均は3.7%)。これは各種農業融資の拡充,農産物最低支持価格の大幅引上げ(平均133.5%)などの農業優遇措置がとられたことや,好天に恵まれたことによるものである。工業部門も中間財を中心に8.0%増加した(77~79年の年平均は6.3%)。

81年に入ると,金利自由化による金利上昇,通貨発行量の増加抑制,銀行貸出し枠の抑制,補助金の削減などの景気引締め政策が浸透し,需要が減少し,鉱工業生産は月を追って伸び率が鈍化し,8月には直近12か月累積の前年同期比が1.1%の減少に転じ,更に9月には同4.1%減と減少幅が拡大している(第9-1図)。減少幅が最も大きかったのは,プラスチック(15.2%減),輸送機器(16.9%減)であった。こうした生産不振は雇用面にも影響し,主要都市の失業率は,リオデジャネイロ市では80年の平均7.5%から81年1~9月平均8.7%に,サンパウロ市では80年の平均5.6%から81年1~9月平均7.5%に高まるなど,81年に入って上昇している。

エネルギー対策の1つとして政府が重視している国内原油生産は新油井の開発が順調で,81年1~9月間では平均日量21.2万バーレルに達し,前年同期比13.3%増加した。更に10月の産油量は日量23.1万バーレルに増加した。

なお,81年末には同26.3万バーレルに達する見込みである。因にブラジルの石油消費量は日量約100万バーレルである。また,代替エネルギー政策の柱である国家アルコール計画(PROALCOOL,中期目標として1985年度にエタノール生産量を1,070万Klとし,1日当り石油17万バーレルを代替するもの)は,資金難の現状を考慮して目標達成年を86年度に1年延期された。

工業部門の不振に対して,農業部門は好調である。農業振興重視政策をとる現政権が3年目を迎え,耕地の拡張や概して好天に恵まれたこと等から80/81年度の穀物収量は前年度を約7%上回る史上最高の5,400万トンに達する見込みである。コーヒー生産も7月央の霜害が80/81年度収穫には影響なく,16年振りの3,300万袋の豊作とみられている(但し,81/82年度は当初見込みの2,700万~2,900万袋から半減するとみられる)。

第9-1表 ブラジルの生産部門別経済成長率

第9-1図 ブラジルの最近の経済指標

(3) 物価動向

80年の物価は,インフレ抑制策が各種補助金の増額などから徹底せず,結果的には総合物価で64年の軍事政権始まって以来最高の年間上昇率110.2%の超インフレを記録した。

81年に入ると,年初は金利自由化による金利急騰や工業品物価統制の段階的解除などから物価上昇率は一時的に更に加速し,3月には前年同月比121%となった。しかし,マネタリー・ベースの伸び率コントロール(81年の伸び率目標は50%,年初来10月までの伸びは37.1%)を基本政策とした金融引締めの強化,国内景気の急冷,国際石油価格の軟化,農業好調による食料品価格の安定などから4~6月期には,期間内上昇率が17.0%,7~9月期も同17.8%と騰勢は幾分鈍化し(第9-2表),11月には,前年同月比99%高と80年夏の水準にまで鈍化した。もっとも依然超インフレにあることに変りはない。

第9-2表 ブラジルの物価,通貨供給量増加率

(4) 貿易・国際収支

貿易面をみると,80年は輸出が工業品を中心に前年比32.1%増加したが,輸入も石油輸入が価格上昇から著増したため同27.0%増加し,貿易収支は79年と同額の28億ドルの大幅赤字が続いた(第9-3表)。

第9-3表 ブラジルの貿易額と外貨準備高

81年に入ると,輸出は「小刻み為替レート切下げ」の加速(年初来,12月23日までの切下げ回数は35回に及び,切下げ率は計95.12%),工業品輸出に対する報奨金制度の復活などの輸出振興策から工業品を中心に順調に増加し,1~11月累計で212億ドル(前年同期比16%増)となっている。輸出相手国別には(1~7月)発展途上国向けが前年同期比50%前後の大幅増となっている。輸入は国際石油価格の軟化,石油消費節約などによる石油輸入の伸びの大幅鈍化,輸入規制措置の強化などから減少し,1~11月累計で202億ドル(前年同期比4%減)となった。貿易収支は前掲第9-1図のように5月以降黒字が続いており,政府は81年全体では約10億ドルの黒字になるとみている。

国際収支をみると(第9-4表),80年には貿易外収支の赤字幅が対外債務の利子支払い負担増等から102億ドルに増加し,経常収支赤字幅は129億ドルに増大して対GDP比率は5.4%に増加した(79年は107億ドルの赤字で同5.0%)。この為,総合収支は34億ドルの2年続きの大幅赤字となった。

第9-4表 ブラジルの国際収支

しかし,81年には貿易収支の改善と外貨借入れ増から総合収支均衡が達成されるものとみられる。81年9月末の対外債務残高は591億ドルとなり,80年末から9.7%,前年同月末から11.8%増加した。対外債務残高の構成別推移(72~80年)は第9-5表のとおりで,80年末の外資借り入れが全体に占める割合は70.2%と増加している(72年では58.1%)。

また,外貨準備高は78年末め119億ドルをピークに2年余り減少が続いたが,81年6月の61億ドルを底に下げ止まり,10月には64億ドルとなった。

第9-5表 ブラジルの対外債務残高の構成別推移

(5) 経済見通し

81年の成長率は,工業部門が全く不振であること(4~6%減),農業部門が好調であること(6~8%増),またサービス部門はほぼ横ばいとみられることから全体では80年の8%成長から大幅に鈍化して0~2%とみられている。また,82年に関しては政府筋ではインフレや貿易面の改善から金融引締めが幾分緩和され,成長率は4~5%に戻り,インフレ率は70~80%,貿易収支は30億ドルの黒字になるとしている。

2. メキシコ:高度成長に黄色信号

ポルチーヨ現政権は,82年末の任期いっぱいまで毎年実質8%の経済成長率の持続を目標としている(総合開発計画1980~82年)。しかし,81年に入って国際石油価格の軟化から年央には原油輸出価格の値下げを余儀なくされるなど,国際環境は急速に悪化している。更に,国内経済も81年に入ると,これまでの石油傾斜生産の欠陥が目立ち始め,従来からのボトル・ネックといわれる熟練労働者の不足,輸送施設の不備などもあり,工業生産に伸び率の鈍化がみられる。また,平価ペソの割高政策持続は工業品の国際競争力を弱め,貿易収支赤字幅拡大の一因となっている。

(2) 生産動向

80年の実質経済成長率(GDP)は7.4%となり,3年連続の高度成長を達成した(78年7.3%,79年8.0%)。これは農業部門の伸びが前年の不振から5.3%増に大幅改善したことや,石油・石油化学部門が引続き大幅に増加したことが大きかった(第9-6表)。

第9-6表 メキシコの生産部門別経済成長率

鉱工業生産(電力・建設を含む)の動向を四半期別に前年同期比でみると(第9-2図),製造業では80年4~6月期以降,紙,化学品,繊維,食料品などの業種を中心に,伸び率が徐々に鈍化した。この原因は生産能力の不足,原材料不足,高インフレによる消費の不振とストライキの多発,世界不況による輸出不振などである。但し,自動車,鉄鋼,セメント等では81年1~8月に前年同期比で各々23%増,10%増,10%増と昨年を上回る伸びを示しており,製造業全体でも81年4~6月期には前年同期比7.6%増と伸びが高まっている。

第9-2図 メキシコの鉱工業生産

一方,石油生産の伸びは,80年7~9月期をピークに世界の石油需要の減少から急速に鈍化している。81年1~8月の生産量は平均日量234万バーレルで,80年平均を20.6%上回った。但し7月には輸出価格引上げ措置に消費国側の合意が得られず,生産量は日量109.6万バーレルにまで減少した。また9月時点での石油・天然ガスの確認埋蔵量は720億バーレルに増加した(80年9月時点は601億バーレルであった)。これは世界第4位の埋蔵量となる。

81年の農業生産は降雨に恵まれたこと,政府の農業振興政策などに支えられ好調で,GDPベースで5~5.5%の伸びが見込まれている。

(3) 物価動向

80年の物価上昇率は全国消費者物価指数の年間上昇率が29.8%,メキシコ市の卸売物価上昇率が同26.4%となり,76年以来の高インフレとなった(第9-7表)。こうした高インフレの原因は石油ブームと積極的な投資活動で供給不足にあること,投資資金の多くを外国資金に依存していること,食料品を中心とする消費財価格の高騰など,多面的,構造的なものとみられる。

第9-7表 メキシコの物価,通貨供給量増加率

一方,81年に入ると高インフレにやや低下傾向がみられる。1~8月間の全国消費者物価の上昇率は18.1%(80年同期間は21.2%),メキシコ市卸売物価は同17.1%(80年同は21.2%)と共に80年を下回っている。

メキシコ・ペソ相場は,米国とのインフレ格差からみると,現状かなりの過大評価であるとみられる。1976年9月のペソの実質大幅切下げによるインフレ効果が,ほぼ出つくしたとみられる6か月後の1977年2月を基準とすると,81年8月までの両国の相対卸売物価指数でみたペソの購買力は49.7%下落した。これに対してこの期間のペソの対米ドル相場切り下げ率は9.9%であり,ペソ相場は40%近い過大評価となる。

(4) 貿易・国際収支

80年の輸出は原油輸出価格が大幅に引上げられ(第9-3図),量的にも増大したことから前年比74%増の153億ドルとなった。一方,輸入も旺盛な国内需要から前年比55%増の186億ドルとなった(第9-8表)。このため,貿易収支は79年に引続き大幅な赤字となった(79年の赤字幅は31.9億ドル,80年は同32.6億ドル)。

第9-3図 メキシコ原油輸出価格の推移

第9-8表 メキシコの貿易額と外貨準備高

81年春には,世界的な石油価格の軟化からメキシコも値下げを余儀なくされ,4月に重質油(マヤ原油)をバーレル当り2.5ドル値下げし,6月には軽質油(イストマ原油),重質油とも同4ドル値下げを実施した。この措置は閣僚内から強い批判が出され,PEMEX(メキシコ石油会社)総裁の辞任にまで発展した。7月には逆に同2ドルの値上げを発表したが,消費国側の原油引取り停止などの反発を受け,7月の原油輸出は前年同月比30%の減少となった。このため8月には再び原油輸出価格を改定した。

81年1~7月の輸出総額は,伸び率がやや鈍化したものの前年同期比35.4%増加して114億ドルとなった。うち非石油輸出は32,8億ドルで前年同期比では僅か4.4%増に留まり,数量ベースでは約5%の減少となった。この要因としては農産品の国際価格の低下と,先進国での保護貿易の拡まりがあげられる。また工業品輸出は名目で2.4%増にとどまった。一方,輸入は1~7月に前年同期比39.8%増の137.6億ドルとなった。石油収入の頭打ちに対処して,政府は輸入事前許可対象品目の追加,関税引き上げ,公定価格の復活など一連の輸入規制強化措置を採っており,輸入の伸びは徐々に鈍化し,7月には前年同月比17.3%増となった。

国際収支をみると(第9-9表),80年は対外債務利子支払い額の増加などから貿易外収支赤字が急増し,経常収支赤字幅を膨らませた。しかし資本収支も短期資本流入増から著増し,総合収支は11.5億ドルの黒字であった。81年上半期をみると,貿易外収支が金利高による利子支払い増などもあり,更に赤字幅が増加して前年同期の2倍の27.6億ドルの赤字となり,経常収支赤字幅は37.6億ドルとなった。この為,資本収支黒字の拡大(前年同期比31.2%増)があったものの,総合収支は3億ドルの赤字に転じている。

こうしたことからメキシコの外資借入れは著増しており,公的対外債務残高は80年末の340億ドルから81年末には487億ドルに増大するとみられている。

第9-9表 メキシコの国際収支

(5) 経済見通し

原油輸出量は,政府の積極的外交展開で,9月には予定量を回復した。しかし81年全体の貿易収支赤字幅は大きく拡大するとみられる(40~50億ドル)。

米国ワートン研究所によるメキシコ経済のマクロモデル分析(81年10月)では,81年,82年の成長率を各々6.8%,6.1%と推計している。鈍化の主因は,海外経常余剰の赤字幅増と政府消費支出の伸び率鈍化となっている。

第10章 ソ連:困難な経済情勢続く

1. 概  観

ソ連経済は80年代に入っても困難な情況下にあり,1981年から始まった第11次5か年計画も,難行が予想される。

第10次5ヵ年計画(1976~80年)最終年の1980年経済計画は,79年に続いて,農業不作や工業生産の伸び悩みなどによって,主要目標の多くが未達成となり,多難を極めた第10次5ヵ年計画を象徴する幕切れとなった(第10-1表)。また,第11次5ヵ年計画(1981~85年)初年度の1981年計画も,事態の改善が進まぬまま,基本的に目標未達成となることが明らかとなっている。

第10-1表 ソ連の主要経済指標

1980年の工業総生産は,前年比3.6%増と79年並の増加率となり,控え目な目標とみられた年度計画の同4.5%増を大きく下回った。また,農業総生産は,計画の前年比8.8%増に対して同3.0%減となり,79年に続いて後退を余儀なくされた。こうした生産面での計画未達成を反映して,支出国民所得成長率は計画目標の4.0%をやや下回る3.8%に止まった。この結果,第10次5か年計画において年度別に策定される経済成長計画が目標水準に到達したのは,農業が大豊作となった1978年だけという厳しい事態となっている。

こうした事態は,ソ連経済の不振を内外に印象づけるとともに,政策当局の最も憂慮するところとなり,問題部門の管理責任者への名指しの批判を含めて,機会あるごとに事態改善に向けてのキャンペーンがはられることとなった。

しかし,1981年に入っても,経済活動は低調を続け,工業総生産は前年比3.4%の増加に止まる見込みとなり,計画未達成となることが明らかとなっている。また,農業生産も3年続きの不作が確定的となっている。このため,支出国民所得成長率は,極めて低水準に設定された計画目標の3.4%をも下回る3.0%となる見込みである。

こうした状況の中,1981年2~3月にソ連邦共産党第26回大会が開催され,先に公表されていた「1981~85年度および1990年までのソ連経済・社会発展の基本方向」が審議・採択された。これは80年代のソ連経済の発展の概要を示すものであるが,その中で,ソ連経済がより一層強く集約的な発展の方向を追求することが明らかにされた。すなわち,それは,生産場面での労働力の伸びがほとんど期待できない見通しの中で,投資も極めて低い伸び率に抑え込み,一方で,生産性の大幅な上昇を見込むことによって経済成長の維持・安定を図るといういう内容となっている。また,第9次5ヵ年計画(1971~75年)で打ち出され,最終的に実現されなかった工業における消費財生産の優先方向が,第11次5ヵ年計画でも再び採りあげられており,畜産を中心とした農業の増産策とともに,国民生活の実質的向上を図ることが極めて重要な課題となっていることを示すものとして注目される。

1982年経済計画では,1981年計画の未達成を補い,第11次5か年計画で規定された本来の発展方向に復帰すべく,諸目標が設定されている。

対外面では,ソ連貿易額は,対ソ経済措置問題や東欧経済の停滞化にもかかわらず,二桁の増加傾向をつづけている。

2. 生産動向

(1) 工  業

近年のソ連工業は,慢性的な農業不作による食品工業の停滞,燃料採取,鉄鋼・非鉄金属,建設資材などの基幹工業部門の不振化によって,計画目標を大きく下回る低成長を続けている。すなわち工業総生産は,前年比で79年に3.4%増,80年に3.6%増,更に81年見込みでも3.4%増と3%台の極めて低い増産率に定着した感がある。

工業計画が達成されない理由としては,①原材料供給面でのボトルネックの発生,②設備・機械の陳腐化とそれらの更新の遅れ,③新規生産能力の稼動の遅れ,④労働刺激策のアンバランス化(消費面における需給ギャップの顕在化)による志気の低下と労働規律違返の蔓延などが指摘される。こうしたことは,工業における労働生産性に如実に反映しており,その上昇率は,80年には計画の前年比3.8%に対して実績は同2.6%,81年には計画の前年比3.6%に対して1~10月前年同期比2.6%と低い上昇率に止まっている。ソ連経済が集約的発展の方向を鮮明にすればするほど,こうした事態に対する根本的な解決策を求められるであろう。

次に主要工業品目についてその生産動向をみれば,燃料・エネルギー品目では,天然ガス生産が極めて高い増加率を示して好調を持続しているものの,電力,石油生産は伸び悩みが顕著となっている(第10-2表)。もっとも石油生産は,現在までのところ,70年代後半に一部の西側機関で予測されたような減産の事態には到っていない。しかし,ソ連のエネルギー・バランスの中で依然として大きな役割を担う石炭生産は,大炭田の生産計画遂行の遅れ等により減産を続けている(第10-2表)。鉄鋼関連では,世界一の生産を誇る銑鉄や粗鋼生産が,鉄鉱石,コークス生産の不振,設備稼動上の問題等から停滞状態を示している。このため,一部には鋼材などの供給不足が生じており,他部門への影響が指摘されている。化学関連では,化学肥料やプラスチック・合成樹脂生産が,一時の不振から立ち直りをみせているものの,依然として計画未達成が指摘され,とりわけ,農業の「化学化」を目指すソ連農業にとっては,肥料や農薬不足の事態は重大な問題とみられる。また,工業では比較的高い成長をみせている機械・設備関連品目にも,生産計画を達成できないものが目立つようになり,こうしたことが建設計画や輸送計画の遅れなどに影響を与えていると言われる。このほか,セメントや材木などの生産も低調である(第10-2表)。さらに,日常生活関連品目の中にも依然として,生産不振や品質の問題がみられ,消費面に多大の影響を与えている。

第10-2表 工業部門別および主要工業品生産動向

(2) 農  業

農業の発展は,ソ連国民の生活水準を根本的に引き上げる上で最も重要な部門の一つであるが,当局の努力と期待に反して気象条件に左右され易いという生産体質は容易に克服されず,近年足踏みするようになっている(第10-1表)。

農業総生産は,1980年に前年比2.5%減と79年に続いて減産となった。81年も旱ばつなどにより穀物を中心に不作が伝えられ,3年連続の農業不作が確定的となっている。

穀物生産は,1980年に1億8,920万トンと第10次5か年計画目標の2億1,500万~2億2,000万トンを大きく下回った(第10-3表)。このため,同5カ年計画期の平均穀物生産は2億500万トンと初めて2億トンの大台に乗せたものの,計画を1,000万~1,500万トン下回り,その分輸入圧力が増大した。さらに1981年の穀物生産は,アメリカ農務省の予測によれば1億7,500万トンに低下すると言われ,また,ソ連当局の非公式筋によれば1億7,000万トンを割り込むとも伝えられている。

第10-3表 ソ連の主要産品動向

こうしたことから,畜産の維持のためソ連の対外穀物買い付けは活発となっており,80年中は対ソ経済措置の一還として穀物輸出制限を行っていたアメリカからも,81年4月末に輸出制限が撤廃されたのに続いて10月初に米ソ穀物協定の一年延長が合意されたのに基づいて,ソ連は大量の穀物を輸入する契約を行っている(ソ連は,81年10月以降アメリカから最高2,300万トンの穀物輸入ができる)。

大量の飼料用穀物輸入(1980/81年度は3,450万トン,1981/81年は4,300万トン,いずれもアメリカ農務省推計および予測)にもかかわらず,飼料不足は解消されず,畜産は停滞を続けている。食肉生産は80年に前年比1.7%減と一段と落ち込んだ(第10-3表)後,81年には,コルホーズおよびソフォーズの食肉生産でみると,1~10月前年同期比2.1%増となっているものの,79年の落ち込みを取り戻しているにすぎない。乳生産は,飼料不足を反映して79年以来の減産傾向を続けている。

長引く農業不振は,食品工業や軽工業などの停滞を招くとともに,国民の消費生活に多大の影響を及ぼしている。こうした事態を少しでも緩和するため,1981年初には「市民の私的副業経営における農産物の生産増大をめざす補足的措置」が決定され,生産性が高い住宅付属地や工場敷地内での畜産や園芸を農業生産の強化・増大に積極的に活用しようとしている。

(3) 運輸・建設

運輸活動は,広大な国土に広がる資源や諸生産力を有機的に結びつける上で益々その役割が高まっているが,近年,計画課題を達成できず,ソ連経済の隘路部門化している。とりわけ,その過半を占める鉄道輸送の不振が目立っている(第10-1表)。貨物取扱い高は,前年比で79年0.6%増(計画は4.9%増)の後,80年も3.0%増(同じく5.3%増)と伸び悩んだ。81年1~6月期には,前年同期化3%増と年計画の2.6%増を上回る水準にある。しかし,鉄道輸送や船舶輸送などにおいては,依然として計画未遂行や輸送手段の遊休が指摘されるなど予断をゆるさない状況にある。

建設面をみると,総投資高(固定投資)は,79年に前年比0.7%増となった後,80年も同2.0%増と極めて低い増加率となっている(第10-1表)。また,81年1~6月期には,国家投資高(総投資高の約9割を占める)が前年同期比4%増と年計画の5.2%増を下回った。もっとも,79年末までに増大した未完工工事を促進するために,投資の伸びを抑制することが重要な政策目標となっており,投資の伸びの鈍化を必ずしも否定的にとらえることはできない。しかし,投資を建設中のプロジェクトや企業の設備更新に集中することで投資効率を高める課題は,計画通りには進展していないものとみられる。こうしたことは,建設資材,据え付け機械の供給不足や低品質,建設計画自体の問題,さらには建設作業組織の問題などから起因しており,1981年11月の党中央委員会総会において,再び建設関係各省の大臣がブレジネフ書記長によって名指しで批判された。

3. 雇用・国民生活

雇用面をみると,国民経済全体での労働者・職員の数は,人口増加率の低下の影響などから,近年,目立って伸び率が低下するようになっている(第10-1表)。労働者・職員数は,前年比で78年2.1%増,79年1.8%増,80年1.7%増,そして,81年1~6月期には前年同期比1,5%増となっている(81年計画は1.2%増)。こうした状況は,人手不足を更に深刻化しているとみられる。こうした問題の解決は,ソ連のような完全雇用社会にあっては,労働力の効率的利用にしか道はなく,その中心を為すものは作業の機械化である。81年11月の党中央委総会でブレジネフ書記長は,工業労働者の約40%,建設業やサービス業ではそれ以上が手作業に従事していると述べ,労働資源の有効利用をすすめる上で手作業を減らすための総合計画を作成する必要があることを訴えている。

所得面をみると,労働者・職員の月平均賃金は,計画を上回る伸びを示している(第10-1表)。増加率は,80年に前年比3.2%増と計画の2.1%増を上回ったほか,81年1~6月では前年同期比2.3%増と年計画の1.8%増を上回る増勢にある。他方,コルホーズ農民の労働報酬は,81年に前年比2%増と計画の5.4%増の半分にも達しなかった。しかし,81年1~6月には前年同期比4%増とほぼ年計画水準(4.1%増)にある。こうしたことを反映して国民1人当りの実質所得(貨幣所得のほかに教育や医療,住宅サービスなどの各種の国庫支出をも含めたもの)は,80年に前年比3.5%増(計画は3.3%増)となり,81年も同3.6%増(同じく2.9%増)が見込まれるなど計画目標を上回る伸びを示している(第10-1表)。

所得の計画を上回る増加を反映して,消費も堅調に推移している。小売売上高(国営・協同組合商業)は,80年に前年比5.3%増と計画の5.1%増をやや上回った後,81年1~6月には前年同期比5.7%増と年計画の3.9%増を大きく上回る勢にある。しかし,先にみたように,農業不作の影響を受け,食肉や乳製品などの基礎食料品の供給不足が解消されず(第10-4-(1)表),綿製品その他の一連の生活関連商品の供給が依然として滞っているといわれている(第10-4-(2)表)。このような物不足の継続が国民の消費行動の変化(耐久消費財や高級商品に国民の消費嗜好が移っているといわれる)と相まって,貯蓄残高を急速に増大させている(第10-5表)。80年末には国家労働貯蓄金庫の一口座当りの平均預金残高は1,101ルーブルと労働者・職員の男平均賃金の6.5ヵ月分に達している(ソ連のような教育・医療費が無料で老後の生活が保障され,また金利水準が極めて低い国にあっては,このような貯蓄額は多いとも考えられる)。

こうした状況下,81年9月央に79年7月以来の小売価格の改訂が実施された。一部繊維品,医薬品,腕時計等の価格が引き下げられる一方,宝石,家具,皮製品などの高級品,酒類,タバコ,民生用ガソリンの価格が引き上げられた。政府は,コスト上昇,節約強化,さらには消費抑制による需給バランスの回復などを価格改訂理由にあげている。

第10-4-(1)表 主要食料品販売動向

第10-4-(2)表 耐久消費財販売・保有動向

第10-5表 ソ連国民の貯蓄動向

4. 外国貿易

(1) 1980年の貿易動向……黒宇化した対西側先進国貿易収支

80年のソ連貿易は,輸出入ともに大幅な増加を示した(第10-6表)。輸出は前年比17.0%増,輸入は同17.4%増となった。輸出増加の大部分は輸出単価の上昇に負っており,輸出単価は前年比15.2%の上昇と79年lと次ぐ大幅な上昇となった。輸入の増大も多くは輸入単価の上昇に負っている。この結果,貿易収支黒字は79年よりさらに拡大して,51.7億ルーブル(79.6億ドル)となった。

第10-6表 ソ連の取引国別,国別貿易動向

主要商品について輸出入動向をみると,輸出では,石油・石油製品,天然ガスの輸出が,世界市場でのエネルギー価格の上昇を反映して79年に続いて高い伸びを示した(第10-7表)。とくに天然ガスの伸びは前年比76.5%増と極めて高く,エネルギー輸出においても天然ガスの役割を高めようとするソ連のエネルギー政策が如実に反映されている。もっとも,石油・石油製品の輸出総額に占める比率は依然として大きく,80年には実に36.4%を占めた。

他方,輸入では,農業不振を反映して,穀物,肉・肉製品の輸入が大幅な伸びを示した(第10-7表)。また,化学工業や製紙工業の不振を映じて,化学製品,パルプ・紙製品の輸入が大幅に増大した。また,衣料品や日常生活用品の輸入も目立って増加した。しかし,輸入の大きな部分を占める機械・設備・輸送機器の輸入は伸び悩んだ。

第10-7表 主要商品別輸出入動向

取引圏別に輸出入動向をみると,ソ連貿易の過半を占める社会主義諸国との貿易では,輸出が前年比13.9%増と79年よりやや加速したのに対して,輸入は10.3%増と79年に比べて目立って加速した(第10-6表)。このため,対社会主義国貿易収支黒字はさらに拡大して,32.5億ルーブルに達した。

西側先進工業諸国との貿易は,80年初にアフガン問題発生による対ソ経済措置が打ち出されたにもかかわらず,大幅な増加を示し,輸出は前年比26.8%増と79年よりも鈍化したものの高い伸びを示す一方,輸入も同18.7%増と好調を持続した。これは,エネルギー価格の上昇や西欧諸国の対ソ貿易での積極姿勢の結果とみることもできる。このため,80年の対西側先進諸国貿易収支は1.4億ルーブル(2.2億ドル)の黒字と74年以来の黒字に転化した。

さらに発展途上諸国との貿易では,輸出が前年比9.2%増と他地域向けに比べて小幅な伸びに止まったのに対して,輸入は同59.7%増と著しい拡大をみた。このように途上国からの輸入が急拡大したのは,これら地域からの穀物や砂糖,コーヒーなどの食品輸入が大幅に増加したためである。とくに,アルゼンチン,ブラジルなどの南米諸国,ASEAN諸国,さらにはインド,アフガニスタン,リビア,エチオピアなどの親ソ諸国との貿易取引増大が目立った。この結果,対途上国貿易収支は79年の31.0億ルーブルから17.8億ルーブルの黒字へと黒字幅は縮小した。

(2) 81年1~9月期の貿易動向……対途上国貿易の急拡大傾向続く

81年に入ってもソ連貿易は引き続き二桁の増加を続けている(第10-1表)。81年1~9月期に前年同期比で輸出は15.4%増,輸入は21.1%増となった。このため,貿易収支黒字額は,79年1~9月期の24.2億ルーブルから9.2億ルーブルに目立って縮小した。

取引圏別に貿易動向をみると,対社会主義諸国貿易では,前年同期比で輸出が15.9%増(79年1~9月前年同期比13.1%増),輸入は12.1%増(同12.4%増)とそれぞれ80年並の増勢にある。対西側先進工業諸国貿易では,輸出が8.0%増(同34.0%増)と80年に比べて増勢が著しく鈍化し,輸入は20.1%増(同19.2%増)と80年並の増勢を維持した。このため,対西側先進工業国貿易収支は再び悪化し,81年1~9月期に14.6億ルーブル(20.2億ドル)の赤字となった。対途上国貿易は引き続き大幅な拡大を示し,,輸出は32.0%増(79年1~9月前年同期比3.1%増),輸入は66,6%増(同62.3%増)と輸出入ともに好調となっている。

5. 第11次5ヵ年計画

第11次5ヵ年計画は党中央委員会草案公表の段階でその概要が明らかとなっていたが,党大会の審議・採択を経て後,81年11月の最高会議において具体的な目標数字を盛り込んだ「5ヵ年計画法」として正式決定された。

第11次5ヵ年計画の基本課題は,白書本文(第5章第1節)においてすでにみたのでここでは省略し,「計画基本方向」と「計画法」を比べて,その特徴を明らかにしたい。

第11次5ヵ年計画の最終決定たる「計画法」の諸目標は,概して「基本方向」で示された目標枠の下限か,それに近い水準に設定されている(第10-8表)。これは,計画初年度の81年計画が大幅に未達成となる見込みであることが少からず影響したと考えられる。

注目されるのは,投資の伸びを「基本方向」で示された伸びよりも更に抑え込むことで,経済効率の改善を当所見込んでいたよりも尚一層強く求めていることである。

工業総生産目標は年平均4.7%増とされ,5ヵ年計画史上最低の伸び率となることが明らかとなった。しかも,特徴的なことは,増加率が計画期末に到って高まり,6%台の大幅な増加率に復帰する内容となっていることである(第10-8表)。また,生産財と消費財の関係をみれば,消費財生産の伸びが極く僅かではあるが生産財のそれを凌ぎ,民生重視の方向を辛じて盛り込むことに成功している。

農業総生産は,「基本方向」の目標枠のほぼ中間点におき,81年が不作見込みとなっているにもかかわらず意欲的姿勢を変えていない。穀物生産は年平均2億3,900万トンと第10次5ヵ年計画実績平均比16.6%の増加を見込んでいる。さらに,肉および乳生産は,「基本方向」の上限を大きく上回る,それぞれ年平均1,820万トン(第10次計画実績平均比23.0%増),1億200万トン(同10.2%増)と極めて野心的な内容となっている。

第10-8表 第11次5ヵ年計画法における主要経済指標の年別成長計画

第11章 中国:経済調整強化に踏みきった中国経済

1. 概  観

中国では79年以来,「調整,改革,整頓,向上」の八字方針から成る調整政策を実施している。79,80年の工農業総生産額は,それぞれ前年比8.5%増,7.2%増と,過去30年の平均増加率(9.4%)を下回ったが,農業及び軽工業生産の増大,国民の所得増など民生の向上がみられた。しかし,同時に基本建設投資削減が進まず,大幅な財政赤字が発生し,物価上昇が深刻化したこと,エネルギー増産見通しが厳しくなったこと,貿易面での混乱が生じたことなどが,中央の危機意識を強めた。

このため,80年12月に開催された党中央工作会議では81年から投資の大幅削減等を内容とする調整強化策を実施することが決定された(詳細は本文第5章第3節参考)。調整強化策とは,八字方針のうちの主軸である「調整」を重視し,再び中央集権的管理を強めて分権化により生じた混乱を収拾し,蓄積と消費及び各産業部門がバランスのとれた発展を遂げるための政策とされているが,その主目的は,経済調整の進展につれて生じてきた財政赤字とインフレの解消にあるとみられる。

81年の経済情勢をみると,農業と軽工業は好調に推移しているが,重工業は前年比で減少している。大幅に削減を行なう計画(前年比44.3%減)であった基本建設投資は同30%減にとどまると予想されているが,国防費を始め歳出が同10.5%減と減少しており,財政収支は均衡できないものの財政赤字は,80年の128億元に比べ縮小し,27億元になるという概算が明らかになった。また,通貨回収も進み,インフレも鎮静化傾向にあるとみられる。

当初79~81年の3年に限定されていた経済調整期間は,調整強化という新たな局面を迎えて延長されることが確実視されていたが,81年11月末に開催された第5期全国人民代表大会第4回会議では,85年もしくは更に延長される見通しが明らかにされた。しかし,大幅に計画作成の遅れている第六次五か年計画(81~85年)については,計画期間中の工農業総生産額(注1)と国民所得の伸びをほぼ等しくし,安定成長をはかるなど10項目の基本方針が表明されるにとどまった。

(注1)

それは①農業と軽工業を発展させ重工業の発展方向を調整する。②エネルギー利用効率を高め,エネルギー・輸送部門の強化をはかる。③企業の技術革新と整頓・改組の推進。④生産増大による歳入の増加と資金の有効利用をはかる。⑤開放的な対外政策の堅持。⑥適切な経済管理体制改革の推進。⑦労働者の科学・文化水準の向上。⑧民生向上をはかる,などである。82年計画においては,財政収支は81年と同規模の30億元の赤字と見込んでおり,また引き続き物価を安定させることを目標としている。そして,重工業生産を前年比で増加させ,工農業生産の伸びは81年見込み(3%以上)より,やや高めの4%と見込んでいる。

また,今回の全国人民代表大会では,外国企業所得税法,経済契約法が採択され,民事訴訟法案も原則的に承認された。

2. 工農業生産

80年の工農業総生産額は前年比7.2%増の6,619億元となり,79年の伸び(8.5%)を下回ったものの,計画(5.5%)を超過達成した(第11-1表)。

第11-1表 中国の主要経済指標

まず,工農業総生産額の25%を占める農業をみると,北部の干ばつ・南部の水害など天候不順,経済作物への作付転換や宅地化の進展による栽培面積の減少(2.4%減)などにより,80年の食糧生産は豊作であった79年比4.2%減の31,822万トンとなった。一方,綿花・油料作物など経済作物の生産や副業は好調であったため,農業生産は前年比2.7%増となった(79年8.6%増)。

しかし,食糧生産の減少に加え,79年以来,農業優遇策の一環として農民の食糧留保を増加させる政策をとっており,国家が機動的に運用できる食糧が減少したため,80年末には,河北・湖北両省の自然災害に対して,初めて国連の援助を要請した。これに対し,アメリカ・EC・日本等から食料,衣類などの救援物資が供与された。

また,80年の食糧輸入量は前年比26%増の1,367方トンと急増した。このうち,アメリカからの買い付けは急増し,全体の65%を占めるに至った(79年37%)。さらに,80年10月には米中穀物協定(81~84年)が調印され,81年から中国は毎年600~800万トン(事前通知を行うと900万トンまで可能)の小麦・とうもろこしを買い付けることができることとなった。

81年の夏収作物(年間食糧生産の2割を占め,冬播き小麦が中心)及び早稲の生産は,北部の干ばつが継続し,栽培面積も縮小したものの,生産責任制(注2)の進展などにより,それぞれ前年比5.3%増(6,000万トン),2%増(5,000万トン)以上となった。夏以降,四川・遼寧省など各地で洪水の被害が相次いだが,秋収食糧も好調であり,81年の食糧生産は,80年を上回り,史上最高の79年の水準(3.3億トン)に近づくとみられている。また経済作物は昨年に引き続き好調で,油料作物(大豆,綿実等)が前年比17%増,糖料作物(さとうきび,てんさい等)が10%増以上となり,綿花,煙草,茶の生産も増加しているため,農業生産は前年比約4%増と見込まれている。

(注2)

調整政策では,農村で多角経営を進めると同時に,自留地の拡大(耕地の7%から15%程度まで引き上げることが許可されている)を進めている。農産物買い付け価格が引き上げられ,農民が自由市場などにおいて販売でできる農産物の数量も増大しているため,農民の収入は増加している。

一方,工業をみると81年から実施されている調整強化策では,企業の閉鎖・合併・転業を進め,基本建設投資総額を前年比44.3%減の300億元まで削減することが計画されており,81年4月時点で建設中の大中型プロジェクトは592件と80年末(904件)に比べ急減し,そのうち新規プロジェクトはわずか12にとどまっていた。上期の基本建設投資総額は前年同期比22%減となったが,81年全体では前年比30%減の380億元と見込まれている。投資の中では政府の民生向上重視策を映じて,住宅投資の占める割合が上期に23.6%(80年20%)となり,81年の住宅竣工面積は8,000万m2に達するとみられている(80年8,230万m2)。

工業生産は,政策転換による混乱から81年1~2月に前年同期比1.5%減と減少した後,3月より上向きに転じたが,上期の工業総生産額は同0.8%増にとどまった。

これは,原燃料供給,投資など6つの面で優遇されている軽工業が80年(18.4%増)に引き続き好調(上期の前年同期比11.6%増)なものの,重工業が,80年の1.4%増から81年上期に8.2%減と減少したためである。

調整強化策の実施に伴い,重工業品のうち,石油・石炭・粗鋼の81年の生産目標は,それぞれ1億トン(前年比5.6%減),6億トン(同3.2%減),3,300万トン(同11.1%減)の水準にまで引き下げられた。そして,重工業に対しては,設備の効率的改造,供給不足品への生産転換,品質の向上などが要請されていた。しかし,生産任務削減などにより上期には企業の士気が低下し,品質も低下するなど経営効率はむしろ悪化したと伝えられる。上期第11-2表主要工業品生産の推移の石炭の生産は下方修正された計画をも下回り,工業総生産額の27%をしめる機械工業の不振も著しく,重工業生産の減少は,企業の上納利潤の減少(12.3%減),欠損の増加(55.2%増)などをもたらした。このため,8月以降,重工業もある程度の成長を維持する必要性が打ち出され,輸出及び軽工業向け製品を中心に重工業生産は上向きに転じた。81年全体では前年比4.5%減となったが,軽工業が同13.6%増となったため,工業総生産額は同4%増となった。

このため,工業生産総額に占める軽工業の割合は,80年の47%から,50%を上回った。重工業生産が,このように大きく減少したのは,文化大革命期の68年以来のことである(第11-1図)。82年計画では重工業生産は増加させることとなっている。

1~11月の品目別実績をみると,ラジオ,テレビ,自転車等耐久消費財の生産が20%以上の好調な伸びをみせているほか,石油・石炭・粗鋼などは低水準ながらも計画は上回っている(第11-2表)。

第11-1図 軽工業と重工業の伸びの比較

第11-2表 主要工業品生産の推移

3. 雇用・賃金

中国では77~79年の間に約2,800万人,80年900万人,81年1~9月に477万人(81年全体では800万人の見込み)が新規に就業したとされている。

調整期に入って,成長率が鈍化しているにもかかわらず,政府の雇用重視対策から,雇用は比較的順調に拡大しているといえよう。79年以来雇用促進のため設置された労働服務公司は,81年に全国で2,300余りに達しており,200万人余りの待業者(職待ち)を就業させたと伝えられる。(80年の待業者は400万人とされている。79年の孫冶方論文では2,000万人)。

調整期の雇用対策として,政府は,政策の左傾化以来ほとんど姿を消していた個人経営企業を肯定し,また原材料供給や税制面などで様々な規制を受けてきた集団所有制企業の進展をはかり,この方面での労働力吸収を積極的に進めている。個人経営企業労働者は79年の32万人から80年に103万人,81年9月にはさらに125万人へと増大している。また,集団所有制企業に対する減税など政策的優遇策がとられたため,81年上期の集団所有制企業の生産高は前年同期比10.6%増と,国営企業(1.6%減)と比べ好調である。また,集団所有制企業労働者数も増加している(第11-3表)。

第11-3表 中国の就業構造

共産圏社会の特徴として,一般にサービス業従事者の全労働者に占める割合は低い(本文第5-3-5表参照)が,中国は,雇用対策と国民の生活の便をはかるため,サービス業従事者の増大をはかっている。一説によると商業人口の全労働人口に占める割合が57年当時の割合に戻れば,300万人の就業が確保できるとされている(紅旗論文)。81年6月時点で商業・飲食業・サービス業の就業者数は,1,413万人と,80年末に比べ112万人増加している。

農村では,生産責任制の導入などにより,労働力の約1/3が余りはじめているといわれるが,多角経営の進展等で余剰労働力を吸収しようとしている。

また,労働生産性向上のため,長年低水準に据え置かれてきた国営企業労働者の賃金引き上げが77年以来段階的に行われており,79年11月には,国営企業労働者の40%に対する賃上げが行われ,副食品小売価格引き上げに伴い補助金が支給(一人5元,牧畜区8元)された。また,企業の自主権拡大により留保利潤を利用した奨励金支給が増加したため,80年の国営企業労働者の平均賃金は前年比13.9%増(79年同9.5%増)と増大した。しかし80年の国営工業企業の労働生産性は前年比2%増にとどまった(79年同6.4%増)。

商品小売総額も79年に17.8%増,80年に18.9%増(2,140億元)と好調に増大しているが,国民の購買力の増加は商品供給量の増加を上回り,インフレの一因となったとみられる。

一方,79,80年と相次ぐ預金金利引き上げのインセンティブもあって,都市と農村の預金額は80年に前年比41.9%増,81年10月時点で前年末比23.8%増の494億元と増加している。

4. 対外貿易・外資導入

四人組失脚(76年10月)以来,対外的開放政策が堅持されているため,貿易総額は79年に前年比28.5%増(元建て,以下同様),80年にも23.5%増と51~79年の年平均増加率(8.6%)を大きく上回り,563億元(約375億ドル)の規模に達している。

輸出の拡大をはかると同時に,輸入は選別的に必要なものに絞るという調整政策を映じ,輸出は79年の前年比26.3%増から,80年には同28.3%増へと増加したのに対し,輸入は30.1%増から19.3%増へと鈍化した。このため,貿易収支赤字は79年の32億元(約20.6億ドル)から19億元(約12.7億ドル)へと縮小した。

81年に入ってからは,調整強化策の一環として対外貿易及び外貨管理を強め,貿易収支の均衡が一層強く要請されている。輸出振興のため,81年1月より1ドル=2.8元の内部決算レートが設けられ(80年の公定レート1ドル=1.50元),また3月から,自動車・家電製品等耐久消費財に対する輸入制限が強化されたと伝えられる。しかし,対外貿易・外貨管理強化前の駆け込み輸入や,年初に一たん,建設中止が中国側より通告された日本企業受注の石油化学プラントの機器が,その後契約通り引きとられることになったこともあって,上期の輸入が前年同期比22.7%増と80年の伸び(19.3%)を上回った。一方,国内の生産活動の低迷を反映して,同期の輸出は14.9%増と伸び悩んだ(80年28.3%増)ため,貿易収支は8億元(約4.8億ドル)の赤字となった。その後,プラント導入の一段落や,耐久消費財の輸入制限が浸透したことなどから,輸入は急減し,1~9月に前年同期比8.9%増の140.3億ドル,輸出は重機械などを中心に,同13.2%増の伸びを維持し146.9億ドルとなった。このため貿易収支は6.6億ドルの黒字となった(中国財貿報)。

貿易外収支をみると,観光収入は80年に前年比32%増の9.2億元(6.1億ドル)となったあとも好調に推移しているとみられるが,景気の低迷により華僑の送金は伸び悩んでいると伝えられる。

81年7月,中国は建国以来初めて金・外貨保有高を発表した。それによると金保有量は79年以来1,280万トロイ・オンスとなっているが,外貨準備高は79年末の21.5億ドルから,80年末に22.6億ドルへと微増したあと,81年6月末には一気に38.1億ドルへと急増している。これは,対外借り入れの増加が影響しているとみられる。

品目別にみると,輸出面では,食料品の輸出に占める割合が減少し,原材料と製品の占める割合が拡大している。原材料輸出のうち石油の占める割合は,79年の11%から80年に14%に達しているが(第11-4表),これは価格上昇によるところが大きく,数量は80年に前年比4.1%減となっている。また製品輸出の過半を占める繊維製品が好調に伸びているほか,発展途上国向けの機械輸出も増加している。

第11-4表 中国貿易の品目別動向

また輸入面では,穀物を中心に食料品の占める割合が大きく膨らんだことが注目される。製品輸入の占める割合は減少し,特に鉄鋼と機械類の減少がめだっている。国内に過剰在庫を抱える鋼材の輸入は,80年以降更に減少したと思われる。変わって,農業用生産財,軽工業原料及び耐久消費財の輸入が増加した。またプラント及び技術導入については,最近では既存企業の改造と結びついた設備や技術導入を選別的に行うこととしている。

相手国別動向をみると,近来共産圏諸国との貿易の減少が著しく,80年には貿易総額の10.3%をしめるにすぎない(77年17.2%)。また発展途上国との貿易もそれほど拡大していないが,西側先進国との貿易は急速に拡大している(第11-2図)。特に,輸入にしめるアメリカの割合が,穀物輸入の急増により急拡大しており,80年4月に台湾製品に対する輸入関税が撤廃されたため香港経由の台湾製品輸入が急増し(80年1~10月前年同期の約13倍の1.6億ドル),香港の占める割合も拡大した。一方,鉄鋼輸入の急減により,輸入にしめる日本の割合は減少しているが,石油輸出の増加により輸出にしめる割合は拡大している。

第11-2図 中国貿易の相手国別動向

79年から外資導入に踏み切った中国は,最近では,金利が低く条件の良い融資の獲得に重点を絞っている。80年までに獲得した信用枠は,約280億ドルに達している(第11-5表)が,歳入にしめる外国借款導入の割合は79年に3.2%,80年に4%の43億元(約28.7億ドル)にとどまっている。

第11-5表 中国の獲得した信用枠

今後も中国は,外資導入を続ける計画であるが,それは主にエネルギー開発,社会資本整備,既存企業の改造などに的を絞って行うとしている。

81年には山東省など国内でも株式発行による資金調達が開始されているが,国際信託投資公司は近く日本で私募債を発行する予定である。

また中国政府により承認された合弁企業は81年6月時点で28件に達している。その内訳は軽工業10,重工業4,ホテル経営8,牧畜業2,医療・リース業4となっている。このうちシンドラー・エレベーター会社などは好収益をあげている。

経済特区が設定されている広東省の深しん,汕頭,珠海,福建省の厦門では,合弁企業に対する所得税減税(30%→15%),原材料の輸入関税免除などの特別措置をとることが許可されている。このため,外国企業との合作経営や補償貿易,委託加工などが積極的に進められている。82年1月から「外国企業所得税法」が施行されているが,それによると所得税は20~40%の5段階の累進制を適用し,さらに課税対象所得の10%を地方特別付加税として徴収することとしている。


[目次] [年次リスト]