昭和56年

年次世界経済報告

世界経済の再活性化と拡大均衡を求めて

昭和56年12月15日

経済企画庁


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第3章 先進国経済再活性化のための新たな試み

第3節 アメリカの経済政策

1. そのねらいと概要

(政策の4つの柱)

アメリカ経済再生の課題を担って登場したレーガン政権は,発足後間もない1981年2月18日,経済政策の大幅な転換を内容とした「経済再生計画」を発表した。それは,①歳出の伸びの大幅抑制,②多年度にわたる大規模減税,③政府規制の緩和,④安定的な金融政策,の4つの柱から成っている。

この内①,②については,議会の審議で若干の修正が加えられたが,大筋は政府提案の考え方が「1981年経済再生租税法」及び「1981年一括調整法」として81年8月に成立した。

これらの政策は,スタグフレーションの2つの要素である低成長とインフレに対し,同時に対処することを狙いとしている。すなわち,減税,歳出抑制から成る財政政策と政府規制緩和によって,労働意欲・貯蓄・投資を刺激し,生産性向上を促して実質供給の増加を図るとともに,インフレに対しては,通貨供給量管理重視の金融政策により,名目需要の伸びを抑えて,その鎮静化を図るというもので,経済の供給面や貨幣面を重視した諸政策のパッケージとなっていることが特徴である。

(レーガン政策の考え方とねらい)

この考え方とねらいをやや詳しく見ると,次のように整理できよう。

(1) 供給重視と財政政策

政府はまず現在の経済的困難のかなりの部分が,政府部門の行きすぎた拡大から,本来,民間活力によって支えられるべき供給力が調整の遅れや伸び悩みに逢着しているためであるとの見方から,資源を民間に戻して民間レベルでの資本形成を促進するため,歳出の伸びの抑制と合わせて個人及び企業に対する大規模な減税によるインセンテイブ付与策を提案している。すなわち,減税によって限界的な労働対価や投資収益率(及び配当率)が高まり,労働や貯蓄が余暇や消費に対して相対的に有利化することを通じて,質,量ともども労働供給が増加するとともに,貯蓄と投資が表裏一体となって促進されると考えている。また,歳出削減は,政府部門の国民経済に占めるウェイトを低下させるとともに,連邦の財政赤字を縮小させることにより民間貯蓄をより多く民間投資に振向けることを可能にすると考えている。

加えて,70年代に社会的要請等から急増をみた政府規制は,一部市場調整機能を阻害し民間活動を制約して生産性停滞の一因となっているとの認識から,これらの大幅な緩和が必要と考えている。

(2) 長期的観点に立った安定的政策運営とインフレ対策としての金融政策の役割

一方,景気政策については,市場の需給ギャップに対応して政府が裁量的な需要調整により,景気安定化を図るという従来の総需要管理政策は,通貨供給量の過度の増大等によってインフレ的な偏りをもたらしたとみる。そればかりか,政府の機能と規模の拡大を助長し,民間から資金や労働等の資源を奪う形となって,民間活力を弱め,生産性の停滞等の結果をも招いたとみている。

したがってインフレを抑制するためには通貨供給量を実体経済の成長範囲に,安定的かつ抑制的にコントロールすることが必要であるとみている。それによって期待インフレ率は下がり,インフレは鎮静化する一方,実体経済に不況的影響はそれ程及ばないと考えている(第3-3-1表)。

(経済再生計画の内容)

以上のような考え方に基づいて,最初に掲げたようなレーガン政権の経済政策が打ち出されたわけであるが,この「経済再生計画」における具体策と経済見通しは,次のようなものである。

(1) 歳出の伸びの大幅抑制

国防と真に必要な社会保障を除き,その他の連邦政府の施策を全て削減対象とし,1984年には財政均衡を達成することを目標としている。そのため歳出の伸びをこれまでの平均16%(79~81年度)の半分以下に抑え,歳出のGNPに占める比率も81年度の23.0%から84年度には19.0%に引下げるとしている。歳出の中味を見ると,総額め伸びがこのように抑制される中で国防費の大幅増大が図られるため,それ以外の費目の伸びは極めて抑制される。なお主な歳出削減項目は第3-3-2表の通りである。

(2) 個人・企業に対する多年度にわたる大幅減税

個人減税の主体は,限界所得税率の一律引き下げである。これは81年10月に5%,82年7月に更に10%,83年7月に更に10%,と引き下げるものである。85年以降は物価スライドによる調整実施も決定された。減税計画が多年度にわたるのは,長期的観点からの政策運営が重要であるという考え方を反映したものである。

また,投資所得(利子・配当等)の最高税率が70%から50%に(82年1月より),長期キャピタル・ゲインの最高税率が28%から20%に(81年6月10日より)それぞれ引下げられたほか,共稼ぎ夫婦収入の軽課措置,遺産税及び贈与税の最高税率引下げ,非課税貯蓄証書の創設等も実施されるに至った。

一方,企業減税は,減価償却の加速化・簡素化及び投資税額控除の適用拡大(いずれも1981年1月に遡及して実施適用)等の投資促進策が主体となっているが,このほか,研究開発直接費の税額控除や中小企業減税も決定されている。

減税幅を82年度予算についてみると,個人減税が283億ドル,企業減税が97億ドル計380億ドルに上っている。

(3) 政府規制の緩和

政権発足以後決定をみている主な規制緩和措置は次のとおりであるが,今後とも,公害・安全規制等を含めその見直しを推し進めるものとみられる。

(4) 安定的な金融政策

レーガン政権は,通貨供給量のコントロールを重視している連邦準備制度理事会の金融政策を支持し,その独立性を尊重しつつ協力関係を維持して,1986年までに通貨供給量の伸び率を1980年に比べ半減させることを期待している。

(5) 中期経済見通し

政府はこうした経済再生計画の実施により,インフレを鎮静化しつつ安定的な経済成長を実現するという中期的経済展望を描いている(第3-3-3表)。

2. 労働供給・貯蓄と税―個人減税の背後の考え方

経済再生計画がこれまでの政策と異なる最大の特徴はその個人減税の役割にある。

経済再生計画の減税部分を法律化した1981年経済再生租税法によれば,個人減税は,①全体としての租税負担率の上昇の防止,引下げと,②労働,貯蓄意欲の促進という二つの目的をもっている。第二の目的のためには平均税率ではなく,限界税率の引下げが必要であり,そのため経済再生計画の個人減税は累進税率表の各所得区分税率の一律引下げという形をとっている。ここでは第二の目的の背後の考え方を検討してみよう。

(労働供給に対する効果)

所得税による負担等が存在する場合,企業が被雇用者に対して支払う「支払い賃金」と,被雇用者が受け取る「受取り賃金」は乖離することになる。この賃金の乖離の一つの尺度として,国民経済計算上の家計部門勘定において,家計の経常受取りに対する家計の直接税支払いと社会保障負担の和の比率をとりこれをもって「賃金乖離率(ウェッジ)」とすると,この比率は,政府の活動規模の拡大に伴って,各国において年々拡大してきている(第3-3-1図)。

この賃金乖離率は家計の獲得所得全体に対する平均的な値として示されているが,所得税が累進構造をもっていることを考えると,限界的な乖離率はもっと高いものとなっている。また所得税は,所得の名目値に対して累進的にかかるため,一切の調整がない場合,インフレーションによって賃金,物価が同時的に上昇すると,同一の実質賃金に対して,税負担は重くなっていく。

このようにして,限界的な賃金乖離率が上昇し,かつ他の様々な労働供給に関与する要因がこの賃金乖離率の上昇によって全く影響を受けないとした場合,人々が供給しようとする労働量は,次の様な2つの相反する影響を受ける。1つは受取り賃金が低下するならば苦労して働くよりも余暇を楽しんだ方がよいというもの(「代替効果」)であり,他方は受取り賃金の低下に対して手取り所得を確保しようとし,労働供給を増加させようとするもの(「所得効果」)である。

両者のどちらの効果が強いかは,人により,また状況により異なり経済全体としての動向を前もって明確に判断することは難しい。しかし,アメリカの今回の減税策の背後には,「代替効果」は「所得効果」よりも大きく,限界的な賃金乖離率の上昇が労働供給を阻害しているとの判断がなされている。

具体的に今回の減税の効果をみてみよう。第3-3-4-①表では,80年に中位所得にあった家計の限界税率に対する減税の効果が示されている。80年には中位所得の家計の限界税率は24%であった。インフレーションが進行して所得と物価が84年までに30%上昇した場合を想定すると,減税がなければこの家計の限界税率は28%にまで上昇するが,今回の減税はそれを22%に引下げる。

なお,再生計画の個人減税が所得階層別の実質可処分所得にどんな影響を及ぼすかをここでみておこう(第3-3-4-②表)。減税が行なわれなければ,前述例のインフレによる自然増税は高所得者により重くなるが,本減税による税引後の実質可処分所得は,年収1万ドル以下ではなおわずかながらマイナスとなるのに対して,年収7万ドルでは5.8%増,年収40万ドルでは38.7%増と高所得者程有利となっている。これは一般に貯蓄率が高いとされる高額所得者の所得を増加させることによって,貯蓄を増し投資を増して,生産性を向上させるという観点もあって減税が税率の一律引き下げという形になっているためである。

(賃金と労働供給に関するアメリカでの分析)

このような賃金の労働供給に及ぼす影響の実証は難しく前提条件の置き方等に左右されやすいが,アメリカを中心にいくつかの試みがなされている。第3-3-5表はこの様なアメリカでの分析のうち1つの時点でのサンプルによる個票データを使った分析の例をまとめたものである。これらの分析は,必ずしも累進税制に対し充分な配慮がなされていないので厳密に評価することは難しいが,女子では代替の弾性値が充分大きく,税による労働供給の削減効果が存在するとみられるが,男子では一部で代替弾性値が負となるなど明確な方向性はみられない。なお,最近,明示的に累進税制等を考慮に入れた分析で男子の労働供給に対する削減効果を導いた研究事例も報告されている。

以上,税の労働供給の関係をみてきたが,現実の雇用を考える場合,今一つ解決すべき問題が残されている。それは労働供給の増加をいかにして現実の雇用に結びつけていくかということである。現実の雇用は,雇用主側による労働需要や労働市場での賃金・雇用の決定パターン,さらには労働人口や景気の変動といった様々な要因を含んでいる。従って労働供給の増加がそのまま必ず雇用の増加となるとは限らないのである。第3-3-2図はアメリカの労働供給を示す1つの指標としての労働力率(=(就業者数+失業者数)÷労働可能人口)と失業率の長期的推移をみたものである。労働力率は,男子の労働力率の低下を補ってあまりある女子の労働力率の上昇のため,長期的には上昇傾向にある。またこの傾向は,70年代後半に著しい。一方,失業率は70年代に入ってそれまでの低下傾向から上昇傾向へと転じているが,これには,労働力率が上昇した一方で,労働需要が供給程に伸びなかったことによる労働供給圧力も大きな要因となっている。したがって,もし仮想的に労働力率が上昇しなかったとすると,63年以降の失業率の低下基調の継続が認められ,特に75年以降の低下は著しいものとなる。このことから,現実の雇用の増加を図るには,減税による労働供給の増加策のみならず,雇用吸収力の改善や労働力の資質の改善等がなされることが必要であると考えられる。また,これらの改善が市場では充分進まない場合には,政策による改善も必要とされよう。

(貯蓄に対する効果)

アメリカでは貯蓄の不足こそ投資の不足そのものであるとみて,個人減税はさらに貯蓄の増大をもそのねらいとしている。すなわち,アメリカでは個人貯蓄率が極めて低く,それが民間の投資不足の一因となっている外,財政赤字がGNP比率でみて低い場合でも民間部門の資金需要を圧迫する一因となっているとの考え方に立ち,貯蓄に直接,焦点を合わせた措置のほか,この個人減税でも貯蓄を増大させようとするのである。

貯蓄は,不意の支出や老後の生活に対する準備や高額資産の購入等様々な目的をもってなされる。貯蓄によって蓄積された株式,金融資産には,利子・配当が支払われる。一般にこの利子収入は,所得税の課税対象となり賃金の場合と同様に支払い利子率と受け取り利子率は税金によって乖離し,この乖離の拡大は,「代替効果」と「所得効果」の2つの相反する効果をもつ。

しかし,課税が貯蓄に及ぼす影響はこれだけではない。課税は,人々の可処分所得自体や所得分配を変えるからである。課税が,可処分所得の減少を伴い,また,特に貯蓄率の高い所得層の所得をより多く減少させる場合は,全体としての貯蓄の減少をもたらすであろう。

限界税率ではなく平均税率との関係だが,実際の各国の家計の経常受取りの処分比率の推移をみてみよう(第3-3-3図)。現実のデータの中には,景気その他の様々な経済社会情勢の変化が織り込まれているため,イギリスでは,税・社会保障負担のシェアの増大と家計貯蓄のシェテの増大が同時に起っている。しかし,西ドイツ及び70年代のアメリカでは,税・社会保障負担のシェアの増大に伴う家計貯蓄のシェアの減少がみとめられる。実証的研究では,従来,金利はあまり貯蓄に影響しないとされていたが,近年,税引き後の実質利子率が1%上昇すると,貯蓄は0.4%程増加するとの論文も発表されている。税引後の実質利子率と貯蓄率の関係については,現在でもなお論争があり,実証的には,はっきりとした結論は得られていないが,減税が可処分所得を増加させるであろうことを含めて考えると,個人減税は,全体としての貯蓄を増加させる可能性が高い。

3. パッケージとしてのアメリカの経済政策

(パッケージとしての考え方)

レーガン経済政策の政策体系としての1つの大きな特徴は,個人減税と歳出削減をパッケージとしたところにある。

従来の総需要管理政策の下では,財政政策は,景気刺激策としては減税ないしは歳出拡大による有効需要拡大,景気抑制策としては増税ないしは歳出抑制による有効需要抑制という形で進められてきた。これは,景気変動の過程で消費需要や投資需要の不足が生じ,現実に実現した民間の有効需要と,完全雇用を前提とした潜在的に可能な経済の供給水準との間には乖離が生じうるという考え方の下に,政府による総需要の管理を通じて景気の安定化を図ろうとするものであった。

これに対し,レーガン政権の考え方で注目される点は,その理論的枠組みとして市場原理の完全性,合理性を重視していることである。それは,競争的な市場経済の下では常に需要と供給は均衡するとの考え方に加えて,経済を熟知した経済主体によって予め合理的に計画されるという考え方で補強されている。こうした考え方の下では,全ての財についての需要と供給は事前的に均衡することになり,失業はその時点の価格体系,税体系の下で経済主体が自発的な選択をする結果であるとともに,貯蓄をすることは,すなわち投資につながるとみるわけである。こうした理論的考え方に立って,実際の政策でも雇用や投資の長期にわたる拡大のためには,従来のような短期的な需要刺激策よりも,自発的労働や貯蓄の意欲を刺激する中長期的供給面の政策を重視するのである。

そこで,レーガン政策においては,前述のように,第1に代替効果に基づくインセンティブ改善のための大幅減税策が導かれる。そして第2に,歳出削減によって減税で生れた民間貯蓄を国債発行で再び政府部門に吸収することを避け,そのより多くを民間投資に振り向けることを可能にしようとする。

こうした考え方については,次のような反論がなされている。それは,現実の経済にあっては,計画された需要と供給は必ずしも一致せず,非自発的な失業や実物投資に直結しない貯蓄等が存在するという見方である。この見方の下では,有効需要の考え方が生き,雇用や貯蓄は価格面のみたらず,所得面からの影響も受けることになるため,レーガン政権が考えている減税の価格効果は,その分だけ減殺される。つまり,減税による所得水準の上昇は,余暇や消費の選択を促すことから,所期の価格による代替効果と相反する作用をもつとみるわけである。そして,この所得面での効果が大きい場合には,減税による需要拡大効果とともにインフレをちたらすという批判がなされている。

もっとも,このように有効需要の考え方が有効との見方にたった場合でも,政策パッケージとして,減税の一方で大幅な歳出削減が施されることから,これが有効需要を減少させる効果をもつことになり,これらのバランスが適切であれば,経済全体の安定を損なうことなく相対価格を通じる効果が発揮されることになる。実際,アメリカ国内においても,このような観点に立ってレーガン政策を支持している者も多い。

(現実の問題点)レーガン政権は経済再生計画を実行することにより82年以降アメリカ経済は急速に改善に向うと強気の見通しを立てている。政府の中期経済見通しでは,実質GNPの比較的高い伸びの確保(82~86年の年平均成長率4.5%)と同時に,速やかなインフレの鎮静化(消費者物価の82~86年の年平均上昇率4.9%)が見込まれている。

これに対して,その見通しは楽観的にすぎるとの見方が多い。問題点の1つは,政府が想定している名目GNPの伸びは,金融政策当局である連邦準備制度理事会の想定している通貨供給量の伸びと整合的であるかどうかという点である。またもう1つは,名目GNPが政府の想定通りになった場合においても,それが物価鎮静と実質GNP成長率の確保という形でうまく達成されるかどうかという点である。インフレ抑制がうまくゆかないと,実質GNP成長の確保が損なわれるからである。

これと関連して,考え方の上では減税のかなりの部分を歳出抑制で相殺することについても,現実には歳出が予想以上に膨む一方歳入は計画どおりに増加せず,財政赤字が計画どおり縮小しないのではないかという懸念がある。この場合,それが通貨供給量の増大で賄われると予想されればインフレ心理は収まらず,また通貨供給抑制策が堅持されれば高金利の持続となって経済にデフレ圧力が加わり成長率は高まらないことになる。

減税のインフレ的側面を抑え,かつ金融引き締めによる金利上昇圧力を抑制する1つの要は,歳出削減の問題とみられる。しかしながら,これらの経済再生計画がほぼ政府の当初計画どおりに議会を通過した(8月)後も,国防支出の増加圧力,高金利の持続に伴う国債利払増加,景気停滞に伴う税収の減少等の懸念から,政府見通し通りの財政収支改善は難しいとの見方が政府内外に拡がった。これに対応して,レーガン大統領は9月下旬,あくまで所期の政策目標を達成すべく追加的な歳出削減と一部歳入増加策による財政収支改善のための提案を行なった(第3-3-1-②表)。しかし,その後この追加歳出削減案は,議会において難航しており,政府は,84年度における財政収支均衡化は事実上不可能との判断を表明(11月)した。

4. 今後の課題

以上のようにレーガン政権の経済政策については,理論と実際の両面から様々の批判が向けられている。

しかし,そもそも10数年にわたって悪化して来たインフレ・生産性の伸びの鈍化を克服するためには長期にわたる忍耐強い対応が必要であるとして,より長期的観点から次のような点を評価する見方は多い。

その第1は,これらの減税措置によってインフレ高進下で急上昇してきた実質的な租税負担率の一層の上昇が防止されるとともに,政府の規模拡大にも歯止めがかけられるという点である。

第2は,設備投資と貯蓄の増大が,期待されるという点である。設備投資の伸びの鈍化が生産性の伸び悩みの大きな原因の一つとみられ,それを促進する必要があるという点については,広汎なコンセンサスがあり,レーガン再生計画における企業減税等の措置は,次節で詳しくみるように,その一つの有効な対策として産業界を中心にかなり期待されている。

また貯蓄については,個人減税が高所得層に大幅なことに加えて,投資所得税の引下げ等の直接的な貯蓄促進措置等もあり,国全体の貯蓄が増大する可能性は高いとみられる。

80年代のアメリカ経済においては,高エネルギー価格への適応の進展,エレクトロニクス関連の先端技術等新規産業の発展,労働力の成熟化,公害防止投資の一巡等,経済再活性化へ向けての基盤は改善しつつあるとみられる。こうした中で設備投資需要が喚起され,これに民間貯蓄増大等の資金基盤の充実が相まって設備投資が拡大すれば,経済再活性化が進展するものと思われる。それを実現するため,アメリカが経済再生計画をめぐる現在の諸問題を克服し,困難な局面を乗り越えていくことが期待されている。