昭和52年

年次世界経済報告

停滞の克服と新しい国際分業を目指して

昭和52年11月29日

経済企画庁


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第3章 緩慢な回復の背景と脱出の条件

先進諸国経済の回復が順調に進んでいない基本的な理由は,73年以後のオイル・ショックや二桁インフレなどの後遺症が未だ完全に払拭されていないことにあると考えられる。その主要なものを列挙してみると,

① 物価上昇率は,ひところより鎮静したとはいえ,未だ高く,企業や家計のインフレ心理も完全には一掃されていない。このためインフレ再燃の懸念がつきまとっている。

② 多くの国では,経常収支の赤字がつづいており,また赤字国の多くでは物価上昇も概して大幅なために,緊縮政策の採用を余儀なくされている。

③ インフレ再燃を警戒し,政府当局の財政金融政策が慎重になっている。

④ 最近の鉱工業生産の水準は,ようやく4年前のレベルに戻った程度であり,このため設備の操業度は概して低く,その他の不確定要囚も重なって民間設備投資の回復がおくれている。

⑤ 長期的にみたエネルギー供給への不安,環境規制の強化などによる不確定性が増大している。

⑥ 南欧諸国における革新勢力の台頭をはじめ,諸国ではほとんどの現政権が少数単独か連立政権となっており,政策運営面での安定性が損われている。

など多くの要因があり,それが互に囚となり果となって景気回復の順調な進展を阻害している。

しかし,最近一年間にみられる先進国とくに西欧諸国の景気停滞に影響を与えた注目すべき現象としてはつぎの二つがある。

そのひとつは,オイル・ショックと二桁インフレに対する政策対応の強度やタイミングに国によって大きな相違があったために,一部の主要国や多くの小国では経常収支が赤字となり,76年から77年にかけて緊縮政策の採用を余儀なくされたことである。その結果,これらの国々の成長は鈍り,輸入が鈍化し,それがつぎつぎに他の国々の回復を阻害するという,一種の悪循環が生じている。

そのふたつは,多くの国の政策当局が,インフレ再燃を懸念して,慎重な政策をとっていることである。このためインフレ再燃の防止には成功しているものの,上述の要因とも重なって全体としての需要水準の回復が不十分である。

本章では,以上のような観点から,まず先進国間にみられる石油ショックやインフレへの対応の差や,それにもとづく経済パフォーマンスの格差,循環局面の相違が,今回の不況からの回復過程でどのような影響を及ぼしているかを明らかにする。ついで各国の政策運営の効果を検討するとともに,最近一両年にみられるような不十分な回復状態から脱け出すために必要な条件を模索してみることにする。


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