昭和49年

年次世界経済報告

世界経済の新しい秩序を求めて

経済企画庁


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はじめに

石油危機発生から約1年を経た1974年末現在,世界経済は,多くの困難に同時に直面している。

第1は,先進国,発展途上国を問わずほとんどの国でみまわれている二桁に及ぶ物価の高騰である。物価の上昇は決して新しい問題ではないが,現在の物価上昇は,その高率さにおいても,また世界的な広がりにおいても,過去20年来初めてのものである。

第2に,世界的な景気後退と失業の増大である。先進国平均の経済成長率(実質)は,60年代以降のすう勢である5%台に対し,74年には,ほぼゼロに落込もうとしている。また景気の後退を反映して,74年後半から多くの国で失業者も急増しており,雇用の維持が再び大きな問題となってきた。さらにこのような先進国の景気後退は,発展途上国にも波及してきている。

第3は,国際収支の大幅な不均衡と,資金め流れの急激な変化に伴う摩擦の発生である。各国とも,従来からしばしば国際収支の不均衡に悩まされてきたが,今回のように短期間に,先進国全体の経常収支が赤字に転化してしまうほどの大幅な変化が起ったことはかってなかった。先進国の中でも一部の国の不均衡は特に大きなもめがあるうえ,石油を産出しない発展途上国の問題はより深刻である。さらに,黒字国からの大規模な資金の移動が円滑に行われうるかが,新たな不確定要因をもたら,している。

以上のような困難は,その一つ一つをとってみてもいずれもきわめて大きな問題であるが,今回はこれらが同時にあらわれているために問題がいっそう複雑化し,また,深刻なものとなっている。総需要抑制策を堅持して,インフレを抑制しようとすれば,景気の一層の悪化や失業の増大をもたらす可能性を持つ一方,引締めの緩和はすでに二桁となっているインフレを持続,ないし高進させるおそれを持つという矛盾もある。

もっともこのような諸問題は,そのすべてが石油危機後に起ってきたものではない。先進国の経済成長は72年から73年春にかけての同時的なブームの後,多くの国で供給の制約にぶつかって鈍化しかかっていたし,各国で相ついでとられた総需要抑制策の効果も徐々に浸透しつつあった。一方,完全雇用政策の下で,持続していた物価上昇は73年にはすでに多くの国で60年以降のすう勢の2倍以上に加速していた。また,フロートへの移行後にもかかわらず,国際収支のかなりの不均衡はなお残っていた。

しかし,原油価格の柄4倍への引上げにより,インフレはさらに加速して平均二桁.となり,景気後退は深まり,国際収支の大幅な不均衡が生じるなど問題はきわめて深刻なものとなった。

さらに,石油危機は,以上の諸問題を激化させたのみならず,より長期的な資源の供給制約の重大さを改めて示すものであった。資源の制約を絶対的なものとみることは正しくないが,不足する資源に経済が適応するまでの過渡期にこおいては混乱が生じる可能性がある。とくに,資源が特定国に偏在しているために,経済的な合理性のみではない難しさを持っている。

現在,世界各国は,一部の国を除いて,多かれ少なかれ以上の諸問題に悩んでおり,これを乗り越えるための政策を模索しているのが現状である。このことはわが国においても例外ではなく,新たな事態に対処するための政策体系が要請されている。

本報告は,以上のような問題の重要性をふまえて,世界経済の現状を分析し,わが国経済政策への示唆を与えようとするものである。まず,第1章においては,1974年の世界経済の回顧を中心とし,景気の後退,失業の増大,国際収支不均衡の拡大などを取扱う。第2章では,やや長期的な観点から,世界インフレ高進の過程及び原因と,これに対する各国の政策を扱う。第3章では,供給制約の実態及びこれに対する適応の動きと,各国経済に対する異なった影響,とくに南北問題にいかなる変化をもたらすかを検討する。


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