昭和47年

年次世界経済報告

福祉志向強まる世界経済

昭和47年12月5日

経済企画庁


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第1部 通貨調整後の世界経済

第4章 主要国の経済動向

3. 共産主義国経済

(1) 中  国

1972年初早々,中国は71年の工農業生産額の伸びを10%と発表した。これは10年ぶりのことで,それだけ経済の運営に自信をもってきたものといえよう。アメリカ上下両院合同経済委員会は農業生産が実質的に減産であったとし,71年の成長率を5.4%とみているが,農業生産は増産であったと思われるので,8~10%の成果とみるのが妥当であろう。

71年の食糧生産は2億4,600万トン,前年の2億4,000万トンにくらべて2.5%の増加にとどまったが,千ばつや災害にもかかわらず増産をなしえた点が評価されよう。とくに,従来食糧自給の困難であった一部の華化地区で基本的にこれを達成しえたことが強調されている。中国側の発表によれば,これで10年続きの豊作ということになる。近年,経済作物を重視するようになり,政府は71年秋に落花生,ごま,なたね等の油料作物やさとうきびの買入れ価格を引上げた。

農村については,人民公社の申の採算単位は従来どおり生産隊(村落)とし,生産目標の設定にあたっては,現実的な数字を求め,宅地のまわりなどの自留地はそのまま存続させ,経済作物や養豚,養鶏の増産をはかっている。

72年の食糧生産は全国的な規模で発生した災害の影響をうけて,生産水準としては71年を約4%程度下回ったとみられる。

食糧輸入はいぜん続いていてカナダとの間に1億8,000万ブッシェル(約3億ドル)の小麦輸入契約を結んだほか,このほどオーストラリア,アメリカおよびフランスとも小麦輸入契約を結んだ。

主要原材料の生産は銑鉄23%,原油27%,化学肥料20%と,かなり高い増産テンポであったが,工業生産を全体としてみると,71年前半,主要地域で驚異的な増産を記録したあと,後半に落ちて北京週報の発表によれば年間10%の伸びとなった。

72年第1・四半期の工業生産は主要工業地域において前年同期比6~14.4%と必ずしも高くはない。たとえば鞍山鉄鋼所の1~8月の生産は前年同期比銑鉄8.3%増,粗鋼8.2%増となっている。

この数年,地方の小型工場の振興が叫ばれていたが,この1,2年日本,ヨーロッパの近代工業に再び関心を示し,中央政府管轄の大規模企業向け投資にも力を入れはじめたとみられる。

企業管理面では専門家,技術者が再び重視されるようになってきた。71年末の通貨調整による人民元の対ドルレート切上げもあって,米ドル建ての1~6月間のOECD諸国との貿易は,前年同期比で,中国の輸出43.0%増,中国の輸入10.7%増となっている。各国別でみると,輸出入合計で日本24.9%増(1~8月),イギリス25.8%増(1~6月),西ドイツ18.5%増(1~6月),香港24.3%増(1~6月)で,71年に大幅な減少をみせた西ドイツ,イギリスがともに大幅な増加に転じている。中ソ貿易も71年からの増勢がつづいている。またこれまで直接貿易が社絶えていたフィリピンとの貿易も再開され,タイも本年秋の広州交易会に参加する意向を示した。プラントの購入をみると,発電プラント,肥料プラント,ビニロン原料プラント,貨物船,通信衛星施設などのプラント輸入契約を日本やアメリカ,イタリア,カナダ諸国と結んでいる。9月,ボーイング旅客機10機(約1億5,000万ドル)および小麦輸入(約2,000万ブッシェル)の大型契約がきまり,米中の直接貿易もいよいよ本格的となったこことが注目される。

なお,プラント類に関しては,中国側は国際的通常の条件による延払いで,輸入を行なっていく意向である旨を表明したといわれている。またポンドの変動相場制移行後,拡大をさまたげられていた日中貿易も,8月中旬,円元決済に関する合意書が締結されたことによって,拡大の目安がついた。

中国は現在,ソ連,ビルマ,北朝鮮,北ベトナム航空路をもっているが,新たな国際線の拡充に積極的で東欧三国(アルバニア,ユーゴスラビア,ルーマニア),エチオピア,アフガニスタン,イラン,トルコ,カナダなどと航空路開設に関する民間航空協定を結んできている。ジェット機の購入もその一端とみられている。

外交関係としては,72年2月ニクソン大統領,9月田中首相,10月西ドイツ外相の訪中を受入れ,日本,西ドイツとは外交関係が樹立して,11月末現在中国承認国は86ヵ国に達した。

第4-30図 工業生産は回復過程を終って正常ベースへ

第4-31図 日本からの輸入増大つづく

(2) ソ連・東欧

1971年のソ連・東欧経済はほぼ計画どおりの実績をおさめた。総じて後進的な国ほど成長率(国民所得)が高く,ルーマニアは12.5%と70年の6.6%を大きく上回ったが,これは70年の洪水による被害で農業生産が低下し,とくに悪かったためである。各国とも農業人口が年々減少してきてはいるが,なお天候条件に著しく左右される農業の比重が高く,工業生産の伸び率と国民所得の成長率とは必ずしも一致した動きにはなっていない。

主要農産物について単位面積当りの生産量をみると,ソ連はアメリカの6~7割程度である。これは地質,気候の点で不利な上に,機械力,肥料投入量の点で遅れているからである。ソ連の71年の農業生産をみると,農作物の収穫は綿花が70年に続いて記録を更新したのを除くと,ほとんどが減産となり,72年も年初に秋まき作物が枯死し,さらに夏の干ばつにより被害を受けた。穀物収穫量は,ほぼ66~70年平均の1億6,750万トンに達すると予想されているが,昨年をかなり下回り,5ヵ年計画の達成にも暗影を投じている(1970年1億8,680万トン,71年1億8,100万トン,71~75年計画は,5ヵ年平均1億9,500万トン)。また畜産部門でも肉類の生産は,上期に前年同期比5%増で5ヵ年計画の年率7~7.4%に及ばない。なお,東欧の農業部門をみると,71年はハンガリー,ルーマニア,チェコで記録的豊作,他の諸国もほぼ作柄良好であった。

72年は,ソ連と同様天候不順のため不調であるが,機械化,化学化,労働組織,分配および調達制度など組織上の改善が進んでいる。

71年の工業生産をみると,ソ連ではエネルギーを除く全部門で,のきなみ伸び率が鈍化した。とくに一部の化学品,木材,織物,衣料,靴などの消費財の生産は計画に達しなかった。ただし,乗用車の生産は,西側諸国との提携によるボルガ自動車工場(年産44万台)の一部完成にともなって,前年比54%の著増を示した。

現在,ソ連で進行中の第9次5ヵ年計画では消費財優先がうたわれている。自動車は家庭電器と並んで重点項目になっているが,サービス・ステーション,ガソリンスタンドなどの大幅増加のほか,ハイウエーの拡充が意図されている。72年に入ってからは,労働生産性が1~9月に前年同期比で5.3%向上して,工業生産は6.7%の増産テンポを保っている(年次計画は6.9%)。部門別にみると,一部の機械,化学品,織物,靴,衣料,綿製品などでは計画を下回り,軽工業,食品工業の伸び率はそれぞれ3%,4%と小幅であったが,NC工作機械,オートメーション用その他の機器,電算機,乗用車,農業機械の増産は著しい。投資の伸びは計画を上回っているが,新規生産能力の活用が不十分で,設備の休止や労働時間のロスが指摘されている。また建設部門で重工業優先の意識が根強く,一部の食品工業などでは建設計画が未達成におわったといわれる。

飲酒に関して,従来からその社会的悪影響と欠勤などによる能率低下が問題となっていたが,6月16日,1972~75年にアルコール分の強い酒類の生産を削減して他の飲料を増産すること,強い酒類の販売を時間および商店の種類により制限すること,アルコール中毒患者に対して適切な措置をとることなどの決定をみた。

東欧諸国の71年の工業生産の伸び率はブルガリアを除いて鈍化した。72年についてみると,ブルガリアを除いて,上期の前年同期比伸び率で71年の年間の伸びを上回り,また多少低目の国もあるが,ほぼ5カ年計画(71~75年)の予定のテンポを保った。その主な要因は労働生産性の向上にあるといわれる。国別では,比較的遅れたルーマニア,ブルガリアや新政権下の経済政策が軌道に乗ったポーランドの生産の伸びが大きく,また各国とも技術進歩に関連のある部門が大幅に拡大している。

71年のソ連貿易額は輸出138億ドル,輸入125億ドル,合計263億ドルのうちコメコン諸国との貿易額は118億ドルで,70年より7%増加した。対先進国貿易は,68年以来信用供与を反映して輸入超過の傾向が続いている。主要相手国別にみると,イギリスは前年に比べ輸出入とも減少し,またフランス,イタリア向けの輸出,西ドイツからの輸入が著増した。輸出入合計では日本が,また輸入だけをとると西ドイツが従来どおり先進国中首位を保持している。アメリカからの輸入は,飼料中心に著増し,輸出入合計で2億ドルを越えた。

72年上期には,輸出入合計で前年同期比8.7%増とかなり大幅であったが,とくに東西貿易の拡大が目立っている。すなわち,OECD側からみた対ソ輸出は上期に総額で前年同期比40%増大し,とくにアメリカは2倍余の激増を示したほか,日本も45%,西ドイツも30%と,大幅に伸びている。アメリカの対ソ輸出は本年4億ドルになると予想され,日本,西ドイツとともに西側諸国の対ソ輸出で上位を占めることになろう(71年の対ソ輸出は西ドイツ4億6,080万ドル,日本3億7,680万ドル)。

畜産品とくに肉類の増産は5ヵ年計画の予定テンポを下回り,飼料輸入の必要が増大し,アメリカと昨年11月1億2,500~3,500万ドルの穀物を輸入する協定を結んだのに続いて,72年7月8日,はじめの1年間に少くとも2億ドル,3年間に7億5,000万ドルの輸入協定を締結した。(対象品目は主として小麦,とうもろこし,ソ連の希望によっては,大麦,オート麦も追加),しかし,本年の穀物の作柄からみて,10億ドルに達するともみられている。

そのほか昨年末から本年にかけて,カナダ,オーストラリアからも小麦が輸入されている。

5月下旬のニクソン大統領の訪ソは,米ソ貿易の拡大に道を開いた。米ソ間の諸協定,とくに戦略兵器の制限に関する協定は軍事負担を制限ないし軽減することによって,ソ連経済全般に好影響を及ぼすとみられるが,貿易関係では第2次大戦中の対米債務の処理など残された問題もあって合同委員会の設置にとどまった。しかし,その後の交渉の結果,海運協定に引きつづいて,10月18日,米ソ貿易,戦時債務の返済,相互信用供与に関する3つの協定が締結された。

また,西ドイツとの協定(西ドイツが天然ガスを輸入し,パイプを輸出する71年4月の取りきめ)の実施,日本とのシベリア開発(チューメニ,サハリン)の進展を考えると,これら3国との貿易はなお拡大しよう。東欧諸国の72年上期貿易の伸び率は工業生産とほぼ同率で,なかでも,OECD諸国との貿易は著増し,とくに東ドイツ,ポーランドの輸入(東西両ドイツの取引を除く)は,50~60%も拡大している。

第4-32図 1人当り国民所得

第4-33図 いまだに農業の比重が高い

第4-34図 工業生産伸び率は低下傾向

第4-35図 ソ連では消費財生産の伸び率高まる

第4-36図 高まるソ連の家庭電化

第4-37図 ソ連は乗用車の大増産へ

第4-38図 先進国からの輸入ふえるソ連


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