昭和47年

年次世界経済報告

福祉志向強まる世界経済

昭和47年12月5日

経済企画庁


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第1部 通貨調整後の世界経済

第3章 岐路に立つ多国籍企業

5. 国際金融市場の攪乱要因としての多国籍企業

巨大化する多国籍企業の行為は生産,貿易といったモノの面だけでなく,カネの面でも国際的に大きな影響を与えるようになってきた。

多国籍企業は,国際金融市場における大口取引者である。最近のユーロ市場では多国籍企業の取入れが活発になっているが,通貨不安のさいには為替リスクの回避のために動くことになる。投機はもはやチューリッヒの小鬼(金融業者)のみではなく,ロンドンなどの為替ディーラーを通ずる多国籍企業によってひきおこされるともいわれるようになった。巨額の在外資産をもち,大量の輸出入取引を行なっている多国籍企業は大量の資金を動かすことによって為替差損を免かれようとする。そのことが通貨危機をいっそう増進させている。

その意味で,最近の為替管理の強化でもっとも大きな影響を受けているのは多国籍企業である。これに関して,アメリカの連銀が7月,ニューヨーク市場に介入して為替相場の安定をはかったが,そのねらいは多国籍企業にふりかかる為替管理の火を消すことにあるとする見方が出たのであった。


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