昭和46年

年次世界経済報告

転機に立つブレトンウッズ体制

昭和46年12月14日

経済企画庁


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第5章 主要国の経済動向

6. 伸び悩む発展途上国経済

発展途上国全体の成長率は,1968年5.8%,69年6.5%,そして70年の6.0%と好調である。

第5-1表 発展途上国の経済成長率

70年についてみると,東南アジアでは台湾を除いて成長率が横這いまたは鈍化した。そのほかでは中近東のイラン,イスラエルがやや鈍化を示し,アフリカ,ラテン・アメリカの諸国はおおむね成長率を高めた。

(1) 生産の拡大鈍化

発展途上国の食糧生産の伸びは67年の5.1%増には及ばないが,70年も前年比3.3%増と60~66年の年平均伸び率1.5%増を上回っている。地域別にみると,ラテン・アメリカ,アフリカの生産増加が著しかった( 第5-2表 )。他方,鉱工業生産の伸びは68年8.4%増,69年9.2%増と好調を続けてきたが,70年は6.5%増に止まった( 第5-3表 )。

(2) 輸出の増勢はやや鈍化

発展途上国の輸出は,69年に12.1%と大きな伸びを示したが,70年は先進国の景気後退とこれにともなう一次産品市況の悪化などにより,10.2%増へとやや鈍化した。とくに,アジア諸国の輸出は14.5%増から10.8%増へと伸び悩んでいる。このほかでは,アフリカ,中東が鈍化し,ラテン・アメリカが増勢を持続した。

一方,輸入は,69年の8.8%増から70年には9.3%増とやや増勢を高めた。地域別にみると,アフリカの増加が著しい( 第5-4表 )。

(3) 国際収支の改善続く

このように輸出の鈍化と輸入の高まりによって,発展途上国全体としてみれば,70年の貿易収支の赤字幅は増大した(IMFの推計によれば,70年の貿易収支の赤字は17億ドルで69年の15億ドルを上回った)。貿易収支の赤字増大に加えて,サービス収支も悪化したので,経常収支の赤字はさらに増大している。

発展途上国の国際収支は60年代央より経常収支の赤字を資本収支の黒字などで相殺して総合収支の黒字を維持するというパターンをとってきている。70年の発展途上国の資本収支は,短期資本の流入のほかに民間長期資本の増大(IMFの推計によれば,66年から70年にかけて15~20億ドル増加した)が著しかったため総合収支の黒字は69年の15億3,000万ドルから30億4,000万ドルへと増大した。これには,SDRの配分が9億ドル含まれているものの,これを除いても総合収支の黒字は,21億9,000万ドルであり,66~68年の7~9億ドルの黒字幅をかなり上回っている( 第5-6図 )。

このような国際収支の黒字幅増大により,外貨準備高は,70年末,181億6,000万ドルになって前年末の水準を26億1,000万ドル上回り,これまで最大の増加になった。世界の外貨準備高に占める発展途上国のシエアは67年末の3.2%から70年末3.6%へと高まっている。

(4) 政府開発援助は伸び悩む

先進国の発展途上国に対する援助は全体では増加を続けているものの(前年7.6%増)そのうち政府開発援助の増加は69年の66億1,000万ドルから70年68億800万ドルへと1億9,800万ドルの増加にすぎなかった(前年比3.0%増,GNP援助比率0.34%)。最近の政府開発援助では,贈与の増加が鈍って,援助全体に占める比率も60年の45.8%かな70年には22.4%へと低下した。逆に,借款が高まっていて,70年には援助全体の16.2%を占めている(60年5.4%)。

これに対して民間ベースの輸出信用,直接投資は1970年にそれぞれ9.9%,26.1%増加し,援助全体に占める比率もそれぞれ14・.8%,23.2%へ増大している(69年はそれぞれ14.5%,19.8%)。

(5) 先進国の景気回復の遅れとアメリカの新経済政策の影響

1971年に入ってから,先進国の景気回復が不充分なこともあって発展途上国の輸出は高水準ながらやや伸び悩みを続けている。とくに,一次産品市況の軟化傾向が鉱産物,農産物などについて輸出の鈍化をもたらしている。こうした中で,アメリカの輸入課徴金が適用されたことは,工業化を指向し,工業品輸出の増大を図る発展途上国に少なからぬ影響を及ぼしている。アメリカ政府の試算によれば,課徴金の対象とならない原材料が対米輸出の中心を占めているラテン・アメリカでさえ総輸出の23%,アフリカでも12%が課徴金の適用を受けることになる。とくに工業品輸出の多い東南アジア諸国をみると,課徴金の対象比率は,韓国95%,台湾93%,香港83%,フィリッピン35%となっている。インド,パキスタンでも,皮革製品輸出に影響が出ることは避けられないといわれている。

課徴金のほかアメリカの新経済政策は対外援助の10%削減計画を含んでいる。現在,72年度対外援助法案を審議中であるが,発展途上国では経済開発計画などにすでに援助を組み入れている国もあるので,アメリカの対外援助が縮小することになれば,経済計画の修正を余儀なくされる国もある。

さらにアメリカの新経済政策に端を発して西ドイツ日本などの先進国が相次いで変動相場制に移行した。

こうした対外環境の悪化に対処して,発展途上国ではインドネシア(対ドルレート9.788%切下げ),イスラエル(対ポンドレート9.67%切下げ),アルゼンチン(対ドルレート6.38%)などが平価の切下げ措置をとった。一方,日本の円の変動相場制移行による円相場の上昇は貿易面への影響だけでなく,援助面においても供与される援助量のドル価値が増大する反面で,円建て債務のある国では対外債務の増大となるなどの影響がみられるだろう。

このように発展途上国の経済は,先進国の経済措置によって大きな変動にさらされており,「第2次国連開発の10年」が早くも重大な試練に直面しているといえよう。

発展途上国側も8月末のUNCTAD(国連貿易開発会議)の理事会月上旬のガット緊急理事会,下旬に開かれたIMF総会,そして,11月のリマ総会で,それぞれ先進国の措置を非難するとともに,先進国中心の国際修調から発展途上国を含めた「全世界的な規模」での国際協調を強張してい,る。

(6) 東南アジア:経済拡大テンポやや鈍化

つぎに,わが国と関係の深い東南アジア諸国の経済についてみてみよう。

東南アジア諸国では,農業生産が天候条件に恵まれたことに加えて,66年頃からの高収量品種の普及などにより食糧の増産が続いている。70年の生産は69年の伸びに及ばなかったが,前年比3.9%と66~67年の平均伸び率2.1%を上回った。とくに,インドでは食糧生産が1億700万トンと史上最高に達,し,インドネシアでも米の生産が1,176万7,000トン(69年1,079万8,000トン)と開発計画の目標を上回った。また,マレーシアでも穀物生産が1,658万トン(69年1,573万6,000トン)になり食糧の自給化もここ数年内に達成するものと見込まれている。

アジア諸国の鉱工業生産は68年から69年にかけて輸出需要の増大に支えら,れて著増を続けてきたが,70年の生産はインド,韓国,フイリッピンなどの停滞から前年比7.O%増とやや鈍化した(69年の9.7%増)。アジア諸国の輸出は60年から67年にかけて年平均4.7%増にすぎなかったが,68年10.4%増,69年14.5%増と顕著な増加となり,70年の伸びも鈍化したとはいえ10.8%増と高水準であった。国別にみると,台湾の36%増,変動相場制に移行して輸出増大を図ったフイリッピンの16.7%増,鉄鉱石,機械輸出が著増したインドの10.5%増などが目立っている。一方,68年から69年にかけて顕著な輸出増加を続けてきた香港,韓国では対米輸出の鈍化を主因に前年の伸びをやや下回ったほか,マレーシヤ,シンガポール,タイなどではゴム,スズなどの一次産品価格の軟化にともなって輸出が伸び悩んだ。

一方,アジア諸国の輸入は,68年9.1%増,69年9.6%増と増加率が高まっており,70年はさらに前年比11.0%増と60年代ではもっとも高い伸び率となった。これは,アジア諸国の経済開発需要が旺盛であることにほかならないが,輸入を支える外貨事情がやや好転してきていることも大きな原因であろう。

このような輸入の増大と輸出の鈍化により貿易収支の赤字幅が増大するとともに,ベトナム特需の漸減傾向などもあって,東南アジア諸国の国際収支の黒字は69年6,600万ドルから70年2,800万ドル(SDRの配分を除く)へと黒字幅がかなり縮小した。とくに,マレーシヤでは69年の1億6,700万ドルから2,900万ドルヘ黒字が縮小したほか,パキスタンでは69年の6,500万ドルの黒字から70年には1億3,800万ドルの赤字へ,タイも69年の3,600万ドルの赤字から70年6,900万ドルの赤字へとそれぞれ国際収支が大幅に悪化した。

1971年に入り,期待された先進工業国の景気回復が思わしくないこともあって,アジア諸国の71年上期の輸出は高水準ながら68年,69年の増勢を下回っている。OECD向け輸出でみると,69年上期の17.O%増,(前年同期比),下期の18.1%増(同)に比べて70年下期には14.5%増(同),71年上期14.1%増(同)となっている。最大の輸出相手国であるアメリカ向け(69年東南アジア輸出に占めるシエアは22.1%)は伸びたが,第2位の輸出相手国である日本向け(同15.1%)が鈍っている。今後の輸出動向はこれら先進国の景気しだいではあるが,最近とられたアメリカの新経済政策にともなう10%の輸入課徴金の影響など対外環境の悪化も無視できないであろう。


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