昭和46年

年次世界経済報告

転機に立つブレトンウッズ体制

昭和46年12月14日

経済企画庁


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第1章 1971年の世界経済

3 世界貿易の増勢鈍化

(1) 3年にわたる貿易ブーム終る

1968年に始まった世界貿易のブームは,主要国の景気停滞の影響を受けて,70年末から終息しつつある。とくに71年に入ってからは,北米の景気が回復しつつあるものの,貿易依存度の高いヨーロッパと日本の景気が低迷気味なので,貿易の伸びは大幅に低下している。

最近の世界貿易の推移をIMF推計の共産圏を除く輸入の動きでみると, 第1-5表 のとおりである。すなわち,1968年から70年の3か年に世界貿易は名目で年平均13%強の大幅な伸びをみせた。しかも年ごとの伸び率は68年11.5%,69年13.7%,70年14.2%としだいに加速化した。これは67年の景気後退を脱した先進諸国が68年,69年と名目で年平均10%前後の高度成長を遂げたのが一番の原因である。

最近の動きを工業国の輸入でみると,その伸びは70年後半から漸減して,71年第1四半期には12.5%,同第2四半期には10.3%としだいに増勢を鈍化している。

一方貿易価格は,67年横ばい,68年1.9%低下と推移した後,69年2.9%上昇,70年5.7%上昇と,とみにあげ足を早めた。これはアメリカを始めとする世界的なインフレがこの期間に加速化されたためにほかならない。その結果,実質での世界貿易の伸びは68年の13.4%に対して69年10.8%,70年8.5%と逆に年を追って鈍化しているが,なお3か年平均で11%近い伸びは同期間の世界の平均実質成長率約5%の2倍以上であり,非常に大きなものといわなければならない。

70年半ばから主要国の景気停滞の影響が貿易面にも出,70年半ばから主要国の景気停滞の影響が貿易面にも出はじめ,とくに一次産品価格は,大幅に値下りした。そのために,工業品の価格は底固い動きを続けているものの,貿易価格は70年末からしだいに上昇率を鈍化させた。

これを工業国の輸入価格の動きでみると,70年第3四半期の5.7%に対して,同第4四半期3.7%,71年第1四半期2.7%となっている。以上のデータから判断すると,71年第1四半期の世界貿易の実質伸び率は,70年平均とほぼ同じ9%弱の水準を維持したものとみられる。

以上の動きを地域別にみると,北米の輸入は68年のインフレ的拡大期に,アメリカの鉄鋼スト,産銅ストの影響もあって,20.4%と爆発的な伸びをみせた後,69年には10.O%,70年には8.3%と伸び率を鈍化させた。景気後退期の70年に輸入が8.3%も伸びたのは輸入価格が年率6.3%と大幅な上昇をみせたためで,ここにも世界インフレの影響がみられる。このために実質的な伸び率は,68年の18.1%,69年の7.1%に対して,70年には1.7%と大きく鉱化している。71年に入って景気が回復に向うとともに,輪入の伸びも再上昇に向った。とくに第2四半期には,アメリカの輸入が鉄鋼スト見込みの備蓄買いや港湾ストの影響で前年同期比19.4%と急増したため北米全体で17.0%という大幅な伸びを示した。

一方ヨーロッパでは,1967年の不況からの回復がアメリカより遅れたために,輸入の伸びも69年に入ってから20.4%増と本格化し,70年も18.1%という伸びを維持した。輸入物価の上昇分を差し引いた実質伸び率でみても,68年の13.2%に対して69年17.O%,70年11.7%となっている。70年の後半から71年に入っては,景気停滞の影響が出て,名目の伸び率は70年第4四半期17.4%増,71年第1四半期13.4%,同第2四半期11.7%増としだいに鈍化しているが,輸入物価の伸び率鈍化の方が大きいので,実質的にはまだ10%を上回る伸び率が維持されているものと思われる。

日本の輸入はヨーロッパからさらに遅れて70年に最大の伸びを示した。すなわち,名目の伸び率は68年の11.4%増,69年の15.7%増に対して70年には25.7%増となった。これに対して実質的な伸びでは68年に10.2%,69年13.4%,70年22.1%と推移している。原材料輸入のウエイトの大きい日本は70年後半から一次産品価格の低落の恩恵を十分に受け,輸入価格が大幅に低落しているのが注目される。しかし,71年に入るとともに景気停滞のために名目,実質とも輸入の伸びが急速に鈍化してきている。

発展途上国の輸入は,名目では68年から70年の3年間9%前後のほぼ安定した伸びを示しているが,工業品輸入価格の値上りを反映して実質では,68年の10.2%から69年6.7%,70年5.3%と年々伸び率を落している。

(2) 好転する東西貿易環境

一方東西貿易は,70年に西側の輸出が前年比15.5%増と69年の伸び率(11.3%)をさらに上回る拡大を示した。これに対して西側の輸入の伸びは11.8%と69年(11.6%)に比べほぼ横ばいに推移した。

輸出では先進国から中国と東欧への輸出の伸びがとくに大幅で,これは両地域の工業生産の拡大テンポが上昇したためとみられる。輸入では先進国の中国からの輸入の伸びは鈍化したものの,ソ連・東欧からの輸入の伸びは多少拡大した。発展途上国の東側との貿易は,輸出入とも伸びが鈍化した。世界貿易に占めるシエアをみると,70年で西側の輸出が4%,輸入が4.4%と従来とほとんど変化がなかった。71年に入って第1四半期には,中国が入超是正を進めているのを主因に,先進国の社会主義圏との貿易はかなりの鈍化を示した。しかしながら最近における東西間の緊張緩和の動きから,東西貿易の環境は好転しつつある。


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