昭和45年

年次世界経済報告

新たな発展のための条件

昭和45年12月18日

経済企画庁


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第2部 新たな発展のための条件

第3章 世界をおおう公害

3. 主要国の現状と対策

(1)主要国における公害の現状と対策

さきにあげた公害型産業の伸びが相対的に大きいことからもわかるように,主要国における公害の進行は避けられない。鉱工業全体に対して相対的な伸びがさして大幅でなくても,すでにこれらの産業が高度の水準に達している国が公害に悩まされていることはいうまでもないが,日本,イタリア,次いで西ドイツ,フランス,ソ連などの諸国では,公害型産業の伸びが相対的にかなり高く,公害問題が急激に重大化する要因が存在している(第69図)。もちろん,これらの要因は人口の大都市集中,モータリゼーションなど他の要因によって促進,複雑化されるが,各国の歴史的・地理的条件や経済・技術水準,産業立地,さらには国土や国民性によっても公害の発生の仕方,その態様は異なっている。また公害に対する対策立法からみても,イギリス,フランス,ドイツなどでは古くから関係法規が制定されているのに対し,アメリカでは公害に関する連邦立法は第二次大戦後に本格化したというように,各国それぞれの特色がある(各国の主として1950年代以降の対策立法については年表を参照されたい)。

このように各国の公害の現状および対策は様々であるが,以下にその概要と注目すべき対策をみよう。

1)水質および海洋汚濁

まず水質汚濁についてみると,アメリカでは大統領の環境特別教書(1970年2月10日発表)によると,都市と工業の廃棄物のほか農業では害虫駆除,家畜の飼育,灌漑,土地改良など農業技術革新が主な原因となっている。その対策としては,農法および土壌保全方法の改善,廃棄物処理上の注意,無害の化学肥料,農薬の開発,天敵利用による病虫害の防除などが考えられてはいるが,農業公害の防除は困難であり,これに関する研究を強化する必要があるとされている。さらに67年のカリフォルニア州サンタ・バーバラ,70年2月のルイジアナ州沖の大規模な重油もれの事件に示されたような海水の石油による汚染や原子力発電の「温水公害」も問題になっている。

都市の廃棄物については,「1966年河川浄化法」によって市町村の下水処理場を建設する際,連邦政府が経費の3分の1の補助金を交付しているが,市町村の公債発行が困難であり,今後5カ年間に総額100億ドルの補助金が必要になっている。産業廃水では,一部の工場が工場排水を都市下水道に放出したり,あるいは湖沼や河川へ直接排水しているが,現行法である「1968年水質汚染防止法」に規定されている水質汚染防止基準は,すべての関連産業に対して二次的な処理施設の設置を要求するという一般的かつ抽象的な規定にとどまっているので,実施上の基礎としては役立っていない。さらに水質基準が不完全なうえに,管理権が細分化されており,連邦管轄権は一般的に州際水域面にしか及んでいない。なお70年4月大統領は特別教書を議会に.送って,汚染の深刻な5大湖における汚染物廃棄禁止法の制定を要請するとともに,大統領の諮問機関である環境問題諮問委員会に対し,水汚染の実態と防止策について勧告を提出するように指示した。また10月には海洋への廃棄物の投棄を規制する立法も行うことを明らかにした。

西欧でも各国とも事情は若干異ってはいるが,全般的に水の汚染が進んでいる。ただしイギリスの場合は,「環境保全」に関する白書(70年5月発表)が指摘するところでは,ここ数年河川の状態は改善されてきており,58年の調査によるとイングランドおよびウェールズの潮が逆流しない河川の4分の3および運河の約半分は汚染されていなかったといわれる。ことにロンドンを流れるテームズ川の汚染対策は著しい効果をあげた。すなわち,第2次大戦後テームズ川の汚染はひどかったが,49年以降工場排水の無害化や下水処理場の強化によって,64年にはテームズ川に酸素をよみがえらせ,魚も住みつかせることができた。しかしロンドン以外では汚染が著しく,現在工業廃液の約70%が公共の下水道に流し込まれ,その比率は増大している。そのほか事故による石油や化学薬品の河川への流入があり,石油による海洋の汚染もイギリスのいたるところの海岸に及んでいるといわれる。

西ドイツでも河川の水質汚濁問題は深刻で,アルプスの山麓のバイエルン州が比較的よいほかは,全般的に悪化している。とくにライン川は「欧州最大の排水路」と呼ばれるほどである。その沿岸のルール地方では古来特別の水管理が行なわれてきた。すなわちこの地方には6つの河川管理組合が市町村,政府機関,企業により結成され,都市下水と工場排水の処理施設を所有し,工場の排水は未処理のまま放流させるが,排水の汚染度に応じて課徴金を徴収し,組合の手で水質の管理と飲料水および工業用水の供給を行なうというものである。しかし現在ライン川の中流,下流の汚濁はひどく,河口のオランダのロッテルダム附近では魚が生存しないほどである。68年にはライン浄化の10カ年計画が総額55億マルク(うち各州負担20億,企業負担35億マルク)の予算をもって立案され,また汚染防止のため西ドイツ,スイス,オランダ,ルクセンブルグの関係国による委員会が50年に設けられ,65年からようやく活動に入った。

フランスの場合は,工場の排水処理があまり行なわれておらず,水質の汚濁が進んで,64年には関係の法律が制定された。戦後工場の地方分散が行われたため,各地の河川も排水で著しく汚染されてきた。また岩塩工場からの廃水がライン川の塩分を増加し,水質汚濁の原因となっているので,この廃水をローレーヌ川に放流する計画が国際会議により検討されている。

イタリアの水質汚濁問題も深刻化しているが,対策はイギリスや西ドイツと比較するとかなり遅れており,法律も制定されていない状態である。

スウェーデンでは戦後大都市への人口集中が著しく,家庭の汚水が問題化しており,また工業排水では最も問題の多い紙・パルプ工場のほかに,新興の化学工業その他の公害型産業による水質汚濁も起っているし,農薬の使用も問題化している。さらにバルト海も汚染されてきており,その対策を検討するため,デンマーク政府がソ連,フィンランド,スウェーデン,ポーランド,東西ドイツなどの沿岸諸国に対して国際会議の開催を提唱している。

ソ連における水質汚濁問題はボルガ川,カスピ海とバイカル湖で重大化している。カスピ海はアラル海とともにダム,貯水池,灌漑施設の建設で水が寸断されて水位が低下し,またボルガ川沿いの化学工場の廃棄物,バクー油田の油もれなどのため汚染され,名産のキャビアの水揚げは64年には戦前の10分の1以下に減ってしまった。68年9月から特別の汚染対策が実施されて,最近ではキャビアの水揚げもいくらか増している。また世界にまれな動植物で有名なバイカル湖もパルプ工場の排水で汚染され,学界などで問題にされたが,これも69年1月に特別対策が発表され,水処理装置を設け,その廃水は近い将来パイプラインでバイカル湖から流出するアンガラ川に放流されることになっている。

2)大気汚染

つぎに各国の大気汚染についてみよう。第63表は,アメリカ,イギリス,西ドイツ,日本の4カ国における単位面積当りの大気汚染物質を示したものである。すなわち,イギリスは別としてアメリカ,西ドイツの汚染物質の総量は日本の場合に比べてそれぞれ10倍余および約2倍であるけれども,低平地面積が広いため,単位当りの汚染物質の量は約5分の1および多少下回る程度である。

それだけでなく汚染源の構成も一様ではない。 第79図 に示すようにアメリカでは自動車の排出ガスが汚染源の約60%を占めているのに対して,西ドイツでは自動車は全体の40%を占め,暖房用が20%を上回っている。すなわち,大気汚染の態様は国によってかなりの差があることが知られるのである。

しかし,大気汚染源のなかで自動車の排出ガスが主要な部分を占めていることには変りがない。そこで各国とも,これに対する規制を強化しているが,その基準を各国別にみると,第64表のとおりである。

ところで,アメリカの大気汚染の原因のうち主要なものは自動車の排出ガスであるから汚染対策にも自動車関係のものが多い。

連邦政府は1968年型車から排出する一酸化炭素と炭化水素の規制をはじめたが,70年型車については一段とこの規制を強化した。またバス,トラックの新車については70年から政府の規制が適用されることとなった。この排出ガス規制は今後さらに厳しくされることになっている。さらに連邦政府は5年後にガソリン・エンジンを使用しない,汚染のない自動車を生産することを目標に官民合同の研究開発計画を発展させる予定である。他方自動車業界では政府の排出ガス基準に適合するための装置を開発中で,72年までに無鉛ガソリンを使用する自動車を市販する準備を進め,石油業界も無鉛ガソリン開発を本格的に検討中である。ちなみに,日本においては66年から世界にさきがけて一酸化炭素の排出濃度を規制し,その後も数回にわたる規制の強化などが行われてきたが,さらに70年には自動車排出ガス対策基本計画が策定され,排出ガスを低減するための規制目標の制定など諸対策が推進されている。

ここでヨーロッパに目を転ずると,イギリスでロンドンのスモッグが少くなったことが注目される。第80図にみるようにロンドン地域のばい煙排出量は1953年をピークとして急激し,65年までにほとんど5分の1に近くなった。これは52年12月に4,000人がスモッグによると思われる気管支炎その他の呼吸器病で死亡した事件を契機として,政府が家庭暖房用の石炭燃料をガス,電気に切換えるという対策を講じたためである。その際適用されたのが1956年大気浄化法である。この法律はスモッグ事件の翌年設立されたビーバー委員会の報告書に基づいて制定されたもので,その主なる内容は,①自治体が住宅・地方行政省の承認をえて特定の地域をばい煙規制区域に指定する,②この地域内の世帯は暖房を切換えなければならないが,そのための設備の改造費を世帯主が3,自治体が3,国が4の割合で負担するというものである。これによりその後約13年でロンドンの世帯の74%が切換えを完了したといわれる。このような成果をおさめたが,ロンドン以外では依然として家庭暖房用の石炭が汚染の原因となっている。1956年大気浄化法の改正である68年法は,規制地区における無許可燃料の販売を違法とするほどの徹底ぶりであるが,固型無煙炭の供給自体が不足なため,石炭庁はその増産に努めている。

産業による大気のばい煙による汚染は中央,地方の効果的な規制のもとにおかれている現在,亜硫酸ガスの放出が懸念されているが,全放出量は63~65年をピークに着実に減っており,今後も減少が予想される。これに反し自動車の排出ガスは含まれている物質が多様なため規制が困難視されている。

ディーゼル・エンジン排煙量の基準などは,大型車については欧州大陸のものより厳しく,今後一そう強化されることになっている。特殊なにおいのある炭化水素については,これを減らす通気装置の取付けが義務づけられるはずであり,また対米輸出向にはこの炭化水素と一酸化炭素に関するアメリカの基準に合致させる特別装置が取付けられている。西ドイツにおける大気汚染がひどいことは 第63表 からもわかるが,特別汚染の目立つのはルールおよびザール,フランクフルト周辺などの工業地帯とハンブルグ,ミュンヘンなどの大都市である。大気汚染の防止に関する立法が行なわれたのは1965年で,連邦政府が主体となって対策を行っており,法律は連邦政府が大綱を決め,州政府がそれぞれの立場で細則を決めている。したがって対策はすべて州にまかせられ,汚染地区の調査報告が義務づけられる。自動車の排出ガスの基準の制定やガソリンの鉛含有量規制は難航しているようであるが,ルール地方の場合には,州と市町村,企業の協力で大気汚染の減少した例もある。

フランスでは産業公害についてはつとに経験ずみで,関係法律が早くからできていたが,大気汚染に関しては,61年に法律改正が行なわれている。大気汚染対策としては都市計画によって工場を地方に分散させる政策がとられている。亜硫酸ガスや粉塵はパリその他の2~3都市で問題になったが,主要な原因である冬期暖房の石炭を硫黄分の少い石油やガスに切替えつつあるので,それらの濃度は減少してきている。そのほか大気汚染の問題では自動車の排出ガスによる一酸化炭素の増加があるが,これに関する調査研究が行なわれると同時にディーゼル自動車の排出ガスの取締りが実施されている。

イタリアでは大気汚染に関する法律の制定も遅れ,特別の対策も今のところとられていないが,一般的にはフランスと同様に都市計画が進んでいるので,大気汚染はさほど問題になっていないようである。ただローマとナポリは自動車の排出ガスに悩まされ,また一部の工業都市では工場の煙や粉塵による大気汚染がみられる。

ソ連では乗用車の保有台数がまだ120万台程度で排出ガスによる汚染は問題化していないが,工場のばい煙,排出ガスについては,68年ごろからソ連各紙に取上げられてきている。大気汚染防止はすべて保健省によって統轄されており,汚染防止に関連する主な規制,基準が①工場と居住地域間の衛生保護地帯,②居住地区の大気中の有害物資最大許容濃度,③作業環境の有害ガス,蒸気,粉塵の最大許容濃度,④生産工程組織に関する衛生規則と生産設備に対する保健衛生上の要件などについて定められ,これに基いて衛生監視行政が行なわれている。

3)その他の公害

以上で水と大気の汚染についてみたが,さらに技術革新にともなう新しい型の公害がある。固形廃棄物,航空機とくに超音速機による騒音や衝撃波,殺虫剤や化学肥料,さらには放射性物質による汚染がそれで,これらの新型公害についても,各国ともそれぞれ対策を講じている。

たとえば,アメリカでは固形廃棄物の処理対策として廃棄物の量を制限するとともに,物資の再循環(re-cycling)すなわち再生利用の技術と処理の容易な包装材料を開発するための研究が推進されている。また,航空機による騒音その他の公害についてイギリスの例をあげると,空港側の騒音防止義務や空港の運営について地域社会の代表と協議する制度が定められ,さらに航空機がイギリス領空を超音速飛行するのを規制または禁止する権限が政府に与えられている。その他農薬や肥料については既存のものの規制や新品種の開発が意図されており,放射性物資の取扱いや処分は関係各省庁の管理下におかれている。

4)発展途上国と公害問題

以上,先進国における公害の現状と対策についてみたが,ここで発展途上国と公害問題について少しく触れておこう。まず先進国側の一つの考え方は前者の轍をふませぬということである。これについてイギリスの環境白書はつぎのように述べている。すなわち,「発展途上国が過去150年にわたって先進国がおかしてきた誤りを繰返さずに経済を拡大し,環境を処理するのを支援するため,貿易,援助,助言によってできるだけのことをする」というのである。またアメリカ国務省の当局者も,将来先進国なみの発展段階に達したときにはじめて汚染の問題を考えるというのでなく,先進国の轍をふませぬよう産業発展の道程において汚染防止策を講じてゆくことが好ましいとしている。これに対して発展途上国側の意見は1970年3月に開かれた国連の人間環境準備委員会におけるインド代表の発言に代表されているようである。

その発言は環境問題の重要性を一応認めながらも,①発展途上国の必要を十分考慮すること,②発展途上国に対する援助の具体的方法を検討すること,③環境保全のため国際規則の適用により発展途上国の経済開発が阻害されることのないよう配慮することを指摘している。こうして,この国連の会議で一部先進国が発展途上国側の意向を意識し,とくにスウェーデンなどが最大の収獲は発展途上国の関心を高めえたことで,今後ともこの方面の国際的啓蒙活動が重要であると強調したが,他方前述のインドなどは環境基準の開発への制約の可能性について幾分警戒的な態度を示したといわれると同時に,ラテン・アメリカおよびアフリカ諸国が自然の保存の問題に強い関心を示したことが注目される。

発展途上国は環境問題について以上のような考え方をもっているが,すでに一部の発展途上国の都市には事実上公害が発生している。たとえば,ブラジルのサンパウロはラテン・アメリカ最大の工業都市でもあり,ばい煙と汚水の被害がでており,自動車の排出ガスによる汚染も-発生しているし,メキシコシティでも同様の公害がみられる。また国際港であるシンガポールでは工業化の進展にともなう産業公害,自動車による大気汚染とならんで,石油などによる海水の汚染も発生しており,すでに排出ガス規制,工場地帯の汚染防止措置,海水の清掃作業や汚染取締りなどの政策がとられている。

(2)主要国の総合対策と国際機関の動き

1970年に入って,アメリカ,イギリスその他の諸国は公害問題に対する総合対策をあいついで発表し,積極的な政策態度を示している。

それにともなって,公害,環境問題に関する総合行政機関の設置が進められでいる。すでにスウーデンでは農林省に環境保護庁が設けられており,地方分権色の濃い西ドイツでは環境保護部局が保護省から州に対する統制力の強い内務省に移管された。70年に入ってからは,アメリカの環境保護庁と海洋大気庁が新設され(70年7月特別教書),イギリスでは住宅・地方行政省,公共建設省,運輸省を総合した環境省が設置されることになっている(70年10月行政機構改革に関する白書)。また,カナダでも4省庁の部局を統合した新省が設けられている。

ところで,各国の総合対策はアメリカの大統領教書や環境報告,イギリスの環境保全白書にみられる。

まず,アメリカの大統領70年年頭一般教書は,70年代の長期的な政策目標の一つとして「公害や犯罪のない環境」をうたい,生活環境の回復および保全,自然保護など,公害防止ために,河川汚染対策費として今後5年間に100億ドルを計上することを提案したが,ついで2月10日には大統領は環境保全問題に関する特別教書を議会に送った。

この特別教書は,環境保全問題が従来あまりに放置されすぎたため,直ちに行動を起さなければ,環境保全対策は手遅れになるであろうと警告し,政府の努力のみならず,国の総力をあげて問題の解決にあたるべきであるとして,各方面の協力を要請している。そして教書は,当面実施しうる計画として水質汚染防止,大気汚染防止,固型廃棄物の処理,公園レクリエーション施設の増設と環境保全組織の再編成の5つの部門について対策を明らかにし,さらにこれらの全部門にわたり37項目の重点施策をあげている。

この特別教書に続いて,8月には環境問題報告が議会に提出された。この報告は水,大気の汚染,固型廃棄物,騒音,殺虫剤,放射能などの公害について現状,対策,将来の見通しを述べているのみならず,さらに広い意味での人間環境の問題を取上げている。そして都市化,資源管理,土地と水の利用といった諸問題を最も広範な社会的,経済的,生態学的な関心を考慮に入れたアプローチによって解決すべきであるとしている。これらの長期的問題について同報告は,つぎのような諸点をあげる。すなわち①長期的にみて人口圧力の増大は一つの大きな挑戦であるが,人口の規模と分布は環境の質,ひいては生活の質と重大な関連をもつものであるから,一方で都会の発展のうちにあって生活を快適にすると同時に,他方では農村生活を魅力あるものにし,農村地域の秩序正しい発展を促進し,小都市を強化すること,②将来における選択の余地を拡大するため,限られた土地の利用をより効率的にし,土地の利用とそれに依存する生活システムをより正しく規制すること,③天然資源を無差別に浪費することなく,また廃棄物処理の費用を増大するにまかせることなく,現在廃棄物とみなされている物を有益で生産的な目的に再循環させる閉鎖的システムをつくるようにすること,がそれである。

また,長期的な対策の方向としては国連を中心とする国際協力の強化,市民団体の参加,環境問題の教育促進,公害行政機関の充実,公害情報網の拡充などが必要であるとしている。

他方,70年5月に発表されたイギリスの環境白書は「欧州環境保全の年」とされる70年以降数年間の公害防止政策の基本的考え方を示そうとしたものであるが,全般的に規制の強化の方向を示している。そして公害企業に対する罰則の強化,汚染や騒音に対する規制の強化(たとえば地上に衝撃波を与える商業用超音速機の陸地上空飛行の禁止),排出ガス規制基準の引上げなどを示唆している。

同様に公害規制を著しく強めた総合対策は,69年7月に実施されたスウェーデンの新「環境保護法」である。この法律は自然保護,環境保護を規範とするもので,①違反者に最高1年までの実刑を科する「公害罪」を規定する,②公害発生の可能性ある産業の事業場新設を一元的に監視,認可する,③水,大気,土壌,食品などの汚染をきびしく規制する(たとえば,町村段階からの下水排出規制,高硫黄重油,高加鉛ガソリン,DDTの使用禁止,SSTの領空通過禁止など),④改善命令を受けながら資力の乏しい企業には公害防止設備費の25%までの補助金を交付する,など注目すべき事項を規定している。

その他総合対策は,フランス,西ドイツでも進められている。すなわち70年6月フランス政府は民問および各省からの提案に基づいて約100項目の公害対策を採択し,これを第6次5カ年計画(1971~75年)に織込むことにした。また西ドイツでも70年9月政府は各種の規制措置や公害防止事業を盛った「緊急計画」を発表し,そのなかで連邦公害規制法,自然保護のための立法を行うことを述べているが,この「緊急計画」に続いて「基本計画」が提出される予定であるといわれる。

なお,社会主義国では,ソ連で環境汚染防止の規定を盛った保健基本決(69年12月最高会議)に続いて,70年12月水質保全と水資源の利用を定める水利基本法が制定され,チェコでは総合的な環境防止法が制定されることになっている。

このように,多くの国で公害,環境問題に関する対策が進められつつあるが,すでに国際諸機関でも国際協力の課題としてこの問題が取上げられている。

    ①国連は68年の第23回,第24回総会の決議により,スウェーデンの主唱による51カ国共同提案によって「人間環境に関する国際会議」を72年6月に開催することになっている。また同決議により設置された27カ国から構成される準備委員会が70年3月に開かれた。

    ②OECDでは70年2月の閣僚理事会において「環境問題アド・ホツク準備委員会」が設定され,環境問題へのアプローチの仕方を中心に作業を進めてきた10ECDはこの問題を技術的視点だけではなく,経済政策との関連で取上げる点に特色があるが,環境部会は70年11月に発足し,大気汚染,水汚染,都市化,交通問題の4特別グループを中心に調査を進め,有効な対策の指針を示すことになった。

    ③70年2月欧州会議は「欧州環境保全の年」の主要行事としてストラスブールに加盟各国ほかアメリカ,カナダ,国際諸機関の代表を集めて欧州環境保全会議を開き,人間環境保全政策を決定し,全欧州の協力の必要性を強調するとともに,「欧州の自然環境の管理に関する宣言」を採択した。

    また,70年9月には欧州会議の地域政策閣僚会議が開かれたが,同会議のねらいは,各国の産業立地政策を東側も含めた全欧州的視野で展開し,公害のない経済成長をめざす欧州全体の共通産業立地政策を実現することにあるといわれる。

    ④国連ヨーロッパ経済委員会(ECE)では東西両欧が参加しているので,国際河川,バルト海の管理などの国際的環境が東西間で論議される。

    ⑤NATOでは「現代社会の挑戦に関する委員会」(CCMS)が各国がその得意とする問題を分担して研究し,またモニタリング・システムの実行機関,汚染源の査察など特殊の問題が検討,解決される。

このように各国機関は,それぞれの特色を生かしながら,公害,環境問題について協力を進めている。


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