昭和45年

年次世界経済報告

新たな発展のための条件

昭和45年12月18日

経済企画庁


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第1部 1970年の世界経済動向

第1章 1970年の世界経済-概観

5. 世界的高金利に是正の動き

68年末以来金利は長短期とも異常高水準に達し,世界的な高金利時代を現出したが,69年末から短期金利が次第に低下しはじめ,70年中を通じて一進一退ながらも低落傾向をつづけ,とくに年末にかけてかなり急歩調で低下した。ただし,長期金利はまだ依然として高水準を維持している。

いま短期金利の傾向をアメリカ財務省証券レート(3カ月物)の動きでみると,70年1月の7.9%をピークに低落しはじめ,3月にはプライムレート引下げ(8.5%から8%へ)により一挙に6.7%へ急落したあと,5~6月に一時的反騰をみせたが,その後ほぼ6.4%の線で推移し,9月下旬の第2回プライムレート引下げにより6%を割った。その後11月10日の公定歩合引下げや2回のプライムレート引下げと平行して財務省証券レートの低落が急ピツチとなり,11月末には5%を割るにいたった。

ユーロ・ダラー金利(3カ月もの)も69年12月の約11.17%(月平均)を最高に70年4月の8.39%まで下りつづけたあと,5~6月と反騰してから,7月以降低落し,9月中に8%の線を割り,さらに11月下旬以降は7%を割って,67/8ていどまで下った。

イギリス,フランスの短期金利もほぼ同様な経過で低落歩調をたどっている。西ドイツの金利は,69年の世界的高金利のなかでも著しく出遅れていたが,70年の低落過程でも出遅れ,ようやく5月以降低落に転じた。7月の公定歩合引下げにより,さらに若干低下したが,9月1日からの追加準備率の導入で反騰したあと,10月央から再び低落したものの,そのあと比較的高い水準で一進一退をつづけた。

69年の異常な高金利がアメリカのインフレと引締め政策による金利高の国際波及によるものであっただけに,アメリカの景気が次第に悪化して,連邦準備が引締め緩和に転じた70年初頭からアメリカを中心に金利の低下傾向がみられるようになった。物価や賃金の国際波及もさることながら,金利とくにアメリカの金利がより直接的にユーロダラー市場を通じて諸国の金利に波及することは,今回の金利上昇と下降の過程でも顕著にみられた特徴であった。

70年にはいってからの金利低下が基本的にはアメリカの景気後退と金融緩和を反映したものとはいっても,他の政策的要因も見逃すことはできない。

たとえば,アメリカでは69年10月にユーロダラー取り入れ規制が実施されたし,70年1月には預金金利の最高限が引上げられた。これらの措置もあって,アメリカの銀行は70年はじめからユーロダラーの返済に転じ,ユーロダラー金利の低落を促進した。さらに11月10日には実勢追随ながらも公定歩合が1年半ぶりに引下げられ(6.0%から5.75%へ),そのあとつづいて12月1日から再引下げが実施された(585%へ)。

西欧の一部の主要国も70年にはいって公定歩合の引下げを通じて―海外金利の低下に追随した面もあるが―国際的な金利低下に寄与した。イギリスは国際収支好転と景気不振を背景に3月と4月に公定歩合を引下げた(8.0%から7.0%へ),欧大陸では,独伊が3月にそれぞれ公定歩合を引上げる(西ドイツ6.0%から7.5%へ,イタリア4.0%から5.5%へ)ことで,国際的な金利低下傾向とは逆の動きもみられたが,7月になると西ドイツが短資流入阻止のために公定歩合を引下げ(7.5%から7.0%へ),フランスも国内需給の緩和が見られたこともあって,それに追随した(8月に8.0%から7.5%へ)。その後やや小康状態を経て10月20日にフランスが公定歩合の再引下げへ踏み切り(7.5%から7.0%へ),ベルギーが追随した。さらに西ドイツは,アメリカの第1回の公定歩合引下げのあと,内外金利差の縮小を目的として11月17日に第2回(7.0%から6.5%へ),12月3日に第3回目(6.5%から6.0%へ)の公定歩合引下げを実施した。

第4図 短期金利の動き

なお,70年にはいってからの金利低下には,マルク切上げ後に国際通貨情勢が小康を保ってきたことも一役買っていた。

短期金利は今後しばらくなお低下傾向をつづけるとみられるが,先行きアメリカ景気の本格的な回復とともに,金利低下傾向も弱まるものとみられる。


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