昭和43年

年次世界経済報告

再編成に直面する世界経済 

昭和43年12月20日

経済企画庁


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年次世界経済報告の刊行にあたって

この世界経済報告は,過去一年間の世界経済の動向を明らかにするとともに,戦後の世界の経済構造の変化とそれがもたらしたいくつかの問題について分析を行なっております。

昭和43年の世界経済は,その実体面では,先進工業諸国はもちろんのこと,低開発諸国,社会主義諸国ともに順調な拡大をつづけ,いわば世界的規模における「大型景気」を実現したといってよいようです。しかし,反面では国際通貨・金融面でIMF体制が発足して以来,最大といってよいほどの大きな動揺にさらされた年でもありました。すなわち,42年末のポンド切下げ以降,43年春には,金,ドルが大きな投機の対象になり,5月以降は,フラン,マルクの動揺が発生するといった状況でした。

これらの通貨の動揺は,それぞれの国における安定のための措置や強力な国際協力によって一応は切り抜けることができましたが,なお基本的な不安定要因は切リ除かれたとはいえず,今後とも決して予断を許さない状況にあるといわなければなりません。

このような国際通貨体制の動揺は,直接的には基軸通貨国の国際収支の悪化がその主要員でありますが,その背景には,世界経済におけるアメリカ経済の相対的な地位の低下と日本,西ドイツ,イタリア東の飛躍的発展など,世界経済の多頭化傾向があることを見逃すことはできません。また,こうした世界経済の多頭化傾向を反映して,世界的に経済面での地域化の進展がみられることも注目されるところです。この意味において,戦後20年を経た今日,世界経済は,一つの再編成期に直面していると考えられるわけです。

このような変動する世界経済環境のなかにあって,昭和43年のわが国経済は,名目17%の高度成長を遂げ,国際収支も大巾黒字基調をつづけておりますが,これはひとえに日本経済のたくましい成長力を物語るものであろうと思います。

しかしながら,44年のわが国をとりまく国際経済環境は,世界経済の成長鈍化が予想される一方,国際通貨面での再調整などの諸問題があり,かなり厳しさをますといわなければなりません。

今後は,わが国経済の運営にあたっても,いっそうの慎重さを必要とすると同時に,内外の試練に十分耐えうるよう,経済体質の改善と国債競争力の強化にいっそう努める必要があると思われます。

この報告が,以上のような世界経済の現状について国民各位の認識を深めるうえにいくらかでも役立てば幸いです。

昭和43年12月20日

菅野 和太郎

経済企画庁長官


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