昭和42年

年次世界経済報告

世界景気安定への道

昭和42年12月19日

経済企画庁


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年次世界経済報告の刊行にあたって

この世界経済報告は,過去1年間の海外諸国の経済動向を明らかにするとともに,戦後世界の景気変動とその国際間波及の態様を分析しております。

昭和42年の日本経済をとりまく国際経済情勢は,目まぐるしく変化しましたが,その最大の問題は,約10年ぶりにアメリカ,イギリス,西ドイツをはじめ多くの欧米工業諸国の景気不振がほぼ同時期に重なり,さらにそれが貿易を通じて低開発国にも波及して,世界的な景気停滞が生じたことであります。また,11月にはイギリスのポンド切下げが行なわれましたが,それはドル防衛の強化や国際的高金利などの諸問題を生じさせ,ようやく立ち直りかけていた世界景気の先行きに微妙な影響を与えております。

今回みられたこのような広汎な景気停滞は,戦後では数少ない経験ですが,各国の景気の波は戦前にくらべると小幅となり,景気後退も短期間なものになりました。これには,各国の社会,経済制度や経済政策の進歩,国際協力の進展などが大きく寄与していると考えられます。しかし,景気後退を事前に回避するまでには至っておりません。また,近年,世界諸国の通貨の交換性回復や貿易,資本の自由化が進展し,それが一方では,世界の経済と貿易の拡大を促進する役割を果たしましたが,他方では貿易,金融を通ずる各国相互間の景気変動の波及力を強めました。したがって,各国とも国外の景気動向に一だんと意を払わねばならなくなりました。また,世界経済の円滑な発展のためには,各国がインフレ圧力や国際収支難の克服など,自国の景気安定化に一そうの努力をすることが必要になっております。

現在の国際経済環境は,ポンド切下げを契機として一だんときびしさをましつつあります。日本経済は従来から海外景気の影響を受けやすく,国際収支の悪化からこの秋以降景気調整策を進めておりますが,今後の世界経済の動向を注視しながら,国際収支の改善を推進して行く必要があります。

この報告が,そうした海外経済の実態について,国民各位の認識を深めるうえに役立つことを期待します。

昭和42年12月19日

宮澤 喜一

経済企画庁長官


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