昭和41年

年次世界経済報告 参考資料

昭和41年12月16日

経済企画庁


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第8章 ソ連および東欧

2. ソ連の新5ヵ年計画

(1)5ヵ年計画の基調

ソ連では65年に7ヵ年計画が終り,66年から新5ヵ年計画が発足した。

66年4月の第23回共産党大会で決定された5ヵ年計画に関する「指令」によると,新5ヵ年計画の使命は,①共産主義建設への途を推進すること,②共産主義の物的・技術的基礎をさらに発展させること,③国の経済力と国防力を強化すること,にあるとされている。ここでは,7ヵ年計画にうたわれた「共産主義の物的・技術的基礎の創設」とアメリカとめ経済競争の二つの柱のうち前者だけが継承されており,経済競争についてはなんら言及されていない。この点にも政治的色彩の濃厚であった7ヵ年計画に比べて,新5ヵ年計画の地味な,実務的な性格が現われている。そして主要な経済課題としては,科学技術の成果を全面的に利用し,生産の効率と労働生産性を高めることによって工業および農業生産の増大,とくに安定的な農業生産の増大と国民生活の向上を図ることがあげられている。

このような経済課題の解決は,65年9~10月に決定された新しい経済計画および管理制度の意図するところである。すなわち,それは一方では中央の工業部門別各省を設置することによって統一的政策,とくに技術面でのそれを実施するとともに,他方では個別企業の自主性を拡大し,利潤原則や信用制度などの経済的手段による管理と従業員に対する報奨制度を強化するなど生産の効率と労働生産性の向上を図ることにある。.この新制度は5ヵ年計画の開始とともに66年から実行に移され,1967年~68年には全面的に実施される。さらに利潤原則や報奨制度の裏付けとなる新価格体系も67~68年には成立することになっている(昭和40年世界経済報告,参考資料280~283ページ参照)。この新制度への移行は新5ヵ年計画のいちじるしい特徴であって,5ヵ年計画の成否自体が,この制度が効果を発揮するかどうかにかかっている。

(2)目標と方策

では,新5ヵ年計画ではどのような経済成長が予定されているか。これを7ヵ年計画の目標および最近の先行5ヵ年の実績と対比したものが第8-8表である。

まず工業生産の伸び率はある程度の幅が与えられているが,その上限で7ヵ年計画および61~65年とほぼ同率であって,これを下回る場合も予定されている。このように伸びが抑えられているのは生産財生産の増加率が過去の計画や実績より低いことによるもので,消費財生産の伸びは従来のそれを上回ることになっている。このことは新5ヵ年計画において,近年強調されてさた重工業優先主義の緩和,消費財産業の重視がいっそう進められることを示すものである。しかしこの政策意図は従来と同様,国防や宇宙開発などの絶対的な要請と農産原料の供給との両面から制約を受けているのであって,その実現には多くの問題が含まれている。

第8-9表 新5ヵ年計画における経済成長

つぎに国民所得の成長率を見ると,それは過去5ヵ年の実績に比べてかなり上向くことが予定されている。さきに述べたように工業生産の伸びがいくぶん低目に計画されていることから考えても,農業生産の大幅な増大が全体としての経済成長に大きく寄与することになる。すなわち,第8-9表によれば,農業生産額の新5ヵ年計画期の平均は61~65年平均を25%上回り,とくに穀物生産では同じく30%上回るごとになっており,過去の低成長から脱け出すことが予定される。この計画の実現は新5ヵ年計画の目標達成のカギとなるもので,それだけに農業増産には多大の努力が傾けられる。すなわち穀物の国家買付制度の改善(買付計画量の5年間据置き,買付価格の引上げ,計画超過買付分に対する追加金の支払いなど,昭和40年世界経済報告,参考資料285ページ参照)や前述の土地改良計画が実施されるとともに,投資総額の23%が農業に向けられ(戦後19年間の農業投資総額とほぼ同額),機械,肥料,農薬など生産資材の増投と並んで電化も強力に進められ(労働者1人当り電力消費量は5年間に工業の50%増に対し,農業では3倍増),労働生産性は40~45%(工業では33~35%)上昇する。このように新5ヵ年計画では農業に従来よりさらに重点が移され仝ことになっている。

5ヵ年計画でとくに一般的な課題の一つとしてあげられているのは経済効率の向上であるが,そのために技術の進歩,労働・生産組織の改善,生産設備の利用度と投資効率の引上げ,製品の品質向上,生産資材の節約が要請され,またいわゆる合理的な生産力の配置(地域開発による有望な天然資源の活用)や社会主義圏内の国際分業が必要だとされている。さらには新しい計画・管理制度への移行にともなって,5ヵ年計画の重要課題として研究および開発の拡大を通ずる科学技術進歩の促進と新制度による経済の指導の改善が強調されていることはいうまでもない。

(3)新5ヵ年計画と20ヵ年計画

このように,新5ヵ年計画は国民の消費水準の引上げと品質改善,能率向上とを二つの柱としており,7ヵ年計画や61年10月に決定された共産党の新綱領に盛られている20ヵ年計画のように「アメリカに追いつき,追いこす」高成長を誇ってはいない。このことは,新5ヵ年計画の最終年次たる1970年の目標と20ヵ年計画(1961~80年)の前半期の目標とを対比することによって明らかとなる。すなわち20ヵ年計画の前期,1961~70年の年平均成長率は国民所得,工業,農業生産などいずれも9.6%となっているのに対し,新5ヵ年計画における成長率(第8-8表参照)はこれに及ばない。また,主要物資の生産についての新5ヵ年計画の最終(70年)目標も20ヵ年計画の1970年の目標を多かれ少なかれ下回っている。

1960年代にはいってからのソ連経済の成長鈍化は20ヵ年計画の実現を不可能にし,その目標を切下げざるをえなくしている。新5ヵ年計画はこうした事情のもとで立案されたのであって,20ヵ年計画は現行の党綱領のうちに生きているものの,その目標達成の時期は繰延べられたことになる。しかし20ヵ年計画にうたわれた,いわゆる「共産主義の物的・技術的基礎の創設」と対米経済競争が高度の生産水準と西側先進国に匹敵する生活水準に到達しようとする政策的意図を意味するものとするならば,その意図するところは新5ヵ年計画にも貫かれているといえよう。


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